『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今作のモンハン受付嬢、色々性癖が詰め込み過ぎない?
年上姉な竜人の幼馴染みなんて、軽くぶっ刺さるのだが?

前作の受付嬢大丈夫? 息してる?


その50 第四特異点

 

 

 

 ───十九世紀ロンドン。当時、産業革命の只中にあった都市は排煙と霧に覆われ、昼間も視界が塞がれた煙たい街となっていた。

 

霧の都ロンドン。人理修復の為に訪れた修司達、彼等の前にもやはり霧に覆われた世界が立ち塞がっていた。

 

「ロンドンに到着しました。ですが、これは………」

 

「うっわー、すごい霧。向こうが見えないや、皆から離れると迷っちゃいそう」

 

「先輩、どうか私から離れないで下さいね。この霧………いえ、煙でしょうか? 兎も角凄い濃度です 空に浮かぶ光の輪は確認できていますが、それさえこの霧もしくは排煙のせいではっきりとは───」

 

『空を埋め尽くす程の霧、煙。それ自体は産業革命の頃には珍しくないけど……いや待ってくれ、どうやらただの霧や煙じゃないようだ。こちらでは異常な魔力反応として検出されている。凄い濃度だ! いや、ちょ、これ! 濃すぎない!?』

 

 レイシフト開始から早々にロマニから酷く慌てた通信が入ってくる。どうやらこの霧やら煙にはかなりの濃度の高い魔力が込められている様だ。

 

『まるで大気に魔力が充満しているようだ。大気の組成そのものに魔力が結び付いたクラスだよ! 生体に対して有害な程の密度だよこれ………三人とも、体の調子は大丈夫かい?』

 

密度の濃い魔力は時に人体に悪影響を与える。現地に赴き、モロに影響を受けるだろう三人の安否を気遣うロマニは焦りの感情を圧し殺して冷静さを保ったまま三人に体の様子について訊ねた。

 

「私は問題ありません。デミ・サーヴァントであるからでしょうか」

 

「私もー、特に息ができないとか、お腹が痛くなったりしてないよー?」

 

「俺も、鼻がムズムズする事以外にこれといった自覚症状は出てないな。イッキシ!」

 

「フォーウ」

 

心配するロマニを他所にマシュ、立香、修司は特にこれといった悪影響は受けていない様だった。修司のくしゃみも魔力云々に影響されている訳ではなく、単に煙が鼻についてつい出しただけ、そんな平然としている彼等にロマニは安堵し、また疑問に思った。

 

『おかしい。マシュが平気なのはデミ・サーヴァントのだからという事で納得できるけど、どうして立香ちゃんまで平気なんだ? この霧は有害、通常の人間が吸い込めば命に関わる猛毒だぞ』

 

「え? でも私、本当に何ともないよ? 修司さん見たいにくしゃみも出たりしないし……」

 

「マジかよ立香ちゃん、花粉対策万全じゃないか」

 

『いやそういう次元の話じゃないからね? 普通におかしい事例だからね? でも、うーん………もしかしたら、マシュと融合した英霊の恩恵なのかもしれないな。彼女と融合したサーヴァントには強い毒耐性とか強い祝福のスキルがあって、その加護がマスターにも与えられているのかもだ』

 

 マシュとサーヴァントの契約をした事で得られたと思われる恩恵、どうして藤丸立香は有毒な霧の中にいても平気でいられるのか、不思議でならないロマニだが一先ずそれは後回し、立香に備わっている新たなスキルを毒耐性スキル(仮)と呼称し、いよいよ聖杯探索の第一歩を踏み出す。

 

『兎も角、だ。霧の都ロンドンは魔力の霧に包まれた危険な死の都市と化している。周囲の様子はどうだい。犠牲者は、見掛けられるかい?』

 

「いいえ、ドクター。往来はまったくの無人です。現在時刻は午後二時。ですが、馬車はおろか歩行者さえありません」

 

ロマニの言葉に従い見える範囲で辺りを見渡すが、マシュの言う通り周囲には人一人も見当たらず、ロンドンの街は静寂を保っていた。

 

やはりこの霧が影響しているのか、お昼を過ぎたばかりだと言うのに人気のない街並みに立香達は言葉にできない不気味さを感じた。

 

「んじゃ、この霧消しちまうか」

 

「あ、やっぱりできちゃうんですね」

 

そんな彼女達の不安を払拭する様に修司が前に立つ。腰を落とし、右手を開いて力を貯めた修司は次の瞬間。

 

「ハッ!」

 

眼前に広がる霧と煙を掌打の一撃を以て吹き飛ばしていく。一度のアクションで暴風を引き起こし、蔓延する魔力の霧を吹き飛ばす様は色んな意味で爽快だった。

 

