『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

264 / 417
個人的に第三特異点の一番の推しは雷光と女神の二人でした。


その35 第三特異点

 

 

 

「────いつも思うんだけどさ。生きてて恥ずかしくないのかな」

 

「もう、メアリー。ダメですよ、そういうことを言っては。ミミズだって、ゴキブリだって、ペスト菌を保有したドブネズミだって生きているのよ? このサーヴァントだって生きていていいのです。私は許します」

 

 修司達の滞在している島から少しばかり離れた海域、海上に陣取る一隻の船。その船員である二人の美女はその外見からは予想できない罵詈雑言の嵐が吐き出されるが如く紡がれる。

 

揶揄も冗談でもない本気の罵倒、殺意すら滲んでいるその言葉を受けて。

 

「うふぉぉうw コレはコレはキツキツのポイズントークでおじゃりますなwww ひっふひっふw アン氏はいつもソフトに締めてくるでござるwww」

 

鉤爪の男は笑う。生理的嫌悪感をこれでもかと刺激し、それを自覚しても尚辞める気のない言動。美女二人の罵倒をご褒美と断言して受け入れる処かもっともっととねだるその姿は、ある意味で魔神柱すら凌駕している。

 

「………やっぱり殺そうよ、アン。アイツ、この世にいちゃいけない奴だよ」

 

「だ・め・よ。遠くから見ている分には有害で不快で臭いだけで済むでしょう? さ、船長。そろそろ指示を出さないと、風船よりも軽い頭を抉り潰し吹き飛ばしますわよ?」

 

口調こそは上品だが、言っていることは海賊らしく物騒この上ない。しかも仮にも船長に対してこの態度である。しかし鉤爪の男は笑みを崩さない。

 

「おっとこいつはしたりw 失敬失敬。それでは真面目にやらせて頂きますですわwww」

 

「…………」

 

「アン、コメカミの血管が切れ掛けてるよ」

 

男の無意識な煽りにアンと呼ばれる女性の笑みが歪み、凍り付く。今にでも爆発しそうな怒気、そんな彼女を相方のメアリーが話しかけて宥めようとするが………正直、あまり効果は期待できない。

 

そんな彼女達の怒りを察した男は笑いながらもスイッチを切り替えた。人を無自覚に煽るバカから、歴史に名を刻んだ海賊へと。

 

「それでは、真面目モード………インッ、でござる! ふひょぉぉぉぉ! きたきたきたー! ………という訳で我が同胞よ。ペロマニア至宝の女神エウリュアレ氏をいただきに参りましょう! あ、あとついでにBBAのアレもね!」

 

男も言動こそは相変わらずふざけているが、その目は獰猛な獣の如く鋭くなっていた。どれだけふざけ、醜態を晒そうがやはり海賊。そんな彼の前に一振りの槍を担いだ男が現れる。

 

「先生! いざという時は頼みましたぞ!」

 

「頼ってくれるのは嬉しいけど、あんまり期待しないでくれよ? おじさん知っての通り負け犬だからさ」

 

「はっはっはご冗談を! トロイア戦争の大英雄である貴方様がいらっしゃれば百人力つまり百馬力! 朝の栄養バランスもバッチリ! グレイト! アーンドネグレイト!」

 

「………ねぇ、君たち。こんな船長で本当に大丈夫なの? ねぇ?」

 

「「…………」」

 

「あふん、凍るような視線が快感。そろそろ出てくるかな………フヒッヒィ!」

 

何処までもふざけた海賊───黒髭。愉快痛快と船を出す彼の背中を槍の男は静かに見定めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海賊のサーヴァント?」

 

 その後、興奮する大男を小柄な美少女が鎮める事でどうにか戦いを回避する事が出来た一行は事情を説明し、説得する事で地下迷宮に潜んでいた二騎のサーヴァントを仲間として引き入れる事に成功し、再び大海原へと出航する。

 

大男の方はアステリオス、迷宮の主として知られるミノタウロスであり多くの子供達を殺して喰らってきたとされる恐るべき怪物…………なのだが、体格こそ大きいものの、中身はまるで幼い子供のようだった。

 

拙い言葉で懸命に自分の意志を伝えようとするアステリオスに癒された立香、よく見ればモフモフしてそうでフォウとは違った意味で癒し枠だと認識した彼女はアステリオスとコミュニケーションを取っていた。

 

アステリオスも最初はグイグイくる立香に戸惑うが、自分を見ても全く動じない彼女に少なからず心を開いていた。ワイワイと戯れる二人、そんな彼等から目を離さない様にしながら、マシュと修司はもう一人のサーヴァントと話をしていた。

