『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回の特異点もいよいよ大詰めですね。
早く第六特異点を書きたいなぁ。


その60 第四特異点

 

 

 ドス黒い魔力と鎧、そして槍を携えて漆黒の荒馬に跨がるサーヴァント。迸る魔力は嵐となってロンドンの街に吹き荒れる。

 

その姿は騎士王というより嵐の王(ワイルドハント)、嵐を従えて此方を見下ろす騎士の王は身に纏う魔力に見合った殺意と敵意に満ちていた。

 

『修司君、立香ちゃん、マシュ。向こうはやる気だ。どうか凌いでくれ!』

 

通信を通してロマニの口から出てくるのは具体性も何もないモノ、しかし彼がそう言うのも仕方がなかった。相手は冬木の特異点でも戦ったアーサー王、その成体だ。観測している魔力量からみても魔神柱以上の強さなのは明白、既に一度地下で大立回りをしたきた立香達にとってこの連戦はかなりの負荷になっている筈だ。

 

疲弊も疲労も承知の上、それでも戦う事を選ぶしかない立香達にロマニが言えることはそれしかなかった。自身の無力さを痛感しながら、それでもどうにか手助けできないかとカルデアのスタッフ一同が総力を挙げて解析に勤しむ。

 

そんな中、騎士王は動いた。槍に魔力を集め、馬の手綱を引いて突進してくる。騎士王と同様に黒い馬を操り、その馬力を以て突撃(チャージ)を仕掛けてくる。

 

立香達が身構え、キャスター達が魔術を施し、修司が跳躍して迎え撃とうと───するよりも速く、赤雷が黒き騎士王に肉薄する。

 

「父上、覚悟ォーッ!!」

 

「モーさん!?」

 

 反逆の騎士モードレッド。アーサー王に反旗を翻し、最期は騎士王に討たれたアーサー王伝説に終幕を飾った者、そんな騎士が単身で騎士王に挑んだ。

 

振り下ろされる大剣クラレント。王の宝物庫から強奪し、アーサー王に致命傷を負わせた剣、モードレッドとクラレントの二つは騎士王に対して特効とも言える力を秘めていた。

 

しかし、そんな反逆の騎士の猛威も長くは続かなかった。槍に阻まれ、嵐のごとく吹き荒れる魔力に防がれてしまう。モードレッド自身も魔力を込めるが、騎士王の保有する魔力量が桁違いなのか、モードレッドの纏う赤雷はアーサー王の暴風によってモードレッドごと吹き飛ばしてしまう。

 

吹き飛ばされるモードレッドが地面に激突する寸前、白い炎を纏った修司が間一髪抱き止めるが、魔力の暴風によって切り刻まれたモードレッドの鎧はあちこちに亀裂が入っており、自身も相当なダメージを負っていた。

 

「かは、クソ。父上め、姿は変わっても容赦ねぇ」

 

「モーさん、大丈夫!?」

 

修司に抱えられたモードレッドに立香が駆け寄り、礼装による回復の魔術を施す。しかし、壊れた鎧までは修復出来なかったのか、モードレッドの鎧はパラパラと音を立てて崩れていく。

 

騎士王は……未だに空の上に佇んでいる。交戦したのにも関わらず、沈黙を保ったままのアーサー王。モードレッドを警戒して近付いてこないのか、それとも敵とすら認識していないのか。

 

「モードレッド、やれるな」

 

「ハッ、当たり前だ」

 

どちらにせよ、モードレッドはまだ折れてはいない。騎士王がどういう理屈で空を飛んでいるのかは分からないが、それならそれで戦い方はある。重苦しい鎧から解放されたモードレッドを横に置いて修司は気を解放する。

 

「修司さん、私は屋根に上りバベッジさん達と共に建物への被害を食い止めます!」

 

「だから、頑張って!」

 

「あぁ、行ってくる」

 

 マシュと立香からの激励を受け取り、修司とモードレッドは走り出す。

 

決め手になるのは、モードレッドだ。その逸話から、その伝承からモードレッド自身がアーサー王に対する特効兵器と言えた。あの暴走する嵐の王を征するには反逆の騎士が必要だと修司は直感で理解した。

