『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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ローマ!(挨拶)


その25 第二特異点

 ────翌日、合流した遠征組と共にガリアへやって来た皇帝ネロとその客将達、前日にブーディカからのブリタニア料理を振るわれた事で英気も養われ、気力体力共に充実した修司達はガリアで展開される連合軍の軍勢に正面から切り込んだ。

 

数では不利な現皇帝軍。しかし彼等にはサーヴァントという規格外の存在が味方に付いており、並の兵士では足止めすら敵わなかった。

 

そしてその中でも山吹色の嵐が兵士達を蹂躙する。押し寄せる人の波を拳や蹴りで打ち砕き、気を使わない純粋な身体能力を以て圧倒する様はサーヴァントと似て非なる超常を見せ付けていた。

 

「ふぅ、まさか自分が無双シリーズを体現するとは、人生とはわからないものだ、なっと」

 

 背後から不意打ちを狙っていた兵士にも裏拳を放って昏倒させる。修司の周囲には死屍累々の兵士達が倒れ伏しているが、幸か不幸か何れも気を失っているだけでに終わっている。

 

魔術師から見たら甘いと言わざるを得ない所業だが、生憎と修司の目的は兵士達の虐殺ではない。あくまでも修司の───カルデアの目的は特異点の調査と元凶の特定と解決にあるのだ。

 

「やぁ、随分と暴れているみたいだけど、大丈夫? 疲れてない? 君が凄いのは充分理解したけど、今から飛ばしすぎると後からしんどくなるよ?」

 

 そんな彼の所にブーディカが走り寄る。嘗ての戦場の女王と謳われていただけあって彼女の戦いぶりも凄まじい、盾と剣というシンプルな装備で敵兵を悉く殴り倒す様は色んな意味で刺激的だった。

 

「なに、此方が頑張ればその分本陣に向かった立香ちゃん達の負担は減るからな。まだまだ体力には余裕があるし、このままいけるよ」

 

「ふーん、流石は男の子って感じ。もしかして二人のどっちかは君のお気に入りだったりするの?」

 

修司達がガリアに滞在している連合兵士を相手取って幾分かの時が過ぎている。今頃立香達は本陣にいる皇帝の一人とやらと敵対しているだろうし、彼女達の下へ雑兵を行かせるわけにはいかない。

 

「そんなんじゃないッスよ。俺は彼女達よりも年上だからさ、彼女達の負担は出来るだけ軽くしてやりたいだけッス」

 

「成る程、保護者としては年頃の娘の頑張りを応援したい感じ?」

 

「まぁ、そんな所です」

 

 互いに軽口を言い合いしながら、敵を順当に倒していく。修司は拳で、ブーディカは剣の腹で叩き潰しながら敵兵力を凪ぎ払っていく。

 

既に彼女は修司に侮りの視線を向けてはいない。寧ろ戦場で共に戦い彼の戦闘能力の高さを目の当たりにしてその評価は先日の正反対となっている。

 

彼は強い、それもトンデモない程に。幾万の軍勢を前に一切怯むことなく正面から圧倒するのはサーヴァントである自分に匹敵、或いは凌駕しそうな勢いがあった。そんな彼がその気になっていないのは偏にネロ皇帝の客将であるからなのか。

 

それとも、今はただの時間稼ぎに徹しているからだろうか。何れにしても此だけの兵力を前に未だに息を切らしていない修司にブーディカは言葉にできない末恐ろしさを実感していた。

 

「て言うか、こっちの方に来て大丈夫なんスか? スパさん、何か凄いことになってますけど……」

 

 言われて振り向けば、槍を構えて突撃(チャージ)する敵部隊に正面から体当たりをして吹き飛ばす剣闘士(スパルタクス)がいた。その体の至る所には剣や槍、矢といった刃が突き刺さっており、どう見ても尋常の様子ではない。幾らサーヴァントでも不味いのでは? と一瞬焦るが等の本人は満面の笑みを浮かべながら敵兵士達を吹き飛ばしていく。

 

そんなホラーチックな光景に修司が引いていると、ブーディカは戸惑った様子で頭を掻いた。

 

「あちゃー、スパルタクスの奴張り切っちゃってるよ。昨日君と会ってから妙にテンション高いし、もしかしたら爆発するまで止まらないかも……」

 

「は? ば、爆発?」

 

何かの比喩なのだろうか? 爆発という不穏な言葉を口にするブーディカに修司は困惑すると、彼女はゴメンといって此方に手を合わせる。

 

