『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回で邪竜百年戦争は終わりです。

駆け足ですみません。


その20 第一特異点

 

 

 

 

 戦いは終わりを告げた。膨れ上がり、天にも届く海魔の集合体を修司の放つかめはめ波によって消滅。今回の特異点の首謀者であるジル・ド・レェも蒼白い光の中へと溶けて消えていった。

 

オルレアンを覆っていた暗雲は吹き飛び、澄み渡る青空が広がっていく。自分の放つ一撃に納得のある手応えを感じた修司は、手に残るエネルギーの残滓を振り払い後ろにいる立香達へと向き直る。

 

「よし、取り敢えずこんな所だな」

 

仕事をやり遂げた男の顔で満足気な修司に対し、立香は若干引き気味だった。

 

「えぇ、修司さん。そこまでやる? 今絶対相手巨大化する所だったじゃん、絶対皆で力を合わせて戦う流れだったじゃん」

 

「いやぁ、剰りにも隙だらけだったから……つい」

 

膨れ上がり、天にも届く勢いで膨れ上がっていたあの海魔は、間違いなくオルレアン処かフランス全体を呑み込む勢いだった。もしあのまま放置していたらきっと本格的にこの時代は窮地に立たされる所だっただろう。そうなれば修司も相棒を出す他なくなり、人理に凄まじい負荷を掛ける事態は避けられなくなっただろう。

 

 それを防げたのは偏に修司の直感に似た感覚の賜物。直感といっても未来を予知する類いのモノではなく、ただ何となくというあやふやなもの。もっと雑に言えば膨れ上がる際に晒していた大きな隙が武術を嗜む修司をソワソワさせたからである。

 

そんな事実など露知らず消滅する嘗ての戦友にジャンヌは複雑な思いで見送った。

 

「悪いなジャンヌさん、勝手に終わらせちまって」

 

「いいえ、彼とは何れ何処かで会えると思いますから。それこそ、貴方達がいるというカルデアとやらに……そうでしょ?」

 

「は、はい。確かにカルデアにはサーヴァント召喚の為の専用スペースが確保されていますから、可能性はあるかと」

 

「え? そうなんだ」

 

「あー、そう言えばそんな話も聞いたな」

 

ジャンヌの問い掛けにマシュが応える。未だカルデアを把握していない立香は不思議に思い、修司は思い出しながら頷いた。

 

「じゃあ、運が良ければジャンヌさんとまた会えるって訳だ」

 

「そうですね。私では些か頼りないかも知れませんが」

 

「そんな事はないさ。確かに頑固で強引でポンコツな所があるけど、アンタのその護りに………俺は何度も助けられたからさ」

 

「………え?」

 

「だからさ、自信持てよ。王妃様にも言われたんだろ? アンタは、アンタの思いのまま進めばいいさ。俺も、そうするつもりだからよ」

 

 そう言って笑う修司にジャンヌは何処か既視感を覚えた。今までもそうだが彼は自分の事を知っている素振りを時折見せている。もしかしたら、この人は───自分と何処かで出会っているのかもしれない。

 

訊ねた方が良いのだろうか? 好奇心と僅かな恐れがジャンヌの中で入り雑じる。そんな時彼等の前にDr.ロマンことロマニ=アーキマンがホログラフで割り込んできた。

 

『皆! 異変となっていた元凶が倒された事でその特異点はもうすぐ崩壊して正しい形に再構築される!』

 

ロマニからの通信は一つの特異点を修復したという一足早い報告だった。異変によって失ったモノは全てが元に戻り、焼かれた街や人、奪われた命も元の形へと戻る。そう聞かされた修司達の表情には安堵が浮かび、特にジャンヌは今回の異変が全て無かった事になると知って胸を撫で下ろしていた。

 

 そしてロマニの言葉が証明されるように修司や立香、マシュの三人は光に包まれ始める。それが特異点からの退去なのだと察した修司はジル・ド・レェのいた場所にある黄金色の杯を手に取った。

 

「ドクター、この聖杯はどうする? 一応回収しておくか?」

 

