『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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グラブル七周年、おめでとう!


その41 第三特異点

 

 

 ────それは、まだ聖杯戦争の名残が冬木の街に色濃く残っていた頃。日課の鍛練をしていた修司に黄金の王はある疑問を投げ掛けた。

 

『修司よ。お前は何故強さを求める?』

 

『え? どうしたんだよ王様急に』

 

『なに、ふと気になってな。此度の聖杯戦争を終わらせ、お前は名実ともに世界でも有数の強者となった。裏表問わず、お前の実力は周知の事実となった。なのに何故、お前は今も強さを求めている?』

 

『そりゃあ、王様の臣下である以上向上心は常に持っておくべきだろ? 聖杯戦争が終わったからって俺の人生は終わらないんだ。鍛えられるなら何処までも鍛えるべきだろ?』

 

英雄王という王の中の王に仕えるには生半可な実力ではいられない。文武共に常に上を目指し、努力を怠るべきではない。そもそも、修司は鍛練することそれ自体が嫌いではないし、寧ろ好きな部類だ。出来なかった事が出来るようになり、自分の限界を知ってその上で限界を越えた時に体感する達成感は言葉にできないほどに健やかな気持ちになれる。

 

だからこれからも鍛練は続けるし、強くなる事に貪欲であり続ける。と修司は応えるが、英雄王には不服なのか、難しい顔をして頭を掻いている。

 

『まぁ、お前ならそう答えるだろうが………今一つ面白味に欠ける解答だなぁ』

 

『いや、面白さを求められても困るんだけど』

 

相変わらず愉しさを追求する人だなと、半分呆れながらも修司は鍛練を続けた。すると今度は何を思い付いたのか、英雄王は先とは少し違った質問を投げ掛けてきた。

 

『ならば、問いを変えよう。修司よ、お前が此度の聖杯戦争で戦ったサーヴァント達を相手に何を思った?』

 

『え? ………まぁ、強かったよ』

 

『それだけか?』

 

『…………』

 

内容を変えて質問してくる王に修司は僅かに言い淀む。そこに本当の気持ちを隠している事に気付いた英雄王はニヤリと笑みを浮かべて追求する。

 

『王に対して隠し事など、臣下のすることではないぞ修司よ。大人しくその胸中を我の前に晒すがよい』

 

『わ、分かったよ。………でも、笑ったりしないでくれよ?』

 

『分かっている。この英雄王、臣下の想いを踏みにじるほど下衆ではない』

 

そうは言うが、王の顔は既に弛みきっている。しかし言わなければいつまでも同じことを言われるだろうし、逃げ場もない以上観念するしかないだろう。

 

一度だけの溜め息、やれやれと肩を竦めて空を見上げた修司はポツリポツリと胸の中に閉まっていた感情を溢し始めた。

 

『王様、聖杯戦争に参加していたサーヴァント達って、謂わば本人達の分身みたいな奴なんだろ? 遠坂から聞いた。定められたクラスに合わせ、それぞれ特徴的な能力を持った奴等、その多くが一定の強さにまで平均化されているって』

 

『ふむ、それで?』

 

『………悔しかったよ。あんなに必死に戦って、漸く勝ちを拾ったってのに、実は本当の実力ではありませんでした。って後に言われた気がしてさ、久し振りに腹が立ったよ』

 

 悔しい。そう語る修司の手は強く握りしめられていた。繰り広げた激闘、死闘の数々。心が折れ掛け、死にかけながらも戦い抜いた果てに待っていたのは修司にとって偽りの勝利だった。

 

サーヴァントは過去の伝承逸話を元に能力を決定付けられ、そのクラスに合った力とその基盤に見合った能力を付与される。ヘラクレスから命からがら生き残り、佐々木小次郎という剣豪を倒し、クー=フーリンやアーサー王という怪物達と戦って来たのに修司はまるでその全てが否定された気持ちになった。

 

別にサーヴァントを下に見たり侮辱している訳ではない。ただ、あの戦いに“お前は本気でない自分達に勝利しただけだ”と、ケチを付けられた気がしたのだ。

 