 ロンドンの街が揺れる。風に建物の窓が揺れ、通りに吹き抜ける風の音が奏でていく。すると、今まで霧に覆われていた往来は途端に開かれ、空の雲の切れ端から暖かい日の光が差し込んでくる。

 

「ふわー、なんか素敵な光景!」

 

「凄いです。霧の晴れたロンドンの街がこんなにも美しかったとは……」

 

フォーウ(なんと言う脳筋)!」

 

霧で覆われた街並みが明るみになり、露になった事に立香達は感慨深い気持ちを抱いた。

 

「喜んでくれている所悪いけど、多分これは一時的なものだ。時間を掛ければすぐにまた元の霧に覆われるし、根本的な解決にはならないと思うぞ」

 

『……いや、それでも充分だ。お陰で此方の周囲の感知が格段に楽になった。て言うか修司君、サラリと都市の環境を変えたね』

 

「え? なんか不味かった? 視界が防がれてると奇襲とか遭った時面倒だし、街に影響でないように加減したりして俺なりに気を遣ったつもりなんだけど……?」

 

『だからこそ、なんだよなぁ……どうしよ、最近こういうのに慣れてきている自分が時折酷く怖くなるんだけど……』

 

通信の向こうでロマニが頭を抱えている。確かに修司の言う通り視界の阻まれたこの霧の街では奇襲に遭遇した時対処するのが遅れるかもしれない、その原因となるのがこの霧と煙であるのなら、吹き飛ばすのが一番手っ取り早いだろう。

 

修司の目論みは間違っていない、間違っていないのだが………出来るかどうかはまた別の問題だ。都市の一部を覆っていた霧を吹き飛ばし、街の環境を一変させてしまった。唯の、なんの魔術も施されていない腕の一振りで。

 

明らかに修司の膂力が前より数段上がっている。前回の特異点での死闘を経て、強くなった修司にロマニは色んな意味で頭を抱えたくなった。

 

「ロマニ、こういうのは多分気にしたら負けだと思うよー?」

 

「そうですよドクター、私はもう諦めました」

 

『あ、うん。なんかごめん』

 

「?」

 

修司のやる事為す事に対して既に達観の域にまでいる二人、そんな彼女達を申し訳なく思いつつ、ロマニはスタッフ達と共に周辺への索敵をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………霧、濃くなってきましたね」

 

 修司の掌打によってロンドンを覆っていた霧と排煙を吹き飛ばし、視界が開けたのも束の間、三人は再び霧の中へと包まれていた。

 

その間の道中はお陰で予期せぬ奇襲に遇うことはなく、襲ってくる敵を順調に対処できており、その甲斐あって現段階において三人全員が無傷でいられている。

 

「どうする? 今度はもう少し強めにやっておくか?」

 

『いや、それは今は止めておこう。建物に立て籠っている人達がいる以上、無闇に力を奮うのは危険だ』

 

鬱陶しく思いながら視界を覆ってくる霧をもう一度吹き飛ばそうか提案する修司だが、ロマニはそれをストップさせる。確かに修司の極めて脳筋なやり方のお陰で最初の探索にしては上手くいったが、それはロンドンの街に人がいないことを前提としてのモノだった。

 

今、ロマニを初めとしたカルデアスタッフ達の解析により厄介な状況であることが判明している。霧と煙に覆われたロンドン、人気もなく無人化された街かと思われたソレは実は多くの人々が街に避難してるという事実。

 

何故人々がロンドンから逃げられずに街にいるのか、殺人的に濃い魔力の霧や排煙だけではない、明確な殺意を持った殺戮の敵が街の至る所に跋扈しているからだ。

 

 自動人形(オートマタ)、ホムンクルス、そして詳細不明な謎のロボット。これまでのキメラや竜種とは違う人工的に生み出された敵、その力はサーヴァント程でないにしろ一般市民に脅威的である事には変わりなく、奴等の所為で人々は建物の中へ引きこもっている事は容易に想像できた。

 

魔力の濃い霧と煙、そして自動人形を初めとした敵性エネミーの所為で街の人々は外に出てこられないでいるのだ。

 

そんな彼等がいる街で好き勝手に暴れる訳にはいかない、少なくともかめはめ波等の放出系統の技の使用は控えるべきだろう。

 

「でも、本当に凄いねこのロボット。どうやったらこんな大きいのが動かせられるんだろ」

 

「───俺の所の会社も一応似たようなロボットは作られているが、ここまで重厚さはなかったな」

 

「それは、修司さんが勤めている宇宙開発部門の話……ですか?」

 

襲ってきたエネミーを見下ろしながら呟いた一言がマシュの耳に届いたらしい、見れば立香の方も興味津々と言った様子だ。

 

「まぁね。宇宙の環境は人間にとって未知の世界であると同時に危険な所でもあるからね。一応俺達人間でも真空空間で活動できる宇宙服を作ったりしているけど、それでも出来ることに限りがあるからね。そんな人間達を支援するためのロボット、そんなコンセプトで作ったりしているよ」