 

黒い槍の騎士王から嵐が吹き荒れる。雷鳴が轟き、街に降り注ぐが、予め待機していたマシュがその盾を以て防いでいく。更に離れた所では、バベッジが左手のバリアフィールドで落雷を霧散させていく。

 

「みこーん!? なんなんですかこの雷の雨はァ!? 借りにも太陽に属する私への嫌がらせ!?」

 

「騒ぐ暇があったら貴様も手伝え真っ黒女狐! 俺はもう先の戦いでボドボドだ。あぁイヤだイヤだ! 風呂に入って寝たい!」

 

「我輩も、体育会系はほとほと合わない質でして……エルメロイ氏、おんぶしては戴けませんか?」

 

「よしわかった。なら今すぐ修司を呼んで抱えてもらおう。喜ぶといい劇場大作家、お前の望む景色が特等席で観られるぞ」

 

「よーし! 我輩頑張るぞー!」

 

 遠くからギャイギャイ騒ぐキャスター組もまだまだ元気そうだ。とは言え、これ以上手間を掛けるつもりはない。屋根を伝って駆け、モードレッドと修司はそれぞれ赤い雷と炎を纏う。

 

そして騎士王の足下まで迫った直後、同時に脚に力を入れて跳躍。速度はやや修司が上、彼の背中に重ねるように空へ上がったモードレッドはクラレントに魔力を送る。

 

「聖槍、抜錨」

 

瞬間、騎士王の魔力が爆発的に膨れ上がった。

 

「突き立て、喰らえ! 十三の牙!」

 

その時、槍に刺さっていた棘が消えていく。………否、あの棘は文字通り拘束だったのだ。これから放たれる膨大な魔力の渦を解き放つための───。

 

最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)!!」

 

嵐───というより、濁流に近い魔力の放出。このタイミングで避けるのは不可能だと後ろにいるモードレッドを察して判断した修司は急遽、左手を手刀に変えて力を込める。

 

「エクス………カリバー!」

 

 瞬間、修司は騎士王の闇色の嵐を光輝く一刀で切り裂いた。エクスカリバー。そう言い放つ修司にモードレッドは一瞬だけ戸惑うも、やはりデタラメな奴だと笑って受け入れた。

 

そして、騎士王との間合いが詰められる。今度は此方の番だと、修司が右の拳に力を入れて振り抜くが………それを読んでいた黒い騎士王が修司の拳に目掛けて槍を振り放つ。

 

ぶつかり合う拳と槍、常識で考えれば修司の拳は腕ごと貫かれ、彼の四肢の一つが吹き飛ぶと言う凄惨な末路が待っている。

 

だが、生憎と白河修司という男は並の人間の常識の範疇に収まらない。偉大なる黄金の王に認められ、多くの縁と出会ってきた事で理不尽に抗う術を得た。

 

修司は迷わない。そもそもな話、先の特異点でヘラクレスの持っていた神剣の方が手応えは遥かに堅かった。

 

故に───。

 

「二重の極み!!」

 

白河修司が、人理焼却の担い手として召喚されたアルトリア(理不尽)に負ける道理はなかった。

 

 槍が砕かれる。ガラス細工の様に、尖端から塵となる自身の槍に騎士王が大きく目を見開いた瞬間。

 

「受けろ騎士王! 我が麗しき父への反逆(クラレント・ブラッドアーサー)!!

 

修司と入れ違いに現れるモードレッドの一撃によって、黒い騎士王は霊核ごと両断されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪かったなモードレッド、また父親殺しをさせちまって」

 

 ロンドンで引き起こされてきた異変。その悉くを解決し、最後の敵であった騎士王を倒したカルデア一行はアングルボダに接続していたとされる聖杯の回収の為に、大きさ故に置いていくしかなかったバベッジに別れを告げ、修司達を連れて再び地下洞窟へと向かっていた。

 

