『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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いよいよ第二部の六章が近日に迫っている中、育成に必死な私です。

テイオーが、マックイーンが、スズカが、ワイを離してくれないんや!

あ、タマモクロスの実装待ってます。


その70 第五特異点

 

 

 

 第五の特異点、北米大陸。広大な探索範囲に戸惑いながらも、どうにか現地での協力者を得ようとしていたカルデアの一行は、ナイチンゲールというサーヴァントを味方に引き入れる事に成功した。

 

その後、負傷した兵隊のいる野営地を襲おうとした敵勢力、ケルト達と戦うことになったのだが、紆余曲折を経て、どうにか無傷で撃退する事に成功した。

 

そんなカルデアの一行は特異点の原因である聖杯を見付け、回収する為に次の旅へ向かおうとしていたのだが。

 

「「「……………」」」

 

 現在、カルデアの一行は馬車の荷に揺られ、重苦しい空気の中とある拠点に向けてナイチンゲール共々搬送されていた。

 

『お、重い。空気が重いぞぅ!? ねぇ修司君、この空気なんとかしてよ! もとはと言えば君が原因みたいなもんなんだから!』

 

「いや、そう言われてもなぁ」

 

通信越しでロマニから重苦しい空気を何とかしろと言われ、恐る恐る荷馬車の隅へ視線を向けると、膝を抱えたまま、ブツブツ何かを言っているサーヴァントがいた。

 

カルナ。インドの叙事詩に於いて大陽神の子として伝えられる通称施しの英雄、数多く存在しているサーヴァントの中でもトップクラスの力を持っている英霊。そんな彼が、現在は膝を抱えて何かを呟いている愉快なオブジェクトと化している。

 

「ねぇ修司さん、本当に心当たりはないの?」

 

「その筈なんだけどなぁ、俺もあんな強そうな奴を見かけたら忘れるとは思えないし、でも実際なにも思い出せないし………うーん。もしかしてマジで前世からの因縁だったりとか?」

 

「いえ、それは流石にないかと思います。カルナさんは今の───今世での修司さんと約束していたみたいですから」

 

 どれだけ記憶をサルベージしても、カルナという大英雄と約束を交わした事が思い出せない。修司としても思い出してやりたいのは山々だが、如何せん心当たりも記憶もない。落ち込んでいるカルナを前に流石に罪悪感が拭えないでいる修司、一方でナイチンゲールは自分達を何処へ連れていくつもりなのか、同じ荷馬車に同乗しているエレナへと問い詰めた。

 

「それで、私達を何処へ連れていくのですか。私達には病の根本的治療をしなければならない任務があるのですが……」

 

「そんなに慌てなくてももうじき着くわ。それに、私達に付いてくるのは貴女も同意していた筈よ」

 

本当の事を言えば、修司のどちら様?に戦意が折られたカルナを必死にフォローし、修司達に来て欲しいと懇願したのが事実だが、彼女は見た目こそ幼い子供ではあるが中身は歴とした成人した女性、落ち着き計らった態度で修司達に自分達に付いてくるメリットを語って納得させた手腕は敏腕な秘書官を思わせた。

 

「貴方の同志、修司も言っていた筈よ。病を治すにしても先ずは必要な情報を集めるのが先決、貴女にとっては辛い選択かもしれないけどね」

 

現在、ここ北米大陸は大きく二つの勢力に別れている。東と西、ケルトとアメリカ、巨大な二つの勢力が日夜大陸の覇権を懸けて争っている。こうしている間にも怪我人が出て、死人を出してしまっている。全ての命を殺してでも救いたい、大きすぎる覚悟を背負うナイチンゲールにとってその選択は他人が思っている以上に重たいもの。

 

しかし、それでも反発しない辺り彼女も理解しているのだろう。一つ一つの野営地で人を救っても根本的治療には至らない、修司は現在の北米大陸を病に侵された人体のようだと比喩したが、その表現は強ち間違いではなかった。

 

