『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今さらだけどブーディカさん、モーション改修&スキル強化、おめでとう。


その29 第二特異点

 

 

 修司が一足速く元凶の一人と相対している一方、立香達首都攻略組も状況はいよいよ佳境のモノとなっていた。立ち塞がる赤毛の少年ことアレキサンダーを退け、遂に今回の特異点の最大の障害であるローマの始祖ロムルスとの対面を果たした。

 

始祖は言った。我が子よ、我が腕に抱かれよと。ネロの抱える全てを赦し、愛して見せようと豪語する。その言葉に一切の偽りはなく、ネロも事前に修司から聞いていたとはいえ、始祖の大きすぎる器と愛の深さに一時は迷った。

 

だが、それでもネロは譲らなかった。この時代の皇帝は自分である、ならば退くわけには行かないと返した。

 

ネロは言った。確かに始祖の言葉に偽りはないのだろう。連合首都に住まう人々になんの不満もありはせず、ただ盲目にロムルスに従うその姿は確かに不幸ではないのだろう。

 

だが、人々に笑顔は無かった。如何にも優れた統治があり、どれ程幸福に満たされようと笑顔という華なき都に人の生きる術はないとネロは断言する。

 

ロムルスは剣先を向けて敵対を顕にする皇帝ネロと敵対した。しかし、それは偏に彼の愛深き故の選択だったからだ。目の前の美しき薔薇の皇帝は一人立ちする事を決めた。ならば始祖として、ローマの父として立ち塞がり子の成長を見届けるのが責務であろう。

 

斯くして、連合軍との最後の戦いは切って落とされた。紅き燃え滾る剣を奮うネロの剣戟をロムルスは国産みの槍を以て答える。力量差は歴然、何度も吹き飛ばされ、怪我にまみれようとも食い下がるネロに当然立香とマシュも参戦し、エリザベートと…………色々正体不明なキャットも加勢する。

 

戦いは熾烈を極めた。ローマの始祖とも呼べる神祖ロムルスの剛撃は凄まじく、複数のサーヴァントが相手でも全く怯みもせずに正面から打ち克っていく。

 

此がロムルス(ローマ)、これこそが始祖(ローマ)、連合の皇帝達を束ねる偉大なるローマ。器も、愛の深さも、その全てがネロを上回っている。

 

しかし、ネロは退かない。退くわけにはいかない。自分はローマ第五代皇帝であるネロ=クラウディウス、過去も現在も未来も今輝ける皇帝は自分なのだと、紅い紅蓮の少女は吼える。

 

 そして、振り抜かれた刃の一閃は確かにロムルスを切り裂いた。手応えはあった。ローマの始祖であるロムルス(ローマ)を切り裂いたことに些か以上の後悔を抱くネロだが……。

 

「………眩い、愛だ。ネロ。永遠なりし真紅と黄金の帝国。その全て、お前と後に続く者達へと託す。忘れるな。ローマは永遠だ。故に、世界は永遠でなくてはならない。心せよ」

 

そんな彼女の後悔すらもロムルス(ローマ)は愛した。

 

「あぁ、しかし残念だ。あの者の輝きを目に出来ないのは………」

 

 そんな僅かばかりの後悔を残して消えていくロムルスを見送り、立香達は連合軍との戦いを制したことを自覚する。

 

だが、特異点は依然として存在している。まだ核となっている聖杯を回収していない事を思い出した立香達は恐らくこの後に控えているであろうレフの所へ急ぐ。ネロもこんな事を仕出かしてくれた宮廷魔術師とやらにお礼参りする為、再び剣を握り締めて立香達の後を追う。

 

立香達が向かうのは玉座の部屋の更に奥、ロマニからの通信で大きな魔力反応を検知したとある事からそこにレフがいるのは間違いない。気を引き締めて挑もう、この後にどんな展開が待っていたとしても冷静に対処できるよう気持ちを整えた立香達が奥の部屋へ踏み入れようとした時。

 

