『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回、ちょっとグダグダです。

宜しくお願いします。


その18  第一特異点

 

 聖女ジャンヌ=ダルク。彼女が黒い鎧の男に勝利できたのは殆どが偶然の産物であった。突然聞こえてきた超音波、多くの翼竜が墜落し自身や鎧の男にも多大な影響を与えてきた音の暴力。裁定者として顕現した事で得られた耐久力により狂戦士よりも早く回復した彼女は、手にした旗を振り回し黒い鎧に直撃を当てる事に成功した。

 

当然、その程度で倒れる狂戦士ではなく、叩き込まれた旗を掴み、彼女の宝具でもあるソレを自らの武器にしようと蝕み始めた。しかし、そんな彼の抵抗むなしく更なる追い討ちが狂戦士に降り注ぐ。

 

フランス王妃の宝具、ガラスの馬が黒い鎧の男を轢き倒し、角と尻尾を生やした少女の槍が男を貫いたのである。超音波攻撃による前後不覚への一撃と意識外からの強襲、清々しい程の不意打ちに流石のジャンヌも瞠目した。

 

それから、消滅する狂戦士を見届けると王妃とエリザベートと名乗るサーヴァントから簡単な事情説明を受けたジャンヌは修司の下へ駆け付けるために急いだ。

 

彼は、たった一人で邪竜と戦っている。神話に知られ、伝説として語り継がれる幻想種最強の生命体とその身一つで戦っている。彼の実力の知っている彼女としてもそれは剰りにも無謀と言えた。

 

 邪竜ファヴニール。財宝に固執し、凶悪な力と知性で以て仇なす幻想種の中でも最上位に位置する魔竜。その最大の特徴は伝承にある竜殺しでしか倒し得ないという絶対的とも言える不死性にあった。

 

如何に力で捩じ伏せ、切り刻み、打ち砕こうとも邪竜は何度でも蘇る。竜殺しの手で屠られない限り、必ず邪竜は蘇り、再びこの世界に災いをもたらしていく。

 

つまり、修司では邪竜ファヴニールには勝てないと言う事。彼が強いのは理解している、腕力も胆力もその全てが現代の人間の枠組みから大きく逸脱しているし、何なら自分達サーヴァントすらも上回っているかもしれない。

 

でも、そんな彼でも邪竜は倒せない。純粋な力としてではなく、世界に定められた概念が不可能としているのだ。

 

 一刻も早く彼の下へ駆け付けねば。彼はこの先の戦いにも必ず必要とされる者。ここで死なせるわけにはいかないと、駆け付けたジャンヌが目にしたのは……。

 

「波動拳! 波動拳! からの昇竜拳! 竜巻旋風脚!」

 

「あ”ーーー! あ”ーーー!」

 

「──────………」

 

ひたすら邪竜を滅多打ちにしている修司、その上空ではワイバーンに跨がった竜の魔女である黒いジャンヌが童女の如く滝のような涙を流して止めろと訴えている。殴られている邪竜は最早泣きわめく元気すらないのか、死んだ目で修司の暴力を受け入れていた。

 

その近くでは大きな剣を持ったサーヴァントがいる。彼が件の騎士様なのだろうが………その目は邪竜と同じように死んでおり、うっすらと涙が流れていた。そんな彼の隣にいる和服姿のサーヴァントは青白い顔をしてガタガタと震えていた。

 

「あ、ジャンヌさん。そっちも無事だったんだ!」

 

「立香、良かった。そちらも無事だったんですね」

 

呆然としていたジャンヌに立香から声を掛けられる。それにより我に返ったジャンヌは振り返った先で此方に駆け寄ってくる彼女に無事である事を認識すると、擦り傷こそあるものの五体満足でいてくれたマスターに深く安堵した。

 

「うん、ゲオルギウスさんとマシュのお陰で何とかね」

 

「いえ、私は最後の詰めに少々手を貸しただけ、あの窮地を乗り越えたのは他ならぬマシュ嬢の鉄壁の賜物です」

 

「そ、そんな。私なんかが……」

 

 ゲオルギウス。聖ジョージとして世界中から認知され、イギリスの守護聖人としても知られる竜殺し(ドラゴンスレイヤー)。彼もまたエリザベートやマリーの様に立香達の窮地に駆け付けてくれたサーヴァントなのだろう。

 