「あたし、スパルタクスのフォローに回るね。申し訳ないけど君には此処を任せちゃうけど……」

 

「大丈夫、任せてください」

 

再び修司を一人にしてしまう事に申し訳なく思うとブーディカだが、修司気にするなと彼女を送り出す。強い子だ。現代に彼処まで強い人間がいたことに何だか嬉しさを感じながらブーディカはスパルタクスの下へ急ぐ。

 

スパルタクスの耐久力は凄まじく彼の精神性と合わさって凄まじいモノとなっている。喩え肉体が滅んでも戦う、そんな彼のフォローに回ろうとブーディカが近付いた時。

 

“悪いが、其処までだ”

 

「!? スパさん、ブーディカさん! そこから離れ───」

 

 何かの違和感に気付いた修司が叫ぶが、それよりも速く空から幾本の巨大な円柱がブーディカとスパルタクスをその周辺ごと取り囲んだ。何が起きた? 突然の事態に混乱するのも束の間、二人を囲んだ円柱の更に上から陰陽の太極図が閉じ込めるように蓋をされる。

 

「一手遅かったな。────これぞ大軍師の究極陣地、石兵八陣(かえらずのじん)。破ってみせるがいい。尤も、簡単にはさせんがな」

 

「な、なに……これ? 体が……動か……ない」

 

「ぬうぅ、この程度の圧政、我が愛に叶う道理……なし」

 

「ブーディカさん! スパさん! 待ってろ、今行く!」

 

円柱に囲まれた事で身動きが取れない二人、原理がどうなっているのかは知らないが、あれが二人を苦しめているのなら破壊するまでだと駆ける修司だが………。

 

「やらせないよ、ブケファラス!」

 

一頭の馬と一人の少年が修司の前に降り立った。その蹄で押し潰さんと迫る黒き牡馬、それを腕で防ぎ弾き飛ばした修司は目の前の少年がサーヴァントであることを瞬時に見抜く。

 

こんな少年がサーヴァント………とは思わない。そもそもサーヴァントとは歴史にその名を刻んだ英雄だ。偉業を成し遂げ世界に名を馳せた偉大なる先人、油断はしない。だが、それ以上の焦燥が修司の中で燻ってしまっている。

 

スパルタクスとブーディカを縛る円柱、あれはサーヴァントすらも縛り殺す類いの厄介な代物だ。早く彼処から解放しなければいずれ二人は死に、消滅してしまう。

 

二人とも今後の戦いに必要な人達だ。死なせるわけにはいかない、しかしそんな修司の気持ちとは裏腹に二騎のサーヴァントはそれをさせまいと立ち塞がる。

 

「いやいや、驚いたよ。僕ごとブケファラスを吹き飛ばすなんて、しかも片腕で! ははは、大した馬鹿力だ! 世界は本当に広いや!」

 

「だから、敵に感心するなと………まぁいい、取り敢えずこれで下地は済んだ。後は我等次第、準備はいいな?」

 

「勿論さ先生!」

 

片や馬に跨がる赤髪の美少年。成長すればさぞかし女泣かせなイケメンになるであろう少年が戦意を滾らせて腰に差した剣を抜く。恐らくクラスはライダー、そして跨がる馬はきっと彼の宝具なのだろう。ライダーはその機動力が最大の武器とされているらしいから、恐らくはそれで自分の行く手を遮るつもりなのだろう。

 

 だが、それよりも修司は少年の隣にいる彼こそが何よりも驚きを隠せない人物だった。

 

修司は彼を知っている。その昔、ロンドンに訪れた際に宿に困っていた所を助けてくれた時計塔の魔術師で、修司が魔術師の中でもまともな人だと認識する数少ない知人。

 

魔術師のある友人が尊敬してやまないとされる魔術師の中でも君主とされる人物。

 

その名は───。

 

「まさか、アンタは………グレートビッグベン⭐ロンドンスター!?

