『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

39 / 417
今回は考察話。


その38

 

 

J月@日

 

 修学旅行二日目。楯無ちゃんから有益な情報を得られた自分はこの事を忘れない為に日記に記す事にした。娘達は構ってくれない自分にやや不満気味のようだが、大事な事であると何とか宥める事にした。

 

幸い今度の休日に埋め合わせをする事で納得して貰えたが……子供の機嫌を損ねるとああも大変だと言うことが身に染みて学べたのは、ある意味収穫とも言える一日だった。

 

 ……話が逸れた。自分が楯無ちゃんから得られた情報は二つ、亡国機業(ファントム・タスク)なる組織の存在とその組織が織斑一夏の誘拐事件を始めとした数々のIS絡みの事件に関与している事実だ。

 

そもそもおかしいと思っていた。何故IS学園に何度も狙った様に無人ゴーレムが襲撃してくるのか、確かにIS学園はIS関連で最先端を往く施設で各国もその事に関心を示しているのは分かる。当時の自分はこんな事件が過去に起こった事があるのかと先生達や十蔵さんに訊ねた事があるが、返ってきた返事は全てNO。こんな事は初めてだと皆口を揃えてそう応えた。

 

自分は最初、一夏君の生体データを狙ったどこかの国の過激派な連中が送り込んできたモノだと思い込んでいたが、先のタッグトーナメント戦で起きたゴーレム達の襲撃によってそれはないと確信した。理由は単純、コストとリスクが高すぎるからだ。

 

IS学園は日本人だけではなく多くの海外留学生が在籍している学園だ。その中にはセシリアちゃんやラウラちゃんといった代表候補生がいるのでもし万が一の事が起きれば、問答無用にその国は世界中から敵視される事になるからだ。

 

そうなればIS委員会によりIS開発の権利剥奪、国連に属する国ならば発言権など多くのモノを失う事になる。幾らデータが欲しいと言ってもそんな表立って大胆な行動など起こせる訳がない。だからこそIS学園は不干渉を約束された場所であり、だからこそIS学園は各国の注目を集めているのだ。

 

それにIS学園には時々裏でこそこそと(工作員)が入り込んでいるから、逆にそれがゴーレム関連に関わっていない証明ともなっている。一応気絶させた工作員は全て身柄を調べているからこの件は確かな話だと思う。

 

 他にもそのゴーレムを調べて分かった事なのだが、以前海で撃墜したゴーレムにはいずれも登録されてないコアが搭載されており、あのコアにはアリカちゃん達の様な電子生命体は存在していないという事だった。

 

ただ、これまでのゴーレム達の戦闘データを見ている限り、どうやらゴーレム達は各国の代表クラスの戦闘データを元に強化されているようで、クラス別対抗と専用機持ちのタッグトーナメント戦とではかなり性能が違っている様なのだ。

 

篠ノ之束博士以外精製は不可能だと言われるISコアの製造、それは恐らくアリカちゃんといった電子生命体が存在している故に困難だと自分は推測している。

 

鈴音ちゃんは原則的にISは人が乗る事で初めて稼働できると言っていたが、自分は無人機を限定にすれば違うと考えている。アリカちゃん達電子生命体は所謂乗り手の選抜機能を有しており、自分達にとって最も理解出来る女性を選んできた。

 

その電子生命体を抜き取る……或いは始めから電子生命体は搭載しない形でコアを精製し、動力源として使用すれば、無人機を作り出すのはさほど難しくはない。

 

現に、自分もあのコアの精製は可能だ。生成方法は面倒な為に省かせてもらうが、以前試しに蒼鴉にアリカちゃんのコアを外して入れ替わりに搭載してテスト稼働してみた所……結果は散々、本来の機体性能の五割程度も引き出す事が出来なかった。恐らくこれは蒼鴉自体がアリカちゃんのコアという存在に適合しているからだと思われる。

 

そしてこれも推測だが、無人機は無人機だからこそ中身のないコアと適合し、“そういうモノとして稼働している”のではないかと思われる。無人機自体造った事がないから確証は持てないが、そう考えればある程度理解できる。

 