『え? あ、うん。そうだね。お願いしようかな。人理焼却や黒幕に繋がる手掛かりになるかもしれない。解析に回したいから是非頼むよ』

 

「了解」

 

本音を言うなら聖杯何てものは叩き壊したい所だが、人理焼却や黒幕への手掛かりとなるのならロマニの言う通り回収するべきなのだろう。そう言って聖杯を回収した修司は改めてジャンヌへと向き直る。

 

「それじゃあジャンヌ! また会おうね!」

 

「これまで旅をご一緒出来たこと、本当に嬉しかったです! ありがとうございました!」

 

 これが永遠の別れではない。そう信じて疑わない立香とマシュはジャンヌにまた会う約束をして消えていく。一足早く特異点から帰っていく二人を尻目に、ジャンヌの視線もまた修司へ向けられる。

 

「………はは、なんだか悪いな。最後までドタバタしてて」

 

「ふふ、本当ですね。まるで嵐です。こんな旅をするなんて現界した時は思いもしませんでした」

 

突然この特異点へとやって来たと思ったら嵐のごとく掻き回され、気が付いたら全てが終わっていた。目が回る時間だった、落ち着きがなく慌ただしく、それでいて濃く……楽しい時間だった。

 

 全ては泡沫の夢、全ては無かった事になり誰の記憶にも残らない端から見れば無意味な闘い。サーヴァントである自分もこの時の戦いはきっと座の記録に残るだけで実体験としては残らないのだろう。

 

それでも、価値はあった。喩え全てが残らなくても何もかもが消えてなくなったとしても、この世界で彼等と共に戦ったと言う事実は変わらない。

 

 ………だから、今は詳しくは聞かない。彼が自分の何を知っていようと、自分にどんな想いを抱いていようとも、聞くことはしない。

 

それに───。

 

「それでは、修司さん。またいつか」

 

「あぁ、またな」

 

彼等とはきっとまた会える。そんな根拠のない確信を抱きながら消えていく修司を見送った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰り、マシュ、藤丸君、そして修司君! お疲れ様!」

 

 意識が戻り最初に目にしたのはDr.ロマンの満面の笑みだった。どうやら無事に戻れたらしい、コフィンから這い出て辺りを見渡せば管制室の光景が広がっていて、近くにはマシュと立香の二人の姿があった。

 

「うーん! 帰ってきたぁ! マシュ、お疲れ様」

 

「先輩もお疲れ様です。フォウさんも無事に戻って来れた様で何よりです」

 

「フォフォーウ!」

 

二人と一匹も戦いによる後遺症はない様子でひとまず安心した。そう胸を撫で下ろしていると立香に怪訝な視線を向けられている事に気づいた修司は自分に何か変わった所があるのか訊ねた。

 

「立香ちゃん、どうかした? 俺の体……どこかおかしいのか?」

 

「いや、おかしいと言うか元に戻っていると言うべきか」

 

「あ、本当です。修司さんの礼装元に戻っています! 不思議です。さっきまでは結構ボロボロでしたのに」

 

言われて自分の体に手を当てれば、破れていた箇所が元に戻っていた事に気付く。修司の着ている山吹色の胴着は黄金の英雄王から賜った礼装、闘いの余波で破れた為それだけが気になっていた修司としてはこの修復力は思いもしない発見だった。

 

「うーん、これはまたダ・ヴィンチが騒ぎそうな代物だなぁ。修司君、もしアイツがその礼装を解析したいとねだってきたら容赦なく追い払っていいからね」

 

「いや、流石にそこまで邪険にはできねぇよ。と、それよりもこれ、解析に回すんだろ?」

 

「ちょ、貴重な聖杯を投げ渡さないで!?」

 

特異点で破損した礼装が帰ってくれば元通りになる。そんな色々とありがたい機能を付けてくれた王に内心で感謝した。

 

「うぉっほん! ………改めて、本当によくやってくれたね。この限られた補給物資と人員の中で初のグランドオーダーは無事に遂行された。まだ特異点の一つしか修復出来ていないが、それでもこの一歩は大きい。カルデアの代表として君達に感謝をさせてくれ」

 

