Δ月*日
………なんか、不思議な夢を見た。夢を夢と自覚するのは明晰夢と言うが、夢と分かっていながら現実味のある夢をこの場合、果たして何と言うのだろうか。
────目を覚ますと、自分はどことも知れない陥没した大地のど真ん中にいた。クレーターというにはまるで隕石でも落ちてきた様な広範囲のモノ、其処では見知った顔が何人かいて見知らぬ誰かが数人いた。
姉弟子である遠坂と仕事の好敵手であるルヴィアさん、頭髪の一部が白くなっている士郎とバゼットさん、そしてロリッ子イリヤ嬢と此処までは自分もよく知る人達だ。
問題はイリヤ嬢に良く似た黒ギャルと空に浮かぶデカくて黒い四角の立方体、そしてその下で何か儀式をしている怪しい男女数人、良くみれば遠坂は今みたいに髪を下ろしてないし、皆学生の頃のように若い。
故に自分は鍛えられた脳をフル回転させて答えを得た。ははーん、さては自分、夢をみているな、と。
自分の格好も寝間着から山吹色の胴着へ変わっているし、夢である事には変わりない。夢とはいえ折角の再会だから挨拶でもしておこうとしたら───。
なんか、無数の刀剣が飛んできた。それらを叩き落とすと、なんか矢鱈と露出の高いパツキンのチャンネーが凄い殺気を込めて此方を睨んでいた。
「何者か」とか、「疾く失せよ」とか、その言動が英雄王こと王様の真似をしている処か、あまつさえその女は自ら英雄王の力を手にしている、みたいな事まで口に出していた、
いやーもうね、夢の中とは言えイラッとしたよ。王様に似た雰囲気を醸し出しているからってあたかも自身を王様の成り代わりみたいな言い方をするその女性に久し振りにムカついた。
ならその力を見せてみろと自分も挑発を返して気を解放し接近、少し速く動いただけなのに自分が後ろに回っている事に反応するどころか気付きもしない女に加減の
全く、英雄王の力を持っていると言うからどれ程のモノかと警戒していたのに、とんだ肩透かしである。ホンの少しギアを上げただけで反応すら出来ないなんて………これがあの
ましてや、女が騙るのは英雄の中の英雄王。数多く存在する英雄達の頂点とも言えるあの人の真似事をするのだから、此方の初手の一撃くらい対処して見せろ! という話である。
そして、気を失った女が早着替えでもしたのか、服を着ていた状態で倒れ付し、その傍らには一枚のカードが落ちていた。拾ってみるとなんか弓兵の絵柄が書かれている。
何ぞこれ? 首を傾げていると敵意と殺意ダダモレの気配が近付いてきて、なんだと思い見上げれば、なんかでっかいハンマーを持った女の子が叫びながら降ってきた。
士郎やイリヤ嬢の反応を見る限りなんか敵っぽいし、夢だし、何より女の子が凄い良い位置にいるもんだから自分はついあの技をやってしまった。
その名も廬山昇龍覇。個人的にはペガサス流星拳に並ぶ必殺技、今までかめはめ波や流星拳ばかり使ってたし、夢の中くらい気分を変えていこうと思いこの技を繰り出した所、まぁ良い感じに当たってくれた。
しかも女の子がハンマーを振り下ろした所にカウンターに当てたモノだから、女の子は一撃で気絶してしまった。うーん、寸止めしたとは言えやはり少々やり過ぎた感が否めない。
とは言え、相手が殺意を抱きながら挑んでくるなら、此方も相応の対応をさせてもらっただけの事、文句は受け付けてないのでそのつもりで。
そして、その後は浮浪者みたいな外見の男がなんか喚いていたから殴って黙らせ、囚われのお姫様みたいな女の子を解放させた。その際にも金髪の幼女やなんか水着みたいな鎧を着た桜ちゃんが出てきたので、それぞれ紳士的に対応させて戴いた。主に臀部への掌打である。
桜ちゃんは以前みたいに正気を失っていた感じだったから少々強めに、幼女の方は軽く説教するだけに留めておいて後は男への折檻のみである。
というかこの男、幼女の保護者っぽい癖にまるでその責任能力を果たしてないのだ。聞けばこの幼女、ランドセルこそは背負っているのに学校とかには殆んど通っていないみたいなのだ。
魔術云々の前にまず人としてダメダメじゃないか、一人の幼女の将来も守れてない癖に、何が世界の平和だ。へそで茶が沸くわ戯けめ。
何て言ってると男の中から少年が出てきた。一瞬ファッ!? となる自分だが、既に此方は多くの修羅場を潜り抜けてきた猛者(自称)である。落ち着きを装いながら対応していると、少年は感情剥き出しにして捲し立ててくるので、取り敢えず一言だけ言っておいた。
“いや、お前の不幸話なんて知らんから” 的な。
そもそもこの世の中で自分だけが不幸な人生を歩んでると思い込んで悦に浸っているのが気に入らない。誰にだって多少の悲劇的な出来事はあるだろうし、いつ理不尽が降ってるかなんて分からないよ?