彼女達の後ろには耳を抑えているアマデウスもいる。恐らくは彼も先の超音波で影響を受けた一人なのだろう。天才的な音楽家、聴覚が人並み外れており、それ故に未だ回復仕切れていない。そんな彼がエリザベートを見ると酷く怯えた表情でゲオルギウスの背後へと逃げる。

 

「実は先日空に向けて放たれた蒼白い光を目撃しまして、一瞬竜の吐息(ブレス)かと思ったのですが、それにしては邪気はなく、寧ろ一種の清廉さを感じたので気になって周辺を歩いて回っていた次第です。………まぁ、この様な場面に出会すとは流石に思っても見ませんでしたが」

 

言われてゲオルギウスの視線の先を追って再びそこへ向けば、無数の拳による連打で地中にめり込んでいく邪竜がいた。

 

「震えるぞハート! 燃え尽きるほどヒート! 刻むぞ、血液のビート!!」

 

山吹色の波紋疾走(サンライトイエローオーバードライブ)!!」

 

「止めてぇェェッ! もう燃え尽きちゃってるからァ! さっきからファヴちゃんはもう灰になっちゃってるからぁ!!」

 

「最高に「ハイ!」ってやつだァッ!!」

 

修司による波紋連打(波紋なし)は邪竜を地中へ深々とめり込ませていく。泣くことも喚くことも出来なくなった邪竜は枯れた筈の涙腺からただ涙を流してされるがままになっていた。そんなファヴニールに何を勘違いしているのか、修司は打撃の勢いを緩めることはしない。

 

何せ、相手は最強の邪竜だ。竜殺し以外倒せないと知り、この竜を抑えられるのは今は自分しかいない。そんな責任感からファヴニールとの一対一(タイマン)を受けることにした修司は兎に角自分に釘付けになってもらおうとあらゆる方法で攻撃を行った。

 

ある時は気力で、ある時は小宇宙(コスモ)的な気力で、またある時は波紋的な気力で。結局全部気力による模倣した技だが、それでも修司にとっては血の滲む修行の果てに習得した必殺技、これにより邪竜の足止めを行う事にした。

 

決して熟練度の低い技の習得に最適だとか思っていない。そう、決してそんな風に思っていない。

 

 そんな彼の技を受け、もう幾度めか分からない死を体験した邪竜は、刻まれていたその概念によって復活する。遠くで黒いジャンヌがファヴニールに逃げてと叫んでいるが、逃げた所でどうしようもない。何せ目の前の理不尽の塊みたいな男は力だけでなく速さも逸脱している。邪竜ファヴニールの巨大な体では逃げることさえ出来ないのだ。

 

「おっ、まだまだやる気だな! 此方も漸く温まって来たところだ! 此処からまた一段階ギアを上げていくぞ!」

 

 倒しても倒しても復活してくる邪竜に修司は軽いランナーズハイ状態となっていた。邪竜が抵抗らしい抵抗をしなくなって不思議にも思ったが、恐らくは此方の体力が尽きるのを待っているのだろう。邪竜の癖にズル賢い奴だ。そんな勘違いをしながら修司は更に力を高めようとするが、そんな彼の肩にポンッと誰かの手が置かれる。

 

なんだと思い振り向けば、修司の背後には体に奇妙な光る紋様を浮かべた大剣を手にした男が立っている。そんな彼が修司へ目線を向けると後は任せろと言わんばかりに前に出て邪竜へと近付いていく。

 

今の邪竜は復活ホヤホヤの状態だ。ダメージもなく、体力も体調も万全な邪竜に無策で近付くのは危ないぞと修司は男を呼び止めようとする。

 

そんな修司を止めたのは立香だった。彼の肩に手を置き、「その辺にしてあげて」と口にする彼女を不思議に思いながら周囲を見渡すと、なんとも言えない表情で此方を見るジャンヌ達がいる。

 

なぜそんな目で見られているのか、本気で解っていない修司がポカンとしていると、ザシュッと何かを斬り捨てる音が聞こえてきた。振り向くと其処には邪竜の首が転がっており、男は全身を邪竜の血で染めていた。

 

────邪竜は、もう復活することはなかった。男が振り下ろしたその一撃は確かな手応えが感じられ、邪竜ファヴニールは光の粒となって消えていった。

 

「───眠れ、邪竜よ。お前が何度蘇ろうとその度に俺はこの剣を奮おう」

 

