『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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ダービーで優勝したライスシャワーを肩車してやりたい人生だった。


その39 第三特異点

 

 

 

「矢文?」

 

 船を改修しようと立ち寄ったとある島で、イアソン達アルゴノーツから逃げ延びた立香達は現在別の島へと辿り着いき、そこで採集したワイバーンの鱗を使ってドレイクの黄金の鹿号へ取り付けながらこれ迄の経緯を整理している最中、島の奥から一本の矢文が放たれた。

 

オリオンの眉間を撃ち抜いた矢文、それをアルテミスが引き抜いて文の内容を読むと嬉しそうに笑みを浮かべる。船を改修後、矢文が放たれた所を探索すると、そこに男女一組のサーヴァントが待ち構えていた。

 

アタランテとダビデ、ギリシャ神話に於ける美しき狩人とイスラエルの王。共に弓兵(アーチャー)として現界した二人が立香達の前に現れる。

 

「汝らがアルゴノーツに敵対する者か?」

 

「は、はい。いきなりの事でしたので未だ状況は把握しきれていませんが、恐らくはそうなるかと思われます」

 

「まぁ、私達が混乱しているのって大体修司さんの所為でもあるけどね」

 

「むむ? そう言えばその修司とやらは一体何処へ? 姿が見えないとなると……まさかやられちゃったとか?」

 

「そ、それは………」

 

 この場にいない修司の安否にマシュの顔に陰が落ちる。彼が黒い巨人───ヘラクレスを吹き飛ばした所までは憶えていたが、それ以降は必死にその場から逃げることだけを集中していた為、修司とエウリュアレがどうなったのかは定かではない。

 

アステリオスも打ち所が悪かったのか未だに船の上で伸びたままだ。もし彼が目を覚ましたら、エウリュアレがいない事に驚いて彼女を取り戻そうと暴れまわるだろう。

 

そうなる前に何とか修司と連絡を取って安否を確認したい、そうマシュが悩んでいると………。

 

「おっ、やっぱり皆ここにいたのか。全員無事みたいで安心したよ」

 

「し、修司さん!? ご無事だったんですか!?」

 

「ん? あぁ、ヘラクレスを一度倒して再生しているその間にね。あとアステリオスが未だノビているみたいだし、介抱と周辺への警戒を兼ねてエウリュアレを置いてきたよ」

 

「まてまてまてまて、情報量が多すぎる! え? ヘラクレスを倒してきたの? 兄ちゃん一人で? そしてエウリュアレは普通に取り戻してきたの? あのヘクトールから?」

 

「あぁ、あの槍のおっさんやっぱ相当な手練れだわ。得物を壊そうとしても避けられちまうし、エウリュアレも抱えていたから逃げの一手だったわ」

 

 さらりと宣う修司にマシュとオリオンは頭を抱えた。ヘクトールは守りに秀でた英雄、トロイア戦争で活躍した彼から特定のモノを奪い返すなんて事は誰にでも出来る事じゃない。

 

何より、白河修司は口にした。ヘラクレスを一回倒したと、不撓不屈で知られるギリシャ代表格の大英雄が目の前の人間に一度倒されたという事実にオリオンを初めとしたギリシャ勢に少なくない衝撃を与えた。

 

「嘘を………言っている様子ではないな」

 

「はぁー、最近の人間って凄いんだねぇ」

 

「いえ、この人を基準にされたら困るので止めてくださいね。普通の人間にそんな真似出来ませんから」

 

「なんか、立香ちゃんも段々俺に対して容赦が失くなったね」

 

その後、一行は出てきた情報の数を整理すべく、ドレイクの船へと戻る。そこでは目を覚ましたアステリオスが目の前の介抱してくれたエウリュアレに感謝しつつ彼女を肩車していた場面に遭遇し、その後は穏やかな空気に包まれながらアタランテとダビデからの自身のこれ迄の経緯と彼等の知る限りの情報を交えながら話は進んでいった。