大陸中に転移する戦場という病、その病を治すには戦いを引き起こしている元凶を殺菌、消毒する他ない。それを理性ではなく、本能()で理解しているからこそ、ナイチンゲールは現在まで大人しく修司達に付き従っているのだろう。

 

「………分かりました。今はその言葉に従いましょう、ですが今の内に言っておきます。私は、治療を終えるまで決して立ち止まるつもりはありませんので」

 

 そう言って、ナイチンゲールはそれ以上口を開く事はなかった。そんな彼女を前にしてエレナ=ブラヴァツキーは深い溜め息を溢す。

 

 そして、それから暫く荷馬車での移動は続き、カルデア一行はとある巨大な拠点へ到着した。砦の至る所に掲げられた星条旗、外と中には機械化された歩兵達がアチコチに配置され、警備の厳重さを物語っている。

 

エレナを筆頭に砦の中へと通されると、一際大きな場所へ案内された。広い空間だ。その奥には玉座らしい椅子が鎮座しており、本当に民主主義の大国であるアメリカに王が誕生しているようだ。

 

「ふわぁ、本当に王様がいるんだ。どんなひとなんだろ?」

 

「民主主義の大国に王とは、個人的に酷く矛盾している様に思えるのですが」

 

「そうね。だからこそ面白いのよ、私達の王様は」

 

「…………なんだ、これ?」

 

「あれ? 修司さん、どうしたの?」

 

「………いや、ちょっと妙な気配を感じてさ。ロマニ、そっちはどうなってる?」

 

『うん。多分、修司君が感じた通りの反応だと思う。けど、憶測で余計な先入観を与えたくないし、一先ず黙っておいて』

 

「了解、そう言うわけだから気にしなくてもいいよ」

 

「えぇ、余計に気になるんだけど?」

 

何やら秘密裏に話している二人に仲間外れにされたと思った立香は頬を膨らませて抗議する。そんな彼女を宥めていると、遠くから大きな声が聞こえてきた。

 

「お待たせしました。大統王、ご到着です!」

 

『おおおおお! 遂にあの天使と対面する時が来たのだな! この瞬間をどれ程待ち焦がれた事か! ケルトどもを駆逐した後に招く予定だったが、早まったのならそれはそれで良し! うむ、予定が早まるのはいい事だ! 納期の延期に比べれば大変良い!』

 

「デカ、声デッカ!」

 

「す、凄い声量です。純粋な声の大きさならネロ皇帝やエリザベートさんに匹敵するかも?」

 

「「いや、それはない」」

 

扉越しからでも響いてくる大きな声、大統王なる王の声量に驚くマシュだが、皇帝ネロとエリザベートという二大巨頭を知る者としては珍しくはあれど驚くほどではなかった。

 

「はぁ、独り言ならもう少し声量落としてって前から言っていたのに……」

 

………因みに、二人の声は扉越しに響かせるのではなく、扉ごと吹き飛ばしたりしている。閑話休題。

 

「───素直に言って大義である! みんな、はじめまして、おめでとう!」

 

 そして、大きい扉が開かれ、奥から人影が現れる。左右の肩に乗せられている電球、青と赤という二大色をメインにした視線が引かれる色合い。その見上げる程の長身は王と名乗るに相応しい威圧感をもたらしていた。

 

ただし───。

 

「「「……ら」」」

 

「む?」

 

「「「ライオンだァーーッ!!」」」

 

その頭部はどうしようもなく、肉食動物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───と、言うわけで諸君達には是非我が軍に将として参戦して欲しいのだ」

 

「は、はぁ、成る程」

 

 ケルトとアメリカ、東と西、東西に別れて行われている戦争、エレナ=ブラヴァツキーから聞かされていた話を、改めて知ることとなった一行。

 

目の前のライオン男───改め、トーマス=エジソンからの誘いをどうにか冷静を取り戻したマシュが吟味する。ケルト人の駆逐、この時代に有り得ざる侵略者達から北米大陸を守るという点に於いては目の前の発明王との衝突には至らない。寧ろ、大きな後ろ楯を得られる事で立香達の出来ることは増えてくるだろう。

 