 部屋へと続く扉が爆発し、中から一人の魔術師が吹き飛んできた。レフである。その顔に靴底の痕を刻まれたレフ=ライノールが地面と垂直に吹き飛んできて立香達の横を通りすぎ、そのまま壁に激突した。

 

咄嗟に肉体強化でも掛けていたのか、そのまま壁に突き刺さるレフに立香もマシュも何とも言えない表情を浮かべている。対してネロやエリザベートは初めて目の当たりにする人体による愉快なオブジェと化したレフを物凄い引き気味で見つめていた。

 

「お、立香ちゃん達も来ていたか。その様子だと無事に始祖ロムルスは倒せたみたいだな」

 

「あ~、うん。お陰さまで」

 

そして案の定、扉だった所から現れる修司に立香達はやっぱりと苦笑う。そして修司はネロの方に視線を向けるとやはり彼女は胸を張って偉そうにしていた。

 

そんな変わらずにふてぶてしい態度を崩さないチビッ皇帝に修司は笑みを浮かべていると、恐る恐るマシュは疑問の声を上げた。

 

「え、えっと修司さん? 貴方は確か外で陽動に徹していた筈では? それが何故此処に?」

 

「あぁ、丁度陽動(こっち)の方でも一通り片が着いたからね。サーヴァントも倒したし、残るは大したことのない連合の兵士達だけだからブーディカさん達に任せる事にして俺も此方に来ることにしたんだ」

 

「ち、因みに今飛んできたレフっぽい人は?」

 

「ん? そいつはレフ=ライノールで間違いないないぞ? 此処に侵入する際に偶々見かけたからさ、ついでに蹴り飛ばしておいた」

 

何て事ないように応える修司にマシュ達は少し引いた。幾ら敵対している相手とは言え言葉一つ交わさずに蹴り飛ばすのは人として如何なモノだろうか。尤も、魔術師は通常の人種とは異なるみたいなのである意味真っ当な対応とも呼べなくもないが………。

 

「ね、ねぇ子ジカ、コイツ絶対ヤバイわよ。出会い頭に人の顔を蹴り飛ばすとか普通の人間のやることじゃないわよ!」

 

「そうか? 私は思い切りがあって良いと思うが?」

 

「取り敢えずキャットはニンジンを所望したい」

 

立香達に歩み寄る修司を好き勝手言うエリザベート、荊軻は豪気な奴だと感心しているが正直立香本人としてはエリちゃんに同意したかった。なんか、キャットも修司を見てからは怯えた様子で彼女の後ろに隠れているし。

 

そして、修司は立香達の横を通りすぎて壁に突き刺さっているレフの足を掴むと、畑に根付いた雑草よりも簡単に引き抜き、無造作に投げ捨てた。

 

床にベチャリと倒れるレフから短い悲鳴のような声が聞こえてくる。見るからに痛そうな彼の姿とは裏腹に修司は冷たい声でレフに声を掛ける。

 

「おら、テメェが今回の特異点の元凶なのは分かってんだ。情報も吐くつもりがないのなら大人しく聖杯を此方に渡せ、でないと………次折れるのは鼻っ柱じゃ済まねぇぞ」

 

『こわっ!? 修司君、やっている事がまんまチンピラだよ!?』

 

後ろでロマニが揶揄してくるが、やり方としては悪くない。少々強引だがレフ=ライノールは人類の裏切り者、人理焼却を行った黒幕と直接繋がりのある危険人物だが、彼もまた一級の魔術師だ。そんな彼に先手を譲るのは愚の骨頂、反撃を許さない徹底した修司のやり方はある意味で魔術師に対する天敵とも言えた。

 

「この、この、カス共がっ! たかだかサーヴァントを倒した程度でいきがるな! 既に終わっている貴様等が悪足掻きしたところで無駄だと言うことを何故理解できん!?」

 