だが、無人機に搭載された空っぽなコアとはいえ、ソレを創り出すのにはISについてそれなりに理解しなければならない。他のIS企業について把握している訳ではないので何とも言えないが……少なくとも倉持技研の人達ではないと思う。

 

だってやる意味が無いもの。倉持技研は一夏君の専用機白式の担当部署でもあるし、白式に蓄積されたデータを調べる為に日々忙しいみたいだから、そんな事をする余裕もないだろう。

 

 では、一体誰がこんな事をしているのか。そこで出てきたのが亡国機業という秘密結社だ。情報の出所はロジャーさん、彼の所にいる諜報員の話によると亡国機業と思える連中がイギリスのサイレント・ゼフィルスなる第三世代のISを強奪したらしいというのだ。

 

ロジャーさんが言うには亡国機業はその組織の全容こそ明らかにされていないが、調べた限りでは相当古い組織であり、遡っていけば第二次世界大戦頃に既に亡国機業と思われる組織が暗躍していたのだという。

 

それだけ古い組織が存在するとなれば様々な国に何らかの繋がりが持っていても不思議ではない。組織というのは維持するだけに様々な繋がりを必要とするのだからイギリスの第三世代機強奪の件も案外裏でイギリス政府の関係者が手引きしていたのかもしれない。

 

 ロジャーさんの情報のお陰で知り得る事が出来たこの亡国機業なる組織。この組織の存在が出てきた事により自分の中にある疑問について殆ど説明する事が出来るようになる。

 

まずは白騎士事件。織斑先生と篠ノ之博士の二人が首謀者だと思われてきたこの件、始めの頃は単にISという存在を世界に知らしめる為のデモンストレーションだと思われていたが、亡国機業の存在によりその考えは大きく覆る事になった。

 

何せ一世紀近くの間、裏社会で存在し続けてきた組織だ。第三世代機を強奪出来た手際の良さを考えれば各国の重要拠点を網羅し、ハッキングによってミサイルを一斉発射させるのもそうは難しくないだろう。その理由も篠ノ之博士の作ったISを宇宙開発にではなく、軍事力として、或いはそれに連なる新たな力として世界に確立させる為だと考えれば案外分からなくもない話だ。

 

恐らく、奴らは狙っていたのだろう。篠ノ之博士がISを世界に向けて発表した時……いや、或いはそれ以上前の段階から、博士の作るISを付け狙っていたのだ。

 

 宇宙開発として作られたIS。それを力として扱う為に連中は各国のミサイル基地にハッキングを行い、日本に向けて発射。当時まだ亡国企業の存在について知らなかった織斑先生と篠ノ之博士は日本を───いや、家族を守る為に白騎士なるISでこれを撃滅して見せた。

 

白騎士の凄まじい戦闘能力のお陰でどうにかミサイルを全て破壊して見せたが、その戦闘能力の高さは世界中に知られる事になり、ISは宇宙開発にではなく、新たな抑止力として使われる事になった。

 

ISの力を世界に見せつける。それが目的だった亡国機業の目論見にまんまとはまってしまった篠ノ之博士は奴らにワザと捕まる事で箒ちゃんを始めとした家族の皆を守る事を選んだ。

 

何故博士が亡国機業に捕まったのか、その根拠は連中の技術力の高さにある。篠ノ之博士以外には不可能とされてきたコアの精製をああも見事にやり遂げたのだ。

 

自分のはあくまで独学のモノ、所謂模造品だ。別に偽物が本物に劣るなんて考えないが、本物に近い方がより精度が高いのが事実だ。奴らは篠ノ之博士を長期間に渡って拘束し、技術を学んだ事により相当の力を得たのだと思われる。

 

───というのが、白騎士事件とこれまでの無人機襲撃に関する自分の見解。しかもこの時に博士からコアの生成を聞いていたと考えれば無人機に搭載されたコアの事も納得できる。

 

長期間に渡って奴らに拘束されていた博士はどうにか自力で脱出するも、連中に追われる立場となっている為、誰かに頼る事もせずに一人身を隠す事を選んだ。

 

 何故博士は誰にも頼らずに身を隠す選択を選んだのか、恐らくこれには女性権利団体が関わっているのだと思われる。それと言うのも恐らく連中が亡国機業の尖兵に近い組織だからだ。

 

 