 

 尤も、作っているのはロボットでも巨大ロボットなんだけどね。しかもMでSな人型ロボット、勿論タチ◯コマ的な支援ロボットも手掛けているし、何なら宇宙を往く為の艦船も絶賛造船中である。

 

(本当なら今頃、外宇宙航行艦が完成している頃なんだよなぁ)

 

本来なら今頃、完成した船を稼働させて火星辺りに飛んでいた筈なのにその予定が大きく狂ってしまった。修司の脳裏に浮かぶ元の世界でのやり残し、そんな自分のやるべき事を根っこから燃やしてくれた黒幕はやはり許せないと、修司は一層怒りを募らせる。

 

 と、そんな時だ。倒れて動けなくなったロボットを眺めている立香の後ろに何者かの影が迫っていて、その両手には鋭い刃の短剣が握られている。

 

自分やマシュにではなく、真っ直ぐに立香を狙って直進する影に……マシュが立ち塞がった。

 

盾と剣が衝突し、辺りに甲高い音が響き渡る。衝撃は周囲の空気を震わせ、近くにあった建物の窓を揺らしていく。

 

「ご無事ですかマスター!」

 

「大丈夫! ありがとうマシュ!」

 

自分の命に刃が向けられた。その事にゾッと恐怖を覚える立香だが、今はソレ以上の衝撃に襲われている。

 

───子供だ。自分の命を狙ったものの正体、その姿に藤丸立香は目を大きく見開いた。自分よりもずっと小さく、ずっと華奢な女の子。そんな幼い少女が妖しく煌めく刃を手にして楽しそうに笑ってる。

 

「あはは、防がれちゃった。防がれちゃったね。凄いねお姉さん。この霧の中で、わたしたち(・・・・・)の霧の中で平気でいられるなんて……もしかしてサーヴァント(私たちと同じ)?」

 

「───あなたはサーヴァントなのですね。この時代の人間(・・・・・・・)、であるのが本来は正しいはずですが。───ジャックザ・リッパー。十九世紀末のロンドン市街で数多くの女性を殺害した事のみならず、全ての被害者を解体(・・)しロンドン警視庁に挑戦を叩き付けた伝説の殺人鬼。当時の英国、いいえ、欧州全土を席巻した恐怖の象徴」

 

(……もしかしてマシュちゃん、ミステリー小説とか好きだったりするのかな?)

 

 目の前の幼い少女があの伝説の殺人鬼であるジャック・ザリッパーなのも驚きだが、いつもより饒舌且つテンション高めに語るマシュに修司は驚いた。

 

そんなマシュに今度某探偵漫画を二つ程紹介してみよう。そう思いながら二人の前に立つ修司は殺意を漲らせる幼きジャック(殺人鬼)の前に立ち塞がった。

 

「? なぁに? お兄さん。私たちに何か用?」

 

「あぁ、ちょっと君に幾つか聞きたい事があってね。さっき君はわたしたちの霧って言っていたけど、それがどういう意味なのか聞きたくてね。もしかしてこの霧は君の宝具によるものなのかな?」

 

「うーん。教えてもいいのかなぁ? いいよね。うん、そうだよ。この霧は私たちが作り出した霧なの、でも少し前に剥がされちゃって、ついさっき張り直したの。……ねぇ、もしかしてさっき吹いたすごい風、あれってお兄さんがやったの?」

 

「そうだと言ったら?」

 

「アハハ! そんなの勿論────殺すね」

 

 瞬間、殺人鬼は修司の背後に回っていた。霧の中に紛れての強襲、ほんの僅かな瞬きの間に見せる俊敏性にマシュと立香は目を見開いた。

 

ダメだ。逃げろ。そう叫ぶ立香達が行動するよりも速く、殺人鬼の凶刃は修司の首筋へと放たれ───る事はなかった。

 

「え?」

 

まるでない手応え。振り抜いた刃は空を切り、ジャックの視界に映るのは何処までも続く霧の中。修司は何処へ消えたのか、困惑する少女が辺りを見渡した時。

 

「人に刃を向ける悪い子には────お仕置きが必要だな」

 

「っ!?」

 

「これで、頭を冷やすといい」

 

 瞬間、振り抜いた修司の掌がジャックの臀部に直撃、弾けるような音と共に上げる悲鳴がロンドンの街に響き渡った。

 

 

 

 

 

「え? なに今の音と悲鳴、こわ」

 

突然聞こえた悲鳴と音に赤雷の騎士はビクリと肩を震わせた。

 

 

 

 




Q.ジャックちゃんは生きてるの?

A.生きてます。

Q.この様子も随時カルデアでも観測されてるの?

A.されてます。ですので、一部のサーヴァントから結構引かれてます(笑)

アタランテ辺りは憤慨してるかも?

それでは次回もまた見てボッチノシ


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