『だからさ、今度はそんなケチが付けられない様に強くなりたいんだ。そりゃ、次なんてものがあるかは分からないよ? でも、いつかまたそういう連中と出会っても今度こそ自分の勝ちだと言えるように今の内に鍛えておきたいんだ』

 

『成る程、つまりお前は………単に意固地になっているだけなのだな?』

 

『み、身も蓋もない事を言わないでくれよ。自覚してるんだから』

 

 結局の所、英雄王の言葉通り修司は意固地になっていただけだった。次は負けないと、ありもしない未来に備え、今度こそ勝って見せると一人で空回りしているだけ。

 

それがとても滑稽で、それでいてとても眩しくて……。

 

『ククク、よもや、ここまで強欲とはな。我が臣下ながら欲深い奴よ! フハハハハ!』

 

『ちょっとぉ!? そこまで笑う事ないんじゃあないですか!? そんな面白い事を言ったつもりはないんですけどぉ!?』

 

『これが笑わずにいられるか! フハハハハ!!』

 

何処までも前を見据える修司に黄金の王は愉快に、痛快に、そしてなにより────嬉しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生前のヘラクレス……だと?」

 

『あぁそうさ! あ、いや。厳密に言えば違うかもしれないけど、今! 君の前にいるヘラクレスはサーヴァントの枠から剰りにも逸脱している! 人理焼却の影響? 抑止力が働いていないから? あぁもう兎に角! イアソンが此方にとって最悪の奇跡を起こした! だから修司君、急いでそこから逃げ……』

 

「落ち着けよドクター」

 

 嘗てないほどにロマニは慌てふためき、修司もまた理屈ではなく心で理解した。今、目の前にいるのは嘗ての伝説、ギリシャ神話の大英雄ヘラクレスその人であると。

 

先程ぶりの荒る狂戦士と同一人物とは思えないほどの落ち着いた佇まい。なのに微塵も隙はなく、無意識に放たれている威圧感は男の周囲の空間を歪めていく。

 

これ迄に戦ってきた相手とは明らかに違う。ロマニは逃げろと進言してくれるが、生憎と修司にそのつもりはない。

 

逃げた所で逃げ切れる相手ではないし、仮に逃げられたとしても奴の矛先が立香達に向けられるだけ、向こうも今は戦いの最中の筈、そんな時に目の前の男を向かわせたら忽ち凄惨な光景の出来上がりになるだろう。

 

逃げられない、逃げるわけにはいかない。これは自分の我が儘から始まった戦い、その責任は最後まで背負わなければならないし、何よりこの状況はある意味修司の望み通りとも言えた。

 

油断なく構え、男を見据える。頬から流れ落ちる汗すら拭う事もせず、じっと観察を続けていると……。

 

「ここでは、些か狭いな。………場所を移すか」

 

辺りを見渡した男────ヘラクレスの口から紡がれたその言葉に修司は一瞬面喰らう。場所を移す? この島ではこの平原より広い場所はない。どういう意味かと修司が困惑した時。

 

「っ!?」

 

 腹部に衝撃が走った。

 

全身が雷に撃たれた様な衝撃、咄嗟に両腕を交差させて防げたのは殆んど偶然だった。

 

気付けば、修司は空を飛んでいた。………否、飛ばされていた。大地から、島から瞬く間に遠退き、海面を何度かバウンドしながら吹き飛ぶこと数秒、先程までいた島と全く違う遠く離れた未開の島の荒野の大地に叩き付けられた。

 

「がっ、くそ、いきなりかよ!」

 

覆い被さってくる岩を退かしながら立ち上がる。いきなりの攻撃に悪態を吐く修司だが、既に戦う前の口上は終わっている。間抜けなのは自分の方だったか、警戒して辺りを見渡す修司だが………。

 

「こい、マルミアドワーズ」

 

頭上から感じる殺気、先よりも膨れ上がった膨大な力の奔流に修司は見上げて確認するよりも回避を優先させ………。

 

射殺す百頭(ナインライブス)

 

 ────瞬間、九つの斬撃が大地を抉り引き裂いた。衝撃で幾つもの岩山が吹き飛び、回避した筈なのに刃を持った衝撃は修司の肉体をも切り裂いていく。

 

