『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回IS編唯一のシリアス回


その41

 

 

 

 

 

「織斑マドカ───だと?」

 

 人気のない並木道、夕日を背に現れた織斑マドカという少女を前に一夏は混乱していた。自身の唯一の肉親として知られる織斑千冬と似た容姿、まるで姉の生き写しの様な彼女に彼は心底動揺していた。

 

向けられた銃口、そこから感じる剥き出しの殺意。本当ならば逃げるなりの対応をしなければならないのに、目の前の異質の存在に一夏の思考が一手遅くなる。

 

「───死ね」

 

有無を言わさずに言い放つ死刑宣告、それと同時に撃ち出された弾丸は真っ直ぐに一夏の胸元目掛けて突き進んでいく。

 

このままでは殺される。刹那の合間に一夏がそう思考した時、横に割って入る人物がいた。

 

「アリカちゃん!」

 

ガキィンッと、金属の弾く音が響きわたり、小さな火花が散る。何だと思い視線を少し下げると、そこには左腕に部分展開を施したタンポポが一夏の前に佇んでいた。

 

「……ほう、まさか今のに反応するとは、IS学園の連中も多少は出来るようだ」

 

「そう言うアナタは例のテロリストの方ですか。目的は一夏さんの殺害、ですか」

 

「ふん、ソイツを殺すのはあくまで通過点に過ぎん。私の本命は織斑千冬ただ一人だからな」

 

「千冬姉ぇだと! 何故お前が千冬姉ぇを狙うんだ!」

 

「一夏さん、落ち着いて下さい」

 

不敵な笑みで自分の目的を明らかにするマドカに一夏は過剰に反応する。唯一の肉親を殺すと明言している輩が目の前にいるのだから、この彼の反応は当然だと言えた。

 

それを分かった上でタンポポは一夏を制止する。何故なら連中の目的が一夏である以上、迂闊に相手の思惑に乗るのは危険だからと判断しているからだ。相手は一人の様だが他に仲間が潜んでいる可能性がある以上迂闊な事は出来ない。せめて此方に向かってきているであろう教師の人に合流するまでは下手な行動は控えるべきだとタンポポは考えるが……。

 

「私が織斑千冬を狙う理由などお前には関係ない。───言った筈だろう。お前の命はここで終わると」

 

次の瞬間、タンポポは己の先読みの甘さを痛感する事になる。幾ら人気のない場所だからといってここは日本の古都である京都だ。少しでも騒ぎを起こせばすぐに人は集まってくる。

 

故にテロリストという存在を甘く見ていた。テロリストというのは極論を言えば自分達の主張を力押しで押し通す輩の総称、知識としては知っててもその意味を理解出来なかったのは、まだ彼女が生まれて間もない幼子故の弊害だった。

 

 ────マドカと名乗る少女を目映い光が包み込む。それがISを装備する際の光なのだと知ったタンポポは驚愕しながら口を開く。

 

「そんな、ここでISを使用するなんて……正気ですか! ここにはまだ多くの人達がいるんですよ」

 

「あら? アナタ達は私達の事を聖人君子の集団とでも考えていたのかしら?」

 

「っ!?」

 

突如横から聞こえてくる第三者の声にタンポポの意識が逸れる。見ればそこには黄色いサソリを模した全身装甲のISを身に纏った女が自分に向けて銃口を向けていた。

 

女から放たれる炎の銃弾。それがタンポポ達に着弾すると、辺りは火の海に包まれ、木々は爆発と炎に薙払われる。女がこれで終わったのかと思われた時、砂塵の中からオレンジ色のバリアが見え、その中にそれぞれ蒼と白のISが佇んでいた。

 

そのバリアを展開する蒼いISを前にサソリの女はフルフェイスのマスクの奥でほくそ笑む。

 

「これはこれは、まさかその機体は蒼鴉かしら? 白河修司の第一ISを扱うなんて、アナタは一体何者かしらねぇ?」

 

「まさか、テロリストがもう一人いたなんて……」

 

「経験が足りてないわねぇ。テロリストというのはいつだって姑息で、ずる賢くて、卑怯な連中の総称よ。そのくらい当然の知識でしょうに……アナタのご両親ってばもしかしてお人良し?」

 

「っ、父さんをバカにしないで」

 

首を傾げてサラリと毒を吐くサソリ女にタンポポは静かに闘志を燃やす。だが、どんなに怒りを募らせても状況が変わる事はない。目の前のISの性能が未知数である限り下手に動くことは出来ないとタンポポは判断するが……。

