『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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古戦場、お疲れさまでした。




その51 第四特異点

 

 

 

「───逃げたか」

 

 視界を覆う霧の中、確かな手応えを感じた修司は霧の向こうへ吹っ飛んだ襲撃者を睨む。

 

有無を言わさず襲ってきた襲撃者、ロンドンの殺人鬼ことジャックザ・リッパーは修司の一撃を受けてどうやら撤退を選んだようだ。消えてなくなった気配、恐らくは霊体化とやらで離脱したらしい事に修司は周囲への感知を張り巡らせながら残心を解く。

 

振り抜いた手の感触から多少のダメージは与えた筈、当分の間は襲ってこない事を確信した修司は改めて立香達へ向き直る。

 

「よし、どうやら追い払えた様だ。二人とも怪我は………て、どうしたのそんな苦虫を噛み潰した顔をして」

 

「いやぁ、その……何て言いましょうか。助けて貰ってばかりいる私が言うのもなんですが」

 

「ちょっと……事案かなぁ、って思っちゃって」

 

『うん、本当に僕達が言える事じゃないんだけど、端から見た今の修司君、結構ヤバかったよ?』

 

「いや、だって仕方ないじゃん。咄嗟の事だし、相手一応女の子だし、なんかちっこいし、いきなり顔にグーパンするのもアレだし」

 

 ロンドンの殺人鬼、ジャックザ・リッパーはその見た目こそ幼い少女だが、その本質は紛れもなく殺人鬼のソレである。立香とマシュ、並びにロマニの言動こそがこの場に限って言えば異端である。

 

ただ、そんな見た目な幼女であるジャックに尻叩きを叩き込むのもまた異端である事に変わりはないのだが。

 

『と、兎も角今はその話は止めよう。それよりも八時の方向から魔力反応がある。サーヴァントだよ』

 

言われて振り向けば、其処には重厚な鎧を身に纏う一人の騎士がいた。荒々しくも何処か洗練さのある騎士、そんな彼女(・・)はその外見からは凡そ似合わない言葉を口にする。

 

「あ、あー。ごほん、今先ほど此処から少女の悲鳴………というより、断末魔みたいな叫び声が聞こえてきたのだが、君達、何か心当たりあるかね?」

 

本来なら男勝りな口調の筈なのにどうしてか丁寧な言葉遣いの女騎士。恐らくは慣れていないのだろう、それでも相手を刺激しないように言葉を選ぶその様子は何処か職務質問をしてくる警官の様であった。

 

立香とマシュ、ついでにロマニの視線が修司に向けられる。そんな彼女達の視線に習って女騎士も目を向けると………。

 

また(・・)テメェかぁ!! いい加減にしやがれこのクソボッチ!!」

 

「いきなりなんだこの野郎!!」

 

いきなり鬼気迫る勢いで罵詈雑言浴びせてくる女騎士に修司もまた狼狽えながら言い返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程、カルデア。君達はそこからこの怪奇現象を何とかするためにやって来たと、そういう事でいいのかな?」

 

「はい。概ねその認識で合っているかと。そして……拠点の提供有り難うございます。ジキルさん」

 

「モーさんもありがとう、助かったよ!」

 

「礼はいい───て、ちょっとまて、モーさんて俺の事? 何で出会って一時間足らずに愉快な渾名付けられてんの俺?」

 

「えー、ダメ? 可愛いし呼びやすいんだけど……」

 

「ダメっていうか………はぁ、もう何でも好きに呼べや」

 

 女騎士といきなりな応酬を繰り広げたあと、ややあって彼女の協力者とされる人物の自室まで案内された一向は、そこにカルデアとの繋がり───即ちターミナルポイントを確立し、部屋の主であるヘンリー=ジキルと情報の擦り合わせを行っていた。

 

「それで、さっきの物凄い突風を起こしたのが其処のシュウジ氏という訳か」

 

「修司でいいよ。それに、悪かったな変に希望を持たせてしまったみたいで」

 

