『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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日増しに寒くなる今日この頃、皆さんも体には気を付けましょう。


その126 第七特異点

 

 

 

 花の魔術師マーリンの顔パスにより、無事に門を抜けたカルデアの一行、扉が開き、中へと入った先に広がる光景に立香達は色んな意味で驚いた。

 

そこは活気があった。市井が広がり、麦酒や果物類を売り物として出している屋台が幾つも連なっていて、店主と思われる男性が道行く人に声を掛けて商いをしており、それを聞いた婦人らしき女性が値切りの交渉をしている。

 

遠くからは対魔獣用に造られる武具を打つ槌の音が響き、更には職を紹介する場まで設けられており、中には花屋なんてモノすら売買されている。

 

活気だ。三柱の女神が人類を滅ぼさんと今も攻め立てている中、ウルクの市はそれを微塵も感じさせないような生命の息吹が此処にはあった。自分達が予想していた光景とはかけはなれていた事に、立香やマシュだけでなく、修司ですら圧倒されていた。

 

「………すげぇ」

 

 ポツリと修司の口から一言、そんな言葉が溢れた。しかし、その一言には三人が抱いた思いの全てが込められており、故に立香とマシュの二人も同意するように頷く他なかった。

 

「ふふ、驚いてくれたようで何よりだ。信じられないかもしれないが、これが人類最古の城塞都市、ウルクの現在だ。戦時下ではあるが、市は騒々しく賑わい、人々は誰一人として項垂れていない。至る所から武器を造るための煙が上がり、鍛治の音は連日連夜響いている」

 

「はい。皆さん、誰もが緊張し、急かされていますが、笑顔を忘れていない。この街にあるのは絶望ではありません。戦う意思、生きようとする活力に満ちています!」

 

そう、マーリンやマシュの言う通りウルクの市に住まう人々は皆が急ぎ足でいながら、絶え間なく笑顔を振り撒いていたのだ。その笑みは強制や達観から来るものではない、正真正銘人の営みを享受する人間の強さの具現化だった。

 

だが、驚くべき所は其処だけではない。近くの案内板らしき巨大な粘土板にはウルクの市を一望できる地図が記されており、其処には役職ごとにきっちりと区間が分けられており、連携の行き届いた交通網が展開されている。

 

兵産、建築、商業、生活。その全てが賄える様に再設計されており、その様相は現代にも通じる完璧な戦闘都市の見取り図だった。

 

 絶句した。人類最古の時代と謡われるこの世界に既に数万人規模を想定した都市国家の基盤が確立されている。これ程の“人の国”を現した都市は、現代に至るまで数える程度しか存在しないだろう。

 

泥と粘土と麦と羊の国、メソポタミア。単なる貿易便りの都市国家を予想していたロマニは、人の営みに満ちたウルクを前に愕然となりながら肩を落とした。

 

「………はは、やっぱり王さまってすげぇや。こりゃ、俺達もウカウカしてられねぇぞ」

 

「うん、だね!」

 

「はい! ウルクの人々に負けない様に頑張りましょう!」

 

ウルクの人々の活気に充てられ、やる気を滾らせる三人。その後はウルクの案内は後にする事にし、一行はウルクの奥へと進む。次に彼らが向かうのは市の中枢を担うジグラット………即ち、王の座する神殿へと進むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、マーリンの顔パスであっさりと王の間へと通された立香達。道中番人と思われる人達から気さくに声をかけられたりと、マーリンの人徳の高さがうかがえる場面が幾つもあったが、それ以上に巫女と思われる女性達からは軒並み避けられているので、やっぱりマーリンはマーリンだった。

 

広々とした王の間、エジプト領でのピラミッド神殿を想起させる空間。丈夫そうな外観から多少の荒事にもビクともしなさそうな玉座にてその怒号は響き渡る。

 

「何度も言わせるな、戦線の報告は新しければ新しい程よい! 更新を怠るな! 此方が忙しなく働いた分、奴らの機会が減ると思え! 楽に戦いたければ足を止めるな!」

 

「はっ! 秘書官による粘土板作りを一時間ごとに、運搬役を三者増やして対応します!」

 

「よい。では次だ。本日の資材運搬の一覧はこれか? ………エレシュ市からの物質運搬に遅延が見られるな。街道に魔獣どもが巣を張ったか。東門の兵舎から20人派遣し、駆除に当たらせよ。指揮はテムンに任せる。奴の地元だ、土地勘もあろう」

 

「む? なんだこの阿呆な仕切りは! バシュムの死体はエナンナに送らぬか! 学者どもが暇をもて余しておるわ! 小賢しい頭を働かせてやる時だ!」

 

「はっ! ティアマト神研究班へすぐに! こちらはギルス市からの返信となります」

 

「…………! おのれ、ギルス市の巫女長がほざきおって! バウの神殿にまだ備蓄がある事なぞお見通しだ! 底をつくまで戦線に吐き出せと伝えよ! 壁が壊れれば世界の終わりだ、地上の食物は冥界にまで持って行けんとな!」

