『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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アーアアー(゜Д゜)


その27

 ────空から降り注がれる一柱の光。増援として送られたゴーレムの群を撃ち抜いた光は海面を貫き、その熱量によって蒸発した海面の水蒸気がIS学園を包み込んだ。

 

突然の事態に学園の敷地内にいる全員が目を見開いた。一夏や箒、ラウラにシャルロット、セシリアと鈴音、そして簪と楯無がそれぞれの戦場にいながら、同時に静まり返っていた。

 

教職員、更にはゴーレム達も光があった方角に視線を向けながら固まり、乱戦となった学園は静寂に包まれている。

 

唯一、管制室で指揮を取っていた織斑千冬だけは驚愕しながらも隣の山田真耶と共に学園の上空の映像を睨みつけていた。

 

空から飛来する一つの影、それがアリーナに降りたって姿を現した時、千冬と山田は目を見開かせた。

 

────蒼。常闇の様に深く、奈落の様な深淵を思わせる深い蒼の人型の機械がボロボロのローブを纏ってアリーナ中央に佇んでいる。異様に膨らんだ両腕、肘部分からは太くて黒い杭のようなモノが飛び出ており、背中にはスラスターらしき巨大な黒い羽が揺らいでいて、更に両肩にはそれぞれ黒い突起物の様なものが取り付けられている。

 

そして両手に握られた大型のライフル。武装の造形も、そしてそれを手にしている蒼い機人もこれまでのデータには存在しないモノだった。ゴーレムとも全く意匠が違う。唯一理解出来ているのは、真耶が言ったようにあの機人はISであるという事。

 

全身装甲で身を包んでいるのは誰なのか、千冬は頭の中でこんな事をしでかす人間は一人しかいないが……ここ最近、もう一人当てはまりそうな人間が彼女の脳裏に刻まれていた。

 

『白河……なのか?』

 

千冬は自分の中にある直感を信じて恐る恐る通信を開いて蒼き機人に呼びかける。危険だと思われる行為だが隣の山田真耶は何も言わない。恐らく彼女も気付いているのだ。アリーナの中央で佇む機人の正体が誰なのかを。

 

十秒にも満たない沈黙、それが長い沈黙だと錯覚する程、二人は返ってくる返事に意識を集中させていると……。

 

『その声は織斑先生ですか。その様子だと無事のようですね』

 

返ってきたその声に心臓が跳ねた。やはり、という安堵とやっぱりという焦燥感。一ヶ月という長いようで短い休暇を終えて帰ってきた用務員はとんでもないものとなって帰ってきた。

 

隣の真耶も絶句し、信じられないと言った顔でモニターに映る機人……いや、白河修司を見つめている。ゴーレム達の乱入、生徒達の迎撃、混乱し、混戦状態となった学園に第二の男性IS適合者の発覚。

 

多すぎる情報量に遂に山田真耶の許容量は限界を越えそうになっているが……それも無理もない話だった。

 

だが、織斑千冬だけは違った。白河修司という新たな男性IS適合者という目の前の現実を欠片も予想は出来ていなかったが、それでも想像は出来た。やりかねないと、手段や方法は全く考えられなかったが、それでも千冬には白河修司に対してそれに近い形の予感を抱いていた。

 

故に───。

 

『……白河、何故お前が空から現れて何故ISに乗れるかは最早問わない。だが、一つだけ聞かせて欲しい』

 

『……何です?』

 

『お前の、お前の作ったISは現在学園に蔓延るゴーレム共を倒せるか? それが可能なら……頼む、力を貸してくれ』

 

千冬はアリーナに佇む蒼き鎧に願い出る。学園を守って欲しいと、IS学園に蔓延る奴らを駆逐して欲しいと、そう願いを口にする。

 

そんな彼女の言葉に、修司は───。

 

『無論、その為に私はここへ帰って来たのですから』

 

そう即答で返し、その答えに呼応する様に修司が纏う蒼い鎧の双眸が“ギュボォン”と音を立てて輝いた。

 

『簪さんも、今まで良く耐えました。ピットに一度戻り補給を受けなさい。貴方のシールドエネルギーもそろそろ限界の筈でしょう?』

 

『え? あ、はい』

 

唐突に呼び掛けられた事に驚きながらも簪は答えた。見れば確かにシールドエネルギーは残り一桁となっており、直ぐに回復させた方が良い状況にまで追い詰められていた。

 

言われるがままにアリーナのピットに向かう簪、スラスターを噴かせて飛ぼうとしたその時。

 

『─────』

 

アリーナの内部へ侵入した一体のゴーレムが、簪の背後に回り込んでいた。白河修司という援軍に気を緩めた所為か今まで気付かなかった簪はゴーレムの機械的な声で振り返り……。

 

『し、しまっ!』

 

自身に迫る無機質な手に目を瞑った時───。

 

『私の目の前で、好き勝手出来るとは思わない事です』

 

ローブを靡かせた蒼い魔人が、ゴーレムの腕を横から掴み取っていた。アリーナの中央から自分のいる壁際の所は些か距離が開きすぎている。一体どうやってここまで一瞬で距離を詰めたのか、理解出来ない簪を余所に、蒼き魔人はもう片方の腕を掲げた。

 

その動作と連動して肘部分にあった黒い杭は撃鉄の様に引き絞られ……。

 

『穿ちなさい、牙鐵(がてつ)

 

振り抜いた拳がゴーレムに触れた瞬間、杭は撃ち込められ、その衝撃は拳からゴーレムへと伝わり──。

 

