『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回、とあるスパロボ要素があります。ご注意ください。

あと、ボッチの口も悪くなってるかも。

不快にさせたらすみません。


その112 第六特異点

 

 

「────吼えたな、人間」

 

 魔力が迸る。修司の宣戦布告を受けた獅子王は、自身に秘めた力を解放し、嵐となって玉座を蹂躙していく。表情こそは無感情のままではあるが、口端から溢れ落ちる感情の吐露は隠しきれていない。

 

初めて明確に露になる獅子王の感情、そんな彼女とは対称的に、修司の口元は不敵に歪む。

 

「早々に魔術王に勝てないと知って尻尾を巻いて逃げた王なんだ。そりゃ吼えるだろ」

 

嘲りの混じった皮肉、やれやれと肩を竦めて事実を事実のまま口にする修司に、獅子王は初めて憤りを自覚し───気付けば、彼女の手にした聖槍は修司の心臓目掛けて振り放たれていた。

 

獅子王から初めて見せた攻撃の挙動だが、如何せん速すぎる。音を超え、己の膂力と魔力によるブーストを掛けて行う獅子王の突撃(チャージ)

 

しかし、そんな女神の一撃は防がれる。他ならぬ、彼女にとって保護対象でしかなかった人間の手によって、聖槍の尖端が握られている。

 

「なんだよ今の動きは? もしかして、不意討ちのつもりだったのか?」

 

「────っ!」

 

 素手、それも片手で簡単に受け止められた事実に獅子王は驚きを露にするが………すぐに目の前の人間の評価を改める事で平静を保ち始める。相手はこれ迄、幾度となく自分達に立ち塞がってきた強者だ。自分が側に置いていた騎士達の全てを悉く蹂躙してきた猛者だ。そんな奴にとって、この程度の芸当は造作もないのだろう。

 

握り締めた修司の手を振り払い、距離を取る。身を屈めて戦闘態勢となる獅子王に対し、修司は何処までも自然体だった。

 

「人間、お前は言ったな。私に逃げていると、何故そう思う。滅びる事が確定したこの世界で、何を以て望みがあると言い切れる? 幻想のような希望にすがり付いて、他者を巻き込んで自滅するのが、お前の言う可能性なのか?」

 

 聖槍ロンゴミニアドを手にし、神の視点へ辿り着いた獅子王は世界の終りを目撃し、その光景を受け入れた。受け入れるしかなかった。

 

この世界に可能性もなければ希望もない。ただ定められた必然しかないのだと、魔術王による人理焼却は完成されている。今更足掻いた所で意味はなく、どれだけ泣き叫び、喚こうとも覆ることは有り得ない。終わるのではなく、終わった事を覆すのはどんな奇跡を用いても不可能に近い。

 

そんな芥子粒にも満たない可能性の為に、残された人類の全てを掛けて抗うなど………無駄でしかない。覆らない事実に抗い、救える命を見捨てては本末転倒も良いところだ。だったら、限りある命を確実に救済し、永久的に保存して管理する方が余程現実的と言えるだろう。

 

なのに、目の前の男はそれを全く考えようとしない。可能性という未知数で不確かなモノにすがり、依存していては諸とも破滅を迎えるのが関の山だ。そんなモノは希望とは呼ばない、そんなモノに縋って破滅をもたらす愚か者に、逃げたなどと侮辱される謂れはない。

 

 しかし、そんな内心で憤る獅子王とは余所に、修司はただ呆れ、首を横に向ける。

 

「だったら、お前一人で勝手に消えれば良かっただろうが。私は魔術王には勝てないと思うので、一足先に消滅しておきますってよ」

 

自分が諦めるのはいい。誰も共感を得ないだろうし、諦めた本人も其処まで気持ちを固めた以上、闇雲に理解されたくはないだろう。無駄の抵抗を止めて大人しく死を待てば良いし、都合良く救われるのも待てば良い。

 

だが、獅子王はそうじゃない。魔術王には勝てないと分かると、その達観のツケを他者に押し付けた。聖抜という儀式で自分の都合の良い人間だけを選び、他は残さず虐殺するという悪辣さ、それはこれ迄の特異点の中でも群を抜いて唾棄するモノだった。

 

「もしくは、誰かに全てを丸投げするのも良かったかもな。自分ではどうしようもないから、他に頼れる人に全て託してよ。それこそ、太陽王に円卓を託したりしてな」

 

「太陽王………だと?」

 

「おお、もしお前が円卓の騎士達と一緒に太陽王の手下にでもなっちまえば、この特異点の難易度はもっと跳ね上がっていただろうよ。例の十字軍ももっと楽に倒せたと思うし」

 

 修司達カルデアの一行がこの特異点に辿り着く以前に円卓の騎士は十字軍と戦い、獅子王との戦いも勝利した。が、その代償は決して小さくなく、その戦いで円卓は予想外の犠牲を払うことになった。

 

その真相は修司にも分からない。だから、他に姿の見えない円卓の騎士達が十字軍の戦いで消滅したのではないかという結論に至るのも、仕方のない事。

 