 

「これは星読みの報告か? いいだろう、(オレ)が視たものと一致している。収穫期を読む精度はまずまずだ。担当者にはラピス・ラズリの胸飾りを与えるように。だが休ませる余裕はないぞ! 次はエリドゥの調査隊の報告に目を通させておけ!」

 

「───所で、タバドの娘が産気付いたと聞いた。巫女務めを一人と、栄養のつく果実を送ってやれ。またタバドは北壁から引き上げさせ、三日ほどの休みを与えるがよい。孫の顔はよい英気に繋がるだろう」

 

 それは、嵐のような応酬、何人もの神官が代わる代わる怒号を叩き付けられており、それは戦線の維持から市内外含めたメソポタミア全体に及ぶ管理、更には戦う兵士一人一人とその家族にまで判断し、気を配り、労い、叱咤しているから。怒号というが其処には怒りなど微塵もなく、そこにはただ必死に業務に勤しむ王がいた。

 

文字通りの意味で忙殺されかねない仕事量、声を掛けることすら憚れる空気に立香は棒立ちになる。そんな彼女を見かねたマーリンが、それはそれと空気を読まずに立香の手を引いて前に出る。

 

躊躇なしに謁見に割り込むマーリン、そんな彼の後を追おうとマシュもアナと呼ばれる少女も付いていく。必然的に修司も後を追う形になるのだが、その際に彼は王の側に控える一人の女性に視線が向いた。

 

「…………シドゥリ、さん?」

 

「───?」

 

 それは、他人のそら似と言うには余りにも外見が一致していた。顔を隠すヴェールや見に纏う衣服の意匠は修司の知る彼女とは異なっているが、身に纏う雰囲気から外見まで、何もかもが自分の知る姉貴分と一致する女性に、修司の思考は一瞬停止した。

 

「ギルガメッシュ王! 魔術師マーリン、お客人をお連れした!」

 

その時、声を張って王の名を呼ぶマーリンによって修司の意識は我に返る。首を振って意識を集中させ、頬を両手で軽めに叩く、今の自分は王の御前にいるのだ。下手な姿を見せるわけにはいかないと気合いを入れ直し、改めて玉座に座る王へ向き直る。

 

 それは、外見こそ自分の知る王と全く同じだった。己を導き、時には叱咤し、時には褒められる。色々とやらかす自分を今も尚見捨てないでいてくれている懐深き偉大なる王。

 

しかし、目の前の王は確実に自分の知る王とは違っていた。何処までも静かに、冷淡に見下ろす黄金の王。其処には修司の知る暖かみのある王ではなく、人類の裁定者───“賢王”ギルガメッシュが其処にいた。

 

「帰還したのですね、魔術師マーリン。ご苦労でした。王はお喜びです」

 

「………………」(いや、別に喜んではいないが?)

 

「それで、成果は? 天命の粘土板、見事に持ち帰りましたか?」

 

「いや、其方はまたも空振りだったよ。西の杉の森にはないね、あれは。まったく、王様が何処に置いてきたか覚えていてくれれば、こんな苦労はなかったのに………」

 

「不敬ですよ、お黙りなさい。粘土板を記した時、王はたまたま疲れていたのです。極度の疲労で記憶が飛ぶ………というのは、私も聞いた覚えがありませんが、王が仰るならそうなのです。貴方は命令通り、粛々と探索すればよろしい」

 

(………懐かしいなぁ、俺も昔似たような感じで怒られた事があったっけ)

 

 マーリンの愚痴を静かに一喝する王の側使えと思われる女性に、修司は嘗て自分も似たような事でシドゥリに怒られていたことを思い出す。あの頃の自分はまだ遊び盛りのガキンチョで、よく仕事中の王に構って欲しさばかりに色々とバカをやっていた。

 

そんな自分を叱り、酷い時には尻を叩かれた事もあった。姿形の外見といい、声まで似ている側使えの女性に修司は懐かしさを噛み締める様に頷いていた。

 

「それより………その者達は? どう見てもウルクの市民ではありませんが………」

 

「よい。おおよその事情は察したわ。貴様は下がっておれシドゥリ」

 

 

 そんな時、話題が自分達に向けられた時、王は立ち上がった。その手に粘土板の魔術書と神権印章(ディンギル)を持ち出し、ただならぬ雰囲気で自分達の前に玉座から降り立つ。

 

「王よ、一体なにを? ………まさか」

 

「そのまさかよ、この玉座をしばし汚すぞ! なに、最悪異邦人二人、天に返るだけの事! 我は忙しい! 言葉を交わして貴様らを知る時間も惜しいほどにな!」

 

「よって、戦いを以て貴様らの真偽を計る! 構えるがよい、天文台の魔術師よ! そしてマーリン、貴様は手を出すな、引っ込んでいろ! そこの山吹色の貴様もだ! 貴様は次に見定める。首を洗って待っていろ!」

 