痛みよりも驚きで修司の表情が歪む。自分が吹き飛ばされた距離は体感で数キロはあった筈、なのに一分も掛からず追い付いてくるヘラクレスの膂力に改めて修司は戦慄した。

 

体勢を整え、近くの岩山に立つとほんの数瞬前にいた大地が谷と化している。たった一振りで地形を変えてしまう力、これが大英雄の力の一端か。

 

「………随分、見栄えの良い剣が出てきたな。て言うか、どっから出したんだ? ソレ」

 

「これは、大いなる火の神により賜った宝剣マルミアドワーズ。お前を切り裂くのに相応しい武具と判断し、座より持ち寄った次第だ」

 

自分の体のダメージを確認する意味合いでの問いを投げるが、意外な事にヘラクレスはこれを受けた。マルミアドワーズ。一説では火の神ヴァルカン、或いは鍛冶の神ヘファイストスよって造り出されたとされる剣。古の神々によって作られたソレはまさしく神剣と呼ぶに相応しい、聖剣エクスカリバーの様な輝きこそないが、ヘラクレスの手にしている宝剣は神造兵器に足る重みが備えられていた。

 

だが、この島の地形を変えたのは宝剣の力ではない。荒野の大地に谷を作ったのは他でもないヘラクレス自身の力であると他ならぬ修司が理解している。今の問答で体の確認は済んだ。状態は万全、戦意も折れていない修司は再び気の炎を纏って構えを取る。

 

「神様の剣、か。光栄と思った方がいいのかな? この場合」

 

「さてな。どちらにせよ、私の………いや、俺のやるべきことは変わらない。我が望みと友の想いに応える為、白河修司────お前を、倒す」

 

「……行くぞっ!!」

 

地を蹴り、全身全霊を掛けて白河修司は最強へ挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「修司君との通信はまだ回復しないのか!?」

 

「ダメです! 何らかの妨害があるのか、一向に回復する見込みがありません!」

 

 修司がヘラクレスへ挑む最中、カルデアの代理責任者であるロマニは一向に繋がらない修司との通信に動揺していた。今、彼が戦っているのは伝説に語り継がれる大英雄そのもの、サーヴァントの枠組みすら逸脱した真なる伝説の具現である。

 

修司のこれ迄の戦いで彼が並々ならぬ実力者であることはロマニも充分理解している。しかし、そんな修司を以てしても果たしてあの大英雄に勝てるだろうか。

 

山を砕き、海を割り、多くの逸話を残して偉業を成し遂げた最強の伝説。現代の人間が単身で挑むには剰りにも大きく、高い壁だ。

 

「Dr.ロマン!」

 

「君は……ジャンヌ=ダルク、どうして君がここに?」

 

「どうか、今すぐ私を彼の下へ遣わせて下さい! 私の宝具ならきっと大英雄の一撃にだって耐えられる筈です!」

 

 管制室へ入ってきたのは聖女ジャンヌ、恐らくは食堂に備え付けられたモニターから向こうの様子を見たのだろう。酷く慌てた様子の彼女の顔には焦りの色が色濃く滲み出ている。

 

だが、確かに彼女の宝具なら一縷の望みはあるだろう。彼女の扱う宝具は鉄壁の守り、その守護の前には何人だろうと侵せる事は出来ない。如何に相手が大英雄だろうと、その場しのぎの防御壁だとしても有益に活躍出来るだろう。

 

当然、ロマニもその作戦は考えた。彼女と修司のタッグならの大英雄が相手でも通用するのではないか、そう思わせるだけの可能性がこの組み合わせにはあった。

 

しかし。

 

「────残念だがジャンヌ、それは出来ないんだ」

 

「な、何故です!?」

 

「落ち着けたまえよMs.ジャンヌ。今ロマニが言っただろ? 君達サーヴァントを彼の所に送りたいのは山々なんだけど、今言ったように出来ないんだ」

 

「…………」

 

「今、此方から送られる戦力は全て修司君の所ではなく立香ちゃんの所に召喚されるようになっている。恐らくは、現地の魔術師が関与しているのだろう」

 