その道中、再び父親を殺す事になってしまったモードレッドに修司は謝罪する。生前、モードレッドとアーサー王の間にどの様なやり取りがあったのかは定かではないが、仮にも父と呼んでいる人に手を掛けさせてしまった事に修司は少なからず罪悪感を抱いていた。

 

そんな修司にモードレッドは鼻で笑って突き返す。

 

「ハッ、ンな事気にする必要ないだろうが。俺はモードレッドだ。アーサー王に反逆し、その全てを台無しにした愚か者だ。そう人類史に刻んだのが俺だ。同情なんて、するんじゃねぇよ」

 

「そっか。なら、ここはありがとうが正解だったかな」

 

 モードレッドはアーサー王に反逆し、一つの物語を終わらせた一種の舞台装置。アーサー王という超級のサーヴァントの対抗馬でありカウンター、自らの役割をそう結論付けるモードレッドは修司の同情を無用なものだと一蹴する。

 

そんなモードレッドに修司は今度は礼を言い始めた。相変わらずムカつく野郎だと、内心で罵倒しながらも。

 

「へっ」

 

それでも、悪い気分ではなかった。誰かに感謝されるなんていつ以来だろう。そんな事を考えながらモードレッドは歩き続けた。

 

 そして、大分地下深くへと進んだ先でそれはあった。大きな空間だ。嘗て冬木の大聖杯のあった場所と同じか、或いはそれ以上の巨大空間。その空間の中央部にはアングルボダと思われる蒸気機関が一定のリズムを刻みながら稼働している。

 

「あれが、アングルボダか」

 

「みてぇだな。さて、そんじゃあ後はあの中にある聖杯を回収したら終わりだ。お疲れさん、お前達のお陰であれこれ助かったぜ。ロンディニウムは救われた。俺以外の誰かに蹂躙される事はなかった。めでたし、めでたしだ」

 

「ふぅ、やれやれ。どうにかこうにかやりきったか。キャスターのお歴々には迷惑をかけてしまったな」

 

「全くだ。だが、まぁ言うほど酷いモノではなかったな。ハチャメチャな展開ではあったが、それならそれで読み手に飽きさせない内容になるからな」

 

 

「くっ、なんという事か。言いたいことや文句は腐るほどあるというのに、それを言わせない圧倒的な展開に我輩の創作意欲がドッパドッパに溢れて止まらないとは、これが巷に有名な“くっ殺”の境地ですかな!?」

 

「そこの変態紳士は兎も角として、私はあのビリビリ博士の抑止枠で召喚されただけみたいですし、皆様ほど苦労はしていないんですがねぇ。まぁ、貰えるモノは何でも戴くのは節約上手な賢母の必須スキルですので、有り難く戴くとしましょう」

 

『ははは。何だか騒がしくなってきたね。事件も解決したし、大団円には相応しいかな』

 

「だね。今回の修司さんは大きな怪我もしてないし、服も破れてない。ある意味今回の特異点は完全勝利とも言えちゃうかも」

 

「立香さんや、人を露出魔みたいに言うの止めてくれない? 違うから、服が破けたのは戦いの余波によるもので、自ら進んで脱いだ訳じゃないから!」

 

「だ、大丈夫ですよ修司さん。先輩も私も、そこら辺はちゃんと分かっていますので!」

 

「慰めが辛ァい!」

 

 元凶であるマキリを倒し、暴走状態の騎士王という厄災を退け、遂に第四特異点の修復も完了目前となった。あとは聖杯を回収すれば今回のレイシフトも無事に完了する。その前に僅かな歓談を楽しんでいる立香達を微笑ましく見守っていると、ふとロマンはある異変に気付く。

 

『待って、なんだこの反応は……!?』

 

「ドクター?」

 

『みんな気を付けて! 地下空間の一部が歪んでいる! 何か(・・)がそこへ出現するぞ! サーヴァントの現界とも異なる不明の現象だ!』

 

「「「「っ!?」」」」

 

『不明? いや、これは寧ろレイシフトに似てる……のか? けど、そんな筈はないぞ、カルデア以外にこの技術は………!』

 

 瞬間、ロマニの映像化通信が切られてしまう。突然の異常事態にざわつく一行、警戒を最大にしながら周囲を見渡すと、マシュが口を開いた。

 

