『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回は導入という事で短め。




その66 第五特異点

 

 

 

 ────人理焼却という未曾有の危機、人類はその歴史ごと淘汰され、遂には終焉を待つばかりとなった。哀しむ者も、嘆く者もいなくなったこの世界でしかしちっぽけな希望は残されていた。

 

人類保障機関カルデア。人類の歴史を守り、未来を取り戻す最後の砦。現在人類最後の火を守るカルデアは遂に第五の特異点へのレイシフトの準備を終えることが出来た。

 

 七つある特異点。その折り返しを越え、黒幕の存在が明らかになり、彼等は今、何時ものように管制室に佇んでは………いなかった。

 

カルデアの中枢部分である管制室から離れに離れた隅の方、現在使い道が無く利用する者もいない事から長い間放置されていた区画───格納庫。広大な敷地内を誇りながら、シャドウボーダーなる巨大な装甲車以外目立った所がない空間に複数人が揃って集まっていた。

 

「これが、修司さんの修行場かぁ。凄いなぁ、こんな建物が出来てたなんて、私全然知らなかったよ」

 

「私もです。修司さんはいつも突飛な事をする人なんですね。分かっていたつもりでしたけど、どうやら過小評価していた様です」

 

そんな装甲車とは別の意味で巨大な建物に集まる立香とマシュ=キリエライトは眼前に聳え立つ丸みを帯びた建築物に呆れ果てていた。どうみてもあの主人公が使用していたとされる宇宙船型のトレーニング室、外観といい質感といいまるで原作から抜き出してきたかのような出来映えに立香は呆れ以上に感心を抱いていた。

 

 それは修司がニコラ=テスラを筆頭に碩学者達から叡智と技術を借りて造られた特別製の重力操作室。重力による負荷を任意で操作し、最大で300倍にまで引き上げられるモノ、端からみれば拷問器具でしかないデカブツだが、そこに修司が籠って既に二週間の時が過ぎていた。

 

何の音沙汰もなく、連絡一つも出してこない修司。最初は彼の事だから心配は入らないと放置されてきたが、此処まで何の反応もないと流石に不安になってくる。今日は大事なレイシフトの日、今まで時間通り姿を見せてきた修司が全くその素振りを見せなくなった事にまさかと思った立香達が格納庫へとやってきた。というのが、彼等が格納庫へと押し寄せてきた経緯である。

 

「………ねぇニコラ=テスラ、君はこの建造物の作成物に携わった人物だと聞いたんだけど、中では具体的にどんな風になっているんだい?」

 

「ハハハ、組織の長として心配するのは分かるが、それは杞憂だぞロマニ=アーキマン。ともあれ責任者の一人である以上説明責任は果たさねばな。中は外観通りの空洞、中枢に重力操作の装置がこの建物の柱を同時に役割を担っており、その下には必要最低限の居住スペースが確保されている。正に鍛える者の為の鳥籠という訳だな」

 

「………じゃあ、どうして彼と連絡が取れなくなったのかは説明できるかい?」

 

「無論だとも。内部には外………この場合はカルデアの各施設との通信という意味なのだが、それらと繋がるように設定されてある。カルデア側も彼が拒まない限りいつも通りに連絡事態は繋がる筈だ」

 

「でも、現にこの中にいる修司君と連絡が取れていない。それはつまり……」

 

「恐らくは、彼自身が通信手段を絶っているのだろう、乗り込む間際に鍛練に集中したいと耳にした。中は特殊な素材で造られた防音仕様となっているから、此方の呼び掛けにも応えられない筈だ」

 

 修司との連絡が付かない点についてロマニが追求すると、今度はニコラの代わりにバベッジが返答した。彼も修司の誘いを受けた者の一人、淡々と答える蒸気機関の戦士に所長代理は溜め息を吐きながら頭を抑えた。

 

「やれやれ、どうして彼という人間は一人で何でもかんでも決めちゃうのかなぁ。少しは僕達にも本心を開かして欲しい所だよ」

 

「いや、それは違うよDr.ロマン。恐らく彼は我々を信用していないのではなく、単に遠慮しているだけじゃないのかな? ホラ、君ってば立場的に色々と忙しい人間な訳じゃん? そんな君に気を使ったんじゃないかなぁ」

 

「だとしても、一言相談くらいして欲しいと思ってしまうのさ。幾度の特異点を乗り越え、僕達は仲間になれたと思っている。それが、並行世界からやって来た異邦人だとしてもね」

 

修司の相談もなしに行う独断的行動。彼らしからぬ行いだとは思うが、そこにはいつもの彼らしい気遣いがあった。それをロマニは嬉しく思う半面、申し訳なく思った。

 

そして、更に言えば………。

 

「あぁ、あぁ! どうしてあの子(修司)は私に相談もなく一人で勝手に決めてしまうのでしょう。それが子の決断であるならば………えぇ、えぇ。母は認めましょう。ですが、それも限度があります。一日二日の家出なら笑って許しましょう、ですが、二週間とは何事ですか!? その様な暴挙、天が許してもこの頼光が許しませんよ!」

 

「落ち着いてくれ頼光の大将! 旦那は別に家出とかそういうんじゃねぇから! ほらあれだよ、男子三日会わざればって奴だよ!」

 

「既に三日過ぎてます! つまり男子の家出が許されるのは三日までという事!」

 

「いや意味違くね!?」

 

 後ろで騒いでいるバーサーカーを何とかして欲しいなぁ……なんて思ったり。

 

「しかし、坂田金時と源頼光でここまで理性の差があるとはね。同じバーサーカーでもこうも違いがあるとは面白い」

 

