『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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モンハンライズにバルファルクが来てくれて嬉しいやっほーい!

さぁ、一狩りいこうぜ!


その65

 

 

 

 ───筋肉の共演───

 

 朝食。それは日々人間が摂る最初の糧であり、その日一日の調子を得るための大切な行事。それは極寒の地に位置するカルデアでも変わらず、職員達は勿論、本来食事を必要としないサーヴァントもこの時ばかりは生前のいざこざを持ち込まず、特殊な環境下での団欒を楽しみながら朝の栄養を補給していた。

 

カルデアの料理長(オカン)であるエミヤと、ブーディカやキャットを始めとした料理組が用意してくれた朝食に舌鼓をしながら、人類最後のマスターである藤丸立香は少し離れたテーブルへと視線を向ける。

 

筋肉。荒々しくも何処か神秘の輝きを思わせる光沢を放つ勇ましい肉の結晶、その肉の主であるヘラクレスとスパルタクス、バーサーカーである彼等もこの時ばかりは大人しかった。狂戦士と呼ばれる彼等でも最低限の規則を守ってくれている道徳心は残っていた様だ。

 

 他にレオニダス王と坂田金時、金時に至ってはヘラクレス達と同じバーサーカーなのに理知的な彼は納豆を混ぜながら鼻唄を鳴らしている。

 

そして、その中心にいる白河修司。カルデアの中でもかなりの筋肉密度を誇るサーヴァント達、その中に平然と混じっている修司、その光景も立香は最近慣れ始めてきた。

 

対する修司も、最初は朝食時に於ける暑苦しさに辟易としていたが、次第に慣れてきた為に今ではもう特に何も言うことはなかった。

 

「うむ、相変わらずエミヤ殿の作る料理は栄養バランスが均整で素晴らしい。これを毎日食べれば自然と活力は沸き立つもの、マスターの修練もより励みになりましょうな」

 

「毎朝ゴキゲンな飯をいただけるたぁ、これだけでもカルデアへ召喚された甲斐はあったぜ。俺様の筋肉も躍動するってもんよ」

 

「朝の糧、それ即ち圧政者への反逆。その第一歩である」

 

そして朝食も滞りなく食べ終わり、各々が思い思いに行動し始めると、修司達はトレーニング室へと向かった。世界最高の質と規模を誇る器具と設備に囲われながら、今日も彼等は己の筋肉を磨きあげる。

 

「しかし珍しいな。修司の旦那が此方に来るとは、いつもの所での修行はもういいのか?」

 

「いや、もうすぐ次の特異点へのレイシフト準備が始まるってロマニから聞いてな。準備期間はいつも大体二~三週間あるから、その間にみっちり追い込むつもりだ。今日はその前の慣らしみたいなものさ」

 

「過度な追い込みは肉体を痛め付ける結果になりますからな。適度の休憩は必須、修司殿の判断は間違いないかと」

 

「反逆は一日にして成らず。圧政の前の休息も時には必要である」

 

 巨大なダンベルを片手にスクワットを続ける修司達、常人ならまず持ち上げられないそれを談笑しながら続ける様は端から見たら圧巻の光景だった。

 

他にも、アタランテとアキレウスが二人仲良くランニングマシーンで走ったり、マルタ(水着)が設備をフル活用してトレーニングしていたり、中には休憩中の職員達が運動不足を解消する為に利用しにきていたり、ここトレーニング室はマスター専用の施設ではなく、サーヴァントやスタッフ達の交流の場となっていた。

 

「しっかし、スパルタクスやヘラクレスって本当に良い体格してるよなぁ。金時も、どうやったらそんな筋肉が付けられるのか教えて欲しいもんだよ」

 

「筋肉って、修司の旦那も相当鍛えているじゃねぇか。筋肉の量も質も、オイラ達とそんなに変わらねぇと思うけど?」

 

「いやさ、単純に見てくれの話。俺って昔さ、筋肉って硬くてバキバキしててこそ格好いいみたいな考えを持っててよ。良くテレビの前でボディビルダーの真似していたりしてたんだよ」

 

「なんとも微笑ましい限りですな」

 

「まぁな。で、筋肉付けている奴は必然的に強くて格好いいイメージを抱いてさ、あんな風になりたくて鍛練の合間に筋トレしていたんだけど、上手くいかなかったんだよなぁ」

 