「そう言うテメェは何様だ。サーヴァントを使い魔としか認識出来ていないテメェは、この特異点で何が出来た? 上からモノを見るだけのお前が一体何が出来た? 足下が疎かだから掬われる。現に、お前が送り込んできた刺客とやらは俺達の誰一人崩せてはいないぞ?」

 

ボタボタと鼻血を垂れ流し、尚も憎まれ口を叩くレフを修司は冷たく両断する。レフは確かに歴代のローマ皇帝というサーヴァント達を召喚した。だが、果たして彼等はレフ=ライノールに従っていたのだろうか。

 

答えは否。確かに聖杯を所持しているレフの強制力は絶大だろう、多くの皇帝達はそんなレフに表面上は従い、そんな彼等をレフは操り人形にしていたつもりだったのかもしれない。

 

だが、彼等の心にはいつもローマという愛があった。権謀渦巻き、身内にすら毒牙に掛けてきた多くのローマの権力者達。そんな彼等が最期まで捨てなかった一つの矜持、即ち────(ローマ)である。

 

ローマの始祖であるロムルス、大いなる愛(ローマ)の具現である彼がいたからこそ、歴代の皇帝達はレフに従いながらもその心は自由であり続けられた。多くの敵対者に屠られても、暗殺し、惨殺されても、二度目の死を迎えても尚、彼等の(ローマ)が失われる事はなかった。

 

 結局、レフが縛り上げたのは表面上のモノだけ。滑稽な事に使い魔風情と見下していたレフこそが真の意味で一人舞台を演じていただけだった。

 

 

「ハッ! たかが二つの特異点を制しただけでスッカリその気か! だから貴様等人間は愚かだと言うのだバカめ!」

 

「………なんだ、もう自分の敗けを認めるのか。意外と素直なんだなお前」

 

何処までも上から目線なレフを修司は揚げ足を取る形で揶揄する。まだこの特異点を完全に修復したとは言えない、聖杯を回収するまで終われないというのに、レフの口からは既に自分達がこの特異点を制覇したモノだと認識している。

 

それはつまり今回においてレフは自分の敗北を認めた事に他ならない。修司の指摘に気付いたレフは見る見る内にその顔を赤くさせていく。

 

「うわぁ、修司さんって結構意地悪な事も出来るんだ」

 

『マシュ、立香ちゃん、ああ言う人間は色んな意味で孤立しちゃうから君達は決して真似しないようにね』

 

「は、はい。気を付けます!」

 

後ろでロマニがいらん事を吹き込んでいるが、今は無視しよう。

 

「兎も角だ。テメェは既に詰んでいる。大人しく聖杯を渡して王とやらの所に行って泣き付いてこい。私では彼等の相手になり得ませんでしたーって、惨めったらしくな」

 

鼻で笑い、そう吐き捨てる修司にレフからブチブチと太い何かが切れているのが聞こえてくる。余程腹に据えかねているのだろう、その目は血走っており、その顔は鬼気迫るモノだった。

 

「………良いだろう、ならば見せてやる。少しは腕が立つ程度でその気になっている貴様も、凡百のサーヴァントを従えているだけでマスター気取りのそこの小娘にも、我が王の寵愛がなん足るかをみせてやる!」

 

「ちょ、私なにもしてないのに敵視されてる!? 修司さーん! 人を巻き込むのはやーめーてーよー!」

 

「いや、悪いのはコイツの懐の狭さであって俺達ではないだろ。適当に聞き流せばいいんだよ」

 

そんなやり取りをしている内にレフの懐からあるものが取り出される。聖杯だ。光輝く黄金色の聖杯がレフの胸元に吸い寄せられるように消えていく。同時に膨らみ始めるレフの気配、ただ事でないと瞬時に悟った修司はレフを砦の外まで蹴り飛ばした。

 

骨は砕かれ、黒い血をブチ撒けるレフ。それでも彼の口許には笑みが浮かんでいた。

 

瞬間、レフは光に包まれた。爆発? いや違う。自爆による衝撃や爆風は来ていない。ならば奴は何をしたと目を開けた修司達が次に目にしたのは………。

 