「ダ・ヴィンチ、そんな事を言ってる暇があるなら止めてきてくれ」

 

「あっはは、ちょっと今は遠慮しておこうかな」

 

笑うダ・ヴィンチにロマニは呆れるが、彼女()の気持ちは分からなくもない。この分厚い扉の先には二週間もの合間一人で修行を続けてきた彼がいる。第三特異点での死闘を経て、より強さを求めた彼が誰の目にも留まる事なく一人でずっと鍛練を続けてきた。

 

彼と親しい人も、サーヴァントも、修司があれからどうなったのか分かっていない。つまり、誰も見たことのない未知がこの扉の先にいる。あれから彼がどうなったのか、ダ・ヴィンチ程の才覚を持ち合わせていないロマニでも、興味を抱かずにはいられなかった。

 

 ………自然と格納庫に張り詰めた緊張のある空気が広がっていく。一体いつ開かれるのか、緊迫した面持ちで扉を見つめていると。

 

カシュッと空気の抜ける音が聞こえ、扉が動き始めた。幾重にも連なった扉が機械的な音と共に開かれていく。明らかになっていく扉の向こうで果たして修司は無事なのか、立香達が固唾を呑んで見守っていると………。

 

「あれ? 立香ちゃんにマシュちゃん、ロマニに………皆まで、なに? なにかあったのか?」

 

 平然とした様子の修司がそこにいた。二週間前と殆ど変わらない容姿で、待ち構えていた立香達に逆に驚きを顕にしていた。

 

「全く、なにかあったのか? じゃないよ。二週間も音沙汰もないから心配したんだよ? しかも此方からの通信も一切応えないし、少々自分勝手が過ぎるんじゃないかな」

 

「え? あぁ、悪い悪い。久し振りに本気で修行がしたかったから、勢いで通信を切ってたんだ」

 

珍しく責める口調で話すロマニ、流石に二週間もの間連絡一つ入れなかったのは不味かったと修司は申し訳なく頭を下げる。

 

そんな修司に呆れるも、それ以上に気になることがあったロマニはその場にいる全員を代表して問い掛ける。

 

「今度から、一言連絡入れてくれよ? ………それで? 成果はあったのかい?」

 

この二週間で一体どんな鍛練を行ってきたのか、想像出来ないロマニに修司はニカッと笑みを浮かべ………。

 

「へへ、まぁその時が来たらのお楽しみだな」

 

悪戯を思い付いた子供の様に笑みを浮かべるのだった。

 

そしてその後、簡単なブリーフィングを終えた修司達は次の特異点、第五特異点の北米へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────血が飛ぶ、肉が爆ぜる。骨が砕かれ、神経が抉られる。横たわる骸を踏み潰し、猛り狂った王が吼える。

 

足りない。何もかもが足りない。闘争が、争いが、戦争が、敵が、強者が、弱者が、王にとって全てが取るに足りないモノだった。

 

己に説法を説いていた餓鬼のサーヴァントも、既に死に体で撤退した。追撃なんてしない、する意味がない。既に王の興味は別の獲物へ矛先が向けられているからだ。

 

「あぁまだか、まだ来ねぇのか。早くテメェを殺してやりてぇってのに、まだテメェは此処へ来てねぇのか」

 

 目を瞑る度に甦る。眠る度に、息をする度に王は有り得ざる記憶を想起させていく。

 

己の前に立つ山吹色の男。森の中で、或いは薄暗い地下で、白き炎を身に纏って立ち塞がるどんなに傷だらけでも此方を睨み付けてくる男の姿が、瞼の裏に焼き付いて消えない。

 

鬱陶しく、煩わしい。なのに、待ち焦がれている自分がいる。感情の全てが削ぎ落とされた筈の、王の根底に残った僅かな染み。

 

苛ついて仕方がないのに待ち遠しくて仕方がない。矛盾した感情(モノ)、敵意と殺意と憎悪に満ちた凶王は槍を振って空を睨む。

 

早く来い、憎たらしくも愛しい仇敵よ。お前の敵は此処にいるぞ。

 

「………なによ、なによなによなによ!! クーちゃんは私のモノなのに、私以外靡いちゃいけないのに! どうして、どうして!?」

 

 そんな王の傍らに戦士達の女王が憤怒に燃える。彼の全ては私のモノ、そう断じているのに………当の本人は此処にはいない誰かに想いを寄せている。

 

許せない、許せるわけがない。自分の全てを掛けて手に入れたいと願った男が、聖杯にて在り方を歪められても尚、自分以外の誰かに何かを抱いている。嘗て自身が欲して止まなかった敵意を、殺意を、憎悪を、全てを独占しているその輩に、女王は───嫉妬していた。

 

「誰だか知らないけど覚悟しなさいよ。私のクーちゃんに手を出して、只では済まさないんだから!!」

 

 手にした鞭を鳴らし、女王は王と同じ空を睨み付ける。

 

────遠くの空で流れ星が落ちた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「………………来たか」

 

「む? どうしたのかねカルナ君?」

 

「あぁ、どうやら俺の待ち人が漸く来てくれた様だ」

 

「おぉ! それならば歓迎せねばいけないな! 君の友は私にとっての友であるも同義! 是非とも私の計画に賛同して欲しいモノだ!」

 

「あぁ、歓迎せねばならない。他ならぬ俺の手で、盛大にな」

 

(どうしよう。私のマハトマが、盛大にすれ違ってると囁いてるわ)

 

 そのマハトマは、きっと間違ってはいない。

 

 

 

 





今回の特異点はボッチがモテモテになる模様(笑)

ボッチのケルト嫌いが加速するぅ!(笑)

それでは次回もまた見てボッチノシ

北米「ヒギイッ」

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