 

「スコール、私の邪魔はしないでもらおう」

 

ISの装着を終えたマドカが静かに殺意を滲ませてスコールと呼ぶ女性を睨み、それを受けたスコールはハイハイと肩を竦めて一歩下がる。

 

───黒。彼女の、織斑マドカの纏う異質なISに一夏は目を見開いた。フルフェイスのマスク、蝶の羽を模したスラスター、外見こそ異質なモノだが、マドカの纏うISはどこか騎士の様な気品の高さを漂わせていた。

 

まるで、十年前の白騎士のような……そこまで思考が回った時、一夏の眼前に黒い槍が突き立てられる。

 

「さぁ、始めるとしようか織斑一夏。私とお前、白と黒、どちらがより強いのか」

 

「くっ!」

 

「それじゃあ、私達の方も始めるとしましょうか。白河修司……篠ノ之束の後継者と噂される彼の作ったISがどれほどのモノか、見せてもらいましょう」

 

「………っ!」

 

白と黒、蒼と黄、京都の街の一角でテロリストとの戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏とタンポポ、二人がテロリスト達と遭遇している一方、オートマトン姉妹の末っ子モモは同じ班の布仏本音達とはぐれてしまっていた。

 

「ふぇ~、ほんちゃん~みんな~、どこ~?」

 

その目に涙を滲ませ、おっかなびっくりな様子で京都の街を一人歩くモモ、不安と怖さで怯えているものの、折角できた友達を失う訳にはいかないと彼女は一人皆を探す。

 

そんな時、モモの前に一人の女性が現れる。顔に包帯を巻き付け、獣の様な鋭い眼光、大凡普通とは言えない出で立ちに直視してしまったモモは恐怖で震え上がった。

 

「ふえ~! お化けだ~!」

 

「誰が化け物だ! ……て、そう言うテメェはIS学園のガキか。成る程、こりゃちょうどいい。このガキを人質としてクソ白河の前に突き出せばそれだけで私らの勝ちになるなぁ」

 

モモの存在に気付いた包帯の女、言動からしてテロリストの一味だと思われるその女は動転して腰を抜かしてしまったモモに一歩ずつ歩み寄っていく。

 

早くここから逃げ出さなければ、そう考えても体が言うことをきかない。徐々に近付いてくる包帯女に恐怖でどうにかなりそうだった時。

 

「モモ、無事!」

 

「探しに来たよ!」

 

「リンリンちゃん~、シャルちゃん~、来てくれた~ありがとう~助かったよ~」

 

モモの前に凰鈴音とシャルロット=デュノアがそれぞれISを装備して降りたった。突然現れる二人の代表候補生の登場に僅かに驚く包帯女だが、次の瞬間にはその顔に獰猛な笑みを浮かばせている。

 

「全く、本音からアンタがはぐれたと聞いた時は心臓が飛び出す事かと思ったわよ」

 

「ごめんね~。私おっちょこちょいだから~」

 

「まぁこうして無事だったからいいよ。……それよりも、僕はそこの人の方が気になるかな。織斑先生が自らISの使用許可を出すほどの事態、この状況って、もしかしなくてもアナタ達が原因だよね?」

 

目の前の不気味な包帯女に対し、シャルロットは対IS用の銃口を突きつける。動くなという警告と威嚇を表した彼女の対応を前に包帯女は動じた様子はなく、不気味に笑っている。

 

「クハハハ、まさかフランスと中国、二カ国の専用機が私の前に現れるとはなぁ。今日はツいてるぜぇ」

 

「はぁ? なに言ってるのアンタ」

 

「状況が上手く認識出来ていない? いや、それにしたってこの自信は一体どこから……」

 

二機のISを前に変わらず自信のある態度を崩さない包帯女。一体この女のどこにこんな自信がでてくるのか、理解出来ない女の態度に二人が戸惑っていた時。

 

「なら、まずはテメェ等のISを奪って殺す事から始めようかぁ! 出てきやがれ、ゴーレム共!」

 

「「っ!?」」

 

突如として周囲を囲むように無数のゴーレム達が現れる。学園に幾度となく襲撃してきた無人機達の出現に鈴とシャルロットは驚愕に目を見開いた。

 

形勢は逆転され、危機的状況へと陥ってしまった三人、無数のゴーレムが囲んでいるだけでも状況は不利だというのに、目の前の包帯女は高らかに笑い声を上げ。

 

