『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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久し振りの日常回です。

あんまり面白味はないかもしれません。


その62

 

 

 

δ月*日

 

 第四の特異点。人理修復の為の旅も折り返しとなり、其所で立香ちゃんが築いてきた縁を以て新たなサーヴァント達を召喚し、カルデアはより賑かな場所となっていた。

 

ニコラ=テスラ氏やバベッジ氏など現代に近しい英霊やアンデルセン君やシェイクスピア氏の様なサポートに特化した彼等を喚べたのは喜ばしい限りだが、モードレッドだけが来なかったのは残念だった。

 

立香ちゃんもその事を気にしていたが……まぁ、アイツを喚ぶのは次の機会に期待しよう。そもそも依然としてサーヴァント一騎も呼び出せていない自分がいるのだ。気にしたところでしょうがない、という奴である。

 

そんな立香ちゃんは今日もサーヴァント達から相談されたり、無茶ぶりをされたりとしているが………相変わらず元気そうで何よりだ。特異点から戻ってきたばかりの頃はあのソロモンとかいう輩の迫力に当てられ、気落ちしてしまうのかと思っていたけれど、全くそんな様子は無かったから安心した。

 

 魔術王ソロモン。古代イスラエルの王であり未来を見通すとされたきた魔術の祖、冠位という従来のサーヴァントとは逸脱した力を持つとされる七つの内の一つ。英霊召喚の元ネタに記された脅威に対抗する一角。どうしてそんな大層な奴が人理焼却なんて目論んだのか分からないが、奴が黒幕なら叩き潰すまでだ。

 

と、息巻いておきながら逃がしてしまったという失態。グランゾンを出しておきながらまさかの逃走を許してしまったとは、我ながら恥ずべき失態だ。

 

次に見える時は今度こそ倒す。向こうにどんな事情を抱えているかなんて知ったことじゃない、奴が人類の抹殺を企てるなら、その悉くを捩じ伏せてやるまでだ。

 

その為にはグランゾンの力だけじゃなく、自分自身の強さを磨かねばならない。そういう訳でロマニとダ・ヴィンチちゃんに諸々の事情を話すべく、一部のサーヴァントの皆さんと一緒にカルデアの格納庫へと連れてきた。

 

 先ずは自分が何者なのか、何処からやって来たのかを伝え、これからの自分の方針と相談をする為に彼らの前でグランゾンを顕にした。

 

最初は皆、グランゾンを前に驚いたりしていたけど自分の話を聞くにつれて落ち着くようになっていき、自分の修行場の作成の協力にも皆乗り気になってくれた。

 

 特にテスラさんはグランゾンを前に物凄く喜んでくれたのが良かった。「人類は此処まで至れるのか!」なんて言いながら両手を上げて万歳三唱したりして、途中から歯止めが利かなくなってきた。

 

そんな彼を比較的冷静さを保っていたバベッジさんが宥めてくれたりして話しは進み、結果として自分の要望は全面的に通る事になった。

 

所長代理とは言え、格納庫の半分近くを占拠してしまう自分の話に乗ってくれたロマニには感謝してもしきれない。バベッジさんやテスラさん、ダ・ヴィンチちゃんも自分の修行場の製作に非常に協力的だし、自分が嘘を吐いていないかの判断と信用を得るために利用してしまった清姫さんには、ロマニ同様感謝しきれない。

 

 今回の件で、自分は本当の意味でカルデアの一員になれたと思う。そんな気がする。

 

勿論、今回の件は立香ちゃんとマシュちゃんにも伝えたとも。丁度お昼だったから一緒に食べながら談笑混じりに話しておいた。

 

流石に立香ちゃんは場数を踏んでいるだけあって然程動揺してはいなかった。まぁ、平行世界から来たといっても学生には良く分からないだろうし、「へぇー、そうなんだ」位の認識でいいかもしれない。

 

因みに、カルデアスタッフへの説明はロマニ達がしてくれる事になった。本来なら自分が果たすべき事なのに、何もかもを任せてしまって悪い気がするが………バベッジさんからも言われた通り、今は自分に出来ることを成し遂げる事から始めよう。

 

 

 

 

 

 

「………ダ・ヴィンチ」

 

「なんだいロマニ」

 

「僕は今、いろんな意味で混乱している」

 

「まぁ、うん。そうだね、気持ちは分かるよ」

 

「彼が何かを隠しているのは薄々感じてたさ。彼の事を知っている素振りを見せるサーヴァント達がいる時点で、何となく察したよ? でもさ、話の内容が大きすぎるんだよ!」

 

