『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回は、急ぎ足のために話の流れが可笑しかったりします。

拙い作者で申し訳ありません。



その127 第七特異点

 

 

「───成る程、貴様の力はよく分かった。我が全力を出せと言ったのにも関わらず、手の内を晒さないその根性は気に食わぬが……良い。特別に許す。業腹だが、貴様にはそれが許される程の“格”があることは認めよう」

 

「へへ、そう言ってくれると、これ迄頑張ってきた甲斐があったってもんさ」

 

 ウルク市中枢。ジグラットの王の間にて、カルデアの力を自ら推し量った“賢王”ギルガメッシュ。特に修司の実力を見てからはその機嫌は僅かだが良くなったようにも見える。

 

認め、認められ、会話自体は非常にそれっぽく、また頼もしい。しかし、そんな二人の表情は何処か引き吊っている様にも見えた。

 

「王よ、そして異邦の戦士よ、此度の様な振る舞いは今回だけにしてくださいね? 次にまた同じ様な真似をすれば………私も、必殺の蹴りを解放しなくてはなりません」

 

「ヒッ、すみませんっした!」

 

「ぬぐぅ。シドゥリめ、男の遊び心を介さぬとは!」

 

有無を言わさない迫力のある微笑み。そんな彼女の笑顔に嘗ての恐ろしい記憶を思い出した修司は二の句も告げずに頭を下げて平謝り、王はその表情を渋くさせている。

 

 二人を萎縮させている彼女の名はシドゥリ。賢王ギルガメッシュ王の補佐官であり、ウルク市の祭祀長を務める聡明な淑女である。そんな彼女の毅然とした態度を前に修司はすっかり萎縮し、ギルガメッシュ王も苦手そうに視線を逸らしている。

 

普段の二人からは見慣れない有り様に言葉を失っている立香達、そんな彼等を尻目に王は玉座に座り直し、改めて一行を見下ろした。

 

「さて、一先ずは貴様らの実力は見せてもらったが……正直言ってつまらん。天命を帯びた者とは如何程かと戯れてみれば、単なる雑種。そこの山吹色の男も我に使われる価値はあれど、それ以上の器ではない」

 

「玉座を汚した罪を問う事すら煩わしい! 此度は見逃す、出直して来るがいい!」

 

 それは、事実上の戦力外通告。修司の実力はある程度認めてはいるようだが、立香とマシュに対しては不自然な程に辛辣だった。確かに、二人の未熟な所は否めない所があるのは認めよう。しかし、それ以上に二人はこれ迄幾度となく修羅場を潜り抜けてきた。

 

喩え認められなくても、ある程度の協力関係は築けるかと思っていただけに、この反応は予想外だった。

 

「王よ、どうかお鎮まり下さい………! 私には驚くべき力を持つ戦士に見えます。其方の山吹色のお方もそうですが、盾の彼女にも大変立派な戦い振りだったと見受けます」

 

「確かに、マーリンが連れてきただけあって多少は見所はある。だが………如何せん早すぎる。あの小娘の間抜け顔を見ろ。あの分では、未だ大地の声を聞いてはいまい。それでは話にならん、マーリンめ………過保護が過ぎた様だな」

 

 頭を抑えて呆れるギルガメッシュ王、そんな彼等の未熟の原因はマーリンにあると断言し、断言されたマーリンは困ったように頭を掻いていた。

 

「むーう、何だか私の所為にされてしまったぞ。立香君、何かコメントはないかい? このままでは本当に追い出されてしまうけど?」

 

「そうは言っても……うーん、英雄王より幾分か落ち着いた感じだけど、あのギルガメッシュ王だからなぁ」

 

『て言うか、何であの王様てば微塵もカルデアに興味を持ってないんだよぉ!? 遥か未来から訪れた異邦人だって知ってるなら、多少は興味は持つ筈だろ!?』

 

「うーん、そのようだねぇ。おかしいな、私と彼の認識はほぼ同じだったのに。確かにカルデアとか、サーヴァントとか、人理焼却やら魔術王やら、聖杯やら特異点といった諸々の事情は一切説明していないけれど。それでもほら、何となく空気を読めば分かるものだろ? 王様なんだから」

 