 そう言って頭を下げてくるロマニに立香もマシュも困惑した。修司へ助けて欲しいと視線を向けるもいいから受け取っておけと頷くだけ、どう返事したらいいか困惑していると管制室に空腹を伝える腹の音が響き渡っていた。

 

見れば、立香の顔が真っ赤になっている。無理もない、これまでずっと動いていたから体が栄養を求めているのだろう。しんみりとした空気が一気に朗らかになり、吊られて修司の腹からも空腹を告げる音が鳴り響いた。

 

「あ、はは。そう言えば俺も戦ってばかりいたから腹減ったな。ドクター、悪いけど食堂を貸して貰えるか」

 

「ふふふ、あぁ、勿論いいとも! 今はしっかり食べてしっかり休もう! 面倒な話はその後でも充分さ!」

 

「よし、ならこのまま向かうとするか。立香ちゃん、マシュちゃん、何でも好きなもの言ってくれよ。俺が腕によりを掛けて作ってやるからな」

 

「わぁい! ありがとう修司さん!」

 

「修司さんの作る料理は先の特異点で美味であると証明されましたからね。先輩と私、そしてフォウさんの胃袋はがっちりとホールドされています」

 

「フォーウ! マーボーカンベンフォーウ!」

 

「………前々から思ってたけどこの小動物、実はめっちゃ賢いんじゃね? 絶対に俺達の言葉理解してるだろ」

 

 そんなやり取りをしながら管制室を後にする三人を見送り、Dr.ロマンは安堵する。彼等なら、きっとこの先の苦難も乗り越えてくれる。藤丸立香の元にサーヴァント達が集い、そんな彼女をマシュが護り、修司が彼女達を導いてくれる。

 

願わくば、どうか彼女達の旅路に幸があることを………願うばかりである。

 

「さて、まずは………」

 

『うぉ!? どうしたんだよスタッフの皆』

 

『うわー、皆あの胴着きちゃってるー! いいなー、私も欲しいな~!』

 

『え? これ全部ダ・ヴィンチちゃんが作ったんですか!? は、はわー……』

 

『ハチャメチャフォーウ!』

 

通路の先で囲まれているだろう修司達を助ける事から始めるとしよう。そして………。

 

「ダ・ヴィンチ、アイツは後でシメよう。うん」

 

オチャメにやらかしてくれた万能の天才に折檻の内容を考えることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジル・ド・レェ元帥! オルレアンに蔓延るワイバーンの姿が見当たりません!」

 

「此方も、各方面の出入り口から探っていますが戦闘の形跡はあってもワイバーンや化け物達の死骸は未だに確認できていません!」

 

「まさか、一体何が起きていたと言うのだ」

 

 当初はリヨン解放の為に募った軍は現在オルレアンの中心にまで差し掛かっている。二つの街で目撃された巨大な光、一部のフランス国民の間では神の奇跡だと噂されていたその光を辿ってオルレアンにまで進軍したのはいいが、其処に残されていたのは闘いの形跡だけだった。

 

一体この地で何が起きていたのか、不思議に思うジルが辺りを見渡すと、ふと人影が見えた気がした。フランス国旗の旗を手に瓦礫の上に立つ一人の女性、その姿はほんの少し前まで彼が共に戦っていた聖女……。

 

「ジャンヌ!? ………いや、違う。彼女は既に処刑された身、生きている筈がない」

 

一瞬だけ見えた嘗ての戦友は既にそこにはいなかった。幻覚を見てしまった自分を女々しく思いながら、それでも彼は思っていた。この闘いの裏ではもしかしたら彼女も関わっていたのかもしれない。

 

全ては自分の願望にすぎない。しかし、それでもジル・ド・レェは願わずにはいられない。敬虔なる彼女の魂が死んだあとも滅びずにフランスを、自分達を想ってくれている事を。

 

自分達のしたことは許されないモノ。彼女を裏切ったフランスをきっと自分は許せなくなるだろう。しかしそれでも、この先の未来が確定していても、彼はフランスの……オルレアンの乙女に乞い願う。

 

どうか、この先の人類に………祝福あれと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オルレアンから離れた地、丘の上の草原を複数のサーヴァントが歩いていく。目的なんてない、特異点が修復され彼等もまた直にこの歴史から消えていくだろう。

