『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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暑い日が続く今日、水分補給はしっかりしましょう!


その69 第五特異点

 

 

 

 ────今でも、瞼を閉じれば想起する。静かな夜に染まる大地、黒のランサーを倒す為に派遣された筈の自分が、全く別の相手と戦う事になった時の事。

 

『お前が、黒のランサーを倒したのか?』

 

『その口振りだと、アンタが赤のランサーって奴か? 本当に何人もいるもんなんだな』

 

サーヴァントという存在を当時から打ち倒す程の実力を持った人間、自らの強さを驕りもせず、ただ真摯に受け止め、常に上を目指す求道者。そんな人間が何故、魔術師でもない人間がこの大戦に介入するのか、己の内に抱く疑問を目の前の───まだ、少年の枠から出て切れていない男に────隠すことなく問い詰めると。

 

『別に、そんな大層な話じゃねぇよ。一緒に来ていたツレとはぐれてな、ソイツと合流する為にここら辺を探し回っていたら、絡まれたんで相手しただけだ』

 

 消え行くサーヴァントを一瞥し、そう口にする山吹色の男。そんな奴に気付けば俺は戦いを挑んでいた。

 

我ながら、一方的な話である。同じ武を嗜む者として目の前の男がどれ程の実力者か、知りたくて堪らなかった。内に秘めた力、それを解放した時どうなるのか、知りたくて仕方がなかった。

 

そして、奴の強さはそんな自分の予想を容易く上回った。己が槍を奮っても貫けぬ肉体、炎を放っても焼き尽くす事の出来ない闘志。

 

神秘もなく、神性もなく、魔術の恩恵もなく。泥臭く、しかして修練の果てに得られたであろう強さが、その男から感じ取れた。

 

感服した。その強さに感嘆し、その力に感動した。個人の強さが平均化され、人の限界値が低くなったこの現代に於いて男の────白河修司の突き抜けた強さは生前の猛者達を思い起こさせる。

 

嗚呼、叶うことならもう一度戦いたかった。何処までも、望む限り戦っていたかった。けれど、今生の己の宿敵、決着を付けるべき相手は既に存在している。彼を、黒のセイバーと完全な決着を付けるまで目の前の、もう一人の好敵手と決着は叶わない。

 

強欲であるべきではないことは解っている。この様な気持ちで戦っては、目の前の男とも、黒のセイバーに対しても不義理になる。堪えよう、全ては未熟な己の責任だと、甘んじてその謗りを受けよう。

 

そう、自分の気持ちを嘘偽りなく語った所───。

 

『えぇ、一方的に襲ってきておいてなにその理屈? ……まぁいいけど。アンタと戦っていると俺も強くなっている気がするし、また会うことが出来たら………また戦ろうぜ』

 

 呆れながらも笑い、また勝負をしてくれることを許してくれた修司に施しの英雄は頭を垂れた。

 

『感謝する。白河修司、お前との戦いはいつか必ず決着を付けると約束しよう。喩えこの大戦で俺が消え、座に還ろうとも、この約束だけは決して違えたりはしない』

 

『ま、真面目な奴だなぁ。けど、分かったよ。その時が来たら決着を付けよう。それまでに俺ももっと腕を上げておくよ』

 

『楽しみにしている』

 

嗚呼、楽しみだ。本当に楽しみだ。現時点でサーヴァントに匹敵、或いは凌駕するお前が、次に会う時はどれ程の高みに到達しているのか。考えただけでもワクワクする。

 

この日、施しの英雄───カルナは、一つの約束を交わした。その約束は座に還った後でも決して磨耗する事なく抱えていて、それは新たに召喚された後でも変わらない。

 

次に彼と出会う時、それこそが自身にとって至福の時間の始まりなのだと、施しの英雄は信じて疑わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 荒野の砂塵を巻き上げながら、敵勢力がいる拠点へと近付く無数の影。手には槍を握り締め、敵意と殺意に満ちた獣の如き戦士達は遠吠えを吐きながら荒野の大地を駆けていく。

 

言葉も交わせぬ野生の獣同然の戦士達を率いるのは、長い金髪が特徴的な優男と、目元に黒子を携えた男性。彼等のその手にも槍が握り締められていて、これから始まる戦いに微塵も臆している様子はなかった。

 

「はてさて、我等が王の話では近い内に山吹色の男が現れると聞いたが、どんな男だと思う? ディルムッド」

 

