『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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FGOカーニバル、発売おめでとう!

今回は地味回です。


その67 第五特異点

 

 

 

「さて、早速やって来た北米大陸なんだけど………正確にはまだアメリカ合衆国は出来てないんだよね?」

 

「そうですね。私達が今いる時代は1783年、この年に終結するイギリスとの独立戦争を経て、アメリカは国家として成立します」

 

「その後は歴史の教科書にも載っている通り、世界の覇権を握るべくひたすら合理的に突き進む怪物国家になった訳だ。立香ちゃん、勉強の成果は出来てるみたいだね」

 

「あはは、ケイローン先生や他の学者気質の皆さんから手解きを受けてきましたから」

 

『人理に刻まれたサーヴァントから学問を学ぶとか、端から聞けば凄い贅沢な話だよね』

 

 ロマニとのブリーフィングも終え、早速レイシフトで第五の特異点へとやって来たカルデア一行。レイシフト先に待っていたのはアメリカ───もとい、北米大陸の何処かの森。周囲に人影も敵の影も見当たらず、取り敢えず森を出ようと修司達は森の中を歩いていく。

 

「じゃあ、今回の特異点の敵はイギリス………て事になるのかな? ほら、アメリカって何だかんだ人類の歴史の中で欠かすことの出来ない大国な訳だし」

 

『順当に行けばそうかもしれないけど………あの魔術王の事だ。何かしらの罠を張ってある可能性は充分考えられる』

 

 先の特異点で遂に明らかになった黒幕の存在、魔術王ソロモン。冠位(グランド)という他のサーヴァントとは一線を画す力を持つとされる英霊、魔術師達にとって魔術の始祖とも言える存在。

 

自ら使役する七十二の魔神柱を用いて人理に錨を突き立てて特異点とし、人類の歴史を焼却したまごうごとなき人類の敵。そんな奴が今後どういった方法で修司や立香に牙を向けてくるか分からない以上、警戒心は絶やさずにいるべきだとロマニ=アーキマンは言外に忠告する。

 

「だな、魔術師ってのは総じて搦め手を使ってくる奴が多い。そんな奴等の王みたいな奴が相手だと尚更だ。立香ちゃん、マシュちゃん、気を引き締めような」

 

「「はい!」」

 

そして、そんなロマニの意見に修司も概ね賛同していた。先の特異点を経て、本格的に体を鍛え直し、以前よりも遥かに強くなったと断言できるが、依然として修司は魔術というものをあまり理解できていない。

 

ソロモンがどの様な手段で此方に妨害してくるのか、どの様なタイミングで仕掛けてくるのか定かではない。気にするなと言うには敵対している相手の情報が未だに不明な点が多すぎる。こうなってくると、先の特異点で仕止めきれなかった事が悔やまれる。

 

(今更だが、あの時さっさとネオになって縮退砲をぶちこめば良かったか)

 

 立香とマシュが握り拳を作りながら気合いの掛け声をしている横で、修司はそんな事を考えてしまうが……今更な話だ。次に奴が自分達の前に顕れた時、それがこの壮大な歴史の旅が終わる時だ。

 

(その為に鍛えてきたんだ。相棒を使うにせよそうでないにせよ、俺はもっと強くならなきゃいけない)

 

もしソロモンが相棒の対策に何かしらの手段を用いた時、

頼りになるのは自分自身だ。己の体一つで危機的状況を打破出来るようにならなければと、修司は立香達と同様に己に気合いを入れる。

 

 そうこうしている内に森が抜け、一面の荒野へと出てこれた。見渡す限りの大地、これ迄の特異点とはまた違う広大な特異点(世界)に立香が感嘆の声を溢していると……。

 

『皆、気を付けてくれ! 着いた早々で緊急事態だ! その先で大規模な戦闘が発生しているぞ!』

 

「………どうやらそのようだ。向こうで沢山の気配がひしめき合っている」

 

 ロマニの言葉に修司もまた気配を探る。すると、かなりの数の気配が戦っている様子を感知した。

 

「行ってみよう。もしかしたら其処に今回の特異点の元凶がいるかもしれない!」

 

「了解です。マシュ=キリエライト、前進します!」

 

『二人とも気を付けて、修司君も二人のフォローをお願いね!』

 

「任せとけ」

 

盾を構えて突き進むマシュを筆頭に立香達は戦闘が行われている場所へ向かう。そこで彼等が目にしたのは、異様な光景だった。

 

機械の鎧、先の特異点で遭遇した機械人形(ヘルタースケルター)と似た兵士の群れがレトロチックな戦士達に向けて銃撃している。銃に射たれ、それでも向かってくる戦士、手にしたやりを突き立てて機械の鎧を貫いていくその様子は立香達の目に異様に映った。

 

その構図はさながら原始的な蛮族と近代的な兵団による応酬、機械兵士の中には生身の人間もいることから、完全な機械の集団ではないようだ。

 

この場合、どちらに付けばいいのか、それとも静観に徹するべきなのか、目の当たりにする混沌な戦場に立香達が戸惑っていると、両方の陣営から殺意と敵意が向けられる。

 