 巨大な柱。先の特異点で見た邪竜や海魔よりも巨大な肉の柱が無数の目で修司達を見下ろしていた。その大きさはまるで山、圧倒的気配を見せつけるソレはこの世の何よりも醜悪だった。

 

「なんだあの怪物は! 醜い、この世のどんな怪物よりも醜いぞ、貴様!」

 

『はは! はははは! ソレハその通り! その醜さこそが貴様等を滅ぼすのだ!』

 

『この反応、この魔力! サーヴァントでもない、幻想種でもない! これは───伝説上の、本当の“悪魔”の反応か!?』

 

『改めて、自己紹介をしよう。私は、レフ=ライノール=フラウロス(・・・・・)! 七十二柱の魔神が一柱! 魔神フラウロス───これが、王の寵愛そのもの!』

 

 フラウロス。それは、ある一人の魔術師が契約し従えていたとされる地獄の大公爵。20の軍団を率いて強大な力を持つとされる悪魔がレフの真の姿だった。

 

その異様、そのおぞましさ、その邪悪さ、目にしたことのない立香達も分かる。目の前にいるのはその真偽は兎も角として伝説に残る悪魔に比類する存在なのだと。

 

「あぁ? 魔神? こんなのが?」

 

立香達が驚愕している中で修司だけは怪訝な顔付きでフラウロスと名乗る肉の柱を見上げている。確かにこの魔神柱とやらは強大かも知れない。強いし、場合によっては手こずるかもしれない。

 

だが、本当にこれが魔神と呼べるのか? 魔神とはその名の通り魔なる神の総称、断じてこの程度(・・・・)の相手につけるべき名前ではない筈だ。

 

それこそ、自身が嘗て夢見た三体の内の一機の"ZEROを背負った鉄の巨神"の方が魔神と呼ぶに相応しいと思える。

 

 ともあれ、目の前の肉の柱も脅威なのは違いない。大きいのはそれだけで武器になる。幾ら遠くに蹴り飛ばしてもコレでは周囲に展開する味方部隊にだって影響が及ぶだろう。

 

ここで此方の相棒を呼ぶか? 一瞬だけそんな事を考える修司だが、先にも述べた様に外ではまだローマ軍兵士が戦っている。ブーディカ辺りが撤退指揮を取ってくれているかもしれないが、それでも間に合うかなんて分からない。

 

周囲の状況が不確かな以上、相棒を呼ぶのは得策じゃない。ならばやはり先手必勝の一撃かと修司が両手を腰だめに構えた瞬間、立香は叫んだ。

 

「ドクター! 此方に呼び出せるサーヴァントはいる!? 可能なら()を呼びたいんだけど!」

 

「せ、先輩!?」

 

『か、彼? ………あ! そ、そうか! 彼の宝具なら確かに此方が有利に立ち回れるかも!』

 

『そう思って、既に彼を呼んでいるよ! 出来る万能者ダ・ヴィンチちゃんを宜しく!』

 

「お、おい立香、お主何を?」

 

 立香が叫び、ロマニが察し、既にダ・ヴィンチがその準備を完了している。しかし、それはさせぬと肉の柱───魔神柱が動き出す。

 

『無駄だ! 何をしようと貴様等下等生物に逃れる術はない! 消えろ!』

 

「お願い────来て!」

 

魔神柱の瞳が瞬いた。瞬間、光が弾け周囲が爆発した。砦を一撃で瓦解するほどの爆風、その中で佇むのは盾を持つマシュと───。

 

「やれやれ、まさかこんなギリギリのタイミングで喚ばれるとはな。次からはもう少し落ち着いた場所で喚んでくれるのを期待するよ」

 

 熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)。七つの花弁を携えてマシュと共に立香達を守護する紅い外套の男が悠然と立っていた。

 

「全く、色々言いたいことはあるが………先ずは、目の前の汚物を掃除する事から始めよう。魔力を回せ、決めにいくぞマスター!」

 