エジソンの話を静かに聞いていた修司は、エジソンの目論見を見定めている。果たして彼の本心は北米大陸の防衛にあるのだろうか。

 

 確かに召喚された以降のエジソンの活躍は目覚ましいモノがある。彼の発案した新国家体制、新軍事体制によって、ケルトに圧倒されていた戦線を建て直し、今では戦況は互角にまで持ち直した。

 

ニコラ=テスラに続く白河修司の尊敬する人物の一人、トーマス=エジソン。彼の行いは正に大量生産の覇者である。そんな彼と協力して戦う事は修司にとってある意味、最高の名誉でもあった。

 

しかし、そんな彼を大陸各地に召喚された英霊達は参戦を拒んでいるという。その辺りの事も含め、修司には引っ掛かるモノが多く感じ取られた。

 

そんな時、藤丸立香は恐る恐る挙手をしてエジソンに質問を投げ掛ける。

 

「あの、エジソンさん。一つ質問いいですか?」

 

「うむ。人類唯一のマスターの一人である君の言葉だ。聞かせていただこう」

 

「ケルトを倒して世界を救う。と、貴方は言いましたけど、具体的にどうやって世界を救うんです? 私達はこれまで聖杯を回収するという形で特異点を修復させて来たんですけど………」

 

 これ迄の特異点の旅と照らし合わせるなら、ケルト軍を打ち倒して聖杯を回収する事で時代を修正させる。それが今回のミッションの内容であり、大まかな流れでもあった。

 

だが、目の前のエジソンはケルトを倒した先の事を話してはいない。意図して話していないのか、それとも単に伝え忘れているだけか。恐らくは後者だ。現に、発明王は立香の質問にそうだったと手を叩いて思い出した素振りを見せている。

 

「いいや、時代を修正する必要はないぞ」

 

「………え?」

 

「必要はない。聖杯があれば、私が改良する事で時代の焼却を防ぐこともできよう。そうすれば、他の時代とは全く異なる時間軸にこのアメリカという世界が誕生する事になる」

 

「なっ、そんな事が可能なのですか!?」

 

「聖杯の力は、召喚された我々にも良く分かっている。故に、充分に可能だという結論が出た」

 

「………他の時代は、どうなるんですか」

 

「────滅びるだろうな」

 

「そ、それでは意味がありません!」

 

「何を言う。これ程素晴らしい意味があるだろうか。このアメリカを永遠に残すのだ。私の発明が、アメリカを作り直すのだ。ただ増え続け、戦い続けるケルト人どもに示してくれる。私の発明こそが人類の光、文明の力なのだとな!」

 

 ────火の文明。

 

ふと、修司の脳裏にそんな言葉が浮かんだ。文明の力、確かにそれは人類が築き上げてきた力の総称だ。喩え如何なる災害や人災に見舞われても、立ち上がり乗り越えてきた人類の文明の力。その一助となっているエジソンを尊敬しているし、今でもその気持ちは変わらない。

 

だが、目の前のライオン頭はそれを自分だけで成し遂げてやると豪語している。人類の舵取りは自分こそが相応しいと、他は不要だと暗に断じている大統王に………修司は、失望感を抱いていた。

 

 そして、トーマス=エジソンとの交渉は決裂となってしまう。ナイチンゲールが糾弾し、マシュや立香もそれではダメだと諭そうとしている。しかし、エジソンは止まらない。これこそが人類の光だと自らの計画に絶対視してしまっている。

 

軈て、無数の機械化歩兵達が雪崩れ込んでくる。戦いは避けられず、エジソンの側に控えていたエレナやカルナ迄もが戦闘体勢に入ろうとしている。衝突は避けられない、戦うしかないのかと立香達が身構えた時。

 

今まで黙していた修司が、大統王に向かって歩きだす。

 

「トーマス=エジソン。いや、大統王。貴方は俺にとって目標であり、憧れでもありました」

 

「む? 君は………」

 

「貴方の発明は、多くの人の生活に影響を与え、貴方の発明に俺もとても感化されました。貴方達の存在は、俺達人類に大きな標となっていました」

 