というか、状況的にそれしかない。十字軍の軍勢がどれ程強大で手強いモノだったのかは、直接相対した訳ではない修司には推し量れる事ではない。だが、もし其処で太陽王と同盟でもしていれば、円卓や太陽王はもっと万全な態勢で自分達を迎え撃つ事もできたのだ。

 

次の第七特異点と、その先に待つ魔術王。勝てるとは限らなくても、挑む前準備程度は出来た筈だし、或いは………もっと別の道の可能性だって開けた事だろう。それだけの可能性があの王にはあった。

 

「私が、太陽王に劣る? 酷い侮辱だ。一体何を以て、貴様はそう言い切れる?」

 

「実績」

 

 即答。怒りに声を震わせる獅子王に修司は即答で応え、これに獅子王は面喰らう。カルデア越しに見ていたロマニは勿論の事、多くのサーヴァント達がアチャーと顔を覆っているが、英雄王だけはカラカラと笑い声を張り上げ、聖女にシバかれていた。

 

「実績………だと?」

 

「いや、なに意外そうな顔をしてるんだよ、当たり前だろうが。片や国を次代へ繋ぎ、数多くの栄光と繁栄を築いた王。片や最初から最後まで外にも内にも敵を作って、最終的に身内のいざこざで滅んだ国の王。ほら、語るまでもないだろ?」

 

本気で分かっていない様子の獅子王に修司は可能な限り丁寧に説明を口にした。確かにブリテンのアーサー王には多種多様の伝説が存在し、一見すれば誰もが羨む時代なのだろう。

 

だが、当時のブリテンは度重なる戦いに大地は困窮し、それでもブリテン各国の王達は戦いを止める事は出来なかった。それを諫め、真なる王として立ち上がった騎士王には頭が下がる思いだが、端から見ればそれは不幸の始まりにも見えた。

 

騎士王は確かに頑張ったのだろう。ブリテンの各地に起きる戦いを平定し、ヴォーティガーンなる邪竜を討伐したのも見事と言えよう。だが、それらの功績を覆して余りある負債がブリテンには存在していた。

 

ブリテンという土地の疲弊、加えてローマやサクソン、ピクト人等の侵略者の対応、他にもアーサー王に与しない王達の暗躍など、問題は腐るほどあった。

 

極め付きは、妖妃モルガン。アーサー王伝説において避けては通れない彼女に至っては、先代ウーサー王や魔術師マーリンの所為で魔女と呼ばれる存在になったと言っても過言ではない。

 

他にも数々の負債と地雷が敷き詰められた大地、それが当時のブリテンだ。無論、その全てがアーサー王の所為だと言わないし、言うつもりもない。だが、アーサー王が繁栄を齎した経験のない王(・・・・・・・・・・・)だというのも、紛れもない事実なのだ。

 

 今一度言おう。繁栄を齎し、次代へ繋げた王と滅びた国の王。環境や時代の影響があったとしても、二人の王の間には隔絶とした差が存在しているのだ。

 

「理解したか? お前と太陽王とは、比べる事すら憚れる決定的な差があったんだよ。それもまぁ知りもしないで……よくも太陽王(あの御方)を下に見れたモンだよなぁ!?」

 

 獅子王の言う酷い侮辱。それを太陽王と獅子王を比較して言っている事なら、それこそ太陽王に対する酷い侮辱だ。彼の王は、苦悩していた。滅びが確定したこの世界で、それでもなんとか民草と共に生き延びさせようと思案を巡らし、砂漠の民達を可能な限り保護し、害意となる騎士達には貴重なスフィンクスの聖獣達を惜し気もなく解き放った。

 

全ては自国を護る為、神の教えに倣ったやり方ではあったけれども、彼の王が下した決断には確かな人間の情が秘められていた。

 

そして、太陽王は修司が仰ぎ見る英雄王が同格と認めるファラオだ。そんな彼が貶められる事は即ち、英雄王が侮辱されたのも同じ、そういった意味でも獅子王の言動は修司にとって許容出来ないモノだった。

 

「───もう、いい。貴様はもう黙れ、お前の言いたい事は分かった。もう、充分だ」

 

「ハッ、なんだ意外とメンタル脆いな獅子王さんよ? 散々人を見下しておいて、いざ図星を突かれるとそれか。ああ失敬、今は女神だったか? なら人間の言葉に耳を貸さないのも当然かぁ!?」

 

「おぉう、修司君が嘗てない程に荒ぶっている」

 

『……アレはああ見えて、人の事は其処まで悪く言わない質なのだがな。今回ばかりは腹に据えかねているらしい。気をつけたまえよ、ああなった奴は普段以上に容赦がない』

 

「アレ? エミヤ君? ロマニは?」

 

『今しがた医務室に向かった。二人の騎士王がショック症状を引き起こしてな。ナイチンゲール女史と一緒に手当てをしてる最中だ』

 

「oh」

 

相変わらず全方位に向けて被害を出す修司だが、今はその事を追求するのは止めておこう。

 

「ドゥン・スタリオン!!」

 