 

「えぇ、それも唯の海賊じゃないわ。最強の気持ち悪さと変態さを併せ持った最悪のサーヴァントよ。変態さと気持ち悪さの度合いで言えばさっきのこの男よりも上よ」

 

「き、気持ち悪い……ですか? 強いでも、怖いでもなく?」

 

「待ってマシュちゃん、俺が変態という所は否定してくれないの?」

 

 最近になって自分に対して色々冷たくなってきたマシュに修司は言葉に出来ない寂しさを感じていたが、最初の頃に比べてだいぶ人間味が出てきた気がする。以前ベリルが無感情なマシュが人間的に好みと言っていたが、修司としては今の感情豊かな彼女の方が人として魅力的に思えた。

 

そんな修司の心情を余所に仲間に引き入れたもう一人のサーヴァント、女神エウリュアレがアステリオスを呼び寄せ、その大きな肩に乗る。

 

「へぇ、本当に回復してるのね。そこの………修司、だったかしら? 貴方の使う技、結構便利ね」

 

「普通は此処まで劇的な効果じゃないんだけどな。多分、アステリオスがサーヴァントだから出来た芸当なんだと思う。普通の人間なら、此処までの効果は無かったと思うからな」

 

地下迷宮で遭遇した際にアステリオスが負っていた怪我も、修司が気力を分け与えた事で全快している。その事を確かめたエウリュアレは全快したアステリオスを見て何処か慈しみの籠った瞳で彼の頭を撫でた。

 

「そう、まぁどちらでもいいわ。取り敢えずここから離れましょう。アステリオスの結界も解かれたし、あんまり1ヶ所に長居していると奴に見付かっちゃうもの………アステリオス、どうしたの?」

 

「………うぅ」

 

「む、この気配は……」

 

 アステリオスが唸り始めるのと同時に修司もまた接近する敵の気配を感知した。水平線から見える海賊旗、それは奇しくも修司達がアステリオス達のいる島に遭遇した旗と同じもの。

 

「あぁ! あの船さね! アタシを散々追い回してくれた船は! 此処であったが100年目、水平線の彼方まで吹き飛ばしてやるよ!」

 

「あ、そ、そうです! 海賊旗ですよ先輩! 確かドクターに解析を回していた筈です!」

 

「そうだった! へいドクター! 詳しい情報を教えてプリーズ!」

 

『急に繋がったと思ったら今度は無茶ぶり!? えぇいならば答えて見せよう! 君達が見せたあの旗は伝説の海賊旗、しかも恐らくは───史上最高の知名度を誇る海賊のモノだ!』

 

「史上最高!? ま、まさか!?」

 

「そうよ、そのまさかよ!」

 

「「!!??」」

 

ロマニから告げられる史上最高の知名度を誇る海賊、それを聞いて思い当たる英雄は一人しかマシュは知らない。誰もが戦闘体勢に移るなか、その声は周囲の海域にまで響き渡る。

 

「拙者こそ黒髭として知られたエドワード=ティーチ! あ、一応言っておくけど、拙者Dの名前とか無いから、其処んところ気を付けてね♪」

 

ドデカイ自己紹介の声に立香もマシュも凍り付く。黒髭と言う海賊は知る人ぞ知る大海賊。確かに某おデブな海賊を想像しなかった訳ではないが、それでもアレな言動をする黒髭にマシュとドレイクは凍り付き、他の船員達も固まってしまっている。唯一なんとか反応して見せたのは修司と立香だけである。

 

「ず、随分と毛色の違う海賊だな」

 

「私、前に秋葉原で似たような人見掛けたことあるー。どうしよ修司さん、私今のアレを見てホームシックになりそ」

 

「それはなんというか…………御愁傷様」

 

修司はこれ迄見てきたどの海賊よりも奇怪な言動に困惑し、立香は初めてのホームシックの原因が海賊であることに酷くショックを受けていた。なんという精神攻撃、女神であるエウリュアレをして最強の気持ち悪さと言わしめるだけの事はある。

 

魔術もなしに精神攻撃を仕掛けてくる黒髭に一同は並々ならぬ警戒心を抱いているが、黒髭ことエドワードはそんな彼等を構うことなく捲し立てる。

 

「て言うか、拙者が欲しいのはお主らではござらーん! エウリュアレ氏を出せエウリュアレ氏を!」

 

「………おい、一応アンタを呼んでいるみたいだけど?」

 

