『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回の特異点におけるヒロイン登場(笑)


その37 第三特異点

 

 成り行きで、その場の勢いで遭遇した大海賊黒髭とその配下達との戦いは、やはり勢いのまま修司達の勝利で幕を下ろした。人理修復の旅の中で初めて体験した苦戦、歴戦の海賊を相手に向こうの土俵で強引に勝利をもぎ取って見せた修司を労う………という建前の下、とある理由で一行は新たに見付けた島に立ち寄ることになった。

 

「いやぁ、強い強いとは思ってたけど、一人で海賊達を皆殺しにしちまうとは、修司の旦那は本当に豪気だねぇ。アンタが海賊じゃなくて心底安心したよ」

 

「いや言い方。俺が倒したのはアンとメアリーという女海賊だけだから、肝心な黒髭を倒したのはアステリオスだから、そこら辺マジで気を付けて」

 

「アステリオスもありがとね! お陰で助かったよ!」

 

「う、アイツ……エウリュアレ、を………虐めるから」

 

 黒髭を倒したのはアステリオスで、彼が黒髭を倒した事で奴の宝具である船も消えた。それをどう曲解したのやら、海賊黒髭をその船員ごと皆殺しにしたと吹聴するドレイクに修司は必死な形相で訂正を促していた。

 

その一方で立香とマシュは黒髭戦に於ける功労者であるアステリオスを良く頑張ったと褒めちぎっている。初めて人に褒められたアステリオスはどう反応すればいいか分からずにタジタジとしており、そんな彼の肩に乗るエウリュアレは笑みを浮かべたままアステリオスの頭を撫でた。

 

「本当、良くやってくれたわ。これで私も安心して夜眠れるってものよ。私からも改めてお礼を言っておくわね。ありがとう、アステリオス」

 

「……へ、へへ」

 

慈愛に満ちた笑みで頭を撫でられ、戸惑いながらも受け入れるアステリオス。あ、なんかこの二人良い。体格的に美女と野獣な二人、なのに精神的面で見れば幼い子供と大人のお姉さんの様なアステリオスとエウリュアレ。二人のやり取りを目の当たりにした立香はこの時、自分の中の新しい扉が開いた気がした。

 

『うん。先ずは黒髭とその配下の海賊達の撃破、素直におめでとうと言わせてもらうよ。これはつい先程分かった解析結果だが、黒髭の宝具は強い乗組員がいればいるほどその強さを高めていくタイプだったみたいだ。つまり、あの時の修司君が行った行動は一見無茶苦茶に見えて実はかなり有効な手段だったみたいだ』

 

 黒髭ことエドワード=ティーチの宝具、その特徴は自身の船と嘗ての船員達を呼び出す一種の召喚系の宝具で、その真骨頂は強い乗組員………つまり、サーヴァントを乗せればその数だけ船の性能を底上げさせるという今回の特異点に於いて破格な性能を誇る宝具だった。

 

だからドレイクの船の砲弾も全く利いていなかったし、船の速さも凄まじかった訳だ。向こうがサーヴァントであることに対して此方はデミ・サーヴァントであるマシュやアステリオス、エウリュアレの三人。

 

もし更なる戦力を整えて襲撃したら、恐らく此方の受けた被害は甚大なモノになっていただろう。そうなる前に決着を付けられた事はロマニから見ても最上の結果とも言えた。

 

だが、喜んでばかりもいられない。黒髭という大きな障害を片付けられたのはいいが、問題はまだ残されている。修司が珍しく取り逃してしまったというギリシャの英雄ヘクトール、トロイア戦争にて活躍した政略武力に富んだ彼を逃がしてしまったのは大きいし、何より逃げる際の彼の手には聖杯が握られていた。

 

『ギリシャの英雄ヘクトール。彼も彼で海賊黒髭並みに厄介な相手だ。それに……』

 

「修司さんが感じた殺気、一体相手は何者なのでしょう?」

 