『ちょ!? 事情も聞かずにいきなり!?』

 

「戦争状態だから頭に血が昇っているのか。何れにせよ、これじゃあ話も出来やしないか。と、来たぞ。二人とも、ちょっと下がってろ」

 

 押し寄せてくる集団。片方は槍を、もう片方は銃口をそれぞれ修司達に向かって放たれる。上空からの槍の雨、前方からは鉛玉の嵐が彼等を覆っていく。受ければ無事では済まない凶器の弾幕を。

 

「シッ」

 

しかし、修司は拳の一振りで吹き飛ばして見せた。気を纏っての一撃ではなく右腕の一突きの動作、ただそれだけで暴風が戦場を縦断し、両陣営の敵を根刮ぎ吹き飛ばしてしまった。

 

「こ、これは………」

 

「うっわぁ~~~、修司さんってば、遂にそう言う所まで来ちゃったか~~」

 

 腕の一振りで戦場を変えてしまった事にマシュはただ驚き、立香は引いていた。当の本人も思っていた以上に威力が出ていた事に驚いているが、修行の成果があったことを静かに喜び、己の手を握り締めた。

 

「な、なんなんだ今のは!? あ、アイツがやったのか!?」

 

「機械化兵士達を一撃で……あ、あれが例のサーヴァントタイプって奴なのかよ!?」

 

機械兵士達の一緒に戦っていた地元の住民らしき人々が戸惑いの声が出てくる。どうやら今ので戦場の酔いが醒め、正気に戻った様だ。修司を化け物を見るような目で見つめてくる彼等に立香が事情を訊ねよとした時。

 

「立香ちゃん! 上だ!」

 

「え?」

 

彼女の頭上から一個の爆弾が降ってきた。何処からの流れ弾か、何れにせよこのままでは彼女の身が危ない。一瞬の迷いも許されない状況で修司が躊躇いなく界王拳を使おうとするが。

 

「っ!」

 

修司が加速するよりも一瞬早く、マシュが立香の前にたった。瞬間、爆発が起こる。サイズ的に火薬の量は大したモノではなく、規模も予想より小さなモノだったが、人一人を屠るのに充分な威力が秘められていた。

 

だが、その爆発もマシュによって防がれ、人類最後のマスターの命は守られた。

 

「はー、ビックリした。ありがとうマシュ、助かったよ!」

 

「修司さんが最初に反応してくれましたから、どうにか間に合いました。ありがとうございます、修司さん」

 

「いや、俺の方も油断していた。大した相手じゃないから大丈夫だと、タカを括っていた」

 

修司の反応とマシュの気転のお陰でどうにか五体満足でいられた藤丸立香、彼女が危険に晒された事を反省しつつ、次の戦闘に備えようと身構えるが………既にその場には他の勢力の姿は消えていた。恐らくはそれぞれの陣営に引き返したのだろう。

 

「やれやれ、到着早々エライ歓迎を受けたなぁ」

 

「そうですね。ですが、これで一つ分かった事があります。恐らくは、あの陣営のどちらかが今回の特異点の元凶に繋がっていて、どちらかがそれに抗う集団だと」

 

「あぁ、俺もそう思う。なら、今度はどっちの陣営に接触するかだが………」

 

「一先ず、あの機械兵士の人達に接触してみようか。あの槍の戦士達はなんというか、話が通じない感じがしたし」

 

 槍の戦士達か、機械の兵隊か。どちらに接触を試みるか悩む修司達に立香がそれならばと提案する。確かに見た限りでは機械兵士達の方が槍の連中よりも幾分か対話の余地がありそうだ。対する槍の戦士達は見るからに野蛮な連中で、修司も初見から、コイツらとはマトモな対話は敵わないと半ば諦めかけていた。

 

「なら、機械兵士達の拠点へ向かうか。ここから然程遠くない場所に彼等の野営地があるみたいだし、なによりサーヴァントの気配も感じる。ここにいるよりもかなりの情報が得られる筈だ」

 

「ドクター?」

 

『い、今此方でも確認した! 確かに近く野営地と思われる所からサーヴァントの反応があった! ………ていうか修司君の感知能力、前よりかなり精度が上がってない!?』

 

「あぁ、お陰でアサシンの気配遮断にも対応出来そうだ」

 

そう言ってニカッと笑う修司にロマニは頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───それから少しして、修司が感知した人の気配を辿っていくと、森の中に機械兵士達の拠点と思われる野営地に辿り着いた。最初の印象から敵対される事を危惧していたが、どうやらその心配は杞憂だった様だ。忙しく動き回る彼等を横目に、サーヴァントの気配がするテントへ向かう。

 

その途中、怪我をした兵士達がテントへ駆け込んでいく姿を目撃した修司はそう言えばと何かを思い出し、マシュに声を掛ける。

 

「そう言えばさ、マシュちゃんは大丈夫なのか?」

 

「え? と、突然どうしたんです?」

 

「いやさ、なんかマシュちゃん疲れているみたいだし、少し休んだ方がいいかと思ってさ」

 