「なに平行世界からきたっぽいって!? ぽいってなにさぽいって!? なんでそんなふわっふわなの!? ゼルレッチの名前が出てる時点でほぼ確定だよ! 何で宝石翁を変な爺さん呼びしてんの!?」

 

「………いやさ、平行世界から来たと言うのはまぁいいよ? 良くないけど。人理焼却に巻き込まれる程に近しい世界だから来れるのも何となく分かるよ? いや分からないけど」

 

「でもさ、なにあのグランゾンって巨大ロボ。なんであんなのが出てくるの? え? しかもなに? あれでソロモンを撃退した? ………僕はもうワケガワカラナイヨ」

 

「落ち着きたまえよロマニ、色々ブレブレだよ君」

 

「逆に聞くけど、どうしてダ・ヴィンチはそこまで落ち着いていられるんだい? 君もあのグランゾンを前にした時はエネル顔を晒していたじゃないか」

 

「だからこそだよロマニ、彼に対して驚くのは仕方のない事、けれど逆を言えばそれだけだ。彼は悪意ある人間ではなく、善意ある若者だ。それが分かっただけでも儲けものじゃないか」

 

「それは……まぁ、うん。自分の身の潔白を証明する為に清姫を用いたんだから、信頼しているし信用しているよ」

 

「そう。そしてこう考えればいいのさ。彼が行うやらかしには受け入れた方が順応しやすいのだと」

 

「それ諦めただけだよね!?」

 

 

 

 

 

 

δ月δ日

 

 テスラさんやバベッジさん達の助力を借りながら製作作業を行うこと数日、余っていた資材をかき集めてどうにか自分の修行場である重力室を組み上げることに成功した。

 

重力室の設計図は覚えているし、なんならグランゾンのデータベースにも保存してあるから作業効率は落ちなかったし、予め用意してあった資材があった事もあって、嘗て自分の家にしかなかった重力室はほぼ相違なく完成する事ができた。

 

自分一人の製作だったら、もう少し時間が掛かっていただろうから、協力してくれたテスラさん達には改めて感謝を伝えるべきだろう。

 

 そんな世紀の学者達の助力を得て作り上げた自分の重力室は大きく二部屋に分類されている。一つは鍛練用の重力部屋、もう片方は日常生活する為の空間。鍛練後の汗を流す為のシャワー室や寝室も完備しており、ロマニ達と連絡できる通信も備えている。

 

そういう造りもあって格納庫には一つの家が出来たも同然なのだが………実際に自分の使ったスペースは格納庫全体の四割にも満たしていない。格納庫だけでも東京ドームの倍近い規模を誇るカルデアには改めて感心する思いだ。

 

そんな格納庫の中心に鎮座する巨大な黒い装甲車がある訳なのだが……なんでもダ・ヴィンチちゃんが言うには、このシャドウボーダーというこの装甲車はレイシフトが失敗した際のセカンドプランなのだとか。

 

現在はレイシフトが正常に稼働している為にほぼお蔵入りの状態で埃を被っているが……なんか、見ていて勿体ないなと思う。折角のメカなのだから何とか使えるようにしたいというのは技術屋の性だろうか。

 

テスラさんやバベッジさんも似たような事を言っていたから、折りを見てダ・ヴィンチちゃんに相談しても良いのかもしれない。

 

 それはそれとして、今は自分の事を専念しよう。今回はあのヘラクレスの様なヤバい相手がいなかったから良かったものの、いつまたああいう手合いと殺り合うか分からないのだから、やるべき事はしっかりとやっておこうと思う。

 

先ずは10倍界王拳を完全に自分のモノにする事、その為には100倍の重力を克服しなければならない。前は半分の50倍がやっとだったが、体が回復し、以前よりも動けるようになった今、自分を追い込むには今しかない。

 

さぁ、始めよう。白河修司の肉体改造を。

 

 

 

 

「いやはや、白河修司。彼は凄まじく向上心のある男なのだな。彼の物事に対する真剣さは共にする私にも身を引き締まる思いをさせてくれる」

 

「当初はその真剣さに危惧したものだが、力を抜く所も弁えている。善き若者と巡りあえてサーヴァント冥利に尽きると言うものだな」

 

「加えて、彼考案の重力室に携われたのも良い経験となった。これで私とあの凡骨との差は更に明確に開いたというわけだ!」

 

「あまり、彼の前では控えた方がいいぞ。彼は君だけでなくかの発明王にも敬意を抱いている。彼の気持ちを汲んで少しは自重するがいい」

 

「むっ、確かにいない輩を影で罵るのは私のポリシーにも反する。以後、気を付けるとしよう」

 

