『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回、ボッチの出番は控え目




その56 第四特異点

 

 

『マキリ、マキリだって!? 確かそれは───』

 

「聖杯戦争を形作った御三家の一つだな。アインツベルンや遠坂と同じ、私達の時代から五百年程前から存在していると言われている」

 

「ご、五百年前!? 一世紀が百年だからえーっと……江戸時代辺り!?」

 

「江戸時代は十七世紀です先輩! 恐らくは十五世紀、戦国時代の始まりの頃かと思われます!」

 

『立香ちゃんェ……』

 

『これは、帰ってきたら補習かな?』

 

「うひぃ!? やぶ蛇だった!?」

 

 マキリと聞いてロマニは驚愕し、エルメロイⅡ世は驚きながらも納得した。魔霧計画。その名の通りこの計画にマキリの魔術師が関与しているなら、聖杯戦争を熟知しているだろうし、それを利用しての災厄を生み出すのも訳はない。

 

そして、マキリが主導として計画を動かしているなら………恐らくはこのロンドンにもあるのだろう、冬木と同じ聖杯戦争の土台とも言えるアレの存在が。

 

白河修司の口振りからして、恐らくは彼自身も気付いているのだろう。今回の特異点の中心にいる者の正体が。だからこそ、自分達の前に立っているこの男は滲み出てくる怒りを必死に抑えているのだ。

 

 そう、白河修司は怒っている。嘗て自身の両親の命を奪い、故郷を焼いた聖杯戦争。それを生み出した元凶たる御三家の所業を修司は未だに許してはいない。

 

万能の願望器等と銘打って、イタズラに血を流して聖杯戦争を歪め、その果てに多くの悲劇を生み出してきた聖杯戦争。御三家の願いがどういったモノだったのかは定かではないが、魔術師でない修司にとって彼等の行いは余計なお世話以外の何者でもない。

 

だから、その果てに白河修司は御三家最後の生き残りである間桐臓硯を討ち、聖杯戦争を終わらせた。しかし、その御三家の一つが関わっていると知り、修司の怒りのボルテージは一段飛びで跳ね上がっていく。

 

 修司の周囲にある礫が浮かび上がっては弾けていく、その光景にいち早く気付いたエルメロイⅡ世は修司の肩に手を置いて、変わるように前に出る。

 

「落ち着け白河修司、貴様の言う通りソイツは遠くから転写されたホログラムの様なものだ。ここで殴った所で霧ごと霧散されて終わるだけだぞ」

 

「エルメロイ先生…………ごめん、あとは頼みます」

 

エルメロイⅡ世に諭され、一先ず怒りを抑えた修司は頭を冷やして反省しようと後ろに下がる。向き直るエルメロイⅡ世の視線の先には先と変わらず佇む優男の魔術師がいた。

 

「逃げる素振りを見せない所を見るに、此方の質問に応える意志があると見ていいのだな?」

 

「貴方達は彼女達に勝利し、私達は彼女達を従えていたのに敗北した。なら、ある程度質問に応えるべきだと判断したまでです」

 

「ならば聞こうか。魔霧計画はお前達のマスターが主導で行っているモノで、マスターの名は間桐………いやマキリ=ゾォルケンで間違いないな?」

 

「其処まで見抜かれている以上、誤魔化しは出来ませんね。然り、私は私の主。マスターであるマキリ=ゾォルケンに従い行動しています」

 

エルメロイⅡ世の問いに白衣の優男は淡々と応えた。切り裂きジャックに勝利した事への報酬、恐らくはこの程度の情報開示になんの危機感を感じてはいないのだろう。少なくとも目の前の優男からは情報開示をマスターに対する裏切り行為だとは微塵も感じていないようである。

 

そんな男にロード・エルメロイⅡ世は再度訊ねる。

 

「なら、そのマキリ=ゾォルケンの居場所については?」

 

「残念ながら、其処まではお答え出来ません。サーヴァントと言えども所詮は使い魔、マスターの許可なしでは口を割ることは出来ません」

 