それは騎士の誓いで、邪竜に対する約束だった。喩え此処とは違う何処かで見えようと、ふたたび自分の剣は邪竜討伐の為に奮われる。お前が蔓延る余地はないのだと、そう吐き捨てる宿敵(ジークフリート)に………。

 

『………あ、り………が……と、う………』

 

 漸く逝ける事に安堵した邪竜ファヴニール。消えていく宿敵にジークフリートは空へと消えていくその欠片たちを完全に見えなくなるまで見守り続けた。

 

…………最後に振るわれたその一撃は、何処までも慈悲深く、切なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、助かったよ清姫ちゃん。君がジークフリートさんを連れてきてくれなかったら、俺ずっとアイツと戦っていた所だったよ」

 

「戦いとは程遠い惨劇に見えましたけど……嘘ではない? つまり、この人はアレを対等の戦いだと認識している? えぇ……」

 

 それから少しして、修司達は互いに生きていたことを喜び、自己紹介をしながら情報を交換していた。

 

既に黒ジャンヌの姿は此処にはない。恐らくはオルレアンへ戻っているのだろう。追撃を提示する者はいない、というか出来なかった。涙処か鼻水も垂れ流して体裁や面子など放り捨ててギャン泣きしている黒ジャンヌに誰も追撃の提案を出来なかったというのが本音である。

 

「ジャンヌさんも無事で良かったよ。あの黒い鎧のヤツはなんかヤバそうな雰囲気だったし、ある意味邪竜より厄介だと思ったからさ、エリちゃん達を向かわせたのは正解だったみたいだな」

 

「え、えぇ。そうですね。お陰で助かりました」

 

「ではジャンヌ。これよりジークフリートの解呪を行います。手を貸して戴きたい」

 

「あ、解りました。では、皆さん。私は一旦これで……」

 

「あぁ、また後でな」

 

 そう言ってジークフリートに掛けられている呪いとやらを解くためにジャンヌはゲオルギウスの下へ歩いていく。そんな彼女を見届けた後、修司は立香達の所へ向かった。どうやらこれからの方針についてロマニと話し合っている様だ。

 

「立香ちゃん、マシュちゃん、ドクターとの話は進んだかい?」

 

「あ、修司さん。もう平気なんですか?」

 

「あぁ、元々そんなに疲れてないしな。少し休憩したお陰で、この通りさ」

 

『あれだけ暴れまわってケロッとしてるなんて、君の体はどうなってるんだい? 普通に謎過ぎて怖いんだけど』

 

「はっはっは、鍛えているからな。これくらいじゃ音をあげねぇよ」

 

肩を回し、全快したことを告げる修司にロマニは軽く引いていた。全世界の男子が憧れる技を難なく放てるのもそうだが、この男は色々とおかしい点が多い。

 

ツッコミ処満載だが、今はそれを追求している場合ではない。此れからの方針について修司の意見も聞いておきたいと意識を切り替えたロマニは、目の前にいる今は唯一となったAチームの修司に訊ねた。

 

『……正直、僕はこのタイミングがチャンスだと思っている。向こうの戦力であるアサシン達やセイバーも倒れ、バーサーカーも打ち倒し、切り札である邪竜も滅んだ。向こうが建て直しを図るには相当な時間が必要になる筈、僕はこのまま追撃するべきだと提案するよ』

 

「だな、俺も同意見だ。向こうの戦力は著しく低下した筈、畳み掛けるのは今しかないだろう」

 

「ですが、相手の本拠地に正面から攻めいるのは少々危険が伴うかと思われます。いえ、ジークフリートさんや他のサーヴァントの皆さんが手を貸してくださるなら、その選択も充分ありだとは思いますけど……」

 

「でも、マシュも言うように敵の本拠地なんだよね? 普通に考えたら罠の類が張り巡されてると思うけど……」

 

『そこなんだよねぇ。罠と分かって向かわせるのは指示を出す者としては憚れるのが……ねぇ?』

 

方針は定まっているが、今一つ決定力が掛けている。藤丸立香は修司とは違いマスター適性を持つ者、そんな彼女を罠が待ち構えていると分かった上で投入するのは些か以上に気が引けた。

 

かといって修司ばかりに頼るのも気が引ける。というか、やり過ぎてややこしい事態になりそうだから修司に一任するのは出来る限り控えたいのが本音だ。

 

あーだこーだと悩んでいる内に時間だけが過ぎていき、どうしたものかと頭を悩ませていると……。

 