「し、修司さん?」

 

 何だろう、いつもの彼とは少々様子が違う気がする。間違っている事に対して何処までも苛烈になれるこれ迄の修司とは異なり、今の彼は何処までも静かだった。

 

「でも、貴方はそれを否定した。過去の人達の努力を無視して、未来に現れる可能性に蓋をして、己だけしか見ていない」

 

「それが、それがなんだというのだ! 私という発明王がいれば、それだけで人類の発展は事足りる! 私の頭脳をもってすれば、人理焼却など大した問題では───」

 

「ニコラ=テスラ」

 

「っ!?」

 

「先の特異点で、俺は彼と戦った。敵として立ち塞がったあの人を、俺は正面から戦い、打ち破りました」

 

 修司が思い返すのは、霧に包まれたロンドン。雷を纏い、人類に仇なす事を決め付けられた彼は、それでも自分に出来ることを模索し、その上で修司に討たれる道を選んだ。

 

手加減なしで撃ち込み、痛みや熱で苦しい筈なのに、それでも雷電博士は笑ったまま修司達に託した。

 

「あの人は最後の最期まで、俺達人類を信じてくれた。あとは頼んだぞと、笑いながら俺達の可能性に懸けてくれた。嬉しかった。あの雷電博士に認められた気がして、凄く………嬉しかった」

 

「一体、君は、何が言いたいんだね!?」

 

「大統王」

 

 仄めかし、何かを言いたげな言葉を敢えて焦らすような口振り、ハッキリとしない物言いに苛立ち始めたエジソンだが、次に向けられる修司の眼に彼の巨大はビクリと跳ねる。

 

「アンタがどうしてそうなったのか、今いる立場が、或いはアンタの中にいる人達(・・・・・・・・・・)がそうさせているのか、俺には分からない。けれど、それらを踏まえた上で言わせてもらうよ」

 

「今のアンタ────超絶ダセェよ」

 

その言葉は、立香やマシュの説得よりも、ナイチンゲールの糾弾よりも、友人のカルナとエレナの慰めよりも、深く深くエジソンの心に突き刺さり───。

 

「GAOOOOOOOO!!!」

 

その悲鳴は拠点となる砦中に轟いた。

 

「全く、痛いところを突いてくれるわね。カルナ!」

 

「承知した」

 

 泣き喚き、地に崩れ落ちる大統王に駆け寄るエレナがカルナに立香達の捕縛を命じる。ここまで来ると己の欲を優先する場合ではないと、施しの英雄が錫杖を片手に肉薄する。

 

そんな彼を遮ったのも、また修司だった。振るわれる錫杖と剛腕、衝突の余波で周囲の機械化歩兵達が吹き飛ぶなか、修司は立香達の処まで跳び下がる。

 

「三人とも、フォウ君も、目を閉じろ!」

 

「「「っ!!」」」

 

修司の咄嗟の叫びに立香達は溜まらず言うことに従う。彼等との交渉が決裂した今、ここに長居をするのは得策ではない。一気に離脱しようと修司は自身の顔に広げた両手を掲げ。

 

「しまっ───」

 

「太陽拳!」

 

 カルナの静止も届かず、目映い閃光が巨大空間を満たしていく。光が収まる頃には修司達の姿はなく、天蓋に大きな穴が開いていた。

 

当然カルナも跡を追うが、外にも既に修司達の姿はなく、完全に見失った。やられた。今回の一連の流れは全て己の不手際だと自戒しながらカルナは戻る。

 

「───この借りも、いずれ纏めて返させて貰うぞ。喩え、お前が約束を忘れていようとも」

 

自分の望む形とはならなかったが、次に会う時は遠慮はなくなった。いずれ訪れるその時を前に施しの英雄も、今は大人しく身を引く事にした。

 

 

 

 




Q.今回の話で最も優越感に浸れたのは?

A.間違いなくニコラさんです。引き合いに出され、泣き崩れたエジソンを見て、それはそれは愉快痛快な気持ちだったとか。

それでは次回もまた見てボッチノシ




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