『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回は勘違い要素が若干含まれてます。


遂に、遂にライスシャワーが来てくれた!

これで自分もお兄様だ!!


その53 第四特異点

 

 

 

「人を襲う本?」

 

 ヴィクター博士の忘れ形見、フランケンシュタイン改めて通称フランを無事にジキルのアパルトメントまで送り届けた修司達一行は其処で彼が新たに入手したとされる情報に目を丸くさせていた。

 

「あぁ、何でもソーホーエリアで人間サイズの本が建物に押し入ってまで襲っているという情報が出回っていね、事の詳細を確かめるべく君達にもう一度調査を依頼したいんだ」

 

「それは別に構わないんだけど……人を襲う本、かぁ。ねぇエルメロイ先生、そういうのって本当にあるの?」

 

「確かに魔術書の中にはそう言ったトラップ式の本もあるとされているが………人を積極的に襲う魔術書なんてものは聞いたことがないな」

 

 魔術とは神秘より生まれ、また神秘は秘匿するもの。基本的に魔術を人の目に晒すことはご法度とされる魔術の界隈にて進んで晒そうとする魔術師は存在しない。

 

故に魔術の秘められた魔術書も他者に読み解かれない為の細工を施してあるモノが幾つか存在している。読んだ者の記憶を消すモノから、本に取り込まれる凶悪な代物まで神秘を秘匿する役割として多種多様に存在している。

 

そんな中で率先して人を襲う本というのは魔術師のルールに明確に反していると言えるだろう。故に今回の事件はサーヴァントに類するものだとロード・エルメロイⅡ世は結論付ける。

 

「とは言え、これはあくまで仮説に過ぎん。何はともあれ、直接確かめるしか有益な情報を得られはしないだろう」

 

「しゃーねぇか。んじゃ、もう一度外へ行くとしますか。フラン、大人しくしてるんだぞ」

 

「またねフラン」

 

「………ゥ………」

 

 ジキルの語る情報に何処まで信憑性があるか分からないし、これが魔霧計画に繋がる事になるかなんて定かではない。どちらにせよ、屋内で避難している市民達を襲っている以上、本と言えど放っては置けない。アパルメントに到着して休憩もそこそこにして、修司達はソーホーエリアに出没されると言われる………通称魔本の調査に乗り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人を襲うデカイ本、魔本ねぇ。俺の頃のブリテンにはいなかった類いの怪物だな」

 

「あなたの生前のブリテンというと………円卓の騎士の時代に怪物が存在していたんですか?」

 

 霧に包まれたロンドンの街を一塊になって進む一団、道中出くわす自動人形を蹴散らしながらソーホーエリアを目指していると、モードレッドはふとそんな事を口にした。

 

「そりゃあいたさ。円卓の騎士ってのはドラゴンや巨人とも戦ってんだぜ。深い森や険しい山、突風の絶えない断崖。人の立ち入らない領域ってのは格好の幻想種の巣だ。たまに人里に降りたりもするけどな。で、まぁ、ただの人間じゃ大抵の場合は餌になる」

 

「え、餌………ですか」

 

「魔獣、幻獣、竜種が相手じゃ並の兵は戦うだけ無駄だ。お前らの時代の兵器でも大概は通用しない。ただし、例外はある。ブリテンの場合は───円卓の騎士(俺たち)だ」

 

「つまり、円卓の騎士はハンターだった?」

 

『成る程』

 

「おいやめろ。誉れある騎士達をモンハンに例えるな」

 

「いやなんでエルメロイ先生が知ってるんです?」

 

「…………」

 

「す、スミマセンモードレッドさん。続きを」

 

 折角人が嘗てのブリテンに関して話をしているのにゲームで例えてくる男共にモードレッドの額に青筋が浮かぶ。

 

そんなモードレッドに平謝るマシュ、彼女に免じて怒りを納めたロンディニウムの騎士は深いため息を吐き出すと共に続きを口にした。

 

「で、俺達はそんな怪物達を相手にそれなりに戦って、それなりの数を殺したぜ? 幻想種との戦闘ってのはなかなかこれで───あぁ、あとアレだ。アレ。ピクト人」

 