「ちょっとそこの山吹色の豚、まだ話終わらないの? いい加減此方は待ち疲れたのだけれど? 全く、アイドルを待たせるなんてマネージャーとして三流よ?」

 

「エリちゃん? あぁ、悪い。今少し煮詰まっててさ、もう少し掛かりそうなんだけど……」

 

「だめ、待てないわ。貴方には私の望みを叶える義務があると言う事を忘れているのではなくて?」

 

「え? あ、あぁ………あれか、素で忘れてたわ」

 

「ちょっと!? ほんの十数分前の話じゃない! 何で忘れるのよ!?」

 

「防衛本能?」

 

「はぁっ!?」

 

「わ、悪かったって! 忘れてたけど約束は守るからさ!」

 

 エリザベートの追求にたじたじになる修司だが、実際彼女の望みをどう叶えるかまでは考えていなかった。自称アイドルのライブに一体どう考えたらかめはめ波を取り入れようというのか、そんな戸惑う修司に助け船を出してくれたのは立香だった。

 

「ねぇエリちゃん、エリちゃんの望みって何?」

 

「良く聞いてくれたわねそこの子ジカ、この男ってあのデカイ光を出せるでしょ? 私の宝具と合わせればそれはもう綺麗なイルミネーションになる筈なのよ!」

 

「エリちゃんの宝具ってどんな感じなの?」

 

「な~に? そんなに私の事を知りたいの~? 流石は私、こんな田舎娘をも魅了しちゃうなんて、私ってば罪なお・ん・な♪」

 

「『ここ、笑うところ?』」

 

「お二人とも、シッですよ」

 

 イヤンイヤンと体と尻尾をくねらせるエリザベートに軽くイラッとする修司とロマニ、そんな二人をマシュが黙らせ、立香はエリザベートを煽てて彼女の宝具について聞き出していた。

 

あくまで立香だけに聞かせようとエリザベートは耳元で囁き、立香はうんうんと頷く。それから少しして彼女の宝具の概要を把握した立香は少しの間考え込んでいると……。

 

「ティンときた。これなら行けるかも!」

 

「ほ、本当ですか先輩!?」

 

「うん! 本当なら修司さんだけで何とかなりそうだけど、もしかしたら外しちゃうかもしれないし……でも、これなら多分籠城されようと何とか出来るかも!」

 

『そ、それが本当なら確かに凄いぞ! それで藤丸君、その内容は一体なんだというんだい?』

 

 あのねー、と言葉を紡ぎ立香が思い付いた作戦を伝えると……徐々に二人の顔は曇り始め、心なしかフォウもドン引いている様子だった。

 

「な、なんと言うか、その……」

 

『君も、修司君と同様に中々容赦ないんだね』

 

「え? そうかな? いい作戦だと思ったんだけど……」

 

引いている二人に立香はキョトンと目をパチパチさせている。ともあれ、確かに彼女以上の代案がない以上作戦はエリザベートと修司に任せることにし、ジークフリートの解呪も終わり、一行はそろそろやってくるであろうフランス軍に鉢合わせる前にリヨンから立ち去り、オルレアンへ向かう事にした。

 

 その道中、夜になりこれ以上の行動は危険と判断した一行は森の近くでキャンプをすることになった。レイシフトして二度目の野宿、初日と違い大所帯になった事で必要な食材が多くなった事に不安を覚えるロマニだったが、今回は現地で取れた肉(ワイバーンorファヴニール)を用いての焼き肉パーティーとなった。

 

竜種独特の臭みや固さはあるものの、血抜きや毒抜きは一通り終えている為、食材としてはそんなに悪くはなかった。 強いて不満があるとするなら野菜が少ないこと、今後は食事面も気を付けようと修司と立香、マシュの三人は頷きながらそう決意するのだった。

 

その後、見張りの順番を決めたりマシュがアマデウスから自身の在り方についてアドバイスを受けたり、ジャンヌとマリーが友好を深めたり、エリザベートと修司が翌日の打ち合わせをしたりしながら時間は過ぎ去り、決戦を前にした夜は穏やかな内に過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジル、ジル~~!!」

 

 早朝。オルレアンにいち早く辿り着いた黒ジャンヌは砦内部の玉座と思われる場所にて自身の帰りを待っていた彼女が最も信頼している者に泣き付いていた。

 