『うーん、此方としては何も探知してないからなぁ。そもそも殺気というのは向けるものであっても飛ばすモノじゃないし、仮にそうだとしても修司君に殺気を飛ばしてきた相手は此方の感知範囲を余裕で抜けてきたって事になるからなぁ……』 

 

医療担当であり、カルデアの技術とスタッフを統括している立場であるドクターとしては修司が感じた殺気とやらは気の所為、もしくは冷たい海に入った事で背筋がブルッたものだと勘違いしたものだと思いたい。

 

けれど、修司は間違いないと確信する。ヘクトールを倒そうとした際に感じた殺気は明確で、感じた殺意はいっそ物理的ですらあった。

 

有り得ない。考えたくない。しかし、曲がりなりにもカルデアの代理統括者であるロマニは、限られた情報の中である一つの仮説に辿り着く事になる。

 

遥か水平線の向こうからでも届かせる殺気、見渡す限りの大海原と海賊、エウリュアレとアステリオスというギリシャ出身地のサーヴァント。

 

仮に、仮にこれ等全ての条件に当てはまるサーヴァントの集団がいるとするならば……恐らくは一つ。海賊とは即ち海を往くものの総称であり、嘗てのギリシャにも海賊の原形とされる最古にして最強の海の戦闘集団が存在していた。

 

名をアルゴノート。アルゴー号という一隻の船、船長イアソンを筆頭に形成される英雄達を乗せた船。そこには知る人ぞ知る彼の大英雄の姿もあった。

 

もし、ロマニの憶測が正しければ今後の戦いはこれ迄とは比較にならない程に状況的に追い詰められるかもしれない。

 

 明らかに飛躍した発想。しかし、気の所為と吐き捨てる事も出来ない。沸き上がる不安の中でロマニが提案したのは、可及的速やかなドレイクの船である黄金の鹿号の改修である。

 

ワイバーンは本来の竜種よりも位の低い亜竜種と呼ばれる生命体だが、それでもドラゴンの枠組みの中に入る種族だ。鱗で作られた鎧は頑強となる事から防具や武器の素材に使われる、ただ今回宛がうのはドレイクの船である為に求められる数は多くなる。

 

レッツ周回。一先ず立ち寄った島にワイバーンをひたすら狩ることにしたのだが………これが意外と集まらない。30という数のワイバーンを仕留めたのはいいが、それでも黄金の鹿号全体を覆うにはまだまだ素材が足りていない。

 

皆で話し合った結果、ワイバーンの巣穴を探すことになった。最初にワイバーンを狩り続けた事でこの島の何処かに巣穴が在ることは分かっている、後はその場所を探す事になるのだが………これが意外と見付からない。

 

どうでも良い時は頻繁に襲ってきた癖に此方が必要になったと思えば姿を眩ませる。これが物欲センサーかと嘆く一行が当てもなく森をさ迷っていると………ワイバーンの群れを見付けた。

 

数は五匹、修司達に気付かず何かを貪っている様に見えるワイバーンを修司が死角から手刀を一閃。頸を跳ねられ、盛大に血を噴き出しながら倒れるワイバーンを余所に修司は連中が貪っていたとモノと思われる物体を手に取った。

 

「なんだこりゃ? ぬいぐるみ?」

 

「ぺ、ぺ、ったく。ワイバーンに集られたかと思ったら今度は血の雨かよ。おい兄ちゃんよ、勢いがあるのは結構だが、ハンティングをするならもう少し丁寧にやりな。そんなんじゃ、女の子一人口説けやしないぞ?」

 

「………あ?」

 

 手にしたそれはクマのぬいぐるみだった。なんとも場違いなソレ、しかも喋った。喋るぬいぐるみなんてそれこそフィクションな存在で小さな女の子ならば誰しもが一度は夢見たシチュエーションだ。

 