「私達の時代では謎に包まれた人々ですね。嘗て、スコットランドを中心に繁栄した部族だとか」

 

「いや、人々って言うかあれは………うーん………アレは、もう、部族とか蛮族とか、そういう次元のものじゃなかったような……」

 

反逆の騎士と呼ばれるには些か歯切れの悪い物言いをするモードレッド、言い方に悩んでいるというより表現する言葉そのものを悩んでいるように頭を捻っている。

 

「そうだなぁ、お前らの時代に合わせるとなんて言うんだろう? SF映画、とかに出て来そうな感じだったぞ? エイリアン? とか、そういう感じ。あぁ、そういう感じだ」

 

そして漸く思い付いた言葉を捻り出せてご満悦となるモードレッド、嘗て戦ったとされるピクト人がSF映画に出てくるエイリアンに似ていると言い放つ反逆の騎士。それが彼女なりの冗談だと察した一行は二人を除いて朗らかに対応した。

 

言い出した本人は至って真面目なのに冗談扱いにされてやや不満気味なご様子、対して修司とエルメロイⅡ世は神妙な面持ちで考え込んでいた。

 

「なぁ、エルメロイ先生。モードレッドが言ってたピクト人って………」

 

「………今は考えても仕方のない事だ。修司、お前もこの件に関しては今は考えるな。私も忘れる。ただ一つ言えることはお前が嘗て倒したとされる他の星からの侵略者とは恐らく無関係だ」

 

 ピクト人がエイリアン(宇宙人)と聞いて修司が最初に思い出したのは以前相棒と共に戦った他惑星からの侵略者だった。

 

水星、金星、火星、木星、土星、天王星、海王星、そして冥王星。数えること8つの星々から現れる巨大敵性物体はいずれにせよ地球に住まう人類に対して敵対行動を示してきた。

 

当時は相棒の縮退砲をブッパして即座に撃滅して見せたが、今になって思うとアレは外宇宙からの侵略兵器だったのかもしれないし、ピクト人はその尖兵だったのかもしれない。

 

となると、当時の円卓の騎士はもしかしたらそんな侵略者から人々を守る当時の人類最後の守護者だったのかもしれない。最終的には内輪揉めで終焉を迎えた罰ゲーム染みたしょうもない連中だと思っていたが………もしかしたら、考えを改めるべきなのかもしれない。

 

まぁ、そんな事はないわけなのだが。

 

「モードレッド」

 

「あ? なんだよ」

 

「戻ったら、美味い飯でも食わせてやるよ」

 

「は?」

 

 事実はどうあれ、嘗て誰かの為に戦った事に変わりはない。反逆の騎士だろうとそれは同じ、故に修司は一時の合間だけ、モードレッドを優しくしてやろうと決めるのだった。

 

フォフォ、フォウフォフォーウ(物凄いすれ違いを見た気がする)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────そして、その後再び自動人形と遭遇して蹴散らしたり、ちょっとしたすれ違いからマシュとモードレッドが戦ったりするなどちょっとしたハプニングはあったモノの、ジキルからの無線通信による情報追加もあり、魔本の新たな危険性を認識した一行はその情報提供者の下へ訪れた。

 

そこはとある古書店の一角、本に囲まれた空間の部屋で彼はいた。

 

「………ふむ、漸くというには些か早いな。暇潰しに読んでいた小説を十三冊程度、時間潰しには丁度良い時間か」

 

「え? ………子供?」

 

「いや、ただの子供じゃないな。この気配から恐らくはサーヴァント、アンタが情報の提供者で間違いないか?」

 

「話の流れで理解しろ。此処までの展開の流れで俺がその人物だと理解するには充分な要素だと思うが?」

 

「さてな。生憎今のこの街は良からぬ輩が良からぬ事を企んでいる権謀術数の只中にあるようなのでな。そちらが此方を騙している可能性も否めん、何事も確認という行為は大事だぞ? 急を要する場面でなら特にな」

 

「ほう? 中々に弁の立つ者がいるらしい。安心したぞ、そこの猪騎士のようにいきなり喧嘩腰でこられたら困る所だった」

 