「おお、我が麗しの魔女よ。よくぞご無事で戻られました。水晶越しでしたが、貴方の活躍は拝見させて頂きましたよ」

 

「それなら分かってるでしょ! ファヴニールが、私のファヴニールが………う、うわぁ~~ん!」

 

「えぇ、えぇ、存じていますとも! 全てはあの忌々しい山吹色の男が元凶。ファヴニールを失ったのは痛手ですが、彼の竜も聖杯の導きによって召喚されしモノ、事が終われば再び私達の呼び掛けに応えてくれますでしょう」

 

「ほ、本当?」

 

「勿論です。ですがジャンヌ、今はどうか我慢を。此処にはあの者達が近付いているのです。戦いはまだ終わってはおらぬのです」

 

「っ!?」

 

 ジル・ド・レェの一言にジャンヌの死人のような白い顔が青くなる。あの山吹色の悪魔が来る、理不尽で不条理で、生前でも存在しなかった怪物が今度はこのオルレアンへやって来る。

 

恐怖が彼女の内から沸き上がる。言葉にできない震えが襲い、悪寒がジャンヌの思考を混乱で埋め尽くしていく。抗えない、抗えるわけがない。何故ならジャンヌ=ダルクは良くも悪くも運命というモノを受け入れてきた。抗うという事を知らず、与えられているのは自分を殺したフランスに復讐する感情のみ。彼女はそう望まれて(・・・・)生み出されたのだから………。

 

「しかし、ご安心召されよジャンヌ。奴等の快進撃も此処まで、私が施した陣形により既にオルレアンは要塞となっております」

 

「そ、そうなの?」

 

「えぇ、入り口には手始めに翼竜の群を配置しており、奴等を視認すればその牙と爪で食らい尽くすでしょう。仮にその場を潜り抜けてオルレアンに侵入しようとも既にオルレアンは異界と化し、これまで殺してきた人間達の怨念が怨霊となって奴等を呪い殺すでしょう。我が海魔も無数に配置しており、奴等に休むまもなく呑み込むでしょう。それらを潜り抜け、此処まで辿り着いたとしても、その頃には奴等も満身創痍。貴女が出るまでもなく事は終わることでしょう」

 

「で、でもジル! あの悪魔は手からビームを出すのよ! 遠くから狙い撃ちにされたら……」

 

「勿論、それも対策済みです」

 

 ジルが窓へ指を指しジャンヌそこへ視線を向けると、砦の前にある広場から巨大な海魔が現れた。その数凡そ八体、邪竜ファヴニール以上の巨体を誇る海魔がオルレアンの街に顕現した。海魔を喚び出すにあたって必要となるのは生死を問わない人の体、このオルレアンには人の死で溢れていて材料となる死体は事欠かない。

 

とある理由から無尽蔵に等しい魔力を持つジル・ド・レェだからこそ出来る力業、確かにこれだけの規模の戦力がまだ残されているなら、此方にもまだ勝機は残されているかもしれない。

 

イケる。これならまだ自分達は戦える。あの馬鹿げた力を持った山吹色の悪魔にも一欠片の勝機があるかもしれない。

 

竜の魔女は立ち上がる。旗を手に取り、天高く掲げる黒いジャンヌは先程までのギャン泣き状態から立ち直り、凛々しい顔付きで宣戦布告する。

 

「アハハ! 来るなら来なさい愚かな反逆者たちよ、所詮お前達の力では覆ることはない現実があるのだと知りなさい! 我が名はジャンヌ=ダルク、フランスを駆逐し、人理を破壊する魔女────」

 

「波ァァァァァァッ!!」

 

 そんな彼女の宣戦布告を遮る形で蒼白い巨大な閃光(かめはめ波)が巨大海魔総勢六体と、ジャンヌとジルのいる砦の天蓋部分を吹き飛ばし。

 

「L aaaaaaa────!!」

 

 次いで前代未聞の音の暴風がオルレアンに仕掛けられたあれやこれやを吹き飛ばし、二人ごと蹂躙していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どうやら、上手くいったみたいだな」

 

 瓦礫の山となったオルレアンの砦に降り立った修司はその様子から立香の立てた作戦が上手く行ったことを確信する。

 

彼女が立てた作戦は罠を張り巡らせ、待ち構えているだろう黒ジャンヌ達の思惑に乗らない為の遠距離からの攻撃という簡単なもの。

 