 逆を言えば首謀者であるマスターの名前の開示、そこまでは裏切り行為ではないという事になるのだが、其処まで思考を割く余裕はないし、なにより心当たりは幾らでもある。

 

「ならば質問を変えよう。ロンドンの街を霧で覆って、お前達は何を企んでいる」

 

「全ては主の悲願の為」

 

やはり、白衣の優男は口を割ろうとしない。マキリという首謀者の名前(Who done it)は明かせてもその先にある動機と理由(Why done it)は明らかにしてこない。

 

だが、そこはエルメロイでも予想通りの答えだった。そして、その理由も朧気ながら見えてきた。

 

「なら、お前の………いや、お前達のマスターは人理焼却の黒幕と手を組んだ。そう判断して良いわけだな?」

 

「ご想像にお任せします」

 

 魔霧計画の主導者。それが五百年続く魔術師であるマキリ=ゾォルケンに間違いなく、そのマキリも人理焼却の黒幕と手を組んだという事実。エルメロイは厄介だなと頭を抱えたくなったが、それを知れただけでも充分だった。

 

だが、それだけでは些か足りない。ここまでの経緯を経て向こうは未だ隠しているモノが多い、マキリの名はその数ある秘密の一つでしかない。

 

「ではもう一つ質問だ。切り裂きジャックやメフィストというサーヴァントを………一体何処から拾ってきた」

 

「…………」

 

「サーヴァントと言うのは自然に生えてくるモノではない、必要な魔力と儀式を経て魔術師と契約する最上級の使い魔だ。そして、そのサーヴァントを召喚するのは────聖杯だ」

 

「っ! まさか………」

 

エルメロイⅡ世の言わんとしている事を理解したであろうマシュ、そしてそんな彼女の浮かび上がった疑念は確信へと変わる。

 

「そう、このロンドンを覆っている霧は全て聖杯から起因しているモノだ。故にロンドンにてサーヴァントが召喚される。順序を辿っていけば割りと簡単に辿り着ける答えだな」

 

そう語るエルメロイにモードレッドはそう言えばと思い出す、確かに自分も気が付いたら霧の中にいた。召喚された事は確かなのに自分を喚びだしたマスターの存在は今の今まで確認されていない。

 

自分も、あの偏屈な作家も、霧の中から召喚された。自分達を喚んだマスターが消えたのではない、最初からマスター何てものは存在していなかったのだ。

 

だから、それがどうしたという話ではないが、エルメロイⅡ世が優男に聞きたいのは其処ではない。聖杯の力を使い、改造し、霧という形でロンドンを覆い、その果てに一体何を喚び出そうとしているのか、それが一番聞きたい事でもあった。

 

尤も、その喚び出そうとしている何かについても幾つか既に心当たりがあるのだけれど、場の空気が変わってしまいそうなので自重する事にした。

 

「それで、マキリ=ゾォルケンは聖杯を使って何を喚び出そうとしている? 応えては───貰えないようだな」

 

「えぇ、そちらの山吹色の方といい、貴方達は本当に聡い方だ。この特異点に来て然程時間は経っていないのに既に此方の核心近くまで迫っている。恐ろしい限りです」

 

「では、お引き取り願おうか名も知らぬ魔術師。今の我々に戦う意思はないが……それはそちらの態度次第だぞ」

 

「えぇ、そうさせてもらいましょう。次に会う時は………互いに殺し合わなくてはならないみたいですので」

 

 準備を万全に挑む。そう言外に語りながら白衣の優男───キャスターは姿を消した。

 

「さて、一先ず情報は得られた。次の行動指針を決める為にも一度ジキル氏の所へ戻るとしよう。というか、珈琲が飲みたい」

 

「なら、俺が淹れさせて貰うよ。先生には世話になってばかりだからな」

 

「何て言うか、最初は眼鏡のモヤシだったから宛にしてなかったけどよ、エルメロイて言ったか? お前、アグラヴェインとちょっと似てるな」

 