「あぁ? テメェ、なにいきなり俺に喧嘩売ってんだ? 良いぜ、言い値で買い取ってやるよ」

 

「モーさん、抑えて抑えて」

 

 本の山の中で修司達を待っていたのは眼鏡を掛けた年端もいかない少年だった。少年と呼ぶには剰りにも大胆不敵で、幼いというには何処までも舌が回るその口調はモードレッドを苛つかせるのに充分な威力を秘めている。

 

「そこの性根の拗れた魔術師に免じて名乗ってやろう。俺の名はハンス=クリスチャン=アンデルセン、ただのしがない作家でお前達に救援をだしたものだ」

 

「え、えぇぇぇぇっ!?」

 

「お嬢さん。いきなりの大声は勘弁してくれ、奴が来るぞ」

 

世界三大作家の一人、アンデルセン。マッチ売りの少女や人魚姫の作品で知られる世界的に名前の知られた作家だ。しかもどうやらマシュはそんなアンデルセンの大ファンらしくその目をキラキラと輝かせながら青毛の少年を見つめている。

 

そんなマシュの純粋な眼差しにアンデルセンは慣れてないのか、そっぽを向きながら奴が来ると応える。マシュが自分の迂闊さに我に返るのと同じタイミングで、それは突然彼等の頭上から現れた。

 

 人一人を呑み込んであまりある大きな本、魔本の登場に反応したのは紫雷を纏う反逆の騎士と白い炎を纏う山吹色の男だった。

 

「合わせろや修司!」

 

「応!」

 

振り抜かれる銀線と拳、直撃は当たらなくても風圧により魔本は屋根を突き破って屋外へ弾き飛ばされていく。見失ってはならないと修司とモードレッドは魔本の後を追って穴となった天井を通り共に屋外へ出る。

 

 その後も攻撃を加えようと二人で協力して果敢に攻めるが───おかしな手応えだった。まるで分厚い何かに阻まれたかのような感触、一度止まって隣を見ればモードレッドも似たようなモノだったのか、その表情を苦々しく歪めている。

 

魔本は未だに自分達の頭上でフワフワと浮かんでいる。このままでは埒が明かないと修司はここで勝負に出る。

 

「どうやら向こうは普通の相手じゃないようだ。仕方ない、ここは俺がやるしかないか。ドクター!」

 

『今此方で計算が終わったよ! そこからの角度なら街や建物に被害は出ない。やっちゃえ修司君!』

 

「よっし!」

 

 ロマニからの許可を得て、街に被害が出ないことを確認した修司は両手を腰に持って来て力を溜める。

 

「ちょ、お前マジか!?」

 

両手の間に現れる光、それは周囲の霧を吹き飛ばし、余波を察したモードレッドが兜を被った。

 

そして───。

 

「かめはめ───波ァッ!!」

 

溜めに溜めた一撃は魔本の無意識に展開している固有結界ごと呑み込み、霧に覆われたロンドンの空に風穴を空けた。

 

そして、名前も知らない本は幸か不幸か自我を持つことも、誰かを死なせたり、苦しませたりせずに光の中へと消えていった。

 

「固有結界ごと消滅させたか。全く、強引な奴もいたものだ」

 

その様子を見て偉大な作家は呟く。

 

「さようならだ。誰かの為の物語(ナーサリーライム)、もし次があるのなら………誰かに愛される物語でありますように」

 

 静かに呟く作家の目には円形に広がる青空を映していた。

 

そして、ソーホーエリアで魔本によって眠らされていた事件もこれで一先ず終幕となり、古書店の所有者が目を醒ます前に天井を直し後片付けを済ませた一行は再びジキルのアパルトメントを目指す。

 

誰も欠けることなく目的を果たし、魔本も無事に討伐し、アンデルセンという貴重なサーヴァントも確保できた。後は無事に帰るだけだと修司達は古書店を後にしようとするが。

 

「………おい、なんのつもりだこれは?」

 

「ん? どうかしたか?」

 

意外にもその歩みはアンデルセン本人から止められる。

 

「どうかしたか、ではない! 何故俺がお前に背負われなければならないのだ!?」

 