 

契約の箱(アーク)ねぇ、つまりあのイアソン一行はそのアークを使う為にエウリュアレを拐おうとしたと。しかし分からんね、何故世界を滅ぼすって箱をあの男は開けようとするのかな」

 

「それほどまでに世界を滅ぼしたいのでしょうか」

 

「さてな。………案外、知らされていないだけやもしれんぞ。誰かに唆されて言われるがまま行動しているだけ、とかな」

 

 そんな話の中、契約の箱と呼ばれる聖遺物という単語が出てきた辺りでイアソンの目論見の矛盾点が露になる。契約の箱(アーク)とはダビデがこの特異点で最初に召喚された時に付属として現界した聖遺物。神が人類に与えた契約書でもあり、比喩抜きで死をもたらす災いの箱。

 

そこにエウリュアレという神性が生け贄として捧げられれば、その瞬間不安定な特異点であるこの世界は死に絶え、世界は終焉を迎える事になるだろう。

 

しかし、話を聞く限りイアソンは王になる野望はあっても世界を終わらせる程の破滅願望の持ち主でないと嘗てのアルゴノーツの船員であったアタランテは言う。王になることを望みながら世界を滅ぼすという矛盾、そこに一行はイアソンではない誰かの思惑が絡んでいるのではないかと推測している。

 

「成る程、つまりエウリュアレをイアソンに渡しちゃダメだって事だね! 理解したよ! アステリオス、絶対にエウリュアレを守ろうね!」

 

「う、うん。オレ、エウリュアレ、守る」

 

「兎も角、やらなきゃいけない事がハッキリしたのはいいが、問題はヘラクレスだ。奴さんが向こうにいる以上事は簡単には行かないぞ」

 

幸いな事にアークもエウリュアレも今は此方の手の内にある。が、それ以上に厄介なのはヘラクレスの存在だ。ギリシャ最強の大英雄に相応しい力を持つ彼に正面から戦えるサーヴァントはこの場にはおらず、どちらかと言えば後方支援に特化したアーチャークラスのサーヴァントが多い。

 

アステリオスもパワーだけなら負けていないかもしれないが、ヘラクレスは力だけでなく技のキレも凄まじい。正面からで戦うにはアステリオスでは些か以上に不安と言えた。

 

 今回の特異点は間違いなくイアソンだ。なのに彼を倒すまでの道のりは遠い、………と思われていたが。

 

「なら、ヘラクレスは君に任せようじゃないか。聞く限りだと既にヘラクレスは一度君に倒されている。聞けば君はヘラクレスと何かしらの因縁があるみたいじゃないか、リベンジを果たすのに今回のシチュエーションはピッタリだと思うんだけど?」

 

誰もが考え、敢えて口にしなかった事をイスラエルの王ダビデは修司に向けて提案する。彼とヘラクレスの間にある因縁、古代ギリシャの大英雄と現代に生きる修司にどんな接点があるのかは定かではないが、確かにダビデが言うように実力的に白河修司こそが対ヘラクレスの切り札といえた。

 

「あぁ、任せてくれ」

 

 そして、そんなダビデの提案を修司は二つ返事で了承する。元よりそのつもりだと、そう言わんばかりに頷く修司に一人のドクターが異論を挟む。

 

『僕は反対だ。あの大英雄と正面から戦う? 冗談じゃない、数少ない人材をそんな捨て駒の様に扱ってたまるか』

 

「ど、ドクター?」

 

普段とは違い、些か怒気の孕んだ口調で反対するドクターにマシュと立香は戸惑った。

 

『修司君、君がどうしてあのヘラクレスと面識があるのかはこの際聞かないさ。でもね、幾ら因縁があるからってハイそうですかと送り出せるほど僕は薄情じゃない。相手はギリシャ最強と謂われる大英雄だ。幾ら君でも必ず勝てるなんて保証はないだろう』

 