「なに、そこまで気にする必要はないさ。久し振りの空が見えただけでも満足しているし、何よりあの霧が晴れるという事実を知っただけでも儲けものさ。このロンドンが霧に包まれて三日経つ、君の行いはぬか喜び以上の意味合いを持っている」

 

「本当なら根刮ぎから霧を吹っ飛ばしてもいいが、それだとこの街も唯じゃ済まないからな。次はもっと長期間晴れるように工夫してみるよ」

 

「う、うん。そうか」

 

 

この特異点に来て、そうそうに修司が行った振る舞いは既に多方面に影響を与えていたようだ。三日前に突然発生した謎の霧、魔力を含んだその霧は多くの人々の命を脅かし、今も辛い外界との接触を断たれた隔離生活を強いられている。

 

ロンドンの街を覆う魔力の霧、その濃い魔力濃度により人体に悪影響をもたらし、その濃度がより濃い所では一時間も掛からずに人を死に至らしめるという。

 

その霧が一時的に晴れた。それが自然的に起こったモノではなく、人為的のモノであると知った時は驚いたが、それでもヘンリーは多少気が晴れたと喜んだ。

 

しかし、そんな晴れ渡ったロンドンの空を見ても人々は建物から出てこないし、その理由も修司達は知っている。人を見るなり襲ってくる自動人形やホムンクルス、そして不明の怪機械(ヘルタースケルター)

 

奴等の存在を知るロンドン市民達は一度は街からの脱出を試みたが、結局は踏みとどまってしまい、結果的にはそれで生存に繋がっている。

 

やはり霧を吹き飛ばすだけで問題を解決するには至らない。早急な原因の究明と解決を求められる事になった一行は休憩もそこそこに探索を続けようとした。

 

「さて、これからどうする? 街に出て探索を続けるのは構わないがこの霧だ。要所要所で吹き飛ばしはするけど、それでも何の宛もなく出歩くのは得策ではないと思うけど?」

 

「あぁ、それなら一つ君達に頼みたいことがあるんだ─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、ヘンリーさんの友達のヴィクターさんって所に向かうことになった訳なんだけど………もーエルメロイさん、そんな嫌そうな顔をしないで下さいよ」

 

 特異点の元凶となる聖杯を見つけ出すため、一先ずヘンリー=ジキルのお使いを頼まれる事になった一行、道中襲いかかる敵を駆逐しながら突き進む彼等の傍らで立香は肩を落とすロード・エルメロイⅡ世に声を掛ける。

 

「くそ、英雄王め、たかだかじゃんけんに千里眼を使うなんて汚いぞ。彼女も彼女だ! 手を出す瞬間に手の形を変えるなんて器用な真似をしおってからに、お前達の問題児だろうが! あぁ、何故私がこんな目に………」

 

ヘンリーの所でカルデアとの繋がりを強固にした一行はその繋がりの力を以てカルデアにいるサーヴァント達に呼び掛けを行った。土地勘に明るく、支援に秀でたサポート重視のサーヴァントを。

 

結果、選ばれたのは現代のロンドンの時計塔に在籍するロードの称号を持つエルメロイⅡ世、そんな彼が召喚される迄の間、とある英雄王と聖女による熾烈な戦い(じゃんけん)があった事を彼等は知らない。

 

『Mr.エルメロイはロンドンに住んでいるからね。土地勘はあるだろうし、何より彼に力を貸している英霊の力は凄まじい。この見通しの悪い霧の中で彼の宝具は立香ちゃん達を守ってくれるよ』

 

「はい。かの諸葛亮孔明の宝具は持ち歩きの出来る工房だと、既にエルメロイ先生から聞き及んでおります。私も盾を持つ身としてとても頼りにしています」

 

「Ms.マシュ、何度も言うがⅡ世を付けるのを忘れないでくれ、それにあくまで私の宝具は借り物だ。故に絶対では無いことを肝に命じておいてくれ」

 

 眼鏡をかけ直し、致し方ないと割り切る事にしたロード・エルメロイⅡ世は溜め息を吐きながら意識を切り替える。

 