「気を付けると言えば、グランゾンだったか? アレの有無も出来るだけ吹聴するのは控えた方がいいのやもしれん」

 

「それは些か心配すぎる気もするがな。いちサーヴァントがアレをどうにか出来るとは到底思えん」

 

「念には念を、と言うやつだ。彼の真摯さに私達も真摯に向き合うべきだと判断したまでだ」

 

「それもそうであるな。………しかし、ふふ」

 

「どうした?」

 

「いやなに。つい嬉しくなってな。彼の世界は、既にそういう所まで来ていると思うと、ワクワクして仕方がないのだ」

 

「流石の雷電博士、好奇心の強さはサーヴァントになっても変わらんか」

 

「あぁ、願わくば彼が元いた世界にも喚ばれてみたいものだ。君も、そうではないかね?」

 

「………まぁ、肯定はしておこう」

 

 

 

 

 

δ月※日

 

 ヤバい。久し振りに死ぬかと思った。以前ヘラクレスとの戦いで一度10倍界王拳を使ったから平気かなと思って試しにグランゾンを通して部屋の重力を100倍にしたら、危うく圧死しかけた。

 

しかも抜け出すのに10倍界王拳を使ったから体はボロボロ、現在自分は医務室にてロマニやジャンヌさん達から強めのお叱りを受けている。

 

幸い骨に異常はなく、重度の筋肉痛程度に済んでいるが、一歩間違えれば第三特異点での二の舞になる所だった。前回は50倍が限界だったのに、今回では楽にこなせたからつい調子に乗ってしまった。

 

 まさか100倍の重力の世界が彼処までヤバかったとは知らなかった。次からはもっと慎重に、段階を飛ばさずに確りと基礎から始めていこう。

 

でないと、今度は本気で怒られそうだからな。主にジャンヌさんから。あの人、俺との平行世界を通しての関係性だと明るみに出てから、開き直った様に関わってくるんだよなぁ。嬉しいからいいけど。

 

エミヤは時々飯の差し入れをしてくれるようになった。口では小言を言ってくるけど、やっぱり未来の衛宮士郎だけあって色々と手助けをしてくれる。尤も、面と向かって士郎の事をいうと分かりやすいくらいに臍曲げるから言わないけどな。

 

 エルメロイ先生やこの間召喚されたメディアさん、他にも何人か自分の事を覚えているけど、やっぱり英雄王………王様だけは俺の事を覚えてはいなかった。

 

でも、俺の事を全く覚えていないけど優しいところは変わっていなかった。今日だってバカやって医務室行きの俺の見舞いに来てくれたし、軽口で罵ったりとしたけど回復の秘薬みたいなのを掛けてくれた。

 

王様は厳しいけど、頑張っている奴を貶したりはしない。そういう自分の知っている王様の部分が変わらずにいた事に自分は嬉しくなった。

 

さて、体も回復したし、午後からは改めて鍛練に戻るとしよう。今度こそ、自分の実力を見誤らないように気を付けながら……。

 

 

 

 

 

「それで、いつまで本当の事を黙っているつまりですか英雄王」

 

「無論最後までだとも、此度の我は半分バカンスよ。戯れで来たと言うのに何故平行世界に来てまで過労の種を抱えねばならんのだ」

 

「………その割には、彼の事を気にかけている様ですけど?」

 

「当然だ。我の宝を我が気にかけて何が悪い。さて、日課のセイバーウォッチングの時間だ。小言はその辺にしておけ田舎娘、皺が増えるぞ?」

 

「だっ、誰の皺が増えますか!」

 

「フハハハハ! 貴様の家、おっ化けやーしき!」

 

「私の家なんて見たことないでしょうが!? ちょ、待ちなさい英雄王!」

 

「小学生か貴様ら」

 

 

 

 

 

??月√日

 

 重力室での鍛練も慣れ始め、そろそろ修行を次の段階に移そうとしていた今日、なんか変な奴に絡まれた。

 

天草四郎時貞。日本生まれの人間なら割りと知られているその人物は自分に声を掛けるなり妙な問答をしてきた。

 

それも“人類を救うにはどうしたらいいのか”という割りとトンチキな話。いや、知らんがな。そう即答する自分に天草四郎は尚も食い下がってきた。笑顔で。

 

コイツの笑顔、妙に圧があるんだよなぁ。しかもなんか俺の事を知ってるみたいな事いってるし、初対面の筈なんだけどなぁ。誰かと勘違いしてるんだろうか?