「いや、割かしイケると思うぞ。前は二回倒すだけで精一杯なのに今回は結構簡単に一回倒せているからな。多分、然程苦戦はしないと思うぞ」

 

 大英雄を相手に苦戦はしない。大言壮語も甚だしい台詞だが、修司がホラ吹きでないことはこの場の誰もが理解している。恐らく、修司はヘラクレスと戦い勝てるのだろう。

 

そう、相手がサーヴァントである限り(・・・・・・・・・・・・・・)

 

『そう言うことを言ってるんじゃない。どうして君はそう一人で解決しようとするんだ。僕達はチームだろう。困難に立ち向かうのは君だけじゃない、立香ちゃんもマシュも、僕達カルデアスタッフだっているんだ。君だけが命を掛ける必要なんかないんだぞ』

 

それはDr.ロマンの本音だった。当然のように矢面に立ち、立香やマシュの代わりに危険地帯に飛び込もうとする修司は端から見れば自殺志願者にしか見えないだろう。

 

もう少し、足並みを揃えて考えて欲しい。自分だけが戦えばいいだなんて………そんなものは傲慢でしかない。考え直せと言外に伝えてくるロマニに修司は笑って応えた。

 

「別に、そんなつもりはないさ。立香ちゃんもマシュちゃんも、他の皆も戦うだろうし、そこに掛かるリスクは同じ、そうだろ?」

 

『で、でもさ!』

 

「それに、ダビデのおっちゃんが提案したけど、本当は俺自身が奴との一騎討ちを望んでいるんだ。アイツとはいつかリベンジを果たしたい、そして今その機会が目の前に転がってきた。俺は、可能な限りこのチャンスを不意にしたくない」

 

「え? 待って、僕のおっちゃん呼びについて一言物申したいんだけど?」

 

「後にしろおっちゃん」

 

「頼む、ロマニ=アーキマン司令代理。俺の我が儘をどうか聞き入れてくれ」

 

そう言って修司は声だけのドクターに頭を下げた。自分の我が儘の為に前線に立つこと、それは人材に限りあるカルデアという組織としては到底受け入れがたい話だ。

 

特に、白河修司は藤丸立香と並ぶ人類最後のマスター。彼の代わりなど存在しない、本来なら彼の頼みなど聞き入れる筈もなく即座に否定するべきなのだろう。

 

だが、ロマニは出来なかった。白河修司は基本的に他人に優しく自分に厳しい人間だ。カルデアにいる時は常にスタッフ達の健康状態を気に掛けたり、相手がサーヴァントだろうと対等の存在として、或いは敬うべき相手として接したり、またその技術力の高さでカルデアの機器を修復したりと、カルデアの機能改善に大いに貢献した。

 

そんな彼が口にする初めての我が儘。無視するにはロマニ=アーキマンは実直過ぎた。

 

『~~~~っ、あぁもう! 分かったよ! でも、必ず生き残ること、無茶をしないこと、ヤバくなったらすぐに逃げること、これ等を条件を頭に入れておいてよね!』

 

「あぁ、善処する。ありがとう、ドクター」

 

 とうとう折れたロマニを修司は笑いながら礼を口にする。ヘラクレスは白河修司が担当する。最大の問題であるヘラクレスの対応はそれでいいとして、残る問題は他にもあった。

 

「でも、あのイアソンが果たして自身の切り札であるヘラクレスをそう簡単に手放す様な真似をするでしょうか?」

 

「いや、奴ならば間違いなくヘラクレスを修司へけしかける事だろう。奴はプライドの高さ以上にヘラクレスを絶対視している。仮にも対等に戦って見せた彼をムザムザ野放しにする真似はしないだろうよ」

 

「流石元船員、船長の事は良く知ってるのな」

 

「ただ、あの男は基本的にクズだが、追い詰められると恐ろしい迄の底力を見せてくる時がある。侮るなとは言わないが、詰めを誤るのはオススメしないぞ」

 