でもさ、だからと言って一人の女の子を犠牲にして世界を守るとか、正直良く分からんわー。なに? 小を切り捨てて大を救う的な? アサシンな切嗣さんもそうだけど好きよねーそういうひねくれた解釈。
て言うか、その選択をした時点で自分でもう諦めたって認めているようなものじゃん。そんな諦めた人間に世界を救うとか言われても、説得力が欠如しまくってるわー。
まぁ? なんか地球の地軸が傾いてるっぽいし、卑屈になるのも分かるし、此処まで好き放題した以上ある程度の事はやりますよ? そもそも自分夢を見ているだけだし、その位やりますよ?
そんな訳で、項垂れるじゅ、じゅ……ジュリガン?君を余所に黒い立方体をかめはめ波で消去。美遊ちゃんと呼ばれる少女を士郎の所まで送り、ついでにカードも渡してその場から離脱、人気のない所まで行くとグランゾンを呼び出して大気圏の外へと向かう。
グランゾンの力で地軸を緩やかに戻し、取り敢えず地球が息を吹き返すのを確認すると、自分の夢は其処で終わった。
……冷静に考えると、普通に痛いよな。夢の中とは言え年下の少年に偉そうに説教とか。うん、本当に夢でよかったよ。
夢の中というには凄い臨場感と現実味があったけど………そういうこともあるよね!
こんな夢を見たのも切嗣さんみたいな正義バカと関わった影響かな?
「………英雄王。夜分遅く申し訳ないが、少しいいか?」
「なんだ。巌窟王、我は今先の特異点の映像をBDに移している最中なんだが?」
「お前の臣下、白河修司が奴に取り憑いている魔神によって普通に世界の壁を越えていったのだが………どういう事だ?」
「そのうち帰ってくるから心配するな。我の時もそうだったからな」
「えぇ……」
Δ月γ日
ここカルデアも大分賑わいを取り戻してきた。最初こそはレフの野郎の所為で施設の至る所が破壊され、多くの人材を失いかけたが、後になって立香ちゃんが召喚してくれたお陰で、今では結構な所帯となっている。
英雄王こと王様を筆頭に騎士王ことアーサー王、征服王ことイスカンダル大王、ローマの各皇帝など様々な国のトップがこのカルデアという一つの組織施設に集合していると考えると、色々凄いことに思える。
そんな彼等と対等に接している立香ちゃんは本当に胆の据わった女の子だと思う。時代が時代なら軽く話し掛けただけで不敬罪として打ち首だって有り得そうなのに、ごくごく普通の女子高生のノリで話し掛けてたっけ。
今日もシミュレーターで始祖ロムルスとハイタッチをしてカエサルさんの顔を青くさせてたし、マジで肝っ玉な娘だよホント。
最初はこのカルデアに殆んど拉致に近い形で呼ばれておいて、一方的に巻き込まれただけなのによくこれだけ真摯に受け止めてくれたモノだと感心してしまう。普通なら重い現実に塞ぎ込んで現実から逃げてしまってもおかしくないのに、事実を事実として受け止め、それでも前に進もうとする気概がある。
そんな彼女には魔術師としての才能は殆んどないとメディアさんは言っていた。魔術の才能もなく、人として直向きに努力を続けている彼女に自分もまた勇気付けられる。
多分、そんな彼女がいるから自分達も腐らずに頑張っていられるんだと思う。生き残ったスタッフ達も立香ちゃんに負けじと頑張ろう、みたいなことを聞いた事があるし、人理焼却という前代未聞の困難を前に絶望したりしていない。