なのに口を開けば上から目線の良くわからないマウントを取ってきた。声もなんだかクー・フーリンと似ているし、何となく苛ついた修司は目の前の喋るぬいぐるみを触れる手に力が籠った。

 

「ちょ、痛い痛い!? こら! 図星だからって暴力に訴えるのは良くないと思います!」

 

「………へいドクター、この珍妙で摩訶不思議な生き物はなんじゃらほい」

 

『人を便利なアプリみたいに呼ばないでくれる? ………えっと、修司君が持っているそのぬいぐるみ、微弱ながら魔力反応が此方で検出されているよ。多分誰かの使い魔だと思う』

 

「成る程、つまりお前、どっかの誰かと一緒にいたみたいだな。そしてソイツは十中八九サーヴァントと見た」

 

「違うよ。ボク森のクマさんだよ? 悪いクマじゃないよ?」

 

 自身が誰かの使い魔だと知られ、露骨に命乞いを始めたぬいぐるみ。目をウルウルさせて端から見れば可愛らしいぬいぐるみに見えなくもないが、悲しいかな最初に口を開いた時の第一声の所為で彼の印象は確定しまっている。

 

さて、この珍妙な生き物をどうするべきか。ワイバーンの巣穴も探さなきゃいけないし、あまり悠長もしていられないと修司が頭を悩ませていると………。

 

「修司さーん、何か見付けたの?」

 

「ダーリン、もう! 何処に行っちゃったのぉ!?」

 

 両側から現れた二人、片方は自分と同じ最後のマスターとして人理修復に勤しむ戦友藤丸立香。そしてもう片方は………所謂絶世の美女と呼ばれる銀髪の女性。

 

明らかに気配が並みのサーヴァントを凌駕している。恐らくは何処ぞの女神、言動が明らかにスイーツ系の女だが、彼女が修司の手にしたぬいぐるみを見て目を輝かせていた。

 

「いたー! もう、ダメじゃないダーリン! こんな所で寄り道しちゃ」

 

「いや、寄り道というかお前が俺をぶん投げた所為でしょうが! お陰でワイバーンに弄ばれるわ怖い兄ちゃんに握り潰されそうになるわで偉い目にあったんだぞ!」

 

「………本当に握り潰してやろうか?」

 

「それよりもそこの貴方、ダーリンを見付けてくれてありがとー! お礼に私の加護でもあげましょうか?」

 

「いえ、結構です。………ていうかアンタ、その様子だと名のある女神と見たが、名前を聞いても?」

 

「名前を聞きたいなら先ずは自分から………と、言いたいところだけど、ダーリンを見付けてくれたお返しに教えてあげる。私こそが月の女神、アルテミスでぇす!」

 

「どうも、俺オリオン。コンゴトモヨロシク」

 

 突然現れたギリシャ神話の神の一柱と伝説の狩人、嘗ての神話で知られたカップルは美女と野獣というよりアーパー女とナンパ野郎だった。

 

 その後、 女神アルテミスと狩人オリオン。ギリシャ神話でも知られる伝説の二人が仲間に加わってくれる事になった。人理焼却とそれによる特異点修復、カルデア側の事情を汲み取る形で合流する事になった二人は一行が探していたワイバーンの巣穴に案内される事になったのだが………。

 

「………いやぁ、俺も長い間狩りをしてきたけどさ、狩られる側を同情するのって初めての経験だわ」

 

オリオンが今目の前にしている光景はお世辞にも狩りとは呼べなかった。狩りとは狩人がその技術と知識を駆使して獲物を効率良く射止めることにある。自分も大概脳筋だが、それでも目の前で繰り広げられるモノよりかは幾分かマシだと自負している。

 

「よし、そんじゃあマシュちゃん次いくよー」

 

「はい! バッチこいです!」

 

逃げるワイバーンの尻尾を修司が掴み、マシュへ向けて放り投げて彼女が持ち前の硬い盾を以てワイバーンの頭蓋を打ち砕いていく。掴み、投げ、粉砕の繰りす修司とマシュの組。