「────ハッ! メディア!」

 

 カルデアから修司への干渉は一人の魔術師によって防がれている。コルキスの王女メディア、まだ魔女になる前の彼女が修司に余計な戦力を送られまいとその魔術を以て妨害している。

 

通信妨害も恐らくは彼女によるものなのだろう。加勢にも加わる事もできず、助けることも出来ない歯痒さと不甲斐なさに憤っていると、それを嘲笑うかのような声が管制室に響いてきた。

 

「やれやれ、男の勝負に水を差すとは、聖女とは言え少々余計な世話が過ぎるのではないか?」

 

「英雄王……っ!」

 

ジャンヌの後に管制室に入ってきたのは黄金に輝く英雄王、その顔に嘲笑とも取れる笑みを浮かべてジャンヌの加勢を余計な世話と両断する。

 

「男が戦うと決めているのだ。ならば勝敗が決するまで手出し無用が常識であろう?」

 

「そんな悠長な事を言ってる場合ですか!?」

 

「僕としても反対だ。彼は立香ちゃんと同じ人類最後のマスターだ。彼の代わりになる人材はいない、個人の感情で決めて良い話じゃあない」

 

「我が臣下がこの程度の逆境も乗り越えられぬと? あまり侮ってくれるなよ、雑種?」

 

「うぐっ」

 

 ジャンヌに便乗した形とは言え、折角英雄王に一言言ってやったのに彼からの殺気の籠った一言で押し黙ってしまう。けれど口にした言葉まで曲げるつもりはない、精一杯の抵抗にジャンヌの影から睨み付けるロマニ。そんな彼に一瞥しながらモニターへ視線を向けると、黄金の王は静かに口を開く。

 

「いいから、黙って見ておけ。貴様たちの希望がどんなものか、今一度その目で確かめるといい」

 

窘めるように言って、それ英雄王が口を開くことはなかった。そんな彼にこれ以上の問答は無駄だと、ロマニはダ・ヴィンチと共に作業に戻る。映し出されるモニターにはヘラクレスと修司の神話の再現とも呼べる激闘が繰り広げられていた。

 

(………あれ? 我が臣下?)

 

 しかし、英雄王は気付かない。自らの失言を、柄にもなく内心興奮するあまり溢してしまった失敗を、ジャンヌの目がう◯美ちゃんの如く鋭くなって自身が見られていることに。

 

英雄王はモニターに映る修司の活躍に夢中で気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だらぁっ!」

 

「ヌンッ!」

 

「ダダダダダダダ、ダァッ!」

 

「フンッ、ハァッ!」

 

 繰り出す拳と拳、打ち出す蹴りと蹴り、衝撃と轟音が鳴る度に島の大地は抉れ、木々は薙ぎ倒され、湖が弾け飛ぶ。

 

修司がヘラクレスを相手に選んだのは接近戦、彼が奮うマルミアドワーズなる宝剣は神々によって造られた神造兵器だけあってその切れ味は凄まじく、一振りで島を両断する鋭さがあった。

 

それを防ぐ為に修司はヘラクレスに接近戦での肉弾戦を選択した。暴風という表現すら生温い拳の渦、しかもそこに人としての技の冴えも加わった事でより脅威と危険度は跳ね上がり、修司の命を容赦なく削り取ろうとしてくる。

 

しかし、それでも修司にはその選択を選ぶ他なかった。距離を開けられればあのふざけた威力の斬撃がまた飛んでくるし、それを防ぐ唯一の方法だからだ。

 

 事実、ヘラクレスの背には最初の一振り以降振るわれることのなかった宝剣が背負われている。肉弾戦なら修司も得意とするモノ、師父から学んだ八極拳を駆使して戦いを挑む修司だが……それでも、今の修司とヘラクレスの間には大きな力の差があった。

 

奮われる度に吹き荒ぶ暴風は真空の刃となり修司の体を切り刻んでいく。避けた所で負傷は免れず、既に辺りは修司の舞う鮮血で染まっていた。

 

「噴ッ!」

 

そんな時、相手の勢いを利用しての攪打頂肘がヘラクレスの胴体にめり込んだ。手応えはある。いや、ありすぎた。喰らわせたのは此方なのに直撃させた肘が僅かに痛む。

 

