『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回で第四特異点は終わります。

さぁ皆集まってー、重力講座が始まるよー(ちびまる子感


その61 第四特異点

 

 

 カルデア。星見の………天文台の名を冠した人類最後の砦。焼却された人理を修復するべく、数少ない人類が運営する組織、そんな人理最後の希望とも呼べる組織、或いは施設は───。

 

現在、危機的状況に陥っていた。鳴り止まない警報音、危機的報せを告げる赤い光がカルデアの全ての施設に広がっていて、カルデアのスタッフ達は状況の対応に追われていた。

 

「藤丸立香、マシュ=キリエライト、白河修司の反応依然と途絶! 通信回復しません!」

 

「もう一度位置特定を急ぐんだ!」

 

 レイシフト先で起きた突然の異常事態。半分泣き喚く状態で報告してくるスタッフにロマニは怒号の如く声色で作業の継続を促した。

 

何故、どうしてこんな事になったのか。混乱と焦りで混濁する思考を回転させ、彼が導きだしたのは………やはり、先に通信で聞こえてきたある王の名前にあった。

 

《ソロモン》 魔術世界においてその王は多くの魔術師達から畏敬とし、畏怖として恐れられてきた。七十二の魔神を従え、未来を見通してきたとされる魔術の王。

 

魔術師達の始祖とも言えるその王の登場を切っ掛けにカルデアとレイシフトをしていた立香達との繋がりに異常が生じてしまった。彼女達に装備させていた通信装置から映像が途切れ、モードレッド達が立香達を連れてソロモンから逃げるという所で最後の繋がりだった音声も切れてしまった。

 

観測している此方も立香達の反応を追いきれなくなっている。このままでは彼女達が意味消滅しかねない、少しずつ迫ってくる最悪の事態を前にロマニが思考をフル稼働していた所で。

 

『おいカルデア! 聞こえるか!?』

 

「そ、その声はモードレッドか!? 立香ちゃんは!? マシュは無事なのかい!?」

 

 突然、ノイズ混じりの音声が管制室に投げ込まれ来た。突然の情報に戸惑いながらもスタッフ達は回線を繋ぎ、観測反応も徐々に大きくなってきた。

 

『ごめんドクター、返事が遅れて! 私もマシュも無事だよ!』

 

そして、立香からの無事という報告にロマニは自身の体からドッと力が抜け落ち、落ちるように椅子に座り込んだ。

 

「よ、良かった~。本当に良かった。一時はどうなることかと……」

 

「呆けている場合じゃないよロマニ、まだ確認するべき事があるだろう」

 

 脱力し、背凭れに寄り掛かるのも束の間、ダ・ヴィンチの指摘に我に返ったロマニは改めて二人に訊ねた。

 

「そうだ二人とも、一体あれから何が起きたんだい? 幾ら観測しても地下空間の情報が遮断されてしまうんだ。………ていうか、修司君はどうしたんだい?」

 

ソロモンという恐らくは冠位クラスの英霊と遭遇してから、カルデア側の計器は不具合を起こしてきた。今でこそ立香達のいる地上は普段と変わりない程に安定に観測できているが、地下空間へ座標を調べようとすると機器が警報を発するようになってしまった。

 

更に言えば、彼女達の中に修司の姿がない。カルデアの中で一番の功労者であり、同時に問題児でもある彼の不在にロマニは半ば確信しながら訊ねた。

 

『修司さんは………その』

 

『私達を逃がすために』

 

 振り絞るように答える二人に今度こそ、ロマニは愕然とした。修司は二人を逃がす為に一人であのソロモンと名乗る者と対峙したのだ。嘗て、完全復活を果たしたヘラクレスを倒した時と同様に、一番の戦力だと自負している彼こそが殿を務めるのに相応しいのだと。

 

きっと、修司は自覚しているのだろう。Aチームの唯一の生き残りとして、巻き込まれた立香を後の希望とする為に、前線に立って自分のやるべき事を示してきた。

 

きっと、彼は此処で一つの区切りを付けるつもりだ。ソロモンという古代の王に、一人の人間として戦うつもりだ。なら、此方のやるべき事は決まっている。

 

「立香ちゃん、マシュ。これからそっちに可能な限り増援を送る。其所で暫く待機していてくれ!」

 

『ドクター、うん。分かった!』

 

ロマニの言葉の意味を察した立香は了承の言葉を残し、一時通信を切った。暗転するモニターに目もくれず、ロマニはダ・ヴィンチに指示を出す。

 

「ダ・ヴィンチ。今からカルデア中にいる英霊達を集めてくれ、適正のあるサーヴァントを見繕って立香ちゃん達に送るよ」

 

「ここを決戦の場にするつもりかい?」

 

「それは向こうの出方次第さ。けど、一人で戦おうとする彼を放っておく訳にもいかないだろ?」

 

必死に、けれど不敵に笑みを浮かべるロマニにダ・ヴィンチも笑った。管制室を後にする天才を見送り、ロマニは再び前を見据える。

 

「早まらないでくれよ。修司」

 

今頃、一人でソロモンと戦っている修司にロマニは彼の無事を祈り続けた。

 

(なんというすれ違い。愉悦!)