 

「断じて違う!!」

 

ロード・エルメロイⅡ世、嘗て共に魔術師と戦った事のある彼が、奇しくも敵として目の前に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼前に佇む二騎のサーヴァント、ライダーとキャスター。赤毛の少年と黒いスーツを着用する現代的な青年、端からみればバラバラな関係なのに妙にしっくりとくるのは何故なのだろう。

 

なんて考えるのも束の間、見知った顔が相手であることに戸惑いつつも自分のやるべき事は変わらない。彼等を相手にするよりも、先ずはブーディカとスパルタクスを救出するのが先立と、修司は地面を蹴り、猛烈な勢いで彼等との距離を瞬く間に零にする。

 

「悪いが、あんた達の相手をしている暇はない! 通してもらうぞ!」

 

「わわ! すごい迫力だ! はは、凄いや!」

 

振るわれる蹴りを自身の剣で間一髪防いで見せる赤毛の少年、触れたのは足のほんの指先程度なのに愛馬であるブケファラスから吹き飛ばされてしまった。機動力では並のサーヴァントよりある筈の自分が速さで全く敵わなかった事実に少年は悔しさや嘆きよりもただ単純に尊敬し、喜んだ。

 

 そんな少年の反応に若干困惑しつつも、修司は構わずブーディカ達の所へ向かおうと足を進める。この踏み締めた一歩で彼らの所まで一直線に突き進もうと修司が脚に力を入れた瞬間、修司の足元は爆発した。

 

まるで地雷を踏み抜いたかのような衝撃、この時代に地雷なんて兵器は存在しない筈だと驚きながら後退り、バランスを崩して膝と手が地に着いた修司に、今度は横から突然突発的な暴風が襲う。かと思えば落石が降り注ぎ、更には足元から炎が噴き出してくる。

 

「な、なんだなんだ!?」

 

そんな小規模な天変地異に見舞われた修司は慌てふためくが、それでも体勢を立て直そうとする。しかし二騎のサーヴァントはそんな事させないと追撃してくる。

 

 修司が次に目にしたのは幾つもの太極図が刻まれた炉心の様な小さな箱が黒いスーツの男の周囲を漂っていると、そこから幾つもの光が修司に向かって降り注いできた。

 

ビームである。幾つものビームが箱から放たれ、その中から掻い潜るように黒い馬と共に赤毛の少年が修司に向かって駆けてくる。

 

「そら、今度は此方の番だよ!」

 

瞬間、修司は幾つものビームに焼かれて馬の体当たりで撥ね飛ばされる。山吹色の胴着が破れ、紺色のインナーが顕になる。

 

(さて、これで多少のダメージが通ればいいのだが………)

 

 派手に吹き飛ばされる修司を注意深く観察する男、ロード・エルメロイⅡ世はこれで終わりでないことを理解しながら次の手を頭の中で構築させていた。

 

確かに此方の策はまんまと嵌める事ができた。魔力による地雷から怒涛の攻め、そこからの支援魔術による相方の強化。此方の出来る手札は可能な限り出し切ったつもりだが………。

 

(たかがあの程度の攻撃で()が参るとは思えん! 速やかに次の手に移らなければ……)

 

あの程度では決して修司という男は倒せない。そんな一種の確信をしながらⅡ世は相方に戻れと指示を出す。

………が、ふと違和感を感じた。ここまで攻撃されて何故彼は反撃しようとしないのか、確かに此方はそうはさせないと攻め続けた。だが、相手はあの(・・)白河修司だ。

 

彼のデタラメさは自分もよく知っている(・・・・・・・)。その強さもその行動力も、自分達の攻撃の合間に反撃するなんてわけはない筈なのに、まるで案山子のごとくされるがままになっている修司にエルメロイⅡ世は違和感を拭えずにいた。

 

 そして………。

 

「!?」

 

「え? え? なに、どういうこと!?」

 

突然、背後にあるブーディカとスパルタクスを封じていた石兵八陣が破壊された。下から突き上げるように現れた一個の光の玉が、閉ざしていた石兵八陣の太極図を貫いて爆発させていたのだ。

 

何が起きたのか一瞬焦るが理解できなかったエルメロイⅡ世だが、不自然に地面に空いている穴を見付けて瞬時に理解する。自分の宝具を破ったのは修司の気のエネルギーを使った仕業だという事を。

 

 あの時、奴が地雷で膝と手を地面に付けていた時、自身の気のエネルギーを使って地中から石兵八陣の真下まで動かしていたのだ。奴の動きが鈍かったのは操気弾でエネルギーを操作する為に精神力を使っていたからか、それとも意図を諭されないようにする為の演技か、恐らくは後者だ。

 

今に思えばあの時の奴の動きは些か作為的だった、罠に嵌めていたつもりが逆に嵌められていた。策士策に溺れる処ではない失態にエルメロイⅡ世は自身の不甲斐なさを悔やんだ。だが、悔やんでばかりはいられない、直ぐに体勢を建て直さなければ詰むのは此方の方だ。