「うん! 令呪を以て貴方に託す! 皆を守って、アーチャー(エミヤ)!!」

 

立香がなけなしの魔力を絞り、令呪を起動させる。託すのは目の前の敵を屠る為の力ではない、此処にいない誰かの為に、自分達の戦いに巻き込まない為の傲慢で暖かく、優しい願い。

 

そんな彼女の浅はかな願いを………正義の味方(エミヤシロウ)が拒絶するわけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

I am the bone of my sword.(――― 体は剣で出来ている。)

 

Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は鉄で 心は硝子。)

 

I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗。)

 

Unknown to Death.(ただの一度も敗走はなく、)

 

Nor known to Life.(ただの一度も理解されない。)

 

Have withstood pain to create many weapons.(彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。)

 

Yet, those hands will never hold anything.(故に、生涯に意味はなく。)

 

So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS.(その体は、きっと剣で出来ていた。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────気付けば、ネロ達は荒野に立っていた。辺りにあるのは何処までも続く荒野と、突き立てられた数多の刀剣。上を見上げれば雲の掛かった空と調律を司る歯車。

 

固有結界。術者の心象風景を具現化し、現実を侵食する魔術の最奥。この世界は彼の生涯を()となったモノ。

 

《無限の剣製》。これが英霊エミヤに許された最初にして奥義の魔術である。

 

「やれやれ、よもや私の宝具が都合のいい決闘場となるとはね。一応、これでも魔術の奥義なのだが……」

 

「うん、ありがとうエミヤ! 今度肩叩きしてあげるね!」

 

「それ、絶対他の連中の前で言わないでくれよ? 唯でさえ私は食堂のオカンなどと不名誉な渾名で呼ばれているのだぞ」

 

「いや、実は満更でもないだろお前」

 

「たわけ、そもそもお前が不甲斐ないからこんな事になっているのだろ! 全く、カルデアでもそうだがお前は………」

 

「やべ、薮蛇だった」

 

固有結界という外界から隔絶された世界にいる所為か、今一つ緊張感に掛けるやり取りにマシュは戸惑い立香は苦笑う。

 

『いい加減にしろカス共! 貴様等の脳には蛆でも湧いているのか!?』

 

 そして当然目の前の悪魔がそれを許容する事はない。眼光を光らせ、修司達のいる場を爆発させるが、エミヤが立香を、修司がネロを抱き抱えて回避する。

 

荊軻もキャットも事前に読んでいたのか、難なく回避して着地する。やはり凄まじい威力だ。一つでも当たればサーヴァントでも無事では済まない火力を前にエミヤは笑みを浮かべている。

 

「さて、意気込みは充分な所で諸君にお知らせだ。急な召喚の弊害かマスターの令呪を以てしても私の固有結界は持ってあと10分、万全な援護射撃に至っては数分弱が限界だが……やれるかね?」

 

「充分、何だったら紅茶を淹れる時間も作ってやるよ」

 

「ほう? 大きく出たな。ならば決め手はお前に譲るとしよう。精々外すなよ」

 

「はっ、当たり前だ」

 

「では………行くぞ!」

 

瞬間、山吹色と紅い風が無限の荒野に吹き荒れる。まるで友人同士の様な気安さで戦場を掛ける二人にネロは目を丸くしながら二人の苛烈さを目の当たりにする。

 

「やれやれ、あの二人完全に私達の事を忘れてたぞ?」

 

「もう! アイドルの私を差し置いて目立つなんて許さないわよ!」

 

「それは不味い。キャットは寂しいと死んでしまうのだ。これは最早ニンジンだけでは収まらぬ。マスターには後で猫じゃらしも所望するワン」

 

「よし、此処にいるマトモなサーヴァントはどうやら私だけのようだな!」

 

 そう言って荊軻とキャットの二人も修司達に続いて魔神柱に肉薄する。強大な敵を相手に一切怯むことなく戦う彼等にネロは悔しさと歓喜に震えながら見つめる。

 