気で強化しているのにまるでダメージが通っている気がしない。先程よりも分厚い筋肉の鎧、やはり必殺の无二打(にのうちいらず)しかないかと思われたその時。修司の腕にヘラクレスの大きな手が迫る。

 

瞬間、修司は悪寒を感じた。この手に捕まってはいけないとこれ迄に培ってきた経験と直感が警戒を最大限に鳴らす。気を全開にして振り払い、ヘラクレスの顎を蹴りあげた。

 

「ほう、どうやらそちらにもパンクラチオンに精通した英雄がいるようだな」

 

「あぁ、お陰でアンタの手に壊される前に察知できたよ。………て言うか、顎を蹴りあげられた事はノータッチかよ」

 

 パンクラチオン。その起源は古代ギリシャにまで遡る。相手を破壊する事に特化した人類史に於ける最古の格闘技の一つ、投げ、打ち、掴み、砕く。それは人体を砕く事に重きを置いた体術であり、ヘラクレスが最強たる所以となった奥義。

 

背負った宝剣にばかり目が行ってしまったが、ケイローンの教えによりどうにか反応することが出来た。ありがとうケイローン先生!

 

「だが、これで距離は開いたな」

 

「っ!」

 

ヘラクレス手から逃れる事に必死で、詰めていた間合いが開いてしまっていた。背負った宝剣に手を伸ばし、膨大な力が解放される。

 

逃げられない。振りかぶる大英雄を前に修司が選んだのは真っ向からの打ち合いだった。

 

両手の付け根を合わせ、腰だめに持っていく。それは修司が放てる最大出力の一撃。

 

「かぁ………めぇ………はぁ………めぇ………」

 

射殺す百頭(ナインライブス)

 

「波ァァァァァッ!!」

 

振り下ろされる斬撃と放たれる閃光、ぶつかり合ったエネルギーは周囲の地形を凪ぎ払い、二人のいる島を破壊していく。

 

そして次の瞬間、大きな爆発が起きた。衝撃は大海を大きく揺さぶり、キノコ雲が天に昇る。遠く離れた場所の立香達にまで届く衝撃、それは人の領域を越えた力と力のせめぎ合い。

 

互いの攻撃は相殺に終わった。しかし、戦いはまだ終わらない。全身に力を込めてヘラクレスがいるであろう場所に向けて駆け出す修司だが……。

 

「そう言えば、一つ言ってなかった事があった」

 

「っ!?」

 

「俺の放つモノ、射殺す百頭などと言ってはいるが、アレは別に剣を用いての必殺技ではないぞ」

 

気付けば、既に修司の間合いにはヘラクレスが踏み込んでいた。いつの間に此処まで近付けたのか、気配も何も察知できなかった。驚きに目を剥く修司を前にヘラクレスは拳を握り締める。

 

「これは我が生涯、我が闘争の果てに生まれし奥義。数多の不死性を持つ怪物達を屠ってきた我流の闘法である」

 

それは、幾度倒しても、殺しても、尚も立ち塞がる怪物達を殺し尽くす為にヘラクレスが編み出した最強にして単一の奥義。何度も生き返るのなら、死ぬまで殺すを物理的にごり押し、極限にまで磨きあげたヘラクレス最大の暴力。

 

故に射殺す百頭(ナインライブス)。爆発的に気配が強まるヘラクレスに修司は腕を交差させて防御の姿勢を取るが。

 

「受けよ、我が剛拳を!!」

 

両の手から繰り出される無数の拳、一振りで山をも砕くその剛拳全てをマトモに受けた修司は血反吐を吐きながら吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────こんなものか」

 

 空を穿ち、海を割り、大地を砕いた島の跡。砦だった建造物は微塵に消え、更地となったその場所で大英雄が口にするのは落胆の声だった。

 

「お前が鍛え、磨きあげた力はこんなものか!? 己の無力に嘆き、ひたすら強さを求めた貴様の底力は、この程度か!?」

 