「………先輩、ヘンです。何も異常はないのに、寒気が────凄くて────」

 

「ど、どうしたのマシュ!? もしかして風邪!?」

 

「いや、違うぜ立香ちゃん。このプレッシャーは多分………大物だ」

 

自分を抱き締めながら真っ青な表情で震えるマシュに立香が駆け寄っていく。他のサーヴァント達も似たような反応で、気配を察知した修司もまた一粒の冷や汗を流していた。

 

『空間が開く! 来るぞ!』

 

そして、音声のみとなったロマニからそう告げるのと同時に────それは現れた。

 

それは、濃厚な敵意。

 

それは、濃密な殺意。

 

この世のありとあらゆるものに軽蔑と侮蔑を抱き、嘲笑う悪意の化身。

 

それは、開かれた(裂かれた)空間から現れる。

 

「魔元帥ジル=ド=レェ。帝国神祖ロムルス。英雄間者イアソン。そして神域碵学ニコラ=テスラ。多少は使えるかと思ったが───小間使いすらできぬとは興醒めだ。下らない、実に下らない、やはり人間は、時代(トキ)を重ねるごとに劣化する」

 

『クソ、シバが安定しない、音声しか拾えない! どうした、何が起きたんだマシュ!?』

 

「わ、分かりません。何か、人のような影がいて……」

 

「マシュ殿、どうかお下がりを。あれは厄に厄を重ねたモノ、ぶっちゃけ悪魔みたいなものです。あなた様のような純粋な方には、些か刺激が強すぎるかと」

 

 現れる人影、それを直視してはならないと玉藻がマシュの前に立つ。

 

「────オイ、なんだこのふざけた魔力は。竜種どころじゃねぇぞ。これは、まるで───」

 

「玉藻殿は悪魔と仰ったが、それですら足りますまい。圧倒的な魔力、いるだけで場を制圧する支配力。まさに神! 或いは、それに比肩する存在なのだと、我輩理解しましたぞ!」

 

「どうしてお前はいちいち大袈裟なんだ。だが、たしかにそうだ。まさかここへ来て本命が出てくるとはな」

 

本命。アンデルセンの溢した一言に修司は全てを理解した。彼の言う本命とは言葉の意味、それは人理焼却という舞台の奥底にいる黒幕という意味。

 

理解した。あぁ、理解したとも。今、自分達を高みの見物気分で現れた者、ソイツこそが人理首謀者の黒幕にして実行犯なのだと。

 

「声だけの者、成る程。カルデアは時間軸から外れたが故、誰も見付ける事の出来ない拠点となった。あらゆる未来────全てを見通す我が眼ですら、カルデアを観る事は難しい。だからこそ生き延びている。無様にも。無惨にも。無益にも。決定した滅びの歴史を受け入れず、いまだ無の大海に漂う哀れな船。それがお前達カルデアであり、藤丸立香という個体。燃え尽きた人類史に残った染み。()の事業に残った、私に逆らう愚者の名か」

 

「………随分と好き勝手宣ってくれたな。ご託を並べるのがお前の得意技か? 成る程、それならばあのレフが無駄に饒舌なのも納得できるな」

 

「吼えるな。白河修司、たかがサーヴァントを倒せる程度で、私と比肩できると思ったか?」

 

影が形を成していく。人の形からより鮮明なモノへと変化する度に場の空気は重くなる。

 

「貴方が、レフの言っていた王なの!?」

 

そんな空気を振り切って立香は声を張り上げる。そして、そんな彼女の勇気を嘲笑うかのように、その男は語り出す。

 

「なんだ。既に理解していると思っていたが、よもや其処まで蒙昧な猿だったとはな。いいぞ、その無様は気に入った。故に教えてやるとしよう」

 

「我は貴様らが目指す到達点。七十二柱の魔神を従え、玉座より人類を滅ぼすもの。名をソロモン。数多無像の英霊ども、その頂点に立つ七つの冠位の一角と知れ」

 

