『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回、若干RTA要素があるかもしれません。

ご容赦ください


その57 第四特異点

 

 

 

「聖杯戦争の元ネタ?」

 

「というより、英霊召喚の本来の目的に就いてだな」

 

切り裂きジャックという殺人鬼を打ち倒し、今回の特異点の黒幕の一人と遭遇し、シェイクスピアというはぐれサーヴァントを保護(拉致)して無事にジキル達の待つ拠点に戻ってこれた修司達はアンデルセンが以前から気に掛けていた英霊召喚の起源について考察していた。

 

「其処のエルメロイⅡ世、確か時計塔の人間だったな。しかもロードとくれば英霊召喚に関する何らかの知識を持っていても不思議じゃない。本来なら時計塔の地下深くまで出向かなければ行けなかったが、コイツのお陰で手間が省けた」

 

「エルメロイ先生って、そんな凄い人だったの?」

 

「期待させて悪いが、私はあくまで代理だ。今でこそかの諸葛亮孔明の依代となって疑似サーヴァントとして顕れているが、本来の私は名前だけのロードに過ぎん。英霊召喚の事にしたって降霊科の専門家と比べれば知識も技量も圧倒的に劣っている」

 

「だが、全く知らないという訳ではないのだろう? ならば充分価値はある」

 

「…………はぁ、あまり期待するなよ」

 

 それからエルメロイⅡ世は英霊召喚に関する知識を独自の考察と混ぜ合わせながら説明した。英霊召喚のシステム、その意味と理由をアンデルセンの意見と擦り合わせながら推察と考察を深めていく。

 

結果、一つの可能性が生まれた。英霊召喚は元々はサーヴァント同士の殺し合いに使用する使い魔の召喚………などではなく、ある一つの脅威に対する人類の守護者を喚び出す降霊儀式なのだと。

 

英霊とは人類史に刻まれた記録であり、歴史の成果。サーヴァントとはそんな記録である英霊を現実に“在る”ものとしてクラスという器に落とし込んだ存在。人類が続く限り英霊は存在し、サーヴァントもまた儀式召喚に応えてくれる。それが本来の英霊召喚の意味なのだとアンデルセンは結論付けた。

 

「そんな英霊召喚を聖杯という後押しで叶えたのが、お前達の言う聖杯戦争なのだろう。元々ある英霊召喚の儀式を、儀式を生み出した魔術師側が己の欲望で歪めてしまうとはな、とんだ皮肉だ」

 

「やっぱ魔術師って禄でもねぇのな」

 

『や、やめてー! 正論の暴力で殴って来ないでー!』

 

 英霊召喚の本当の目的を知った一行、だが当然疑問に残る事もある。アンデルセンの言う事が本当なら本来の英霊召喚はある脅威に対抗する為の抑止力的な装置だという。

 

『儀式・英霊召喚』と『儀式・聖杯戦争』は同じシステムではあるが、そのジャンルは違うものだとアンデルセンはエルメロイとの意見交換で確信した。

 

ならば、その脅威とは何なのか。不思議に思う立香達だが、ふと何かを思い付いたのか今まで考え込んでいたマシュが口を開く。

 

「で、ではMr.アンデルセンの言葉を倣うなら、人理焼却を行った黒幕が………その脅威だと?」

 

何となく口にした言葉だが、ジキルは何処か理解できた。時計塔の地下へつづく大英博物館、ロンドンが霧に覆われた直後に其所は何者かの手引きによって爆破され、現在は見るも無惨な瓦礫の山と化している。

 

英霊召喚の本来の目的と時計塔の地下へ続く大英博物館の崩壊、この二つが全くの無関係とは思えなかったジキルもまたマシュと同じ結論へ至った。

 

 そして、それとは別件に始まる立香はある一つの仮定を思い付く。アンデルセンが提唱する儀式・英霊召喚の本当の役割、ある脅威に対抗するのが英霊召喚の本当の役目だとするならば喚び出される英霊はこれ迄出会ってきた中でも最強のサーヴァントでなければならない。

 

そんな凄まじい力を持った存在を立香は知っている。先の特異点、後のオケアノスと称される特異点で顕現した真なるヘラクレスの事だ。

 

彼の力は正しく伝承通りであり、その強さは神話に出てくる史実そのものだった。剣を奮う度に地形は代わり、力を放つ度に天地が揺れた。遠くから見ても触れ得てしまう暴力の化身、サーヴァントの枠組みから逸脱した超人。