そもそも、何故亡国機業は女性にしか扱えないISをワザワザ兵器として狙ったのだろうか? これも自分の推測に過ぎないが、恐らく亡国機業というのは女性の面々で構成された組織だと思われるからだ。

 

だからこそ、発表当時欠陥品だと掃き捨てる各国が反応する中で唯一ISに興味を持てた。奴らがISの価値を兵器として見出したのはそこら辺の事情が関わっているのだろうと自分は考える。

 

ISは女性である自分達にこそ相応しい。そういう風に考える連中は亡国機業にとっては動かしやすい駒なのだろう。各国の政府機関にまで潜り込ませる事でより世界と同化していく亡国機業の組織の規模は恐らく多元世界におけるアロウズの様な存在になっているのやもしれない。

 

そして、その女性権利団体の幹部が亡国機業と深く関わっており、一夏君の誘拐や自分の拉致の時の様に大胆な行動をとっても真相を闇の中へ葬る事が出来たという訳だ。

 

女性至上主義を唱える女性権利団体、そして亡国機業。これら二つの組織が世界中に網羅している為に篠ノ之博士は誰かに頼る事も出来ず、一人戦い続ける事しか出来なかった。

 

 IS委員会やロジャーさんを始めとした亡国機業の存在を察知した人達はアラスカ条約なる法則を新たに発足する事でISの軍事利用の阻止に成功しているが、それはあくまで表側の話。

 

これもロジャーさんから聞いた話だが、女性にしか扱えないというISの欠点であり利点でもある弱点を利用して強引な手段をとっている女性権利団体の一部が、裏で怪しげな軍事実験を行っていたのだと言う。

 

 ……どうやら、女性権利団体は自分が思っていた以上に厄介な組織のようだ。規模の大きさ、それだけでも面倒だと言うのに連中はある意味自分にとってアロウズよりも厄介な存在になりつつある。

 

女性権利団体は良くも悪くも烏合の衆だ。例えその場で連中を叩いても亡国機業は女性権利団体をトカゲのしっぽ切りの様に切り捨てるだけで終わる。その徹底した秘密主義によって連中も自分達が秘密結社と通じている事を知っている者は少ないだろうし、例え尋問をした所で得られる情報はないだろう。

 

というか、ロジャーさんがその辺りの情報を逃しているとは思えない。自分に話したのはあくまで亡国機業という存在に関してだけだが、あの人程の手腕の持ち主が何もしていないとは思えない。恐らく自分にあまり情報開示しないのは国や自分の立場を考えての行動なのだろう。

 

亡国機業の存在自体世界中の国々にとってタブーの様な存在なのだろう。でなかったらISを強奪する連中を各国が放って置く事はあり得ない。

 

 一夏君の誘拐事件に関してもそうだ。楯無ちゃんが言うには当時一夏君の誘拐事件にはほぼ間違いなく関与しているとの事、流石は日本政府直属の暗部と言った所だが、これにより事情はより複雑なモノとなっている。

 

織斑先生がISの選手として活動していたのは偏に一夏君との生活を守る為、モンド・グロッソという世界的に大きな大会に出れば賞金も大きいものだと思われるし、当時代表者だった彼女ならその権限で篠ノ之博士の行方も独自に追っていたのかもしれない。

 

織斑先生と篠ノ之博士は旧知の間柄だと聞いている。友人を助けるために色々動いていたのだろうが、その事が亡国機業に目を付けられる原因となってしまい、一夏君の誘拐事件が起きたものだと思われる。

 

その後ドイツにIS操縦の教官となり、一年間ドイツで滞在した後、IS学園に教師として赴任。せめてISを学ぶ生徒には女性権利団体の様な偏った思考を持たないように今日まで徹底した指導と教練を行ってきたのだろう。

 

一夏君にISについて何も教えなかったのも亡国機業との関わりを持たせない為の予防策みたいなものだと考えれば理解出来る。予め話しておけは良いと思えるかもしれないが、織斑さん達の事情を考えれば仕方がないと自分は思う。

 

何せ織斑先生と一夏君は幼い頃に両親から捨てられており、織斑先生は女手一つで一夏君を育てて来た。謳歌すべき青春や普通の女の子らしい生活、それら全てを捨てて一夏君の為だけに生きてきた彼女を……責める事は自分には出来ない。