「知らないわ。エウリュアレなんて美しくも可愛らしい超絶美少女はここにはいないわ。私は超絶驚愕美少女のステンノ、そう、私はステンノなのよ!」

 

「コイツ、自己暗示で自我を保とうとしてやがる!?」

 

 エドワードの狙いは明らかにエウリュアレにあるが、当のエウリュアレはそれを頑なに認めようとしない。恐らくは先の島にて隠れていた原因の八割以上があの男にあるのだろう。姉妹であるステンノの名前を出してまで無関係を貫こうとする彼女の必死さは修司から見ても哀れみを誘うほどだった。

 

「んっほおおおおおお! やっぱりいたじゃないですか、エウリュアレちゃん! あぁ、やっぱり可愛い! かわいい! kawaii! ペロペロしたい! されたい! 主に腋と鼠蹊部を! あ、踏まれるのもいいよ! 素足で! 素足で踏んで、ゴキブリを見るように蔑んでいただきたい! そう思いませんか皆さん! 同意のある方はご唱和ください!」

 

それは、願望と呼ぶにはあまりにも汚れていた。一切の妥協なく、一切の迷いなく、人目を憚る事なく己の欲望を口にするエドワード。それは確かに欲望で、英雄と呼ぶには何処までも俗世にまみれていた。

 

しかし、だからこそ彼の願望は人間味で溢れていた。上品下品を抜きにして、彼の欲望は何処までも真っ直ぐだった。尤も、素直だからといってそれを良しとするのは全く別の話なのだが………。

 

「うぅ………やだこれ」

 

 そんなティーチのアプローチをエウリュアレはガチで恐れ、拒絶する。蔑みや侮蔑侮辱の類いではない、心の底からの嫌悪。神霊とはいえ仮にも神の一柱に数えられる彼女を心底恐怖させるティーチは確かに伝説の海賊であった。

 

「………」

 

怯えて後退るエウリュアレをアステリオスが庇うように前に出る。その表情は幼いながらも戦う決意をした男の目をしていた。

 

「ああん? そこの! デカイの! 邪魔でおじゃるよ!? 出せー、出せよー、エウリュアレ氏を出せよー!」

 

「チッ、そう言いながら此方に近付いて来るか。船長! いい加減呆けている場合じゃないぞ! 指示を出せ!」

 

「………はっ! アタシとした事が呆然としちまった! 野郎共、大砲に弾を詰めな! 戦闘開始だぁ!」

 

「修司さん! 私は先輩を守らなくちゃいけませんので………どうか、気を付けて!」

 

「わたしも一応アーチャーだからね。援護くらいしてあげるわ」

 

「あぁ、ありがとうな。そっちも気を付けて!」

 

 言葉を使いながらジリジリと近付いてくる黒髭の船、既に向こうから牽制の砲弾が何発か放たれている。これ以上何かをされるより前に先手を取った方がこの戦いの優劣を決める。

 

マシュに立香の護衛を任せ、修司は迫る船に向けて跳躍する。相変わらず凄まじい脚力、それでも船に傷付ける事なく飛び出した修司の背中を立香は見守る。

 

そんな戦友の思いを背に、修司は黒髭ティーチの船へと接近する。この大きさなら外す事はない、両手を腰に持ってきて力を溜め、いざ放とうとした時。眼前の船から一人の男が飛び出してきた。

 

 

男の手にしていた得物は───槍。細くも鋭い殺意に満ちたその一振りは迷いなく修司の首もとに突き立てようとしている。かめはめ波の構えを解かざるを得なかった修司は男へと応戦する。

 

振り抜かれた槍を紙一重で避け、お返しとばかりに男へ蹴りを放つが………当たらない。身を翻し、その動きを利用して近付く男の体捌きは、歴戦の強者の経験を匂わせていた。

 

「おっと、今のを避けるか。流石に、若い奴は動きがいいね~」

 

「チッ、やっぱりサーヴァントか!」

 

 物腰の柔らかそうな笑みを浮かべているが、男の目は鋭かった。分かっていたがやはりこの男もサーヴァント、体を捻って蹴りを繰り出してくる男の一撃を修司は片腕で防ぐ。

 

そしてその勢いを利用して、修司は黒髭ティーチの船へと降り立った。しかし、修司への追撃は終わらない。彼が船の甲板へ立つ瞬間、カトラスの刃と狙撃の弾丸が修司を襲う。

 

「うわっ」

 

「ちょ、マジですか」

 

振るわれる刃を片手でいなし、小柄な少女の首根っこを掴んで避けた弾丸の先にいる狙撃手に向けて投げ渡す。初見必殺とも言える自分達の連携を破られたことに目を丸くさせる二人の女海賊、しかしそんな彼女達よりもドレイク以外の女海賊がいることに修司もまた驚いていた。