三度の特異点を修復した事で、自分を含めたカルデアの全員が自信を抱いているのだと思う。そんな特異点修復も次で四つ目、遂に折り返しまで辿り着くことが出来た。
次の特異点の場所は────ロンドン。イギリスの首都ロンドンだ。
個人的に色んな意味で因縁のある土地、きっと其処でも困難の連続が待ち構えているのだろう。
上等だ。此方も既に士気も意気込みも充分に高まっている。何が待ってようと此方には迎撃の用意がある。
待ってろよ黒幕、お前の顔を拝めるのもそう遠い話じゃない。今の内に首を洗って待っておけ。
◇
「────フン。カルデアめ、漸く第四の特異点まで来たか」
「此処までは順調、奴等にとって快進撃の様だが……無様なモノだ」
「お前達に未来はない。お前達に希望はない。人類に、迎えるべき明日は存在しない」
「その事を、改めて証明してやるとしよう」
「────この、魔術王自らな」
遥かなる時間神殿にて魔術の王は嘲笑する。
Q.ボッチはどうしてプリヤ世界に行ったの?
A.相棒のお節介。修司が知れば気に病む事象を積極的に介入させてあげる気配り上手である。
尚、修司本人は夢と思い込んでいる模様。
Q.今回が初めてなの?
A.元いた世界でも何度かやらかしている為、
次回から第四特異点に突入。
早く第六まで行きたいな~。
それでは次回もまた見てボッチノシ
オマケ
───その男は、突然現れた。なんの前触れもなく、突然彼女達の前に現れた。
「………うそ、なんで?」
「どうして、アンタがここにいるのよ」
それは彼女達にとって有り得ない事であり、信じがたい光景だった。山吹色の胴着というふざけたコスプレ姿を晒しているのに、何故か違和感を感じないその佇まい。
自分達の知る彼とは何処までもかけ離れているのに、その佇まいは何処までも勇ましかった。
「なんで、麻婆のお兄さんがここに?」
「ん? 何で俺、ここにいるんだ? 確か俺はカルデアのベッドで寝てた筈なのに……て、士郎? お前なんか若返ってね?」
「え? え?」
突然現れた自分を知る者に士郎は混乱した。この世界の士郎は目の前の男と出会っていない。そもそも男はこの世界には存在しない人間だ。
知っているのは同じく別世界からやって来た魔法少女達だけ、故に彼女達も驚愕して震えていた。自分達の知る男は色んな意味で異なっている事に。
互いに戸惑い、困惑する中。それは飛来してくる。鋭い風切の音を鳴らし、音を越えた速度で飛来してくる無数の刃。
「あ、危な──」
士郎は背後から押し寄せる殺意の嵐を前に男を押し退けようと駆け出した。名前も知らず、初対面の相手に命を懸ける生粋の偽善者、そんな相変わらずな友人の行動に男は───修司は笑みを浮かべた。
飛来する無数の死の刃、当たれば死は免れないそれらを修司は片手で払い落としていく。児戯の様に、子供騙しのように、降りかかる不条理の刃を更に上を行く理不尽が叩き落としていく。
「───なんだと?」
その光景に黄金の王を模した女は眉を寄せる。有り得ないと、そう信じて疑わない彼女に修司は真っ直ぐ見返した。
「───なんだか良く分からないが、アンタがコイツらの敵だと言うことは良くわかった」
「痴れ者が、王に楯突くか」
「楯突く? バカ言え、王様の真似をして、俺の友達を傷付けて──ただで済むと思うなよ」
見下す偽りの王に修司は気力を解放した。