「へぇ、やっぱりあんなんでも一端の猛者なんだね」

 

 アタランテの助言もあって作戦内容は相変わらず大雑把だが纏まりつつあった。ヘラクレスを修司が相手をしている間にイアソンを討つ、その間の障害であるヘクトールとメディアに警戒しながらどう戦うか話し合う最中、ロマニから再び通信が入ってきた。

 

『皆、たった今対岸から特大の魔力反応を感知した! この反応は────ヘラクレス! 真っ直ぐに此方を目指しているぞ!』

 

「俺の気配察知には反応がなかった。となるとやはりあの魔女っ子の仕業か」

 

「いきなりの決戦、土壇場もいいところだけど……まぁ、何とかなるさ。死んだら死んだでそれはそれだ」

 

「なんつー破滅願望、いや、この場合は無責任か」

 

契約の箱(アーク)とエウリュアレさんを奪われたら、世界が滅んでしまう。それを防ぐためにも……皆さん、宜しくお願いします!」

 

「やれやれ、とんだ大冒険になったもんだよ。でもこれはこれで良い土産話になるってもんさね。さぁ、張り切っていこうか!」

 

 ドレイクの号令を皮切りに修司達もまた動き出す。修司はヘラクレスの下へ、立香達はイアソンがいるだろうアルゴー号へ突き進む。

 

第三特異点における決戦、その時はもうすぐそこまで来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────カルデア、人類最後の魔術拠点。数少ないスタッフが立香達をサポートに徹しているなか、多くのサーヴァント達は食堂にある大型モニターを前に映し出される光景を注目していた。

 

この大型モニターはカルデア内にいるサーヴァントが常にマスターの状態と特異点での状況を共有出来るように修司の手によって備えられた特殊機構。管制室から送られる映像を目の当たりにした各サーヴァントはその多くが興味津々といった様子で眺めていた。

 

そんな中、一人離れた位置に座る英雄王は目を閉じて他の面々とは異なる映像を直視する。

 

千里眼。常人とは異なる視点で異なる世界を見渡すとされる眼、英雄王が見渡すのは今より少しだけの未来、彼が目にしたのは───考えられる限りの中でも最悪の未来だった。

 

大地は砕かれ、空は切り裂かれ、海が荒れ狂う。そんな地獄のような世界で赤く染まる修司と、そんな彼を静かに見下ろすのは知性と理性を宿した(・・・・・・・・・)巌の如き黒い巨人。断片的に見えた未来の映像はしかして突然に途切れる事になる。

 

「チッあの過保護者め、この程度の覗き見すらゆるさんとは、つくづく面倒な奴よ。………だが、成る程。よりにもよってそうなるか」

 

 取り出せた情報は僅かなモノ、されど英雄王にはそれだけで充分だった。

 

王は笑う。それは念願が叶う臣下を思ってか、それとも………。

 

「さぁ修司よ、お前の真価を問われる時だぞ。かの伝説を前に蹂躙されるか乗り越えるか…………それとも、新たに伝説を塗り替えるのか、見せてもらおう」

 

その笑みは何処までもワクワクに満ちていた。

 

 

 

 

 

 




アニメウマ娘の最新話を見て、色々しんどくなって北斗の拳イチゴ味を見ながらアプリの方のウマ娘を楽しんでいると。

サウザー様がチームスピカのトレーナーになる夢を見た。

基本的にフハハハしか言ってないのに伝わるとか、色々可笑しいところなのに何故か冷静に見ている自分がいる。

あと、何故かゴルシだけは実写(実馬?)で、ターバンのガキを乗せながら終始サウザー様の頭をガジガジあま噛みしてた。

それでも怒らないサウザー様マジ聖帝。

あと、ラオウもウマ娘になった黒王号のトレーナーになってた。

……そんな、どうでもいい話。


次回、開幕。


それでは持戒もまた見てボッチノシ


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