そんな彼を尻目に立香は先導する女騎士───モードレッドに質問する。

 

「あ、そうだ。モーさんに聞きたいことがあったんだ」

 

「あ? 俺?」

 

「うん、モーさんってさ、修司さんと知り合いなの? ほら、初対面の時さ」

 

「………あー、俺ってばそんな事言ったっけ?」

 

「あ、はい。一応私も記憶しています」

 

マシュと立香が思い返すのは最初にモードレッドと遭遇した時の事、あの時確かにモードレッドは修司を指差して言った。またか、と。

 

モードレッドと修司は以前にも顔を合わせている? 立香は単純に好奇心で、静かに見守るロマニは敢えて口を挟まずにモードレッドの反応を待っている。

 

そんな彼等に返ってきた言葉は………。

 

「───さぁな。もしかしたら、円卓の誰かと勘違いしたのかもしれないな」

 

「え、円卓の中に修司さんの様な方が?」

 

「マジで? 大丈夫なのブリテンの円卓は」

 

「立香ちゃん、それどういう意味かな? いい加減にしないと俺、そろそろ泣くよ?」

 

『因みに、修司君の方は何か覚えてたりしないのかい?』

 

「いや全く、これっぽっちも心当たりがない」

 

 モードレッドの応えに何だかはぐらかされた気持ちになる立香達、対して修司に何か覚えてないかと訊ねるも、此方も全く知らないと返してくる。しかもモードレッドと違い此方は本当に覚えがないようだ。

 

腕を組んで思い出そうとする修司にモードレッドは目を細くさせる。

 

 

 

 

 

 

 

『───テメェ、いきなり現れるなりぶん殴ってくるとは、いい度胸だな! このモードレッドに歯向かって、唯で済むと思うなよ!』

 

『ごたくはいい、掛かってこいよ三下。自分よりも弱い相手にしか吠えられねぇ犬に格の違いって奴を教えてやる』

 

『待て、待ってくれシュウジ! 貴方はこの戦いに無関係な人間の筈だ! 俺なんかの為に命を掛けようとしないでくれ!』

 

『───それは違うぞジーク君。夢の中とはいえ、君と俺は友達だ。そんな友達を助けたい、そう思うのは人間として当たり前の事なんだよ』

 

『なんで、どうしてそこまで………』

 

『───誰かを助けたいと思うのに、理由は必要か?』

 

 

 

 

 

 

 

「───ったく、つくづくムカつく野郎だよテメェは」

 

「え、いきなりなに?」

 

 突然悪態を吐き出すモードレッドに修司は訝しむ。

 

「二人とも、口論はあとにしたまえ───来るぞ」

 

「オラ、キャスターのご命令だ。精々遅れんなよ、修司!」

 

「あいよ」

 

 脳裏に浮かぶのは嘗て自身が体験したと思われる記憶。記録としてではなく、実体験として刻まれているモードレッドが覚えている光景。

 

赤い雷を纏う自分と、赤い炎を纏う修司。嘗て対面として目にした光景が今は自身の横にいることに何だか面白いと思ったモードレッドはその顔に笑みを浮かべながら襲い来る敵勢力を薙ぎ倒していった。

 

 

 

 




Q.ボッチはアポ時空に来たの?

A.来ました。尚、本人は夢だと思っている為、記憶を忘却の彼方に消し飛ばしている為、思い出すことは(多分)ないです。

因みに陣営は何処にも所属しておらず、ジーク君とはとあるお爺さんの家でたまさか一緒にお世話になっていた間柄です。

その後、ジーク君の生い立ちやら聖杯大戦の事を知って武力介入を開始、相変わらず好き勝手暴れた為に某神父と女帝、他にも某聖女やユグなんたら一族の長はそれはそれは激昂したり辟易したりしたとかしなかったとか。(笑)

 そして、某インドの大英雄と戦ったときは一部地図の書き換えが必要になったとか。(笑)

それでは次回もまた見てボッチノシ


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