「私の……このオータム様のクソ白河に対する復讐はまだ始まったばかりだ。精々楽しませてくれよ、クソガキ共ぉぉぉっ!!」

 

包帯女は蜘蛛のようなISの鎧を身に纏い、二人に向けて襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────京都の空を目映い光が照らし出す。幾度となく広がっては瞬いては消えゆく閃光はまるで季節外れの花火のようだ。

 

しかし、実際はそんな甘い代物ではない。ISという地球最強の兵器を用いての戦闘、蒼と白、黄と黒のIS同士の激突による戦いは暗くなっていく京都の空を色とりどりに彩っていく。

 

『ふふ、流石は白河修司が手掛けたISね。機動性、速さ、耐久力、そしてパワー、どれをとっても現存するISを大きく凌駕しているわ』

 

『そう思うのなら、降伏したらどうです。この蒼鴉はアナタのISの性能を大きく上回っています。痛い目に遭わない内に大人しくした方が身の為ですよ』

 

『あら怖い。けど、確かにアナタの言うとおりね。此方の機体も篠ノ之束博士によって改修されているけれど、それでもアナタの機体には適わない。やっぱり一から手掛けて貰わないと大して変わらないものね』

 

『だったら!』

 

『けれど、幾ら機体が良くても乗り手が未熟なら話は別よ。事前情報によればアナタのIS蒼鴉は相当な性能を有している筈よね。それこそ、私程度なら瞬殺出来る程に──なのに私はこうしてピンピンしている。……何故かしらね』

 

『っ!』

 

スコールの言葉にタンポポはフルフェイスのマスク越しに表情を歪ませる。確かに自分はこの京都にくる前に生みの親である修司からISに関する教練を一通り受けている。その合間こそは短かったものの、タンポポ自身濃密な時間だったと自負している。

 

ISの操作技術も時間のある夜中に修司自ら指導を行っていた為、タンポポの技量も相当なモノへと至っている。

 

しかし、それは訓練機に限っての話。当時改修中だった蒼鴉は修司以外誰にも触れられる事はなかったのだ。蒼鴉に関しては最低限の操作方法とスペック能力しか知られていない彼女にとって見れば三輪車しか乗った事のない子供がいきなり説明書を渡されF1マシンに乗れと言われているものである。

 

それだけでも大変だというのに、この蒼鴉の基準設定は修司設定のまま、その反応は非常に過敏でタンポポは終始蒼鴉の姿勢制御だけで一杯一杯だった。その上更に武装を使用する事は相手の死を意味する為、基本的にタンポポは丸腰状態。それ故に現在タンポポは蒼鴉本来の五割にも満たない性能しか引き出せないでいたのだった。

 

対する相手は戦闘経験豊富なテロリスト。機体性能の差は大きく開いているのにスコール自身の戦闘能力がその差を縮めている。

 

経験の差。二人の間にある決して埋まることのない差にタンポポは己の不利を感じた。このままでは拙いと、どうにかして戦況を変えて一夏の応援に向かわなければならないと考えたその時、上空から目映い光が降り注がれた。

 

それがISの光学兵器だと察したタンポポは一瞬回避をしようとするが、下が人が多くいる街である為その選択は即座に捨て、蒼鴉にバリアを纏わせる。

 

上からの攻撃を防ぎ、光のあった方角へ視線を向けると、タンポポの目は大きく見開いた。

 

『どうしたスコール、随分手間取っているようだが?』

 

『あらM、そう言うアナタの方は……どうやら終わったみたいね』

 

『あぁ、二重加速(ダブル・イグニッション)などと姑息な技を使われた所為で多少は手こずったが……まぁ、こんなものだ』

 

『そ、そんな……一夏さん』

 

 黒い騎士が嘲笑の笑みを浮かべる。彼女の左手に握られた槍の切っ先には貫かれた一夏の姿が────。

 

『一夏さぁぁぁぁん!!』

 

タンポポの悲痛な叫びが木霊した。

 

 

 

 

 

 




Q性能では圧倒的に勝ってるのにどうして蒼鴉は追い詰められてるの?

A基準設定がボッチ仕様
武装は殆どが殺傷力が高いので×
訓練機で鍛えても蒼鴉に搭乗したのが今回が初。
主人公「俺でも扱えるからイケルイケル」

以上。あとはお察し下さい。

尚、前書きでも説明しましたが今回がIS編唯一のシリアス回となっております。
別名スコール達の輝き回

では次回もまた見てボッチ。

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