「全く、狡い奴等よ。コレでは余の見せ場がないではないか。だが………うむ! 良いぞ! ソナタ達の舞踊、まさに薔薇の如くだな!」

 

そんなローマ皇帝の応援を背にしながら修司達は魔神柱フラウロスに肉薄し、それぞれ攻撃を仕掛けた。荊軻はその短刀で、キャットは自身の爪で、エリザベートは自慢の槍で、それぞれ切り裂き貫いていく。

 

しかし、それでも魔神柱に対して決定打にはなり得ない。

 

『バカが! その程度の針に我が肉体に傷など付けられるモノか! 無意味! 無駄! 無価値! 所詮人間の力などこんなものだ!』

 

「バカ笑いも結構だが………そら、追加だぞ!」

 

頭上から降り注ぐ無数の刀剣、立香の令呪によりブーストされたエミヤの宝具は、固有結界の性能も底上げされている。肉の柱に突き刺さる一本一本の刀剣が爆発し、フラウロスの目を焼き潰していく。

 

『ヌガァッ!? おのれ、おのれおのれおのれおのれぇぇっ! たかが猿が、たかが猿人類がぁ! 図に乗るなぁッ!』

 

再び、魔神柱の眼が瞬き辺りが爆炎に包まれる。その巨体に見合った火力、しかしフラウロスは気付かない。自身が最も憎み、踏みにじりたいと願う奴の行方を。

 

サーヴァント達の目論みに気付いた時は…………既に、勝負は決していた。眼前の下に潜り込んでいた山吹色の男、その両手には膨大なエネルギーの塊が集約されている。

 

「そら、決め時だぞ! 白河修司!」

 

「かぁ……めぇ……はぁ……めぇ……」

 

『な、何だその光りは? く、来るな、近寄るな! その光を………私に向けるなぁ!』

 

それは、魔神柱にとって未知の光だった。そう、フラウロスは、レフ=ライノールは知らない。人間を取るに足らないと豪語していた彼は白河修司の力を知らない。

 

「波ァァァァァァッ!!」

 

放たれる蒼く白い極光が魔神柱を呑み込んでいく。フラウロスは必死の抵抗をするが、彼の瞳が瞬く事は最早ない。レフ=ライノール=フラウロスは、自身が見下して蔑んだ人類にものの数分で完敗するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付けば、立香達は砦の中にいた。天蓋は破壊され、砦の大部分が吹き飛んでいるが、それでもローマ軍の兵士達が無事な事からどうやら決着は付いたらしい。

 

前を見れば修司達がいる。恐らくはエミヤが宝具を解除したのだろう、彼等の少し離れた所には倒れているレフがいる。油断なく見据える彼等の邪魔にならないように近付く立香だが………ユラリと立ち上がるレフに凍り付く。

 

「おい、まだやる気かよ。いい加減ちょっとしつこいぞ」

 

「この男ではないが………確かにそちらの勝機は既にない。諦めて、大人しく敗北を認めた方が潔いと思うがね」

 

「ふ、はは、阿呆が。どうやら未だに理解が及んでいないらしいな。特異点を何とかした所で貴様等にはどうしようもないというのに………つくづく人間は愚かだな」

 

「何言ってんだ? テメェもその愚かな人間の一人だろうが。他所から貰った力でいい気になって、気が大きくなって他者を見下す。テメェが嫌う人間とビックリするほど一緒だろうが」

 

「黙れェッ! あぁ、もういい。もう言葉を交わすのも疲れた。貴様がどれ程強かろうが、何処でそれ程の力を手に入れたのかなんて………最早どうでもいい。白河修司、貴様はここで死ね」

 

 そして、再びレフは聖杯を手に空へ掲げる。やらせはしないとエミヤが聖杯を握るレフの手を切り落とし、修司がだめ押しに拳を顔面に叩き込もうと振り抜く。

 