 

まぁ、立香ちゃんもサーヴァントの相談みたいな事をしているし、それと似たようなもんだろ。そう納得しながら俺も天草四郎の質問に真剣に考える事にした。

 

つっても答えなんて在るわけないんだけどね。救済なんて個人の尺度で幾らでも変えられるし、どんなに手を尽くした所でそれで得られるのは自己満足の様なもの、それで救われたと感じる人もいれば、偽善だと罵る奴もいる。

 

それが人類全体の規模で言うなら尚更だ。故に俺の答えは“考えた所で意味はない”である。

 

結局、人間に出来るのは目の前にある事を全力で挑む事だけ、個人も団体も規模や手段が違うだけで本質は変わらない。ソイツに出来ることを出来る範囲だけ頑張るしかないのだ。

 

 自分一人の力ではどうしようもないから他人の力を借りる。そんな当たり前の事をちゃんと理解出来ている奴は………意外と少ない。

 

特に魔術師、アイツら他人を容赦なく巻き込む癖にまるで全て自分の実力だと勘違いする奴が………まぁ多いこと多いこと。

 

その癖ちょっと正論いうとすぐ逆上するんだもんなぁ。マジで害悪。いつか時計塔は滅ぶべきだと思うのは自分だけかね?

 

 閑話休題。

 

そんな訳で天草四郎の質問には考えた所で意味はない的な事を一応の答えとして示したのだが………なんか、貴方らしいですね。と一言言われてどっかにいった。

 

納得………してくれたんだろうか? まぁ、人の考えなんて俺には分からないし、それがサーヴァント相手なら尚更だ。天草は悪い奴じゃないみたいだし、立香ちゃんが心強い仲間だと頼りにしている以上、自分から言うことはない。

 

ただ、シェイクスピアといい天草四郎といい、初対面の割に自分の事を知っているサーヴァントが増えてきている気がするんだけど……気のせいかね?

 

 

 

 

「“人類救済に意味はない”か。やはり、貴方はその答えに行き着くのですね」

 

 

 

 

『何故だ、どうしてお前は私の邪魔をする!? それだけの力を持っていながら、どうして誰かの為に使おうとしない! ほんの少しの慈悲を分け与えようとしないんだ!』

 

『お前、何か勘違いをしていないか? 誰かの為に力を奮って、それがソイツの為になると、本気で思ってるのか? 人類を救う? 大義名分も結構だが、俺から言わせればアンタのやっている事は余計なお世話でしかないんだぜ?』

 

『っ、それは………』

 

『人類の救済。大いに結構、だがな、それを一個人が勝手に決めていいもんじゃあねぇんだよ。ましてや、アンタはその手段として聖杯という手を使おうとした』

 

『それの何が悪い。これしかないから仕方がないじゃないか! どれだけ考えても人は変わらない。なら、聖杯という手段を使っても………』

 

『仕方がないってか? 笑わせんなよ、魔術師なんて人の枠組みから外れた奴等が作ったモンを利用して、それで人類が救われる道理なんてあるわけがないだろ。それも、人類を見限った奴が使うとすれば尚更な』

 

『そんな、私は………人類を見限ったなんて』

 

人類(俺達)は、人類(俺達)自身の手で進まなきゃ行けない。アンタ達英霊が人類を繋いで来たようにな』

 

『それでも、それでも………俺は!!』

 

『そうだ。それでもだ。例え人類の未来が閉ざされていようと、託された思いが扉を開く。無様でも、みっともなくてもなぁ!』

 

『白河………修司ィィッ!』

 

『来いよ天草四郎、お前が自分の幻想(エゴ)で人類を縛るというのなら、先ずは───そのふざけた幻想をぶち壊す!!』

 

 

 

 

「本当に、つくづく腹立たしい人ですよ。何処までも正論を吐く癖に、誰よりも無茶を通すその在り方は───」

 

「私には、些か眩し過ぎる」

 

 

 

 




Q.グランゾンの存在を明かされたけど、公にはしてないの?

A.一部のサーヴァントには知られていますが、所長代理の提案により現段階では混乱を防ぐために秘匿事項になっています。

Q.ボッチの平行世界から来たという話は広まったの?

A.これから徐々に浸透していく予定です。尚、ボッチが平行世界からの異邦人だと知られても、然程驚かれてはいない模様。

皆、馴染んできたね!


ロマニ「馴染んできたんじゃなくて、処理が追い付いていないだけなんだよなぁ」

立香「でも、修司さんは修司さんだよ?」

ダ・ヴィンチ「うん。君はそのままの君でいいと思うよ」

それでは次回もまた見てボッチノシ


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