ソロモン。遂に明るみに出た黒幕の正体、それは紀元前10世紀に存在したとされる古代イスラエルの王。約三千年も昔の王が立香達の前に現れた。

 

「ハッ、そいつはまたビッグネームじゃねぇか。するってーとなんだ? テメェもサーヴァントな訳か? 英霊として召喚され、二度目の生とやらで人類滅亡を始めたオチか?」

 

「それは違うなロンディニウムの騎士よ。確かに私は英霊だが、人間に召喚される事はない」

 

「───なんだと?」

 

「貴様ら無能と同じ尺度で考えるな。私は死後、自らの力で蘇り、英霊に昇華した。英霊でありながら生者である。故に、私の上に立つマスターなど存在しない」

 

「私は私のまま、私の意思でこの事業を開始した。愚かな歴史を続ける塵芥───この宇宙で唯一にして最大の無駄である、お前たち人類を一掃する為に───」

 

「うるせぇ」

 

「む?」

 

「し、修司さん?」

 

「お前がどんなに大層な大義があって、どんな手段を用いたのか興味がねぇ。俺が聞きたいのは唯一つ、────何で、こんなことをした?」

 

 人理焼却が行われて、全てが焼き尽くされて、帰る家も、人も、世界ごと奪われた立香達。そんな中で修司が気になっていたのは黒幕の手段ではなく、理由だった。

 

何故、人類は滅ばなければならないのか。何故、焼却されなくてはならないのか。どれだけ思考を重ねても答えは出ず、どれだけ推測しても結論は出なかった。

 

故に修司は訊ねた。手段や目的ではなく、どうして人理焼却をしなければならなかった、その理由を。

 

「くは、クハハハハハ! 理由? 理由だと!? 愚か、あまりにも愚か! やはりどれだけ力は強くても所詮は猿! バカに付ける薬はないとはこの事か!」

 

「………」

 

「何故人類を焼却したかだと? そんなもの、お前達(人類)が下らないからだろうが! 存在自体が無意味で、生きていることこそが無駄! だから掃除をしてやったんだろうが!!」

 

 修司の問いにソロモンは喜悦に顔を歪めて嗤った。ゲラゲラと、下品に、何処までも此方を侮蔑しきっていた。

 

「あぁ、そう言えばお前の世界も燃えたのだったなぁ。いやはや、まさか近しい世界だったというだけで焼却されるとは、お前も存外運がない。ギャハハハハハ」

 

「────」

 

嗤う。その男は修司の世界も焼却された事に気付き、その上で嗤った。無様だと、蔑みながら。

 

『修司』

 

 そこには、衛宮士郎がいた。頑固で、お人好しで、偽善と罵られようと、誰かの為に頑張る奴がいた。

 

『修司』

 

 そこには、間桐慎二がいた。魔術なんてものが使えなくても、新しい夢に向かって直向きに頑張る奴がいた。

 

『白河君』

 

 そこには、遠坂凛がいた。同じ師父を持ち、冷たくても面倒見のある魔術師らしくない魔術師がいた。

 

『修司様』

 

 そこには、シドゥリがいた。自分の姉貴分であり、いつも自分の事を思ってくれて、優しくて強い人がいた。

 

『修司』

 

 そこには、王がいた。優しくて、厳しくて、時々怖い人……自分を見つけ、導き、鍛えてくれた偉大な王がいた。

 

全てが修司にとって宝物だった。街の人達も、学校の同級生も、先輩も後輩も、そして知り合った全ての人達が今日までの自分を形作ってくれた。

 

そして───。

 

『───修司先輩』

 

 好きな人がいた。自分を絶望から最初に救い上げてくれた人、何に変えても守りたかった人。誰よりも………幸せにしたかった人。

 

自分達が何をした? ただ生きてきただけで、どうして消されなければならない。焼却されなければならない。

 

夢に生きるのが悪なのか? 誰かの為に戦うのが悪なのか? 誰かを好きになるのが悪なのか? どうして、どうしてどうしてドウシテドウシテドウシテ────。

 

「何度も言わせるな猿が、お前達は存在自体が悪だった。ただ、それだけの話だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────ほう?」