昔、筋肉というモノに偏った情景を抱いていた修司は、テレビに出てくるようなマッスルな肉体を目指して一時期筋トレに励んでいた時期があった。筋肉=パワー、単純で明確な図式。パワーがあるから強い、そして格好いいとポージングを取るマッスル達に影響されていた。

 

しかし、どれだけ筋トレをしても一向にバキバキに成らず、食生活を変えても体格が変わらない自分に一時は絶望したりしていた。

 

今でこそ自身に見合った体格となり、山吹色の胴着を着るのに相応しい肉体となっているが、嘗て夢見た理想の筋肉を持つ英霊達を前にその気持ちが甦ってしまったが故の愚痴、こんな自分になりたかったと語る修司に金時は肩を竦めた。

 

「そりゃあ、流石に欲張りってもんだぜ旦那。確かに俺やヘラクレスの旦那は恵まれた肉体を持っているかもしれねぇが、俺達から見たらアンタだって大概なんだぜ」

 

 自分達の体を羨ましいと語る修司だが、彼等から見れば修司こそが羨望の塊だった。鍛えに鍛え、サーヴァントを凌駕するほどの頑強さを身に付けておきながら、それでもまだ完成されていない未完の大器。

 

これからもまだまだ強くなる修司の愚痴は歴戦の英傑であるサーヴァント達にとっては、欲張りとも言える言葉に聞こえた。

 

「へへ、そうかな」

 

そんな金時の大概だという言葉に修司は嬉しそうに笑っていた。これ迄自分が歩んできた道のり、それが偉大な英霊達から太鼓判を押された事実に嬉しく思わない筈もなかった。

 

「レオニダス王、ちょっといいですかー?」

 

「トレーニングメニューで相談したいんですけど……」

 

「了解しました。すぐ向かいます! それでは皆さん、私は一度これで……」

 

遠くからトレーナー室を利用しに来たスタッフ達に呼ばれたレオニダスは談笑もそこそこにその場から離れていく。

 

「そう言えば、レオニダス王ってここのトレーナーでもあったんだっけ」

 

「あぁ、レオニダスの旦那って面倒見もいいからな。体を動かしたいって奴の相談に付き合ったり、トレーニングを付きっきりでサポートしてくれるから、ここじゃあ大人気なんだぜ」

 

 藤丸立香の筋力トレーニングのコーチの一人である事に加え、その面倒見のよさから職員達からも人望の厚い人物となっているスパルタ国王レオニダス。その人気はトレーニングのコーチランキングにおいてぶっちぎりの一位を誇っており、受講者の多くは彼をリピートしている。

 

因みに他にも数名のサーヴァントがトレーニングコーチに名を連ねており、専門的要素が多く、内容もやや上級者向けという事でケイローンが二位となっており、三位は笑顔が素敵なスパルタクスだったりする。

 

因みに某ケルトの影の女王もコーチをしているらしいが、人気は最下位だったりしている。そんな彼女の八つ当たりに巻き込まれた青タイツとその派生が尻から赤い槍を生やしたりしているが………知らぬが仏である。

 

「さて、そんじゃあ俺達もやるか。ボチボチ体も温まってきたし、まずは腕立て千回やってみようか」

 

「おし、付き合うぜ旦那」

 

「フハハハ! 反逆は一日一歩、共に苦難を乗り越えようではないか!」

 

 理想の筋肉を目指し、修司は今日も頑張るのだった。

 

 

 

 

 

 ───第一次・被害者の会───

 

「本日は忙しい所来てくれて、感謝してやろう」

 

「いや感謝する立場の態度じゃないでしょ、それ」

 

 ある日、秘密裏に集められたサーヴァント達は用意されたテーブルの席に座り、自分達を集めた人物へ視線を向ける。黒いドレスを身に纏い、雪のような白い髪と素肌を晒して不敵に嗤うのは、アルトリア=ペンドラゴンのもう一つの側面()、セイバーオルタだった。

 

「話を遮らないでくれないか戦車女。今日は待ちに待った我々の語らいの時、無闇なチャチャは品位を落とすぞ」

 

「人を電車男みたいに呼ばないでくれる? て言うか、何でアンタが代表なのよ。あの男に酷い目に合わされたのは、アンタだけじゃないんでしょ?」

 