 

その隣でハデスの兜を被り、愉悦に浸りながら酒を煽る英雄王に気付く事はなく、ロマニはコンソールを叩いた。

 

既に、警報の音は止んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ………それは?」

 

 第四特異点、ロンドン。霧に覆われ死の都と化した街の地下深く。アングルボダに繋がれた聖杯を前にソロモンと名乗る男は眼前に顕れたソレに言葉を失い、目を剥く。

 

空間を裂いて顕れた鋼の巨人。深い蒼色に彩られ、黄金色の機械的眼孔がソロモンを見下ろしている。正体不明の巨人を前に魔術の王は不快さを顕にする。

 

「成る程、それが貴様の切り札か。現代に生きる貴様らしい幼稚なモノだな、ただ巨大なだけで強さと直結させるその浅はかさ。正に猿」

 

ソロモンは眼前の巨人を下らぬ機械人形だと吐き捨てる。何せ、目の前の巨人からは神秘の気配がまるでないからだ。ギリシャ神話におけるトロイの木馬や青銅の巨人タロスとも異なっている。恐らくは純正の、人類が生み出した科学技術の結晶の成果とやらなのだろう。

 

下らない。実に下らない。こんな見かけ倒しの木偶の坊で、一体何が出来るというのか。大層な外見でこのソロモンが怯むと思っているのか、やはり人類は愚か。死なねば分からない馬鹿ばかりだと辟易しながら蒼き巨人を仰ぎ見る。

 

『その理屈だと、魔神柱なんてデカイものを侍らせて意気がっているお前も、猿の一人になるわけだが?』

 

「───死ね」

 

 巨人の中から聞こえてきた白河修司の声、姿が見えないことからアレは搭乗するタイプのモノだと察するも、ソロモンは気にかける素振りも見せず、淡々と魔神柱達に指示を下す。

 

無数の眼光が光り、爆発と衝撃が空間に轟き響き渡っていく。魔術王ソロモンが張った固有結界が揺れるほどの大爆発、先程よりも威力は上げている。今度こそ終わりだと踵を返すソロモンだが────。

 

『あのさぁ、この流れ、さっきもやったよな? いい加減学習しろよ』

 

「………なんだと?」

 

その巨人に欠片ほどの傷も付いてはいなかった。

 

「バカな、直撃の筈だ」

 

『どうしたよ魔術の王様、ご自慢の魔術は品切か?』

 

「っ、調子に乗るなよ。塵芥が」

 

 巨人の中から聴こえてくる挑発とも言える修司の言葉に不愉快さと憤りを露にしたソロモンは、更に追加で魔神柱を召喚する。

 

無尽蔵とも呼べる魔術王の固有結界。そんな無限に近い空間を埋め尽くすほどの肉の柱、そのある意味で壮観な光景に修司は巨人────グランゾンのコックピットで吐き気を抑える。

 

「消えろ。砕けて、爆ぜて、塵となれ。その玩具と共に、鉄屑になるがいい!」

 

ソロモンが吼え、魔神柱が呼応する。その数既に五百を超え、その悉くが破滅の光を放っていく。眩い光が世界を覆い、衝撃と熱で満たされていく。燃え盛る世界、手こずらせたと忌々しく思いながらソロモンが吐き捨てようとしたとき。

 

────やはり、そこには無傷の巨人が佇んでいた。

 

「────バカな」

 

 ソロモンは今度こそ言葉を失う。まだ数は控えているとは言え、五百の魔神柱の光線を直撃した以上無傷はあり得ない。その火力を前にしては如何に神秘神代の英雄と言えど無傷でいられないし、神ですら直撃は避ける威力だった。

 

なら、一体何故目の前の巨人は無傷なのか。そんなソロモンの思考を読み取ったかのように、巨人の中にいる修司が嘲笑と共に簡潔に答えた。

 

『そんな難しい話じゃあない。単純に、お前の魔神柱(オモチャ)が力不足なだけだ』

 

そもそもな話、魔神柱の攻撃はその全てがグランゾンに届いてはいないのだ。“歪曲フィールド” 空間を歪ませる程の重力のバリア、嘗てこれを突破してきたのは太陽系の各々の惑星に潜んでいる後のタイプシリーズと呼ばれる超級の質量兵器のみ。

 

たかが光学兵器に類する攻撃が重力そのものを歪曲させるバリアを貫通出来る筈もなかった。

 

魔神柱の攻撃では、グランゾンには届かない。それこそ、戦略兵器級の────国ごと破壊するような兵器でもない限り、グランゾンに一撃を与えるのは不可能と言えるだろう。

 

『さて、二度も先手を譲ったんだ。今度は───此方の番だな』

 