 

「ごめーん修司君! 足引っ張っちゃって!」

 

「おお反逆者よ! 汝の愛、必ず報いて見せよう!」

 

 そうしている内に既に背後にはスパルタクスとブーディカが佇んでいる。形勢は逆転された。砂塵の中から立ち上がる修司を前にしていよいよ逃げ場は無くなった事に焦りを感じ始めたエルメロイⅡ世はこの状況からの脱出を模索する。

 

相方も強気に笑みを浮かべているが、その額には幾つもの汗が浮かんでいる。このままでは自分達は負ける。良くてもどちらかは必ず此処でリタイアする事になるだろう。

 

(どうする? 前門の理不尽に後門の狼二頭! どちらも離脱を許すことはないようだし、何より奴が逃がすとは思えない! 一か八か、もう一度宝具を使うか!?)

 

 追い詰められる思考の中、相方の少年───アレキサンダーは修司に戦意が無いことに気付いた。

 

というか此方を見ていない、彼の視線はずっと別の所に向けられている。なんだと思い彼の視線の先を目で追うと………その訳に納得した。

 

「スパさん、ブーディカさん、悪い。この二人にはあんた等で当たってくれ……どうやら、大物が来たみたいだ」

 

「え? 何を言って────!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────其処には(ローマ)がいた。

 

国を、人を、命を愛し、育み、死して英霊として召された後も子供達を見守り続けてきた偉大なる皇帝(ローマ)

 

男に共はいなかった。護衛の兵士を連れず、ただ一振りの巨大な槍だけを手に、しかしその歩みを誰も止めることは叶わない。

 

何故なら、男は皇帝(ローマ)にして神祖(ローマ)。彼の歩みをこの時代の人間が止められる筈がない、阻める訳がない。

 

男は漲る闘志を更に昂らせる。されどその昂りに一切の荒ぶりはなく、まるで大樹の様に聳えている。デカイ。見た目だけでなく、その器がまるで底知れない。

 

 間違いない。この男こそが連合の総大将なのだと修司は理解する。

 

「修司よ。遥か遠い世界から訪れし可能性の体現者よ。どうか、この私と一戦交えてはくれないか?」

 

まさかの敵の総大将からの誘いに流石の修司も面喰らう。剰りにも大胆不敵、されど何処までも本気な男に修司は拳を握り締め……。

 

「いいぜ、掛かってこいよ!」

 

 駆け出し、跳躍し、槍を鉄槌の如く振り下ろす大いなるローマの皇帝に、修司はやはり正面から迎え撃つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




Q.このエルメロイⅡ世、ボッチの事を知ってるの?
A.知っているというか覚えてます。理由はまた後程。

Q.このローマはグランドじゃないの?
A.グランドではありません。残念ながら(笑)

Q.これ、ガリアは大丈夫なの?
A.多分大丈夫です(笑)

それでは次回もまた見てボッチノシ




ボッチの友人or知人録その1

友人F:修司とは互いに認めた友人同士。魔術や現代の最新技術の開発の際にそれぞれ行き詰まった時はお互い相談したり助言しあったりと親しい関係を築き上げており、また修司の相棒であるグランゾンの存在を直接目の当たりにした魔術側で数少ない生き証人である。

尚、流石にネオの存在までは目にしていないが、グランゾンの存在を看破した際に修司の口から聞き及んでいる。

そして、修司も嘗てエルメロイⅡ世に助けられた事があるという共通点もある事から、彼については友人Fからあることないこと吹き込まれており、修司の中でもエルメロイⅡ世は魔術師の中で一目置かれる存在となっている。



エルメロイⅡ世:とある出来事が切っ掛けで修司と顔見知りとなった気の毒な人。友人Fからその人物像と人となりを聞き及んでいる為、修司からもルヴィアと並ぶ魔術面での相談役となっており、修司が時計塔を滅ぼさずに済んでいる唯一の理由である。

また、時計塔も彼が修司と対等に取引できる数少ない人物であるという事から、修司と衝突する可能性がある場合は一種の緩和材として重用される事になる。

尚、修司が時計塔を本格的に潰すと決めたときはエルメロイⅡ世とその関係者は事前にワームホールで逃がす算段となっている為、一応身の安全は保証されている。

誰かこの人を労ってあげてください。

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