「いいや、ここの代表は私以外に有り得ない。何故なら、過去二度に渡って私はあの男に剣を折られているのだからな」

 

「…………ごめん」

 

セイバーオルタが被害者の代表という事に納得のいかなかったジャンヌオルタが異義を立てるが、達観した笑みと共に呟かれる彼女のカミングアウトによってジャンヌオルタは潔く退くことを選んだ。

 

そして、彼女のカミングアウトによってセイバーオルタこそが自分達の代表だと認めた一同は、今後は彼女の主導で会は進む事になる。

 

「では、早速今回の議題を掲げるとしよう。内容は、“白河修司の暴挙を如何にして止めるか”である。今後、特異点で行われるであろう奴のやらかしを今後どの様にして防ぐかが議題の要とする」

 

「やはり……ここは共にレイシフトをする事で、事前に対応するのが最善ではないか? 彼が事を起こすのは決まって危機的状況に陥った時だけ、その様な機会がなければ彼も無用な行動を起こしたりはしないと思うのだが?」

 

「甘いな。竜殺し君(すまない)、奴は根っからの優等生、出来きることは自分から進んで行う人間だ。特異点という問題しかない地に於て、奴より戦果を挙げるのはほぼ不可能と言っていい」

 

「では、特異点に行かせない。というのは? そもそも事の経緯は全て彼が特異点に赴く事に起因しています。言葉巧みにカルデアに縛り付ければ、管制室で待機させられるかもしれませんよ?」

 

「人類☆救済君、それは現実的ではないな。そもそも、言葉一つで奴が止められるとは思えない。あの男は意外にも弁が立つ、とあるローマ皇帝と談話を繰り返し、正論という名の暴力により磨きを掛けてしまった」

 

「て言うかアイツ、ここの最高戦力の一人なんでしょ? 人類最後のマスターでもあるわけだし、遊ばせとく理由なくない?」

 

 被害者の会。その名称通り過去に特異点にて白河修司から酷い扱いを受けたとされるサーヴァント達が集まる秘密の集い。剣を折られたもの、旗を折られたもの、宿敵をサンドバッグにされたもの、実際にサンドバッグにされたもの、計画を根底から捩じ伏せられた者など、多種多様の被害者が集まっていた。

 

そんな彼女彼等が目的としているのは、白河修司への糾弾。彼の蛮行を如何にして防ぎ、被害を抑えるかという事だった。

 

その後も会議は続くが、有効となる案は何一つ出てこない。時間ばかりが過ぎていく中、遂に音を上げる物が出てきた。

 

「………やっぱり、無理なのかな」

 

「おい、どうした解体ちゃん」

 

「だって、まるで勝てる気がしないんだもん! どんなに言葉を伝えたって、どんなに想いを伝えようとしても、あの人には全く届く気がしないんだもん!」

 

「解体ちゃん………」

 

「当たり前だよね。だって私たちは“悪”なんだもん。人類から悪いものだと決め付けられて、切り捨てられた側、何処までも正しいあの人に間違っている私たちが………勝てるわけないんだもん」

 

 幼い一人の英霊の叫びに一同は揃って俯く、分かっていた事だ。間違っているのは自分達で、あの男は常に正しい事を言っている。

 

淘汰されるのは当たり前、否定され、拒絶されるのは当たり前、だから、諦めて受け入れるのも………また当たり前。

 

「……本当にそうか?」

 

「………え?」

 

「確かに、我々は間違っているのだろう。こうして皆を集めているのはただの愚痴の言い合い、傷の舐め合いでしかないのかもしれない。だが、それでも私は………叫ばずにはいられないのだ!!」

 

「冷血女……」

 

「貴様達は許せるのか!? あのピクト人すら躊躇いそうな蛮行を! 解体ちゃん、お前は許せるのか? カルデアに召喚されて尚、恐怖を刷り込んできたあの男の行いを」

 

「っ!?」

 

「マカ☆ロンの鬼よ! 貴様はどうだ!? 圧倒的な暴力に一方的に攻撃され、なぶられ続けたお前は、悔しくもなんとも思わないのか!?」

 