 ダ・ヴィンチが修司の口撃に絶句するなか、獅子王は叫ぶ。すると、嵐の向こうから蹄の鳴る音が響き渡り、獅子王の下へ一頭の白馬が顕れる。

 

ドゥン・スタリオン。ラムレイと対を為すアーサー王の愛馬が、獅子王の呼び掛けに応えた。在り方が歪み、嘗ての主とはかけ離れていようと、獅子王に頭を垂れて騎乗を促すその馬は………紛れもなく、アーサー王の忠臣であった。

 

獅子王がドゥン・スタリオンの背に跨がる事で、威圧感はより増していく。見下ろし、無表情でありながら怒りを顕にしてくる獅子王に対し、修司は不敵な笑みを浮かべた。

 

「────山吹色の男、我が怨敵よ。最早貴様に事の善悪の問答はすまい、貴様が私の道を阻むと言うのなら、その肉片一つ残さず消し飛ばしてやろう」

 

「やれるもんならやってみろ」

 

不遜。獅子王に対する修司の態度は何処までいっても変わることは無かった。

 

そして───。

 

「いいだろう。ならば、お前の全てを否定してやる。お前という悪を滅ぼす為に、私は全霊を以て挑むとしよう」

 

 駆ける。ドゥン・スタリオンの手綱を引いて、獅子王は空高く舞い上がる。───結局、修司の言葉には何一つ満足に返すことが出来ないまま。

 

軈て、聖都全体を見下ろすまで飛んだ獅子王は、聖槍の力を解放する。膨大な魔力の奔流、マシュと立香が死に物狂いで防いだ裁きの光が、再び地上に向けて力を収束し───。

 

「私の世界に、貴様という人間は必要ない。消えろ!!」

 

「ロンゴ────ミニアド!!」

 

 獅子王の怒りに満ちた光の鉄槌が下された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───迫る。大きく、巨大な光の奔流が、修司という一人の人間を消す為にその力を惜し気もなく押し寄せてくる。圧倒的質量と魔力量、その規模はあのカルナの宝具すらも凌駕する勢いだ。

 

これが神霊。人間では決して敵わない神秘の領域───しかし、その男は何処までも不敵に笑っていた。

 

獅子王は、人間の可能性を否定する。可能性という不確かで、曖昧なモノには頼らず不要と断じるその姿勢、ならば自分こそが獅子王の芯を折るのに相応しい。

 

「ベディヴィエール」

 

「っ!」

 

「聖槍は、俺が砕く。その後の事は………お前次第だぞ」

 

落ちてくる裁きの光を見上げながら、これ迄沈黙を保っていたベディヴィエールに声を掛ける。その意味深な言葉が何を意味しているのか、ダ・ヴィンチには分からない。ただ………。

 

「はい。ありがとう修司、あなたという人間と出会えて、私は幸福でした」

 

何か、気持ちを固めたらしい。そんなベディヴィエールを一瞥しながら、修司は空を飛ぶ。迫り来る破壊の光に向かって、一直線に。

 

もう衝突まで時間がない。空を覆う巨大なエネルギーを前に、修司の動きは停止する。目を瞑り、意識を深く研ぎ澄ませる彼の前には………一つの扉が聳え立っていた。

 

 鍵はない。掛けられていた錠は既に消え、あるのは古びた取っ手のみ。これが自分の可能性だと言うのなら、この扉の先にこそソレはある。

 

触れる。扉の取っ手に触れた瞬間、修司に流れ込むのは一つの光景、数多の敵と戦う鋼の勇者達の情景。現代の技術力では、到底敵わない未来の映像。

 

否、それは遠い未来の話ではない。極めて近く、限りなく遠い光景の一つなのだと、修司は心で理解した。

 

彼等も、可能性を信じて戦う者達だというのなら、自分も負ける訳にはいかない。

 

 ───力が宿る。淡く輝く光を纏い、修司は迫る光の尖端に向けて拳を突き付ける。

 

「行くぜ獅子王、これが───人間の力、お前が不要と断じる可能性の力だ!」

 

選択するのは、一つの力。無茶を通して道理を突き破り、天も次元も突破する無限の体現。

 

渦を描く。修司の突き出した拳を軸に、光が集約し───軈て、一つの形を生み出していく。奇しくも、獅子王の奮う槍と似た形状のソレは。

 

「ギガァ───」

 

「ドリルッ!」

 

「ブレイクゥゥゥッ!!」

 

ドリル。螺旋を描き、無限に続く力の奔流は、獅子王の裁きの光を巻き上げ────獅子王の持つ聖槍ごと、打ち砕いた。

 

「バカな」

 

 獅子王の呟き、呆然となった彼女が次に味わうのは………。

 

「お前の世界なんて………此方から願い下げだッ!!」

 

振り抜かれる修司の、拳の痛みだった。

 

 

 

 

 




Q.どうして、ボッチは螺旋力を使えたの?

A.■■力の、ちょっとした応用さ。

Q.次■■を使えるの?

A.現在まだシンカには中途半端にしか目覚めていない為、僅かしか使えません。

Q.大丈夫? ドワォッしない?

A.安心してください(螺旋目)

それでは次回もまた見てボッチノシ







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