「はっ、子細の程は我々にも伝え聞いていない故に不鮮明ですが、恐らくは彼の王が固執する程度には強者なのではないかと」

 

「固執ねぇ。あの王に誰かを固執する感情があるとは思えんが………まぁ、固執するものがそれしかないのなら仕方がないか。とは言え、女王を前に惚気るのは流石に勘弁して貰いたいものだなぁ」

 

「………物凄い剣幕でしたからね」

 

 此処に来るまでに起きた出来事を思い返し、二人は深々と溜め息を溢す。いつの時代も男女関係の問題は厄介なものだ、今回の召喚でせめて自分達は巻き込まれないように気を付けようと気持ちを新たにした時、彼等の前に赤い軍服の女性が現れた。

 

「止まりなさい。そこの貴方達、この先にいるのは戦えない患者達のいる野営地です。引き返しなさい」

 

「おっと、これは麗しいお嬢さんだ。しかし、その言葉には従えない。我々は王の命を受けて此処にいる。退かせたくば、力で押し通るがいい」

 

「分かりました。ならばこれより、貴方達を殺菌消毒した後、治療を施します」

 

「治療? いや、我々は特に怪我とかしていないが?」

 

「問答無用。大人しくベッドに沈みなさい」

 

「くっ! 話を聞かないタイプの女性であったか! 苦手だ。本当にこう言うタイプは苦手だ!」

 

「ハハハ、実感が籠っているぞディルムッド!」

 

会話もそこそこに、名乗りもあげず進軍してくる槍の兵隊達をクリミナの天使は己のみで挑もうとする。幾らサーヴァントでも多勢に無勢、縦横無尽に襲ってくる槍の筵にそれでも構わず暴れようとする彼女に───。

 

「先行しすぎだナイチンゲール氏!」

 

山吹色の胴着を身に纏った白河修司が駆け付け、開口一番に右手から気功波を放ち、槍の戦士────ケルトの群を一掃する。

 

「「っ!?」」

 

 たった一撃で連れてきたケルトの半数以上が消滅した事実に二人の槍兵は目を見開くが、彼等が驚愕したのはそこだけではない。

 

山吹色の男、もっと詳しく言うならその胴着を着た男こそが二人がこれまで探し続けてきた者だった。これまで北米大陸の侵攻ついでに探し続けてきたのだが、今まで見付からなかった事に王以上に女王が苛つき始めてきた今日、漸く目的の人物が現れたことに二人のランサーは歓喜と安堵の混じった表情を浮かべた。

 

「気持ちが逸るのは分かるけど落ち着いてくれ。ナイチンゲール、俺達はチームで動いている。アンタの判断や考えを否定するつもりはないが、せめて行動する時は一声掛けてくれ」

 

「善処します」

 

 独断専行するナイチンゲールに対する苦言は程々にして、追い付いてきたマシュと立香達と共にケルトの軍勢に向き直る。初擊で半数以上を削ったとは言え、依然として戦力差は大きい。修司が一歩前に進んだとき、金髪の優男が待ったを掛けてきた。

 

「其処の御仁、戦う前に一つ聞いても良いだろうか」

 

「あ? なんだよ」

 

「貴殿の名前は───白河修司であるとお見受けするが、間違いないか?」

 

薄ら笑みを浮かべて訊ねてくる金髪に、立香とマシュは驚くが、対する修司は然程驚いてはいなかった。

 

何せ、既に修司は魔術王から目を付けられている。これからの旅先でどの様な罠が張り巡らされているか分からない以上、如何なる事態に陥っても “これも魔術王の仕業か” で納得できるし混乱もせずに済む。

 

恐らく連中の親玉に魔術王が何らかの仕込みをしたのだろう。人類を見下しながら人類を利用する。魔術師らしい狡い手を使うモノだ。

 

「だったらなんだよ」

 

「いやなに、我等の王が貴殿の来訪を待ち望んでいたのでな。故に貴殿には我々と共に来て欲しいのだが………」

 

「舐めるなよ。そんな風に言われて誰がホイホイ着いていくかよ、用があるなら自分から来いと伝えておけ」

 

「それを言うと本当にやりそうだから困るんだよなぁ」

 

「フィン=マックール。どうしますか?」

 