「………悔しい。嗚呼悔しいともさ! あれは吾であって吾でないのに、思い返すだけでも悔しさと怖さで涙する! 最近では酒呑に本気で心配されたのだぞ! あ、でも酒呑に膝枕されたからそれはそれで……」

 

「そうだ。此処にいる多くの者は敗北者だ。かくいう私も二度も聖剣を折られ、今ではギャン泣き王などと呼ばれる始末。情けないと何度思ったか、消えてしまいたいと何度思った事か」

 

「しかし! そんな我々でも意地がある! 奴の蛮行を止め、後の被害者を無くす義務がある! これは人理修復の戦いではない。けれど、我々英霊に許された数少ない正当性を勝ち取る聖戦である! 悪も善も関係ない、これは、未来を取り戻す戦いである!」

 

『オォォォォォッ!!』

 

 歓声が沸き立つ。何度膝を付き、挫けても、それでも立ち上がる気概が彼女にはあった。剣を二度も目の前でへし折られ、座に刻まれていたその記録が記憶へ昇華され、彼女の脳裏にはいつもその光景が刷り込まれていた。

 

恐怖と絶望に苛まされ、それでも此処まで立ち上がってきた。全てはたった一人の男の行いを正すため。彼女の言葉は彼等の心に火を灯したのである。

 

「………いや、食堂でやることかね」

 

その後、一通りの意見を纏めた被害者の会の面々は修司に討論を挑むが………結果は惨敗、彼の吐く正論に何一つ反論出来ず終了した。

 

「いや、そもそも仕掛けてきたのは大体そっちなんだから、正当防衛主張されたら勝てるわけなくね? 手加減しろ? いや、ある程度はしてるよ? ジャックちゃんとか粉微塵になってないじゃん」

 

「君、本当にそういう所だからね」

 

 

 

 

 

??月√β日

 

 遂に、第五の特異点の特定が判明した。場所は北米、つまりは北アメリカ大陸。地球上における最大規模の陸地が今回のレイシフト先らしい。らしいというのは、未だ特異点の原因である聖杯の位置が絞り込めていない様で、今も観測を続けてはいるが、どうも上手く絞り込める事が出来ないでいるらしいのだ。

 

過去の特異点とは一線を画す規模の広さ、場合によってはアメリカ大陸を横断する必要も出てきた以上、今後自分達には戦略や戦術よりも体力を必要とするかもしれない。

 

レイシフトまで二週間と少し、この間に少しでも体力をつけるべく、立香ちゃんも自分もかなりの肉体改造を求められるだろう。

 

故に、自分はロマニに二週間程の暇を戴く事にした。レイシフト先でちょくちょく回収していた食料をつぎ込み、自分はこれから外との接触も断ち切り、自身の修行に集中する事になった。目指すは10倍界王拳を完全に使いこなし、更なる上へ行くための土台作り。折角なので、ここで宣言しておこう。

 

この二週間で俺は200倍の重力を克服し、20倍界王拳を習得する───為の土台を必ず完成させる。してみせる。

 

 そうしなければ、次にまたあのヘラクレスの様な奴が出てきた時、勝てるとは限らないから。

 

さぁ、始めよう。ここから先は時間との勝負だ。気を引き締めて掛かっていこう。

 

 

 

 




Q.カルデアのトレーナーって?

A.極限の環境下でストレスを最小限にするために無償で筋トレのコーチ役を買って出てくれた有志達である。

スパルタ国王レオニダス。

真摯な対応で向き合ってくれる人気No.1のコーチ。彼の直向きな指導は初心者経験者問わずカルデアスタッフ達に元気を与えてくれるぞ!

賢者ケイローン。

数多のギリシャの英雄を輩出してきた実績No.1、更に上を目指したい貴方へ。賢者の叡知が導きます。

対圧政者最終兵器スパルタクス。

笑顔が素敵なナイスガイ! 言葉で語るな筋肉で語れ!

他にも数多くの指導者が貴方の訪れを待っているぞ!

汗水流して、レッツマッスル!



尚、裏メニューにケルトコースなるモノがあるらしいが、修司を含めて誰も手を出そうとはしない模様。

見て見ぬふりともいう。



Q.被害者の会、今後人数は増えるの?

A.確実に増えます。特に第六辺りで爆発的に増える模様(笑)

それでは次回もまた見てボッチノシ


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