だが、それでも一手遅かった。命を断つ気で放った拳は突如召喚されたサーヴァントによって防がれる。

 

そして、防がれた何かによって修司は吹き飛ばされた。ダメージはない、だがそれ以上に召喚されたサーヴァントに修司は驚いていた。

 

「………古代ローマそのものを生け贄として、私は、既に大英雄の召喚に成功している。喜ぶがいい、皇帝ネロ=クラウディウス。これこそ、真にローマの終焉に相応しい存在だ。さぁ人類(せかい)の底を抜いてやろう! 七つの定礎、その一つを完全に破壊してやろう!」

 

「───我らが王の、尊き御言葉のままに! 来たれ! 破壊の大英雄アルテラよ!!!」

 

 ────現れたのは、褐色の少女だった。華奢な腕に細身な体、触れれば吹き飛びそうな体躯の少女。だが、修司は何故か知らないがこの少女に言葉にできない違和感を感じていた。

 

強そうとか、弱そうとか、そう言ったモノではない。何かが違う。根拠はないが、目の前の少女は本来の姿ではない気がした。

 

そんな修司の反応に気分を良くしたレフが早口に捲し立てる。

 

「さぁ、殺せ。破壊せよ。焼却せよ。その力で以て。特異点もろともローマを焼き尽くせ! ははは! 終わったぞロマニ=アーキマン! 人理継続など夢のまた夢! このサーヴァントこそ究極の蹂躙者! アルテラは英雄ではあるがその力は───」

 

「───黙れ」

 

「───へ?」

 

 自慢気に語るレフの台詞はそれ以上続く事はなかった。他ならぬ自ら召喚されたアルテラによって、その体を真っ二つに両断されたのだ。

 

その光景に立香達は総毛立つ。なんの脈絡もなく、唐突にレフという自分達の敵を切り捨てたアルテラという英雄に、立香とマシュは目を見開いて硬直する。

 

「大王アルテラ、まさかここで出してくるとはな」

 

「なぁエミヤ、確かそれってフンヌの……」

 

「あぁ、どうやら戦いはここからが本番らしいな」

 

エミヤは干将・莫耶の夫婦剣を、修司は気を高めてそれぞれ構えをとる。明らかに普通ではない様子の敵サーヴァント、その圧は先の魔神柱すらも凌駕している。

 

荊軻もキャットもエリザベートも、誰もがアルテラを注視する中、アルテラと呼ばれる少女は聖杯を吸収し、謳い上げる。

 

「私は───フンヌの戦士である。そして、大王である。この西方世界を滅ぼす、破壊の大王」

 

次いで、彼女を中心に光が集まる。それは彼女の先制攻撃なのだと、修司は叫びマシュは宝具を展開させる。

 

「お前達は言う。私は、神の懲罰なのだと。───神の鞭、なのだと」

 

瞬間、虹色の極光が放たれ、ローマの空は貫かれた。

 

 

 

 




次回、破壊の光、最後の光。

それでは次回もまた見てボッチノシ







修司の知人or友人その4

シスターK。

前任のとある神父の後任として冬木にやって来た銀髪金目の修道女、その可憐で儚げな外見からは想像出来ないほどに毒舌でその毒舌に苛ついた修司が返しに放った「これなら前任者の方が遥かに良かった」一言によって彼女を凹ませ、その後罪滅ぼしという形で彼女との交流が出来てしまった。

修司をして最悪な性格と言われる人物だが、前任の神父に繋がりのある少女である為そこまで無下にはせず、彼女が悪魔祓いをする時は手を貸す程度の情はあり、少女は少女で規格外な強さを持つ修司をこれ幸いに利用する。実にいい性格をしている。

出自と経歴により身体機能にある障碍が残っているが、最近修司が見つけたとある粒子を浴びた影響により徐々に回復しつつあり、時たま泰山の麻婆店にて一緒になってる所を度々目撃されている。


「本当、衛宮士郎といい、ここにはお節介な人が多いのですね。ふふ、───porca miseria」




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