「え!? マシュって疲れてたの!? ゴメン、私全然気付けてなかった!」

 

「い、いえ先輩。私は頗る元気ですよ。定期検診でも異常は見られませんでしたし、バイタルも正常値を保っていますよ」

 

ですよね、ドクター。そうロマニに訊ねるマシュに医療担当トップの男は通信の向こうで頷いた。

 

『あぁ、マシュの体調は至って正常だ。異常を示している所は確認されていないよ。そもそも、彼女に何かあったらレイシフトの予定もっと早くに先伸ばしにしていたよ』

 

「あ、そっか。それじゃあそうなると………修司さんの勘違い、なのかな?」

 

 マシュの不調さを気の感知から読み取った修司だが、ロマニとマシュ本人からそれはないと返されてしまう。此処へ来て修司の勘違いかと疑う立香だが、これ迄の彼の感知能力の実績からそれは考えにくいと思われた。

 

と、その時だ。マシュの背後から人影が現れる。見れば包帯だらけの兵士がヨロヨロと歩いていくのが見えた。道を塞いでいたことを謝りながら脇道に逸れる三人、兵士がテントへ入っていくのを見計らって二人は修司の方へ視線を向ける。

 

「もしかして修司さん………」

 

「………あー、悪い。今の人と間違えたみたいだ」

 

 頭を掻いて間違いだったと認める修司に立香は溜め息を吐きながら安堵する。

 

「もー、ビックリさせないでよ修司さぁん!」

 

「いやー、本当にゴメン。どうやら修行していた時の感覚がまだ抜けきっていないみたいでさ、どうやら感覚が鋭くなりすぎているみたいだ」

 

「成る程、感覚が鋭敏になって違うものまで感知したと、そう言う事なのですね」

 

「マシュちゃんもゴメンな、不安にさせるような事を言って」

 

「いえ、修司さんの言葉に悪意が無いことは分かってましたし、私も気にしてませんから。ただ、修司さんも疲れているようなら少し休まれては?」

 

「なに、筋肉痛と一緒で動いていれば感覚も元に戻るから大丈夫さ。それより、これからの事だ。彼処のテントには間違いなくサーヴァントはいるけど、どうやって話を聞こうか」

 

マシュの不調、それは結局修司の勘違いだった。申し訳なく頭を下げる彼に立香もマシュも気にしないと謝罪を受け入れ、ロマニの方もそれ以上何かを言うことはなかった。

 

 そして、話題は変わってテントの中にいるサーヴァントに移る、兵士達が中へ入っていく所から恐らくは医療系の英霊がいるのだろう。戦時における医療従事者は兵士よりも多忙である事例が多い、多くの兵士の命を救う事は国の戦力を保つ為の貢献に繋がる。

 

そんなサーヴァントを引き抜く事は現地の人々を見捨てる事にも等しい、故に修司達はサーヴァントを引き抜く前提で話すのではなく、情報を得ることを優先にした。

 

「でもさ、さっきの戦闘もそうだけど、ああいう戦場って他の所でもあったりしているのかな?」

 

「恐らくはそうかと、まだ全容が明らかになっていないので何とも言えませんが、恐らくは北米大陸全体に戦禍は広がっていると思われます。あまり、当たって欲しくない予想ですが」

 

「まるで身体中に転移した癌細胞だな。今回は腫瘍部分を摘出すれば全部解決するだろうけど、生憎今はその情報はない」

 

『成る程、つまり修司君達は特異点という人体を治すナノマシンみたいなものか、言い当て妙だね』

 

 テントの往来から少し離れ、あーだこーだと話し合いを模索する一行。軈てこれでは埒が明かないという結論に至り、正面から話を聞いてもらう事となった。

 

そんな時、テントから一人の女性が現れる。赤い軍服を身に纏い鉄仮面の様な表情の女性、彼女は修司達を見付けると、ズカズカと小走り気味に歩み寄って来て……。

 

「今の話は本当ですか?」

 

「え、え?」

 

「えっと………貴女は?」

 

「私の事などどうでもよろしい。それよりも、今の話は本当なのかと聞いているのです」

 

 突然話し掛けてきたと思ったら、彼女の態度はあまりにも一方的だった。先の話からすると癌細胞云々に付いての事だろうが、それにしたって一方通行過ぎる。

 

「私は、全ての命を助ける義務があります。喩え、全ての命を奪うことになっても。ですから、話してください。あなた達の目的と、この惨劇を沈める治療法を」

 

一見すれば矛盾に満ちた言動。しかし、目の前の女性はそれになんの疑いも在りはしない。全ては目の前の命を救う為、クリミアの天使が修司達に接触する。

 

 

 






Q.ボッチはマシュの状態を見抜けなかったの?

A.気の探知は余程の事がない限り見誤る事はほぼありません。

ましてやボッチの気の感知能力は修行の甲斐あってかなりの精度となっています。

つまりは、そういう事です。

Q.ナイチンゲールはどんな人?

A.ある意味主人公寄りの女傑です。いやマジで。



それでは次回もまた見てボッチノシ

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