 巨人の眼光が妖しく光る。二度も先手を譲り、魔神柱の力も大体だが計れた。ならば、最早容赦はいらない。人類の全てを唾棄すべきモノだと吐き捨てる傲慢な王に蒼き巨人────否、蒼き魔神が動き出す。

 

『魔神柱。七つ柱の悪魔の名を冠する有象無象、お前らに教えてやる。攻撃とは………こうするものだ!』

 

“ワームスマッシャー”

 

瞬間。無数の光の槍が魔神柱達を貫いた。外から、或いは内側から隙間なく、間断なく穿いていく。五百を超える魔神柱の軍勢が瞬きする間もなく全滅。その光景にソロモンは初めて驚愕の表情を浮かべた。

 

「なん………だと? 貴様、一体、何をした!?」

 

『さぁな。その御大層な頭で考えて見ろよ。えぇ? ソロモン王様よ?』

 

人間という種族を見下し、見限り、焼却した男に修司は何処までも軽蔑していた。口を開けば罵詈雑言の嵐を叩き付け、下らないと一蹴するソロモンを修司はどうしても許せなかった。

 

この男は、過去にしか(・・・・・)目を向けていない。悲惨な過去を、凄惨な人類の歴史を、無念と後悔しかないと断じてそれしかないと、未来がないと勝手に結論付けた。

 

悲惨な過去、凄惨な歴史、その中にも必ずあった人の足掻く様を、この男は見向きもしていない。誰かに何かを託してきた人類の歩みを、知りもしないで。

 

『どうしたソロモン、もう終わりか?』

 

故に、白河修司は許さない。大事な人達の繋がりを一方的に切り捨てた目の前のソロモンを、仮に命乞いをしても赦しはしない。奴が人類史の全てを侮蔑した様に、修司もまたソロモンの全てを踏みにじる事を決めた。

 

「図に乗るなよ、猿人類がぁぁっ!!」

 

 ソロモンが吼える。猿と見下して侮ってきた人類に、こんなものかと侮蔑な目で見られた事に、我慢できなかった魔術の王は玉座(・・)より自身の軍勢を喚ぶ。

 

その数、総勢50万。桁違いの軍勢を前に───。

 

『足りねぇよ。俺達をどうにかしたいのなら、これの三倍は持ってこい!!

 

白河修司は不敵に笑う。そんな主に呼応するかの様に蒼き魔神───グランゾンに力が宿る。

 

『収束されたマイクロブラックホールには、特殊な解が存在する。剥き出しの特異点は時空そのものを蝕むのだ』

 

「っ!?」

 

 それは、詠唱にも似たモノだった。グランゾンの胸部装甲が開き、顕になる膨大なエネルギー。漆黒の球体が重なりあい、無数の力の奔流が固有結界を蝕んでいく。

 

ソロモンは理解が出来なかった。目の前の巨人はたかだか人類史が生み出しただけの鉄屑の人形では無かったのかと、自身の価値観が崩れていく音にソロモンは怯えながら後退りをした。

 

そう、ソロモンは恐怖を知った。侮蔑してきた人類の中で最も愚かと断じてきた感情を、よりにもよって恐怖という体験を経て理解してしまった。

 

足が震える。膝が笑う。なんだこれはと初めて経験する感情の発露に戸惑う、そんな彼を嘲笑うかの様に………。

 

『何人も、重力崩壊からは逃れられん!』

 

 グランゾンの力は爆発的に膨れ上がった。

 

瞬間、ソロモンは姿を消した。湧き出て溢れた感情に制止が利かず、脇目も振らずに時空の裂け目へ避難する魔術の王に修司が気付くことはなく………。

 

『さぁ、事象の彼方へ消え去るがいい。“ブラックホールクラスター”………発射!!

 

放たれた極大のエネルギーは残された魔神柱の軍勢を呑み込み、塵ひとつ残さず消滅させた。

 

世界が白に染まる。醜く、おぞましい肉の柱が消えていくのを見て……。

 

『少し、大人げなかったかな? く、ククク………』

 

 汚物を消毒するヒャッハーの気持ちを何となく理解したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────定礎復元────

 

 

 

 




Q.これ、ソロモン王大丈夫なん?

A.人理焼却を掲げる偉大な魔術王が、この程度で凹むわけないやろ!

Q.特異点は無事なんか?

A.固有結界は粉々に砕かれたけど、特異点はギリギリ無傷やで!

Q.今回のMVPは?

A.名前もない固有結界ちゃんに決まりや!

固有結界「ヒギィ」




オマケ話。

実は、最初にグランゾンと敵対したタイプマーズは唯一グランゾンに傷を付けそうになったが、タイプシリーズの恐ろしさを直感で悟った修司が即座にネオへと変身させ、縮退砲をブッパして消滅させていた。

もし、修司にもう少し慢心や慎重さがなかったら、ワンチャン彼等を倒せていたかもしれない。

という裏話でした。

それでは次回もまた見てボッチノシ






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