 

「「「っ!?」」」

 

 瞬間、エルメロイを始めとしたモードレッド、シェイクスピアは目を見開き、その顔からドッと大量の冷や汗が噴出した。

 

目の前のソロモンに釘付けだった視線が、今度は隣にいる修司に向けられる。顔は見えない。見たくない。ただ一つ分かっていることは………白河修司という一人の人間が、どうしようもなくブチ切れているという事。

 

「修司さん?」

 

 ふと、立香は違和感に気付いた。普段なら此処で手を出す筈の修司が沈黙を保っている事に、恐る恐る彼の顔を覗き込もうとする彼女を………モードレッドが抱え込む。

 

「せ、先輩!?」

 

「マシュ、そして立香。今からずらかるぞ。ここで俺達に出来ることはもうない。地上に戻り、カルデアへ帰るんだ」

 

「え、で、でも………」

 

「いいんだ。………だよな」

 

「あぁ、頼む」

 

訊ねてくるモードレッドに修司もまた了承する。それを聞くや否や、モードレッドは二人を連れて地下空間から脱出し、地上へ向かって駆けていく。

 

他のサーヴァント達も立ち去って、今この場にはソロモンと修司の二人しかいない。しかしソロモンは逃げ行く立香達を追うつもりはなかった。

 

「フンッ、所詮は知能のない猿の集まりか。たかが人間一人で足止めなど、嗤いすぎて腹が捩れる。本来なら此処は見逃してやるところだが………気が変わった。お前達は此処で死ね」

 

ソロモンが片手を上げる。すると、二人を中心に空間が歪み、気付けば何処とも言えない未知の場所へ飛んでいた。

 

恐らくは固有結界の一種。詠唱もなしに展開する魔術の最奥の現出、しかし修司にはそんな事などどうでもよかった。

 

「白河修司。お前の強さはある程度認めよう。故に、お前はここで念入りに殺す。捩じ伏せ、磨り潰し、細胞まで一切残さず消滅してやろう」

 

 瞬間、ソロモンの背後から無数の魔神柱が顕れる。数々の特異点で立香達の前に立ち塞がった悪魔達、嗤いながら見下してくる悪魔の群れ。

 

そして、悪魔達の眼が瞬いて世界を揺るがすほどの大爆発が起きる。呆気ないものだ。サーヴァントを凌駕する力の持ち主でも、所詮はこの程度。

 

「フン、大人しく焼却に巻き込まれておけば良いものを。やはり、人間とは何処までも愚かだな」

 

踵を返し、立香達の後を追う。奴等を殺せば全てが終わる。余興も此処までだと踵を返すソロモンに……。

 

「何処へ行く気だ?」

 

「────なんだと?」

 

声が届く。振り返り、見据えると、そこには傷一つ付いていない修司がいた。

 

「ソロモン、だったか? お前の主義主張は理解した。人類を侮辱し、侮蔑し、蔑み、否定し、拒絶し、そして破壊した。あぁ、理解したとも」

 

「なんだ。何を………言っている?」

 

「ならば、俺も否定しよう。お前がそうした様に、お前の全てを侮蔑し、蔑み、否定し、拒絶し───破壊し尽くしてやろう…当然、"自分もそうなる目"に遇う覚悟が出来るだろう?」

 

 修司は決めた。目の前のソロモンと名乗る男がそうしたように、修司もまたこの男の全てを破壊してやろうと。

 

故に、白河修司はソレを呼んだ。静かに、淡々と、染み渡らせる様に………。

 

「───起きろ、グランゾン」

 

 斯くして、それは顕れた。重力の底の底から、他ならぬ主の呼び声によって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、我知ーらね」

 

 遥か遠いカルデアで黄金の王は嗤いながら呟いた。

 

 

 




G「待たせたな」

Q.これ、特異点大丈夫なん?

A.ご都合結界だからへーきへーき(笑)

Q.ソロモン王、大丈夫なん?

A.グランドキャスターだからヘーキヘーキ

ソロモン王の底力を信じて!

それでは次回もまた見てボッチノシ



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