 

あれが本来の英霊召喚に喚び出される者の一角、成る程確かに人類が希望を託すのにあのヘラクレスはこれ以上のない適任者と言えるだろう。

 

しかし、そんなヘラクレスを打ち倒してしまった男がいる。伝説の英雄と正面から打ち合い、勝ってしまった男がいる。

 

もし、今後あのヘラクレスを喚び出す事ができなければ、それは必然的に倒してしまった男の責任と言う事になる。

 

 立香の目が修司へ向けられる。すると、カルデア組の誰もが立香と同じ考えに至ったのか、その視線を修司の所へ刺すように向けられている。

 

当の本人である修司もその事に気付いたのか、ダラダラと冷や汗を流して顔を横へ逸らしている。敵対し、倒すしか無かった状況だから誰もあの時の事で蒸し返したり責めるつもりはない。が、日頃の行いの所為か修司に対する一定の感情を抱くのもまた事実。

 

部屋に充満し始めるやっちまった感。アンデルセンやジキルが首を傾げ、モードレッドとシェイクスピアは何処か悟った表情を浮かべながら苦笑いを浮かべていた。そんな空気に関係なく言葉を紡ぐアンデルセンの図々しさは修司にとって一種の清涼剤となった。

 

「マシュ嬢の言う通り、その可能性も考えた。だが所詮は物書きの取るに足らない考察、思い込みの要素となる余計な情報はあまり許容しない方がいいぞ」

 

『………そうだね。英霊召喚に関する情報、それが分かっただけでも儲けものだ。そこからの考察と調査は僕達の仕事、現地の皆は目の前の事に集中して欲しいかな』

 

「でも、その考察に裏付け出来る証拠は無いんだよな? なら、やっぱり時計塔の地下とやらへ向かった方がいいんじゃないか? ここにはアンデル君やシェイクスピアもいる。この二人なら資料の速読も訳ないと思うし」

 

 何処まで精度の高い考察を並べた所で、所詮は裏付けのない空虚な妄想に過ぎない。説得力や拡散がどれだけ持てても個人の域をでないのであればそれは単なる感想にまで落ち込んでしまう。

 

エルメロイⅡ世やアンデルセンの考察を疑うつもりはない。全てはそんな彼等が頭を捻り出してくれた推論をより確立したものにしたいが為の提案だった。

 

「地下でどんな罠があっても二人を守れる自信があるし、なんなら場所さえハッキリしていれば俺一人で向かってもいいぞ。………いや、良く良く考えたらその方がいいな。うん、ちょっくら行ってくるよ」

 

『待て待て待て待って! そんなコンビニに行くみたいなノリで外に出ようとしないでくれないかい!? 外は依然として怪物達で溢れてるんだぞ! そんな中で単独行動なんて……いや出来るんだろうけど!』

 

「肯定しちゃうのかよ」

 

 白河修司は生身でありながらサーヴァントを凌駕する膂力の持ち主、大英雄との戦いを経てより強くなった彼に自動人形やヘルタースケルター程度の敵に敗北することは万に一つも有り得ない。

 

そんな特記戦力を一人で向かわせるのは戦術としてはアリなのかもしれないが、道徳的に果たして許可して良いものか、ロマニが悩んでいるとシェイクスピアが大きな溜め息を吐きながら観念した様に席から立ち上がった。

 

「仕方ありませんな。ではここは我輩がご同行するとしましょう」

 

『シェイクスピア、いいのかい?』

 

「放っておいてはこの御仁は勝手に行動しますよ。そして勝手に盛大にやらかす、エンターテイナーにして傍迷惑! しかも基本は善意で行動し、繰り出す理屈は大抵正論だからより質が悪い! なのが、この御仁の性質だと私は睨んでおりますが?」

 

「ふぇー、流石劇場作家。人間観察が趣味なのは伊達じゃないんだね」

 

「………まぁ、私の場合経験則でもあるのですが」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁさぁ遂に来る最終決戦! 我がマスターは人類の救済の為、対する敵対者はその夢を砕かんが為にこの空中都市に攻め入ってきた。果たして勝つのは野望か願いか、面白くなってきましたぞ! この衝動を如何にして後世に残すか、我輩の腕の見せ所ですぞー!』

 

『って、書斎が燃えとるぅぅぅぅっ!?!?』

 