 

そして………。

 

「テメェ、誰の許可を得て俺の船に乗ってるんだ? ああ?」

 

 その男は先程のふざけた態度をしていた人物とはまるで別人だった。怒りと苛立ちに満ち溢れ、敵意と殺意に満ちたその手には一挺の銃が握られている。

 

エドワード=ティーチ。修司をも見下ろす体躯の男は何の躊躇もなくその引き金を引き絞った。修司の後頭部目掛けて放たれる弾丸はしかし当たることはなかった。予測と反応、予めこうなることを読んだ上での反応速度で死角からの見えない銃弾を避けた修司は返し刀で蹴りを放ち、ティーチの手にした銃を蹴りあげる。

 

これで奴もまた無防備、そう思った次の瞬間。修司の顔に衝撃が走った。拳である。銃を弾き飛ばされた事になんの動揺もなく黒髭ティーチはその巨漢から繰り出される拳で、修司を殴り飛ばしたのだ。

 

片足で、それでいて不安定な船の上。踏ん張りの利かない足場であることも合わさって吹き飛んだ修司は、それでも体を捻って体勢を整える。

 

 前を見据えれば四人のサーヴァント、周囲を見渡せば大多数の海賊達が自分を囲んでいる。おまけにドレイクの黄金の鹿号は未だに離れた所だ。

 

「へぇ、一人で私達に斬り込んで来るなんて度胸あるね」

 

「大した身体能力ね。でも、これは少々驕りが過ぎるんじゃない?」

 

「一騎掛けとは豪勢な兄ちゃんだが、それは流石に俺達を舐めすぎだろ」

 

端的に言えば絶対的不利な状況、それでも白河修司の顔には微塵も追い詰められた様子はなく、寧ろ不敵に笑みさえ浮かべている。

 

修司の見据える先にいるのは………黒髭、静かに殺意を研ぎ澄ませる伝説の海賊。その佇まいは荒くれ者の猛者というより一振りの刀剣の類いに見せた。

 

「伝説の海賊の拳、受けたのはいいが……ダメだね、全然軽い」

 

「そうかい、だったら次は鉛弾を腹一杯喰わせてやる。魚の餌にはならないが………まぁ、笑いの種にはなるだろうよ」

 

生半可な挑発では欠片ほどの動揺すら見せないその風貌は、正しく伝説の大海賊。高まる殺意、それでも直ぐに手を出さないのは、修司という人間の強さを警戒するが故の判断だった。

 

白河修司は強い。それは彼の頬を殴り飛ばしたティーチが一番理解している。生身の人間を殴ったというのにまるで鋼に触れたような感触だった。未だにしびれが残る手を隠し、代わりに鉛弾を詰めた拳銃を手に取る。

 

今度はその眉間に撃ち込んでやる。冷えきった思考で修司に拳銃を向けたとき。

 

「お前の鉛弾なんざ効くかよ。お前の拳や銃弾よりもエウリュアレの飛び蹴りの方がまだ効いたっつうの」

 

「野郎ぶっ殺してヤルァァ!」

 

 ティーチに殴られた所とは逆の位置を擦りながら、何気なく呟いた一言に黒髭ティーチの沸点は一瞬で飛び越えるのだった。

 

 

 

 




格好いい黒ひげ、書けてたらいいなぁ。





白河修司の友人or知人その6

遠坂凛。

修司が師父と慕う人物から教え学んだ八極拳、その姉弟子である。

修司に気力の習得する切欠となった教えを施した大戦犯で、一時はその事実に頭を悩んだ事があったが、バレなきゃ犯罪ではない精神で現在は開き直っている。

白河修司の姉弟子という事で何かにつけて修司のブレーキ役にさせようと時計塔が動いているらしいが、ぶっちゃけ修司が凛の言うとこに従うことはルヴィアや友人Fと比べてそんなにない。

ただ、修司は修司で想い人の実の姉であり、魔術師の中でも比較的マトモな性格である凛を嫌っている事はなく、困った時は率先して手を差し伸べたりしている。

しかし、何度かやらかした時はその都度臀部を叩かれ、壁にめり込んだりしているとかしないとか。

最近では近代化した家の家電に四苦八苦しており、この度に修司や士郎に助けを求めている模様。

「遠坂、お前そろそろ本当に家電に慣れた方がいいぞ?」

「う、うるさいわね! 分かってるわよ!」



それでは次回もまた見てボッチノシ



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。