 

「立香、そっちに一匹行ったよ」

 

「はーい! ガンド! よし、アステリオス、お願いね」

 

「う、ん……!」

 

一方でドレイクがワイバーン達を逃げないよう銃で牽制し、マスターである立香がガンドで身動きを完全に封じ、その間にアステリオスが頸を刎ねるという此方も中々エグいことになっている。

 

狩りも命のやり取り、互いに命を掛けた戦いだがこの光景はあまりにも酷かった。何処までも機械的に処理をする彼等にオリオンは勿論アルテミスも心なしか表情がひきつっている様にも見えた。

 

「ん? なんかデカイ奴がきたな」

 

「恐らくはこのワイバーン達を従えていた親玉でしょう」

 

「成る程、ならあれを狩ったら目的の数の確保は達成出来そうだな。気円斬!」

 

 そして、巣の異常に気付いた主のドラゴンが怒り心頭といった様子で空から飛来してくるが、修司が気円斬を投擲。巣穴の主のドラゴンは一矢報いる事も許さないまま両断されるのだった。

 

「いやー、これが狩りか。皆でこうして狩りをするのって結構楽しいもんだな」

 

「………違う」

 

「ん? どうしたオリオン?」

 

「これ、俺の知ってる狩りじゃない……」

 

嘗て伝説の狩人として知られるオリオン、今はアルテミスが現界した影響でぬいぐるみになってしまっているが………その声は何故か涙声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、取り敢えずこんなものかな」

 

「アルテミスさんもありがとうございます。お陰さまでワイバーン狩りが上手くいきました」

 

「う、うーん。あれを狩りと呼ぶにはちょっと抵抗あるけど……まぁ、役に立てたのなら良かったわ。うん」

 

 倒したワイバーンとドラゴンは既にドレイクの部下達が運んでいる。砂浜で解体し、鱗を剥ぎ取る為だ。マシュから巣穴の場所を教えてくれたアルテミスとオリオンに改めて礼を口にするのだが、対するアルテミスの表情は未だにひきつっている。

 

「しっかし、これだけのワイバーンの鱗、船を強くする為に必要なのは分かるが、一体何を相手に想定してるんだ? まぁ、サーヴァントが相手っていうんだから用心するのに越したことはねぇが……」

 

『そうだね。僕としてはこの保険が無駄になることを願うばかりだけど………そこの修司君が言うには相当ヤバい奴がいるみたいだからね。失敗が許されない此方としては保険は幾つあっても足りないのさ』

 

「あぁ、あの兄ちゃんか。いやぁ、まさか現代に彼処まで腕の立つ人間がいるとはなぁ。ギリシャにいても普通に違和感ないぞ」

 

ワイバーンとの戦いもそうだが、オリオンから見ても白河修司という男の強さは異常だった。唯の人間が何の加護も無しに竜種を圧倒するなんて普通なら有り得ない。胆力、腕力、脚力、その全てが嘗て自身が呼ばれた超人の域に達している。

 

そもそも、何で人間が手からビームが出せるのだろうか。本人曰く魔術ではないらしく、特に術式とかそう言うのは使っていないらしい。若く、強く、そしてそこそこ顔立ちも整っている。もし彼がギリシャにいたら当時の人間や神々は放っておかなかった事だろう。

 

それこそ、修司がトロイア戦争に参加していたらもしかしたら全く別の歴史が始まっていたのではないかと思える程に………白河修司という男の強さは逸脱していた。

 

「止めてくれよオリオンさん、ギリシャってアレだろ? ゼウスとか言う超絶DQN下半神を筆頭にアレな神々が跋扈するヒャッハーな世紀末も真っ青な所なんだろ? そんな所に生まれたら俺上手く生きていける自信はないわ」

 

「せ、先輩、DQNとは一体なんの事でしょう?」

 

「マシュが一生知る必要のない単語だよ」

 