あれほど迄に強固さを誇っていたゴーレムが絶対防御を撃ち抜かれ、たった一撃で粉々に砕け散った。

 

その光景に簪の目は大きく見開く。相手のシールドエネルギーをゼロにする処か一撃で粉々に粉砕して見せた蒼い魔人に簪は驚きを隠せずにいた。

 

その後、修司はバランスを崩した簪を担いでピットにまで送り届ける。誰もいないピットに簪を預けた修司は……。

 

『さて、初のIS戦。気合いを入れていくとしようか。なぁ、“蒼鴉(ブルー・レイブン)”』

 

“蒼鴉”そう呼び掛ける自身の機体と共に修司はスラスターに光を灯して空へと飛翔した。その様子を半ば放心しながら見送る簪、すると、彼女の視界にある物体が映ってきた。

 

コロコロと転がりながら彼女の足元にやってくる灰色の球体、それを先ほど蒼い魔人が破壊したゴーレムのISコアだと理解するまで簪は数十秒の時間を要する事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────IS学園に迫る謎の機体の群を確認して早数分、グランゾンの力を借りて地球の大気圏へと転移し、学園の真上にさほど時間を掛ける事なく辿り着く事が出来た。

 

大気圏より若干外側に出てきた事によりGN粒子による大気圏突入の試験運用も同時に試せた。GN粒子も問題なく稼働し、この蒼鴉を大気圏の空気摩擦から守れた事だし、大気圏突入の試験は合格と見なしてもいいだろう。

 

バスターライフルを始めとした各武装も問題なく使用できるし、各システムも問題はない。残る課題はと言うと……強いて言うなら実戦の経験位だろうか。本来なら宇宙空間での活動を目的にこの蒼鴉を開発したのだが、状況が状況の為にこの際仕方がないだろう。

 

それに、相手が一年のタッグマッチ戦の時のゴーレムと関わりがあるのなら此方も黙っている訳にはいかない。出来る限りゴーレムに搭載されたコアを摘出し、回収する事にしよう。ゴーレムに積まれたコアのネットワークに介入すれば、犯人の手掛かりが掴めるかもしれない。

 

『そうする為にも、まずは学園を守り切らねばならないか、一夏君達とも合流しておきたい所だが……ん?』

 

ISのハイパーセンサーが九時の方向より高熱源反応をキャッチする。反応した数は九つであり、それらが全て学園に送られてきたゴーレムなのだと認識する。

 

ゴーレムの群から一斉に発射されるミサイル。雨となって押し寄せてくるミサイルの弾幕を、修司は蒼鴉と一体となって飛翔し、空へと舞い上がる。

 

『ふむ、やはり追尾機能を搭載したミサイル群か。中々味な真似をしてくれる』

 

押し寄せてくるミサイルの群をスラスターを巧みに操りながら回避し、回避し、回避していく。時には爆風を利用し、時には瞬時加速やIS操縦の技術を駆使して空を舞う光景は、端から見ればサーカスに見えた。

 

変則的な軌道を描きながら空を舞う蒼き魔人。ミサイルの群に誘導されている事を知りながら、修司は左手にバスターライフルの片割れを手に、迫り来るミサイル群を諸共撃ち抜いた。

 

強力な閃光が辺りを照らして学園上空を覆う。その様子を隙と見定めたゴーレム達が束となって蒼鴉へと襲い掛かる。

 

『マスター、総勢12機のゴーレムが一斉に此方に来ます!』

 

『学園に投入された残存兵力の全てを此方に回して来たか、何故俺を集中的に狙ってくるのかは分からないが……まぁ、学園から奴らを引き離せる事を考えればかえって好都合か。───アリカちゃん』

 

『は、はい!』

 

『これより試作段階だった“アレ”を発動させる。ISコアと蒼鴉とのリンクを一時切断してくれるかな?』

 

『は、はい! 了解ですマスター!』

 

『ありがとう。あぁそれと───』

 

『?』

 

『マスターは止してくれ』

 

迫り来る総勢12機のゴーレム達、多対一という圧倒的不利な状況の中、修司はコアの中に居るパートナーに機体とのリンクの切断を命じる。

 

ISコアという核の機能を停止させた今、蒼鴉を支えるモノは何もない。唯の鉄屑となり果てた鴉は海面に向けて自由落下していく。

 

一体何を考えているのか、学園から蒼鴉の戦闘を眺めていた一夏達が驚愕に目を見開いた時、彼らの所へ一通の通信が送られてきた。

 

『───通信設備、壊れたらごめんなさい』

 

理由も検討も出来ない意味不明な文面、それに誰もが首を捻った時、突如、全ての通信設備の回線が途切れてしまった。

 

突然の事態に狼狽するIS操縦者達、これも彼の仕業なのかと再び蒼鴉の方角へ一斉に振り返ると……。

 

『擬似太陽炉との連結及び起動を確認、稼働率95%に上昇。───さぁ、始めるとするか』

 

 

両肩に埋め込まれた二つのコブ、そこからオレンジ色の光と粒子が勢い良く放出された瞬間。

 

 

『────トランザム!』

 

蒼い鴉が紅蓮の光を纏った瞬間、12機いたゴーレムが11へと数を減らしていた。

 

 

 




主人公のやらかし回はもう少し続くんじゃよ。

尚、主人公のISのスラスターはウィングガンダムの羽を黒と蒼のカラーにした感じだと思って下さい。

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