 

当然他の人にも助けて貰ったりしてきたのだろう。五反田家の様な昔馴染みの人達もいるみたいだし、色んな人達の手助けもあったと思う。一夏君の話ではISが登場して人々に浸透する間は五反田家の人達意外にも当時クラスメイトで幼なじみだった鈴音ちゃんの家族にもよくお世話になったと聞いている。

 

そんなお世話になった人達にこれ以上迷惑を掛けられないと思ったのだろう。織斑先生はああ見えて頑固な所があるし、亡国機業の事や白騎士事件に対する負い目もあってIS関連には触れさせたく無かったのだろう。

 

けれど、ここで間の悪い巡り合わせが起こってしまった。一夏君の高校受験の際に起きてしまったISの起動事件。これは恐らく篠ノ之博士の手引きによる所が大きいだろう。

 

当時設置されていたIS。それを遠隔操作で予め起動させる様に設定した後、一夏君を男性初のIS適合者によって仕立てて亡国機業に対する反撃を行った。その後はIS学園に教師として働いている織斑先生に一夏君を鍛える様に仕向けて、同じくIS学園に入学している箒ちゃんにも亡国機業に対抗する為に専用機を作り上げた。

 

あの時は自分は旅館の警備に当たっていた為に会うことは無かったが、恐らくは篠ノ之博士にとってその時こそが亡国機業の目を僅かでも逸らされる唯一のチャンスだと思ったのだろう。

 

臨海学校の開催地は学園から離れたリゾート地だ。当時は腕利きの教師達がいることから亡国機業も迂闊に手を出すことも出来ず、あの時初めて篠ノ之博士の反撃は成功したのだと思われる。

 

そしてそこへ現れる銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)暴走と言うには少々おかしな点があったし、何よりもタイミングに不可解さを感じていた。恐らくは亡国機業の手回しによる妨害工作だったのだろう。

 

あの時の一夏君達の力ではやや危ない相手だったし、事実一夏君は危険な状態に一時的にとは言え陥っていた。亡国機業の方もやはりかなりの技術力を有していると思われる。

 

 篠ノ之博士という希代の天才と関わった事により連中の組織力と規模は相当膨れ上がっていると考えてもいいだろう。

 

そしてそんな連中の唯一懸念に思っている事が、一夏君の存在と自分に他ならない。女性限定とされるISに男性の適合者が現れた事により盤石になりつつある現世界情勢に綻びが生じ始めているのだから、きっと奴らは今後も自分達を付け狙ってくるだろう。

 

そして例の如く学園の行事に狙いを定めて……今日の所は妙な動きはなかったが、恐らく連中は明日、特に修学旅行の帰りに仕掛けてくる事だろう。

 

あくまで可能性の話だが、その可能性自体が極めて高い。一応楯無ちゃんを通して更識家に警備の強化を頼んでおいたから安全面は強化しておいたけれど……正直当てには出来ないだろう。

 

何せ相手は昼夜場所を問わずに仕掛けてくる連中だ。最悪の場合、京都全体が巻き込まれる危険性も考慮した方がいいだろう。

 

やれやれ、多元世界から時空振動で飛ばされた当初は比較的平和な世界だと思って安心していたけれど、何だかんだでここも危険が一杯である。

 

織斑先生や他の先生の方々にも予め警戒心を強めるよう呼びかけているが……流石に街一つ丸々守るのは無理がある。

 

……となると、やっぱりグランゾンの出番かなぁ、色々台無しになる気もするけれど、背に腹は代えられない。人命に関わってくるなら尚更だ。

 

念の為に仮面の方も準備しておくかな。何だかんだで蒼のカリスマの時の自分って、割と正体見破られる事は殆どなかったし。

 

と、いう訳で明日に備え、今日はこれで終わりにしようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の話を一言でまとめると。
「そいつも亡国機業って奴らの仕業なんだよ!」
な感じです。

亡国機業の皆さんは泣いていいと思う。

尚、主人公の脳内は未だ篠ノ之博士=不器用な理想家みたいになっております(笑)
もしくは某イオリアさんとか。

次回から日記要素は皆無になると思いますが、宜しくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。