ここ数日で一気に冷え込んできました。
皆様も寒さ対策、気を付けてください。
賢王ギルガメッシュ、不老不死の霊草の探索から帰還し、彼が築き上げたウルク市に滞在して翌日、宛がわれた拠点にて一夜を過ごした修司は身支度を済ませ、新鮮な空気を吸いに屋上へと登った。
朝日がウルクの街並みを照らし出し、ちらほらと人の姿が見えてくる。遠くからは既に鍛冶の音が響き渡り、それを皮切りに人々の活気がウルク全域に浸透していく。
凄い
修司も仕事の為に様々な国へ歩き回った事があり、一度だけ街の運営を携わった事があるが、これ程までに完成された街を作るのに一年近くの時間を必要とした。当時は自分の出来る限界を知るために半年を費やし、人を頼って街を作るのに半年の時間を掛けてしまった。
自分の出来ることとやるべき事を見誤るとこう言う事になると、久し振りにマジになった王の顔が印象的だった。
やはり王は凄い。人類の歴史上を振り返っても彼程の為政者はそうはいないだろう。征服王も騎士王も、申し訳ないがあの王の前では霞んでしまう。
しかし、それでも依然として人類が窮地に立たされている事実も、また変わらない。昨夜の細やかな宴の席で、修司達はサーヴァントであるレオニダスから聞かされた。
まだ人類に襲い掛かる脅威が女神であると断定出来ていなかった頃、ギルガメッシュ王はその千里眼にてウルクが滅びる様子を視たという。それから差程間を置かない内に北部から魔獣による進撃を受けた嘗てのクタ市は一夜にして滅び、それからギルガメッシュ王は急ぎバビロニアを解体。その資材を使って絶対防衛戦線を築き上げた。
そして、三女神という複数の脅威にギルガメッシュ王は戦う者ではなく、指揮する者として王座に座った。己一人で戦っても意味がないのなら、それに準じる英霊達を召喚して手数を増やす。
マーリンから英霊召喚の話を聞いたギルガメッシュ王は、即座に七騎の英霊を召喚し、文字通り人類の守護者とさせた。
王が前線に出られないのは、一度に七騎もの英霊を召喚した魔力をまだ回復出来ていないというのもあるのだと、マーリンは言った。
そんな召喚された英霊も残るは四騎。脱落した三騎はいずれも三女神同盟の勢力に敗れ、或いは相討ちしたという。特に、魔獣の指揮官らしきモノとサーヴァント巴御前の決闘は凄まじく、己の命と引き換えに敵将を討ち取った巴御前の勇姿は今も兵士達の目に焼き付いていると、レオニダスは語った。
「……ありがとう、巴さん。アナタの頑張り、無駄にしません」
登り行く朝日に手を合わせ、人類に希望を繋げてくれた巴や、散っていった英霊達に黙祷を捧げる。ここから先は自分達も頑張るから、今はどうか休んでくれ。ギルガメッシュ王が現在のウルク市を築き上げて約半年。自分達が来た以上、もう連中に好き勝手はさせない。
祈りの手向けを終えた修司は、頬を叩いて気合いを入れる。先ずは、王に自分達の力を認めさせる事から始めるとしよう。ジグラットから近付いてくるシドゥリの気配を感じながら、修司は一階へと降りていくのだった。
◇
ウルク滞在に伴い、修司達がここ数日で行ってきた事は……所謂、雑用と呼ぶべきモノだった。シドゥリを介して伝えられる仕事は探偵の様な浮気調査、他にはメソポタミアにおける重要な財産でもある羊の毛皮を剥ぐ手伝いなど、回される仕事は前線で戦う兵士達より遥かに簡単なモノばかりだった。
ギルガメッシュ王から言われた不要なモノ、それを証明する程に今のウルクには余分はない。しかし、それでもやるべき事がある以上、懸命にやり遂げるしかない。
それに、何も回される仕事に遣り甲斐がないと言うわけではなく、与えられた仕事以外にもウルク市民の人々から頼まれた事は積極的にこなしていった。たとえば羊の毛皮採りの際には、原材料である羊を狙う魔獣を撃破したり、妻の浮気調査を頼まれた筈なのにいつの間にか劇場版ドラ◯もん張りの大冒険をしたりするなど、それなりに濃厚な体験をしたりしていた。
中でも、修司達が興味を抱いたのが古代メソポタミアの死生観についてだ。人は肉体が滅べば魂も死を迎え、それぞれの国の文化圏に基づいて火葬や土葬などで埋葬される。
しかし、ウルクの場合は少々異なっていた。古代メソポタミアにとって死というのは現代ほど忌まわしく思われていたわけではなく、肉体が無事で有る限り喩え魂が冥府へ落ちたとしても、その魂が肉体に戻ればその人間は生き返るとされている。
魂だけを連れていかれた人を、ウルクでは“眠りに落ちる”と呼んでいるそうだ。古代メソポタミアでは死神とは一種の人攫いと称されている。修司にとって死神とは彼の山の翁こそが死神であると思っている為に、その表現は中々に複雑だった。