「そ、それでは何も伝えてないと同じです!」

 

「ロマニ、ちょっとアーサー王呼んできてくれる? ちょっとこの魔術師の説明書が欲しいんだけど」

 

「フォウフォーウ、マジマーリンフォーウ!」

 

一切悪びれる事なく、そんな事を宣うマーリンにマシュは立ち眩みを覚え、流石の立香もイラッと来た。今からでもカルデア側から戦力を呼べないだろうか、何ならアルトリアに来てもらってこの夢魔を何とかして貰いたいと、立香は割りと切実にそう思った。

 

心なしか、フォウも荒ぶっている気がする。

 

『よぉし、マーリンは話にならないぞ! こうなったら立香ちゃん、修司君、君達だけが頼りだ。もう一度ギルガメッシュ王に説明を! 幾ら彼でもちゃんと説明すれば理解してくれる筈だ!』

 

「その必要はない。聞こえているぞ、姿なき者。我は全てを成し得るが故に、我は全てを知り得ると心得よ。即ち、我が目に見通せぬものはない。この通り、我は己が天命を全うする前ではあるが……英霊を召喚し、使役する術式。貴様らが行う“英霊召喚”の何たるかは心得ている」

 

 目の前の賢王は、この時代の人物だ。なのにも関わらずマーリンからの助言も成しに英霊召喚の事や、自らがそうなる事を承知している。視界の広さ……否、王の尋常ならざる視点の高さには一行も舌を巻く他無かった。

 

「あ、でも………この時代の何処かにある聖杯を回収しなくちゃいけないんだよね。そうしないと特異点は無くならないし」

 

「ほう、聖杯とは………これの事か?」

 

王の横から広がるように現れる黄金の波紋、その中から現れる聖杯に今度こそ立香達は目を丸くさせた。人理を崩壊させる特異点、その元凶なる聖杯は既に王の手の中にあった。

 

その事実に面食らう一同、対照的に王は不敵な笑みを浮かべている。成る程、自分達を不要だと断じる訳だ。あの聖杯の出所(・・)は何であれ、これで修司は自分のやるべき事を朧気ながら見定めた気がした。

 

「王様───いや、賢王ギルガメッシュ。不遜だと思われるが、俺達と一つ取引をして欲しい」

 

『ちょ、修司君!?』

 

「ほう? 良いだろう。聞くだけ聞いてやる」

 

「三女神がウルクを攻める理由、それは恐らく貴方が有する聖杯にあると見た。ならばその三女神を俺達が倒す代わりに、その報酬として其方の聖杯を戴きたい」

 

 

 シンッ……。その時、王の間の空気が一瞬にして死んだ気がした。山吹色の異邦人、白河修司は畏れ多くもギルガメッシ王に対し、聖杯を懸けての取引を持ち出してきたのだ。

 

それだけでも畏れ多いのに、修司はその条件として三女神同盟の制圧を提案。人類を滅ぼそうとする女神達を倒す代わりに、聖杯を寄越せとねだってきているのだ。何という不遜、不敬、嘗ての王であるならば即刻首を切り飛ばされても可笑しくはない狼藉。

 

マーリンが指を指して笑い、ロマニが顔を両手で覆う一方で立香とマシュは気後れしながらも気合いを入れ始めている。彼等の何処にそんな自信があるのか、神を舐めているとしか思えない振る舞いに、シドゥリが僅かに眩暈がした時、王は声を張り上げた。

 

「─────、フ。ふはは、はははははは! ははははははははははははははははははは!」

 

「倒す!? 貴様が、貴様達があの女神どもを倒すだと!? シドゥリ、水差しを待て、これはまずい、命がまずい! この阿呆は我を笑い殺す気だ! コヤツ、戦士であると同時に道化の類いだったか!! これは狡いぞ!」

 

 ジグラット中に響く王の笑い声、女神を倒すと聞けば誰もが呆れ、嘆息し、見限るだろう。だが、王は違う。大言壮語を語る修司に嗤っているのではない。

 

白河修司は本気だ。今この瞬間命じれば、即座に女神の首を獲ってくるのだと、それが分かっているから、王は笑うのだ。

 