 酷く憤慨した様子で抗議してくるアンデルセン、そんな彼は現在修司の背中に赤子のように背負われている。しかもご丁寧に布を使った背負い袋を作っての運搬である。

 

確かにアンデルセンは外見こそ少年だが、中身は歴とした成人した男性。イスカンダル大王の幼体(アレキサンダー)とは異なり大人の紳士然とした人間である。

 

それがまるで赤子のように背負われている。しかも男に。はっきり言って地獄である。

 

「え? けどアンデルセン先生は肉体労働が不向きだって言ってたじゃん? マトモに戦闘できないって自負している先生が一人でこの街を歩くのは危険だと思うけど?」

 

「だから、だからと言ってこれはないだろ!? 確かに俺は基本的に幼い外見だが、中身までそうではないのだ! いい歳した男が野郎に背負われるとかどんな拷問だ!?」

 

「大丈夫、介護みたいなモンだし、俺気にしてないよ?」

 

「俺が気にしてると言ってるんだヴァカが!」

 

「ぷっ、クク………良いじゃねぇか作家の先生よォ、俺は賛成だぜ? ククク………アーハッハッハ!! ダメだ、俺、もう我慢出来ねぇ!!」

 

 ここまでアンデルセンに弄られ、揶揄されてきたモードレッドはアンデルセンの格好に遂に笑いのダムが決壊してしまった。

 

見れば立香やエルメロイⅡ世も目線を逸らして笑っている。マシュだけは吹き出してはならないよう耐えてはいるが、笑いを堪えるために変顔を晒してしまっている。

 

「おいお前ら、嗤うなんて失礼だぞ。アンデルセン先生は戦闘には向かないんだ。だったら、俺達がフォローしてやるのが筋ってモンだろ」

 

皆が笑っている中、修司だけは唯一真顔を崩さないでいる。戦闘には役に立たないと豪語するアンデルセン、そんな彼を守るためにジキルのアパルトメントまで連れていくと言ったのは修司だ。

 

彼には一切ふざけた様子はなく、アンデルセンの為に努力は惜しまないと口にする修司にアンデルセン本人も了承した。

 

 その結果がこれである。………いや予想できるかこんなの。

 

「分かった。分かったから此方を向くな。その格好で真顔を向けられたら───プスーーッ!!」

 

『き、君達、いい加減にしないか! 修司君は至って真面目に………ブフゥッ!』

 

 遂に通信の向こうでカルデアの面々から笑い声が漏れてくる。全ては自身の怠惰がもたらした自業自得、しかしそれでもどうか言わせてくれ。

 

「殺せぇ、いっそ殺せよぉ」

 

初めて体験する羞恥にアンデルセンの顔は耳まで真っ赤になっていたという。

 

 

 

 

 

 

 




次回、錬金術師

フルメタルなニーサンじゃないよ。

それでは次回もまた見てボッチノシ







修司の知人or友人。

遠坂凛。

八極拳における修司の姉弟子であり魔術における士郎の師匠。

拠点を冬木に置いて現在ロンドンを始めとした世界各地で活躍しており、宝石魔術師として日夜修行に励んでいる。

その一方で持ち前の“うっかり”で危機に陥り、その度に修司や士郎に助けを求める困ったさん。同じ八極拳を修めている弟弟子の修司を何かと顎で使おうとしてくるが、その度に料金請求をして返り討ちにしている。

色々と手の掛かる相手だが、同じ師を持つ同門でありクラスメイトでもあるから、なんだかんだ困った時は助けるのが白河修司なのである。

 聖杯戦争の後は妹とも和解し、所属も時計塔から某大手企業に移籍した為、忙しい毎日を送る分それに見合った利益も得ている為、なんだかんだ人生を楽しんでいる模様。

只し、ルヴィアとはやはり致命的に合わないのか、顔を合わせる度に乱闘している模様。これに関しては修司も士郎、慎二もノータッチである。

「私の思っていた日常とは少し違うけど、これはこれで悪くないわね」

「あと………妹を助けてくれて、ありがとね。私じゃきっと、あんな風に未来を掴めなかったから───うん。本当にありがとう」


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