「えぇっ!?」

 

 突然の戦闘、戸惑う立香とマシュに対し修司は比較的落ち着いていた。ギルガメッシュ王は無茶振りの好きな人物、それは賢王と呼ぶに相応しい器となっても変わらないようだ。

 

「二人とも、遠慮はするな。あの人は君達の本気を見定めようとしている。決して手を抜くな、殺す気で挑むんだ」

 

「わ、分かった! やろう、マシュ!」

 

「は、はい! マシュ=キリエライト、全力でギルガメッシュ王に挑みます!」

 

「ほう、多少は弁えていたか。ならばよい、迎え撃つのも王の度量よ」

 

 そして、立香とマシュのコンビによる王との戦闘は三分ばかり続いた。イノベイターの能力を駆使し、三次元的動きを混ぜ合わせたマシュの攻撃は、しかし賢王に通じる事はなく、その悉くが先読みされ、その全てが防がれてしまう。

 

これ迄幾度も修羅場をくぐり抜け、更には革新者となったマシュが、まるで子供扱い。結果的には分かっていた事だが、ギルガメッシュ王の防御を微塵も揺るがせなかったのは、二人に苦い敗北を味あわせる事になった。

 

 軈て飽きたと言わんばかりに玉座へと戻るギルガメッシュ王、本来ならそろそろ自分達がこの大地に降り立った経緯と説明をする筈だったが、生憎と王が見定めるべき相手はもう一人存在している。

 

玉座に座り直し、頬杖しながら見下ろすギルガメッシュ王は口を開く。次は、貴様の番だと。

 

「さて、其処の未熟者どもの見るべきモノは見た。次は貴様だ。我を知ったように語ったのだ。よもや、出来ぬとは言わせんぞ?」

 

「あぁ、こう見えて俺はある人のお陰で無茶振りには耐性があるんだ。ドンとこいだ」

 

「ほう、吼えたな? であれば、此処で一つ貴様の全力を見せてもらうとしよう。とは言え、戦いではない。最早その時間すら惜しい、貴様は其処で棒立ちのまま、その全てを晒しだせ」

 

「…………良いのか?」

 

「良い、我が許す」

 

  ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる王に対し、修司もまた笑みを浮かべる。この時代の自分を知らない王様に、今の自分の全力を見せられる。そんな不思議なシチュエーションにテンションが昂ったのだろう、修司の髪が心なしかザワザワと逆立っているような気がする。

 

ただ、その前に………。

 

「マシュちゃん。立香ちゃんと………其方のシドゥリさんの事を頼む」

 

「え?」

 

「は、はい! 分かりました!」

 

懸念材料を失くすために、修司はマシュに立香とシドゥリの安全を確保させる。すると、瞬時にこれから何が起きるか察したマシュは立香と共にシドゥリの側へ駆け寄り、盾を構えて身構える。

 

一方、何が起こるのか分かっていない様子のシドゥリは首を傾げ、何となく察したマーリンはアナと共に王の間から避難する。残されたのは相対する修司と賢王の二人のみ、遠くから某女神が近付いている気もするが………今の彼らにそれを気にする余地はない。

 

 力を溜める。溢れ出る力の奔流を塞き止め、全身に力を込めると、修司は改めて王を見る。

 

「行くぜ王様、後悔するなよ?」

 

「は、出来るものならやってみるがいい」

 

ググッと、赤い力が修司の全身に行き当たる。それはさながら臨界点に到達した爆弾、未知なる事象を前に賢王は疲れた脳をワクワクさせながら、その光景を待ちわびる。

 

そして───。

 

「ダァッ───!!」

 

修司の内から、白い炎が吹き荒れる。ドンッと解放された気力が空気の壁を激しく叩きジグラットを───否、ウルク市全体揺さぶっていく。

 

「はぁ、私の最終兵器、何処に行っちゃったのよ。あーもうイライラしてきた! こうなったらあの生意気なギルガメッシュを叩き潰して、この鬱憤を晴らしてやるんだから!」

 

そして、ウルクに近付くとある女神は押し寄せる力の暴風に気付くことはなく。

 

「───え、ちょ、何? この風……って、みぎゃあッ!?」

 

哀れ、美しき金星の女神は吹き飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イシュタル、吹っ飛んだ~!」

 

「ジャガー、なに騒いでるノ?」

 

 




Q.これ、ジグラットは大丈夫なの?

A.界王拳は使ってないし、ジグラットも頑丈なので大丈夫です。多分。

Q.なんで界王拳使わないの? 王様全力でやれって言うたやん

A.瞬時に出せるのは此処までが限界なんや。流石に20倍界王拳なんて使ったら余波でウルクが吹っ飛ぶ。

Q.そもそも、何で王はこんな事を言い出したの?

A.「見逃せ、深夜テンションというヤツよ! 正直焦ったわ! 反省はしている。だが後悔はしていない!」

「張り倒しますよ? 我が王よ」




それでは次回もまた見てボッチノシ











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