問題はその火力、修司のかめはめ波で一網打尽にするのはいいが、それではフランスに大打撃を与え結局は人理崩壊に繋がってしまうかもしれない。オルレアンに極力ダメージを与えず、ジャンヌ達にだけダメージを通すのは流石の修司にも難しかった。

 

 そこで白羽の矢が立ったのがエリザベートだった。街に物理的ダメージを比較的抑え、黒ジャンヌ達に最大限のダメージを与える切り札、それが彼女の宝具“鮮血魔嬢”である。

 

え? 彼女の宝具も充分に物理兵器? 知らんな。

 

「しかし、まさか彼女の宝具がアンプに改造した城とはね。サーヴァントってのは何でもありなんだな」

 

エリザベート=バートリーの宝具は生涯に渡り君臨した居城を召喚するというもの、それがどういう訳か巨大な音の増幅機として成り立っており、彼女の破壊的美声を最大限に引き出すというモノだった。

 

その宝具にアマデウスは失神するという被害を被ったが、それ以外の者達はあらかじめ用意していた耳栓と白ジャンヌの宝具によって護られている為、アマデウス以外目立った被害を受けたものはいない。

 

 今頃は他の面々も仕留め損ねた残りのワイバーンや、巨大海魔を倒すのに戦ってくれている頃合いだろう。あの黒いジャンヌの所へも立香達が駆け付ける頃だろうし、此方もそろそろ決着をつけるべきだ。

 

「………さて、そろそろ立ったらどうだ? えぇ? ジル・ド・レェさんよ。いや、青髭と呼んだ方が通りがいいか?」

 

地に膝を付き、頭を抑えるジル・ド・レェ。その表情には憤怒が浮かんでいて、その目はマグマの如く血走っている。

 

「おおぉぉのれぇぇぇ! この野蛮な匹夫めがぁっ! 何処まで我々を愚弄すれば気が済むのかぁ! 許さん、許さんぞォォッ!」

 

「別に、アンタの許しを欲しいとは思わねぇよ。て言うかいらねぇし、俺がアンタにくれてやるのはこの拳だけだ」

 

立ち上がり、罵倒してくるジルに修司は淡々とした様子で言い返す。そもそも好き勝手にしていたのは連中も同じ、言われる筋合いなんて在るわけがなく、目の前の男の言葉に修司が動じる事はない………筈だった。

 

「山吹色の悪魔め! お前がいるから私のジャンヌが怯えてしまっている。死ね! 死んでしまえ! お前のような輩は存在自体が忌々しい」

 

私の(・・)ねぇ、やっぱりそう言うことだったか」

 

「あぁ、可哀想なジャンヌ。フランスに裏切られるだけに飽きたらず、この様な蛮族に乱暴されるとは、

なんて嘆かわしい! 貴様には人の心が無いのか!? これが、この悲劇が、貴様ら人間のすることかぁ!?」

 

 その何気なく吐き捨てたジル・ド・レェの一言が、白河修司の触れてはならない部分に触れた。

 

第四次聖杯戦争、そこで行われた凄惨な戦い、その裏で被害にあった無関係の子供たち。

 

王に我が儘を言って教えてもらった当時の凄惨な現場、なんの抵抗も出来ない子供達を一方的になぶり殺した外道。

 

一説では青髭のモデルとも謂われたジル・ド・レェ、彼のその一言により修司の怒りはこの時───頂点を越えた。

 

「お前が言うな」

 

「ぶへぇ!?」

 

 瞬間、修司はジルを殴り飛ばしていた。血を吐き、鼻血を垂れ流し、衝撃と痛みで涙を流すフランスの元元帥に………。

 

「とっとと立てよ三下、テメェには此から自分がしたことへの付けを、たっぷりと返させてやるからよぉ」

 

修司は一切の容赦、情けを掛けないことを………今この瞬間に決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ボッチにとって第四次のキャスター組は今でもブチのめしたい悪党ランキングぶっちぎりの第一位です。

この世界の青髭と元いた世界の青髭、違うかもしれないと自分に言い聞かせて来たのが彼の一言でプッツンしたという感じです。


次回、決戦。

それでは次回もまた見てボッチノシ





PS.

そう言えば、不死とは違うけど、fgoには何度倒しても沸いてくるレイド戦がありましたよね?
この中に一つ、特にしぶといと言われてきたイベントがありましてね。

因みにそのイベント名………羅生門って言うらしいんですけど(ニチャア


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