此処まで、これ程までに人は強くなれるのか。呆れる程に可能性に満ちている目の前の人間を前に、ギルガメッシュ王は愉快で堪らなかった。

 

しかし、だからこそ───。

 

「……ふぅ、今のは中々だったぞ。だが、それを踏まえた上で言わせて貰おう。“今の貴様達に用はない”のだと」

 

「…………」

 

「貴様らはこの時代に現れた異物。いや、余分な要素だ。不要とすら言えるほどのな。ウルクは我が護るべきモノ。貴様らカルデアの力を借りるまでもない」

 

「よいな。くれぐれも、その程度の手駒であの女神どもと戦う、等と思い上がるなよ」

 

 王は言う、お前達は不要だと。立香を、マシュを、そして修司を。彼等の力を目の当たりにしても尚、賢王は彼等を拒否した。

 

それは王の意地による拒絶ではなく、()を予見しているが故の必然な対応。実際、修司達はまだこの世界の事を何も知らない。

 

だから、その間に修司達は知らなければならない。メソポタミアの事、この世界に生きる人々と人類抹殺を目論む三女神同盟の事、そして………その先で待っている真実に。

 

王の言葉は事実を口にしている。時には辛辣で、時には残酷な言葉を以てメソポタミアという世界を守護している。今の自分達は王に認めて貰う程の実績も積み上げてはいない。

 

だから───。

 

「………度重なる無礼、誠に失礼致しました」

 

「良い。久方ぶりに腹から笑わせて貰った礼として不問とする。そら、用件が済めば疾く失せよ」

 

今は、大人しく引く時だ。踵を返して一先ずジグラットを後にしようとする一行、問題は今日の寝床とこれから活動する拠点だ。今の所マーリンのツテ以外に頼れるものは無いが………なに、やり用は幾らでもある。

 

最悪、自称エルキドゥと戦った杉の森で木材を拝借し、簡単なログハウスでも建ててやろう。落ち込み二割、やる気八割な気持ちで王の間を後にしようとした時、酷く慌てた様子の兵士が王の下へ駆け込んできた。

 

「ご歓談中、失礼致します、王よ!」

 

「誰が歓談しているか! 何処に目を付けているか!」

 

「え? あ、いえ、王の笑い声がジグラット中に響いておりましたので、さぞ楽しいお話の最中かと……」

 

「たわけ、箸が転がるだけで面白い年頃もあろう! ───いや、それはよい。所で何事か!」

 

「ハッ! ティグリス河からの観測所から伝令ッ! 上空に天舟の移動跡を確認、一度はウルク周辺にまで接近したものの、一時後退し、現在猛スピードでウルクに向かっているとの事です!」

 

「………」

 

 兵士が捲し立てる様に王に報告をしている最中、修司は此方にかなりのスピードで近付いてくる気を観測する。結構な強い気だ。格で言うなら先の特異点で戦った獅子王にも引けは取らないだろう。

 

………いや、正直言えば近付いてくる奴について修司は心当たりがある。心当たりはあるが………正直、関わりたくないのが本音である。

 

「接近してくるの“は三女神同盟”の一柱───女神イシュタルです」

 

「よし、じゃあ俺達はお暇しようか。王様の邪魔になっちゃ悪いし、見聞を広める意味も含めて、先ずは市場を見て回ろうか。な、皆」

 

「ど、どうしましょう先輩! 修司さんが嘗て無い程に現実から目を逸らしています!」

 

「あー、うん。私、何か分かっちゃった。話の流れ的に、この後に起きる出来事、分かっちゃった」

 

「ハハハ、現実逃避したいのは山々だし気持ちは分かるけど………もう遅いよ?」

 

 今すぐにでも逃げ出したい。ある意味恐怖に近い心境で修司はジグラットからの離脱を皆に提案するが……既に、時遅し。

 

マーリンがそう口にした瞬間、王の間の天井が砕かれ、其処から巨大な弓(或いは舟)と共に一柱の女神が顕れた。王は語る。イナゴの群れと砂嵐、そして子供の癇癪、その全てが混ざったものがあの女だと。

 