「うーん。そうだなぁ、王からは報告しろと言われていたが、戦うなとは言われてないし、なにより───ケルトの戦士が、ヤられっぱなしのままというのは戴けないな」

 

 瞬間、二人のケルトの戦士から放たれる気迫に立香達は身構える。ついさっきまで彼処まで砕けていたのに、まるで別人のような切り替えの早さ。これがケルトの戦士の戦い、この特異点初となるサーヴァント戦に一行が戦闘体勢に入った時。

 

「悪いが、そうはさせんよ」

 

頭上から無数の炎の槍が、立香達とケルト勢の間を分かつように降り注がれる。次いで起きる爆風、マシュは立香を、修司はナイチンゲールを守るように前に立ち、迫る爆風を防いでいく。

 

草木のない荒野の大地が、それでも尚燃える地面。その圧倒的熱量に立香が驚いていると、一人のサーヴァントが降り立った。

 

「なんという火力。これが、あちら側の最高戦力か」

 

「施しの英雄、カルナ。その武勇に偽りなしか」

 

 透き通るような白い肌と髪、まるで何もかもを見通してしまいそうな眼光と出で立ち。その堂々たる佇まいはケルトの戦士達を一時的に萎えさせてしまうほどに強大だった。

 

「さて、これで数の差は開いたみたいだけど、どうする? これでもまだ貴方達は戦うつもりかしら?」

 

「え、エレナさん?」

 

どうやら、目の前のカルナと呼ばれるサーヴァントは彼女が連れてきたらしい。腕を組んでドヤ顔している彼女は年相応の少女にしか見えなかった。

 

「────仕方ない。此処は引くとしよう」

 

「フィン=マックール、宜しいので?」

 

「この状況では仕方ないだろう、我等は彼の発見の命令を第一に与えられていた。それが果たされた以上戦う意味はないよ」

 

「おいコラ、お前ほんの十数秒前まで戦う気満々だったじゃねぇか」

 

「フフフ、臨機応変という奴さ。それでは諸君、また会おう」

 

 それだけを言ってその場から翻すケルトの戦士二人は瞬く間に荒野の彼方へと姿を消していく、追い掛けてやりたい所だが、残ったケルトの雑兵が修司達の前に立ち塞がる。その顔には生気がなく、まるで死兵の様だった。

 

「な、なにコイツら!」

 

「これは………気を付けろ二人とも、コイツ等は普通じゃない! 死ぬことを恐れない死兵だ! 道連れにされないように気を付けろ!」

 

目の前の修司やカルナに臆した様子も見せず、機械的に襲ってくるケルト兵。恐怖の感情を抱かせず、本能のままに襲ってくるその姿は並の獣よりも野性的であった。

 

 しかし、いくらケルトと言えど所詮は量産型の雑兵。修司を筆頭に施しの英雄のカルナも来てくれた以上此方に敗北はなく、襲ってきたケルトの集団を危なげなく殲滅する事ができた。

 

取り敢えず、第五特異点に来て二度目の戦闘はどちらも傷を負う事なく終了した。これも偏にカルナと呼ばれる英雄のお陰、敵か味方かはまだ分からないが、手を貸して貰った以上は礼を言うべきだろう。

 

そう思い修司が近付くと、カルナから錫杖の様な槍を向けられる。彼から発せられる敵意と漲る戦意、ただ事ではないと警戒を顕にすると。

 

「さぁ、今こそ約束の時だ。決着を付けよう、白河修司!」

 

不敵に笑い、口角を吊り上げる大英雄を前に───。

 

「えっと、すみません。………どちら様でしょうか?」

 

「!?!?」

 

 頭を掻き、本当に覚えている様子のない修司に施しの英雄は愕然となり、その後ろではエレナ=ブラヴァツキーがコケていた。

 

『前から思ってたけど、修司君っていろんなものを台無しにしていくの得意だよね』

 

「フォウ!」

 

 





キャメロット後編、観てきました。面白かったです!

お陰で第六特異点を書く意欲がモリモリ湧いてくる今日この頃。

あぁ、早く格好いい円卓の騎士を書きたいなぁ。

なお、書けるとは言っていない。

PS.因みに作者は人の不幸を喜ぶ愉悦部員ではないので悪しからず。ホントダヨ?


それでは次回もまた見てボッチノシ



Q.カルナって修司に対してどれくらい拘ってたの?
A.結構拘ってます。今回の特異点のボスと競う位には。


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