「しかもギリシャってアレだろ? 基本的にマッチポンプと告げ口を得意としてるんだろ? アポロンとかあんた等にとって最たる例じゃん」

 

「あぁうん。その辺りは否定できないわ。て言うか大体その通りだから何も言えねぇわ」

 

『………前々から思ってたけど、修司君ってかなりの神嫌いだよね? なに、昔神様から呪いを受けたりしたの?』

 

 白河修司にとって神は未だに無意識レベルで嫌悪してしまう対象だ。人の人生を無遠慮に踏みにじっては素知らぬ顔で責任転嫁するその所業は現代日本人の倫理を持つ修司としてはとても許容出来ないモノだ。

 

そんなギリシャの神々を人間臭くて親しみが持てると言う者もいるが、道理を通さずに力を奮うギリシャの神々は修司にとって質の悪いチンピラに等しい。そういう意味では海の理を重んじるドレイク達海賊の方がまだ理性ある人間といえるだろう。

 

「えー? でも修司って普通に私ともお話出来るじゃない。エウリュアレにだって普通に接しているし……」

 

「そりゃ、アンタがオリオンの代理として現界しているだからだろうよ。エウリュアレは………うん、嫌悪する前に同情しちゃってるから」

 

「あぁうん、アレに付け狙われてたらって思うと………そりゃ気の毒に思っちゃうよね」

 

「え? なに? 黒ひげってそんなヤバい奴だったの?」

 

現在アルテミスはオリオンの代理として現界しており、その所為か修司が抱く嫌悪感は然程ではない。エウリュアレに至っては黒ひげとの件もあり、嫌悪感以上に同情を抱いてしまっている。

 

しかし、ローマでの時もそうだが本当にどうして神というものを此処まで嫌悪してしまうのだろう。神………正確には神霊と呼ぶ彼女達に対してこれなのだ。いつか本物の神と相対したとき、問答無用で手を出してしまうのではないか。カルデアへ帰還したら本格的に精神修行も考慮すべきだろうか。

 

そんな事を考えながら浜辺へ戻ってきた一行。しかしその直後、予想だに出来なかった事態が待っていた。

 

「あれ、なんだろう? ドレイクの船の隣にもう一隻船がある」

 

「っ、全員戦闘準備……!」

 

 林を抜けた立香が黄金の鹿号の隣に座している大きな船を見て一言呟いた瞬間、ドレイクの怒号が周囲に響き渡る。此処は特異点として歪められた不安定な世界、相対してきた海賊は問答無用に襲い掛かってきて、倒せば霧のように消えていった。

 

何れも遭遇すれば襲い掛かる獣達。故に待ち伏せをされていた事、それ事態に違和感を覚えた彼女が全員に戦う準備を指示するが……。

 

「悪いね。一手こちらの方が早かったな」

 

「ヘクトール!」

 

 カルデア側の索敵、そして修司の感知能力すらも掻い潜って接近してきたのはトロイア戦争の英雄、槍を片手にエウリュアレの背後から現れたヘクトールが彼女を脇にかかえて奪取した。

 

「っ! エウリュアレ!!」

 

当然、アステリオスがエウリュアレを取り戻そうとヘクトールを追う。最初に修司が気付いたお陰でアステリオスも反応することが出来た。まだ彼の届く範囲にエウリュアレがいる。手放してはならないとアステリオスが手を伸ばそうとして───。

 

瞬間、アステリオスの巨体が吹っ飛んだ。3mはあった彼の体がまるで木の葉のように吹き飛んだ様に誰もが息を呑む。

 

アステリオスを吹き飛ばした者、それもまた巨体だった。色黒の肌、巌の如き肉体。身震いするほどの殺意と息が止まるほどの圧力、誰もが思った。コイツには正面から挑んでは勝てないと。そう、ただ一人を除いて………。

 

「やっぱり、アンタだったか」

 