『ふー、暖まった。流石に夜空を生身で行くのは冷えるな。次からはもう一着着るようにしとこ』

 

『い、いいのだろうか? ここ、明らかに普通の書斎の様なのだが………』

 

『大丈夫でしょ。敵のアジトだし、僕のマスターは真面目だなぁ』

 

『けど、燃やすものが沢山あったのは幸いしたな。ホレ、焼き芋焼けたぞ。ジーク君も食っとけ、腹が減っては戦は出来ないってな』

 

『うわーい。僕この大きいの貰うねー!』

 

『どれも同じだっての。全く、しょうがねぇなぁ』

 

『こ、ここここ………』

 

『『『ん?』』』

 

『この、ド外道共がぁぁぁぁっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、あの様な辛い思いをするのは、我輩だけで充分なのです」

 

「「「?」」」

 

 そう語るシェイクスピアの表情は達観とも後悔とも呼べない複雑な表情を浮かべていたが、修司を含めてそれを知るものはいない。

 

唯一モードレッドだけは何かを察したのか、何とも言えない顔をしていたが、やはりそれを理解できるものはいなかった。

 

その後、修司はシェイクスピアと何故か付いてきてくれたモードレッド、並びにジキルと共に大英博物館からロンドンの地下へと侵入。無事に目的の資料を探し当てることに成功した。

 

そしてその途中、ジキルがあるクスリを服用して第二の人格を目覚めさせたり、その制御が上手くいかず暴れまわったりするが、修司のアームロックによって無力化。以後、ハイドと名乗るジキルの第二の人格は修司に怯えるようになってしまい、その特異点では二度と表に出てくることはなかった。

 

因みに資料の内容はアンデルセンの読み通りのモノで、彼等の考察は事実として確立される事となった。

 

 ─────そして。

 

「なんか、ヘルタースケルターと良く似たデカイ奴を仕留めて来たんだけど……操られていたみたいだったし連れてきたわ」

 

「そこにいるのは………ヴィクターの娘、か? そうか、我が友は汝を完成させていたのか」

 

「ウー! ウー!」

 

 戻ってきた修司達が霧の中から担いできたのはヘルタースケルターの大将とも見える巨大な蒸気機関のロボットだった。

 

名をチャールズ=バベッジ、イギリスの数学者にして哲学者。世界で初めてプログラム可能な計算機を考案し、コンピューターの父と呼ばれた人物。どういう訳か蒸気機関の鎧の体を依代として現界した彼は、四肢をモゲられ身動き一つ出来ない状態となっている。

 

そんなバベッジ氏の変わり果てた姿を見て憤慨したフランが殴り掛かるも、哀しいかな。実力差の有りすぎる相手に彼女のぐるぐるパンチは全くダメージにならなかった。

 

「ど、どうしたんだよフラン、急に暴れだして」

 

「あの、修司さん。恐らくフランさんとバベッジ氏は多分面識のある知人なのではないでしょうか」

 

「え? そうなん? ありゃー、それは悪いことをしたな。後で適当なヘルタースケルターの残骸を見付けて付け足して置くから、勘弁してくれ」

 

「ウ? ………ウー!」

 

「大丈夫だって、俺こう見えて造るの得意だから。バベッジロボをスーパーロボットに改造してやるから、楽しみにしてくれよ」

 

「ウゥ? ウー♪」

 

「あの、我が自由意思は?」

 

「諦めろ。操られたとはいえ敵対した時点でテメェはこうなる運命だったんだよ」

 

「………おいシェイクスピア」

 

「これでも我輩頑張ったのですよ。えぇ、本当に頑張ったのです」

 

 その後、ついで感覚で破られたバベッジはジキルのアパルメントでは据え置きする事が出来ないと判断され、修司に新たな四肢を付けられるまで玄関前に放置されたという。

 

 




次回もこんな感じで飛ばし飛ばしになるかもです。




Q.バベッジって、既に手遅れなほどに洗脳されてなかったっけ?

A.故障した機械相手に有効な手段を用いました。
つ斜め45度のチョップ。

Q.執筆したシェイクスピアはその後どうなったの?

A.そんなに大事なら鍵でも掛けとけよ。というボッチの指摘に逆上、作家サーヴァントという立場を忘れて全力で殴り掛かりますが、敢えなく敗北しています。

アポクリファの一番の被害者は彼かもしれない。



それでは次回もまた見てボッチノシ

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