 

彼等が集って歩いているのはそんな最後の時間を噛み締めるためのただの座談会。しかし、彼等の表情はどこか晴れやかだった。

 

「あー、もう! 今回全然良いところなかった!」

 

「もう、またその話ですか? いい加減しつこいですよ?」

 

「だって! 折角のライブがたった一瞬で終わっちゃったのよ!? もっと歌っていたかったー!」

 

「充分活躍したではありませんか。私なんてデカイイカを焼いてただけですよ? それに、その我が儘彼の前でも言えますの?」

 

「ヴ……」

 

「ふ、ふふふ………済まない、何の役にも立てなくて本当に済まない」

 

「あーもう! そう落ち込むなよジークフリート! 僕だってあの出鱈目君のお陰であんまり目立たなかったんだ! 次の機会に賭けて気持ちを切り替えよーぜ!」

 

「アマデウス殿ではないですが、その通りですよ。それに、貴方はあの巨大海洋生物を一撃で叩き切り伏せたではありませんか。貴方の剣は邪竜のみに通じるモノではない、そう悲観することはないですよ」

 

「そ、そうか?」

 

「まぁ、修司君は一発で六体もあのデカブツをぶっ潰したみたいだけど」

 

「グハァッ!?」

 

「ジークフリート殿!?」

 

 てんやわんや、煽ったり煽られたりと騒ぎ出す彼等を後ろで微笑みながら見守るマリー=アントワネットとその隣ではジャンヌ=ダルクが肩を並べて歩いている。

 

「ねぇジャンヌ、どうだった? 今回の旅は」

 

「そうですね。とても慌ただしく目が回りそうで、実際私は終始振り回されてばかりでした。何もかもが新鮮で、サーヴァントなのに……まるで、あの時の続きを夢見ているようでした」

 

「フフ、でも、とっても楽しかったんでしょ?」

 

はにかんだ様に笑う王妃に聖女もまた笑う。

 

「えぇ、生前の私の旅路はいつも戦場が目的地でしたから、こんな風に周りを良く見る事が逆に新鮮で……」

 

戸惑い、どう説明したらいいか四苦八苦しながらも自分の旅路がどれだけ色鮮やかだったかを伝えるジャンヌ、その顔は年相応で聖女と呼ぶには剰りにも眩しかった。

 

「………ねぇジャンヌ、貴方はこの国が好き?」

 

「えぇ、勿論です。だって、私が生まれ、そしてこの先で貴女が生まれる国ですもの。愛しているに決まっています」

 

 サーヴァントである彼女達は歴史という本に刻まれた影法師。消えればその記憶は全てはリセットされ、全ては泡沫の夢へと消えていく。

 

でも、それでもよかった。この出会いに意味はなくても、この邂逅に価値はあった。時を越えて集う英霊達、憧れる聖女の口から直接伝わってくる告白に………。

 

フランス万歳(ヴィヴ・ラ・フランス)!」

 

キス魔な彼女が感極まってジャンヌに抱きつくのは当然の帰結だった。

 

 

 

 

 

 

 

 第一特異点・邪竜百年戦争オルレアン

 

───定礎復元───

 

 

 

 

 

 

 

 

 





次回から、日常パートに戻るため日記形式に戻ります。

尚、イベントの話は基本的にダイジェストにして流しますのでご了承ください。

それでは次回も、また見てボッチノシ






ある日のカルデア(IF)

「ねぇ修司さん、修司さんってアーチャーのエミヤさんと知り合いなの?」

「知り合いっていうか、普通に友達だな」

「へー、じゃあ修司さんから見てそれぞれのエミヤさんはどんな感じなの?」

「そうだなぁ、食堂にいつもいるエミヤはワープ進化」

「ふむふむ」

「より黒くなってワイルドになったエミヤはアーマー進化」

「ほうほう」

「んで、外見は一番若い千子村正なエミヤはジョグレス進化、大体こんな感じだな」

「成る程、つまりエミヤさんはデ⚪モンなんだね!」

「そうなるな」

「「「おいコラ」」」




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