だが、呑気にしてもいられない。アナから聞いた限りだと、眠りに落ちる人は日に日に増えていき、静かでありながら着実に被害者が増えている。これが三女神の何れかによるウルクへの侵略行為かは定かではないが、ウルクの地下空洞には結構な量のガルラ霊が現れている。
ガルラ霊とはウルクにおける死神のようなもの、体力の落ちた子供や年寄りを狙う病を具現化したような半透明の怪物達である。アナからの要請を受けて戦いに参加し、肩慣らしにガルラ霊達を殲滅すると、これで暫くはあのお婆さんも大丈夫だろうと、アナは安堵していた。
立香達によると、どうやらアナは花屋のお婆さんに大変気に入られ、アナも事ある度に花屋のお婆さんに会いに行くらしい。本人が人間嫌いな事もあってあまり事情を踏み込んだりはしないが、仲良さそうに振る舞う鎌使いの少女にホッコリしたのは此処だけの話。
───て言うか、彼女の見た目がモロに薄幸美少女メドゥ子にクリソツなんだが? 修司は訝しんだ。彼女があのメドゥーサの幼体なのは何となく気付いてはいるが、本人が意外と協力的なので今の所は静観に留めている。
サインは書いてもらったのかって? 強引な強請りはファンに非ず。真に求めるなら時には静の構えで挑まねばならない。コレ、
そんな、慌ただしく慎ましやかにウルクでの生活を満喫して数日、遂に賢王ギルガメッシュから直々に王命を戴く事になった。
「………え? 俺だけ、ですか?」
「そうだ。貴様の強さは大凡だが把握した。迷惑極まるあの覇気も、単独行動でこそ発揮しよう。その間、そこの雑種と盾の小娘は、引き続き我の預かりとする」
王への報告を続けて数日、最初は片手間に処理していた此方の業務報告は日を追う毎に王の関心を惹き付け、先の地下世界の大冒険の頃には完全に区切りとなり、麦酒とおつまみの豆の話を報告した際は、立香の案を三女神以上の脅威を思える程に狼狽していた。
そんないつもの業務報告を終え、後は拠点で次の仕事が舞い込んでくるまで待機しておこうとジグラットを後にしようとした時、何気ない様子で賢王は修司に命じた。
“貴様には、南にあるウル市への調査を命じる”と。
「ウル市、確か今は密林に覆われた市だと聞きました。其処への偵察と言うことは………やはり、戦闘は控えるべきだと?」
「ふん、相変わらず賢しい奴よ。だが話が早いので由としよう。然り、既に貴様の“気”とやらで感知しているだろうが、南には三女神の一柱が居座っている。ウル市は連絡が途絶えて久しい、生存者の有無と向こうでの状況の確認。それが貴様のすべき事だ」
ウルクへ訪れて初めての王命。当然これ迄とは違ったやる気が満ち溢れてくるが、如何せん修司の向かう場所は未知の危険が潜んでいるとされる地だ。聞けば、その密林の大地で賢王に召喚された七騎のサーヴァント、その内の二騎がやられたらしい。
それ故、当然これ迄とは桁違いの危険が待ち構えているだろうが、何れカルデアも南のウル市への調査は進める予定だった為、其処まで驚きはしない。
更には修司の実力はこれ迄の特異点の旅を経て飛躍的に向上している。例え神霊が相手でもそうそう負けることはない。
「じゃあ、私達は修司さんが戻ってくるまでこれ迄通りでいいのかな?」
「戯け、その様な余裕がウルクにあると思うな。先日、北壁担当の兵士が一人、怪我を負って倒れた。貴様達二人はその兵士が復帰する合間、レオニダスの下で対魔獣戦を体験してもらう。群で迫る猛獣どもを、見事退けてみせよ。藤丸立香!」
「うぇ? は、はい!」
突然の名前呼びに挙動不審になってしまう立香だが、自分も修司と同じ様に王から認められたと知り、嬉しくなる。この調子で彼女もギルガメッシュ王の臣下になればいいなと、そんな事を思いながら修司は改めて王命を受ける。
「ではギルガメッシュ王、これより自分は南部にあるウル市への調査に向かいます。ご一報の程、お待ちください」
「よし、では往けい! 貴様のハチャメチャを“密林の女神”に示して来るがよい!」
「はっ!」
ウルクに訪れて初めての王命、密林に呑まれたウル市とそこに住まう人々の確認。そして、そこに待ち構える女神をどう捌くか、気合いに満ち溢れた修司は興奮とワクワクを抱きながら、ジグラットを後にするのだった。
~~~例のBGM~~~
「オス、オラジャガー! てぇへんだ! 突然ウル市に未確認の変態がやって来やがった!」
「お願い、どうか見逃して! 此処でアナタに好き勝手やられたら、私がククルンに殺されちゃう。大丈夫、ここを乗り気ったらきっと良いことあるんだから!」
次回、復活のジャガーマン!
「ぜってぇ見てくれよな!」
「エミヤーーー!! 早く来てくれーーー!!」
それでは次回もまた見てボッチノシ