誰もが唖然としているなか、修司だけは目の前の巨人を静かに見据えている。

 

そして、対する巨人も白河修司という一人の人間だけをジッと見下ろしていた。

 

一触即発。誰もが次に起こる戦いを予見していた時。

 

「やれやれ、相変わらず俺の友はやることが派手だな。ただ軽く小突いただけなのにもう向こうは戦意を失っている。では、そろそろ私も自己紹介をしておくとしよう。ごきげんよう海賊の諸君、私はイアソン。このアルゴー号の船長でアルゴノーツを率いるモノ」

 

「さて、此処までお膳立てすれば知能の低い君達でも解るだろう。諸君の生殺与奪の権利は私が握っている。そこにいる我が友、ヘラクレスにけしかけられたくなければ、大人しく聖杯を渡して降伏するといい」

 

 ドレイクの船に隣接していた船から一人の男が優雅に振る舞いながら姿を表した。自らをイアソンとなのり、金色の髪を掻き上げながらドレイク達に降伏を命令する。

 

決まった。内心で自分の振る舞いに満点を付けるイアソン、これで誰もが自分に平伏するだろう。

 

しかし、幾ら待ってもその時は来なかった。あれ? もしかして自分無視されてる?

 

「船長、連中全然聞いている様子ないですぜ?」

 

女神エウリュアレを抱えながら乗船口してくるヘクトールが無慈悲な事実を突き付けてきた。まさにランサー、その鋭さは敵だけではなく味方にまで向けられるというのか!

 

「………ふ、ふふ。まぁヘラクレスが出てきたんだ。怯えて声がでないのも仕方ない。私は寛容な男だ。怯えている者に鞭打つつもりはないさ」

 

だからもう一度降伏勧告をしてあげよう。なんて優しい人間だろうか。そんな呆れるほどの自尊心を抱きながらイアソンが再び声を上げてドレイク達に呼び掛けようとしたとき。

 

「───よぉ、久し振りだな」

 

ふと、通りのよい声が耳に入ってきた。一瞬自分に言われたのかと思い戸惑うイアソンだが、どうやら声の主はイアソンに言ったわけではないらしい。

 

 声の主、即ち白河修司は自身の前に立つ大英雄に呼び掛ける。相手は理性なき狂戦士。自分の事なんて覚えている訳がないし、言葉なんて通じる筈がない。

 

しかし、それでも修司は言わなければならなかった。何せ今目の前にいるのは修司がいつかリベンジをしたいと望んでいた相手だから。

 

「俺のこと、覚えているか? ───ヘラクレス!」

 

瞬間、修司が気の炎を纏い噴出される。ドンッと空気が爆ぜる音ともに暴風が吹き荒れ、その唐突な力の昂りにイアソン達を含めた全員が目を剥いた。

 

自分はあれから強くなったぞ。そう言わんばかりの挑発行動、あの時とは明らかに違う。そんな修司を前にして………ヘラクレスは一瞬だけ獰猛な笑みを浮かべ。

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ッ!!」

 

「オラァッ!!」

 

 互いに同時に振り抜かれた拳は激突した瞬間的───浜辺に轟音と爆発が覆い尽くした。

 

 

 

 

 

 




今回のヘラクレス。

1.召喚された当初から記憶持ち。

2.修司が特異点にいることを確信し、思いを募らせる。

3.修司があの時からたゆまぬ研鑽を経て強くなったと確信し狂戦士なのに笑みを浮かべる。

以上の点から今回の特異点のヒロインはヘラクレスである。QED証明終了。

それでは次回もまた見てボッチノシ




Q.ここのカルデアってどうやって特異点に召喚されるの?

A.修司が改良に手を出し、施設のあちこちに管制室のモニター映像を引っ張って来れるため、それを見ながら誰が行くべきかサーヴァント達が話し合ってる模様。

Q.つまり?

A.ボッチの特異点でのやらかしをリアルタイムでお届けします(笑)

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