「円卓の騎士の一人に例えられるとは光栄だがなモードレッド卿、そこはⅡ世を付けるのを忘れないでくれ」

 

「おっと、これは失礼した」

 

 首謀者の一人と自称する白衣の男から情報を得られ、モードレッドもエルメロイⅡ世の口の巧さに納得し、認める事ができた。切り裂きジャックも倒し、ロンドンの警官達を守る事ができた。

 

ロンドン市警も守った事だし、此処で自分達に出来ることはもうない。惜しむこともなくその場から立ち去ろうとするした時に、ロマニから通信が入ってきた。

 

『立香ちゃん達の近くから大きな魔力反応を感知! 場所は───修司君のすぐ後ろだ!』

 

「マジか、本当に召喚されるのかよ」

 

「これでエルメロイ先生の言ってる事が正しいって証明されたね!」

 

「そうだな。だが、これで連中が良からぬモノを喚び出そうとしているのも確立された訳なのだが………はぁ、憂鬱だ」

 

振り返り、身構える一行を前に光が集約されていき、形が形成されていく。人型、それも髭のある赤毛の男、本を片手に顕現するその男は唐突に謳い上げた。

 

「召喚に応じ参上致しましたぞ! 我こそは稀代の劇作家! キャスター、シェイクスピア! ───今こそ問いましょう。あなたが私のマスターか? くー! 一度言ってみたかったんだなーこの台詞! …………あれ?」

 

「あぁ?」

 

 召喚されるや否や、高らかに喋り始めるだけでなくなんか成りきってマスターの有無を問うてくるサーヴァントに一同呆気に取られていた。

 

何とも勢いのあるサーヴァントだ。しかも自らをキャスターで劇作家と名乗っているのだから、恐らくはアンデルセンと同類なのだろう。しかし、当のキャスターは修司を見るとその表情を固くさせている。

 

「………あっ、失礼。人違いでした。いやはや、申し訳ない。我輩とした事がついおかしな事を口走ってしまって───日課の人間観察がありますので、我輩はこの辺で………」

 

「サーヴァント、GETだぜ」

 

踵を返してその場から立ち去ろうとするシェイクスピアを修司が抱えあげる。サーヴァントと言えど相手はヘラクレスとも渡り合える剛力の持ち主、こと腕力でキャスターが敵う道理はなかった。

 

「や、止めてぇ! 我輩は確かに劇場と演出を愛する芸術の徒! けれど今は、今だけはどうか見逃して頂きたい! 私はあなたの冒険活劇(やらかし)を見たいのであって、巻き込まれたい訳ではないのです!」

 

「ちょっとなに言ってるか分かんないな」

 

「ノォォォォッ!!」

 

騒ぎ立てるシェイクスピアを無視し、彼を肩に担いだ修司は今度こそ立香達と共にロンドン市警を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。切り裂きジャックは死んだか」

 

 深い深い地下、光も届かない闇の底で男は一人口を開く。

 

「白河修司。よもや、その名を再び聞くことになるとはな」

 

深い青の色を帯びた頭髪、修司の名を呼ぶ男性は自嘲気味に口許を歪める。

 

「来るがいい。理不尽の反逆者、今一度私を殺し、未来を切り開いて見せろ」

 

 天を見上げる男の目には不気味に蠢く巨大な機械仕掛けが映し出されていた。

 

 

 

 




次回は英霊召喚の本当の意味とか色々触れていきます。

それでは次回もまた見てボッチノシ




オマケ・その頃のカルデア。

「………所でセイバー、一つ訊ねてもいいだろうか」

「なんでしょうかアーチャー、そんなに改まって」

「いや、アイツとピクト人、実際はどっちがよりアレなのか少し気になってな」

「それは………その、ノーコメントで」

「あぁうん。此方こそ不躾な事を聞いて済まなかったな。本当に、済まなかった」

「英雄王は、英雄王はどこへいきましたか!?」

「なんか妙な帽子を被ったら消えてましたよ」





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