言い得て妙だと、修司は思った。自分の知る姉弟子も外では優等生を演じているが、身内には頗る面倒な気質を持った癇癪玉だ。特に、弟弟子である自分に対して、何かある度に頼み事をしてくるのだ。断れば勝手な事をして被害を拡大させ、了承すればあの手この手の言い訳をして此方の請求を躱していく。

 

その癖、此方が本気で取り立てようとすると、泣き落としをしてくるから腹が立つ。尤も、一度本気でブチギレ、肉体言語で分からせてからは、そう言うのは一切しなくなっていたが。

 

 ともあれ、落ちてきた女神に関わるつもりは毛頭ない。さっさとこの場を後にしようと、修司は王の間から去ろうとするが………。

 

「………ついさっき、物凄い力の爆発がウルクから発生したわ。お陰で私はその爆風に巻き込まれ、魔獣どもの群れに激突、その衝撃のお陰で私は汚い獣どもの臓物まみれになりました。さて、ここで質問です」

 

「あんのバカげた事を仕出かした大馬鹿者は………何処の、どいつかしら?」

 

震える声でそう呟く聞きなれた声に、修司の足は止まる。恐る恐る振り返れば、血腥い臓物にまみれた姉弟子の姿が見える。顔は王の方へ向いているから表情こそは確認できないが、修司には般若のごとき顔をしているのだと、ありありと見て取れた。

 

 ふと、王と目が合う。その顔は何処までも無感動で無表情、しかしその目はずっと修司に向けている。

 

修司は首を横にし、両腕で×の文字を作る。どうか許してください、そう懇願する修司に対し………現実は何処までも非情だった。

 

指が向けられる。一切の言葉はなく、また必要がない。指された修司は何処までも非情な現実に泣きそうになった。

 

しかし、本当の絶望はここからだった。向けられる指の数は王一人のモノに非ず、また一人、また一人と、向けられる指の数は増えていく。

 

その中には、顔を逸らして此方を見ないようにしていながら、立香とマシュも指を差してくる。特にマーリンは噴き出しそうになりながら、同じように顔を逸らして指を向けてくる。その指へし折ってやろうか? 修司は割りと本気でそう思った。

 

「そう、アナタ、またアナタなのね? フフフ、本当に……本当に、神を苛つかせるのが得意な様ね」

 

「決めたわ。そこの何処か見覚えのある人間、アナタはこの女神イシュタルが、直々に殺してあげる。さぁ………覚悟なさい!!」

 

 ツインテールを怒髪天に揺らし、迫り来る美の女神イシュタル。その般若ごとき勢いにすっかり萎縮した修司は………内心、申し訳なく思いながら。

 

「ごめんな………さい!」

 

襲い掛かる女神イシュタルの後ろへ瞬時に回り込み………その臀部に向けて張り手を一振ほど振り抜き。

 

“ズドゴンッ!!”

 

「ガッ!?」

 

 凡そ、人体からは出ないであろう音を発しながら、女神イシュタルは吹っ飛んでいった。

 

その光景に誰もがあ然となり、言葉を失っている。そんな中で唯一、ギルガメッシュ王だけは腹を抑えて呼吸困難に陥っていた。

 

『うん、何というか………初っ端からハチャメチャだね!』

 

 この時のロマニのフォローは、珍しく修司の心に染みていった。

 

 




Q.どうして、ボッチは避けちゃったの?

A.ギャグ展開寄りでしたが、この時のイシュタルはマジもんの殺意を滲ませていました。流石に殺される訳にもいかない為に仕方なく応戦、撃退しました。

Q.どうしてお尻を打ったの?

A.一瞬、背中にやろうかと思いましたが、流石に姉弟子に紅葉を叩き付けるのは可哀想と思い断念。代わりに、いつかの時のように臀部に変更しました。

Q.これ、イシュタルのお尻大丈夫なの?

A.ヒップサイズが増えるよ、やったねイシュタ凛!

Q.どうしてイシュタ凛をこんな酷い目に合わせるの?

A.何となく、流れで。

イシュタ凛「っ! 本当、アンタってそう言うところあるわよね! 女神の事を何だと思っているのかしら!?」






尚、次回からは少し展開を進める予定です。予定は未定なので、あまり期待しないで下さると幸いです。

それでは次回も、また見てボッチノシ



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