既に辺りに修司の姿もなく、また気配も消えていた。ヘラクレスが最後に放った一撃はその悉くが修司を捕らえ、打ち込んでいる。生身の人間なら塵すら残らず、サーヴァントであろうとも死は免れない。

 

なのに、ヘラクレスは信じていた。自分と戦ってきた相手、白河修司はこんなものではない。この程度で終わる筈がないと、奇妙な信頼関係。ヘラクレスはある種の期待を修司に抱いていた。

 

そして………。

 

「………ったくよぉ、そこまで期待されちゃあ、断る事なんて出来ないだろう。大英雄ってのは口も上手いのかよ」

 

吹き飛んだ瓦礫の中から、ボロボロの修司が現れる。王より賜った胴着は上半身から吹き飛び、全身から痛々しいほどに血が流れている。

 

しかし、修司の目には微塵も絶望に染まってはいなかった。目の当たりにした力の差、覆し難い実力の壁、勝てるかわからない困難を前にそれでも修司は力を込める。

 

闘気が、満ち溢れる。先の戦いで見せた時よりも強く、激しい白い炎。まだ戦うつもりでいる修司にヘラクレスは不敵に口端を吊り上げた。

 

「けれど、お陰で此方も腹が決まった。もう、俺も後の事は考えない。文字通り、死力を尽くしてアンタに勝つよ」

 

圧し負け、ボロボロにされ、それでも尚勝つと修司は豪語する。そんな彼にヘラクレスは笑った。呆れの嘲笑ではない、窮地に追い込まれながら、それでも勝利を諦めない修司にヘラクレスは嬉しさとワクワクで胸が一杯だった。

 

「そうだ。そんなお前と戦りたかった! さぁ見せろ! お前の研鑽を! お前の全てを!」

 

 その時、修司から溢れる気の力が爆発的に増大した。空が荒れる、大地が、海が、大気すらもが揺れ、特異点そのものが震えている。天変地異。その中心となっているのはやはり白河修司だった。

 

自然とヘラクレスは息を呑む。これから起こる出来事に、これから始まる闘争を前に、本能と理性が疼いて止まらない。

 

────そして。

 

「───界!!」

 

「───王!!」

 

「───(けぇん)!!」

 

紅い炎が天を衝いた。

 

力が形となって吹き荒れ、ヘラクレスの前に現れる。

 

ヘラクレスは笑みを浮かべた。これが奴の全てだと、自分に敗れたあの少年が、たった数年で此処まで這い上がってきた。その事実にヘラクレスは嘗て味わったことのない喜びを噛み締める。

 

「───界王拳。これが、俺の奥の手だ」

 

「あぁ、分かる、分かるぞ。此処まで練り上げ、高め、爆発させた力。あぁ、待った。長らく待ったぞ、この時を!!」

 

 吹き荒れる闘気は凄まじいのに身に纏う修司の目は落ち着きを取り戻している。彼自身が理解していた。この技に耐えきれなくなった時、それは自分の敗北を意味していると。

 

故に、最初から全力で挑み掛かる。今度こそ、目の前の伝説に勝つ為に。今度こそ、嘗ての自分を越える為に。

 

「行くぞ、大英雄」

 

「行くぞ、未来の英雄」

 

ここから先こそが本当の戦い。相対するのは互いに過去最高最強の戦士、激闘は必至で死闘は免れない。

 

けれど、それでも。

 

「「勝つのは、俺だ!!」」

 

 

 

 踏み出すのは同時、繰り出す拳は互いにぶつかり───。

 

瞬間、四海(オケアノス)が砕けた。

 

 

 

 

 

 

 





If

もしもここにAチームがいたら。

キリシュタリア:テンションが振り切れておかしくなる。

ペペ:上に同じ。

ベリル:上に同じ。

カドック:上に同じ。

オフェリア:ちょっとワクワクしている。

ヒナコ:ちょっと感動してる。

デイビット:皆知ってるのに自分だけ知らないから少し寂しくなっている。



次回、熱戦・烈戦・超激戦!!




Q.この戦いはカルデアにも中継されてるの?

A.されています。ですので、現在カルデアの各エリアはエライ騒ぎになっています。


それでは次回もまた見てボッチノシ





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