『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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一夏くん達の話を書いていたらついつい長くなってしまった。
修学旅行編はもう少し続きそうです。


その43

 

 

 

 

 ─────某国某所。とある重要軍事施設、他国からの密偵は勿論、蟻の子一匹すら侵入を許さない厳重な警備により管理されてきた施設である一つの重大な事件が起こっていた。

 

基地に響きわたる緊急事態を報せるサイレン、尋常でない事態を前に司令室で指示を飛ばしていた将校は目の前に疑いながら口を開いた。

 

「一体何が起きている!」

 

「基地内のシステムが何者かに侵入されています!」

 

「現在全システムの70%がダウン!」

 

「バカな、十年前の白騎士事件以降厳重に厳重を重ねた防衛システムだぞ! そんな容易く破られる筈が───」

 

「し、システムの80%が掌握されました! そんな……嘘だろう」

 

「どうした!?」

 

「か、介入してきたウィルスがミサイルのロックシステムを解除し、日本に狙いを定めようとしています!」

 

「何だと!?」

 

オペレーターから告げられる新たな事実に男性将校は驚愕に目を見開く。それだけはさせてはならないと男性将校は全オペレーターにミサイルシステムの防衛を命ずるが……。

 

「ファイヤーウォール突破されました! ミサイル、発射されます!」

 

「そんなバカな、これでは十年前の白騎士の再現ではないか」

 

愕然とした面持ちで崩れ落ちる将校。基地から撃ち出される長距離弾道ミサイルの様子を見て、彼は十年前の白騎士事件の事を思い出す。

 

基地から撃ち出される数十のミサイル群。だが、彼は知らない。自分達のミサイルが日本に向けて撃ち出される中、世界中のミサイル所有基地にハッキングが掛けられていた事を───。

 

その数、総勢5000発。白騎士事件よりも上回るミサイルの量、日本は再び、滅亡の淵に立たされようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──何故だ。何故貴様は生きている』

 

 京都上空。摩訶不思議な現象を目の当たりにし、殺した筈の“人の形をした白き獣”に向かって織斑マドカは問い掛ける。

 

手応えはあった。奴のシールドバリアを破り、絶対防御すら度外視して振り抜いた自分の槍は、間違いなく織斑一夏の腹部を貫いた筈だった。

 

天災篠ノ之束の手によって生み出されたバリア無効化攻撃、シールドバリアは疎か絶対防御すら無効にしてしまうその力は殺しに特化したモノ。白式の雪片の上位変換とも言える一撃を受けておきながら生き長らえている目の前の現実にマドカ思考が混乱していた。

 

しかも、白式と呼ばれていた奴のISが全身装甲となって復活している。どんな手品を使ったのか、一体どうやって傷を修復させたのか、そもそも奴の機体の節々から見えるあの翠色の光は何なのか、混乱する彼女に対し、一夏は酷く冷静な態度でマドカの質問に答えた。

 

『……さぁな、俺にも良くは分からないさ。気付いたら俺はここにいて、こうしてお前と相対している。───一つ分かる事があるとすれば』

 

『?』

 

『俺も白式(コイツ)も、むざむざお前なんかに殺されるつもりはないって事位かな』

 

『───っ!?』

 

一夏のその言葉を挑発と捉えたマドカはバイザー越しに激昂する。ふざけるなと、何も知らない一夏に対して理不尽な感情を吐き出しながら、彼女は再び槍を手に白式へ接近する。

 

『死ねぇぇっ! 織斑一夏ぁぁぁっ!!』

 

憎悪を撒き散らしながら黒騎士が白き獣へと肉薄する。振り抜かれ、迫り来る槍を前に……。

 

(────見える!)

 

一夏は自らを包み込むISを己の手足の如く稼動させ、両手でこれを掴み取る。高速で接近し、隙の無いモーションで繰り出した必殺の一撃をあっさりと見切られた事実にマドカはバイザーの奥で大きく目を見開かせた。

 

『バカな、何故この一撃に対処出来た!? さっきまではあんなに……』

 

『あぁ、全く見えなかったよ。けど、今は違う。白式を通してあの子が俺に力を貸してくれている。頑張れって言ってくれている。だから!』

 

『なんだ、何を言ってるんだお前は!?』

 

『俺は、何度だって頑張れる! 俺達なら、どこまでもいける! そうだろ、“一式(いっしき)”!!』

 

 一夏の言葉に応える様に彼の機体から翠色の光が溢れる。その輝きの奔流に圧され、黒き騎士は弾き飛ばされる。

 

“一式” 壱ではなく、零でもなく、始まりを案じる最初の“一” その言葉に込められた意味は────無限の可能性。

 

第二次移行(セカンド・シフト)を経て人の形を為した可能性の獣、これからの自分と全ての人類に送るエール。

 

自分達はまだいける。そう信じて疑わない少年は自分の中に眠る可能性を信じ、黒き騎士に向けて加速した。

 

『なっ!?』

 

弾き飛ばされ、体勢を整える暇もなかったマドカは白き獣に押され上空へと押し上げられる。抵抗しようにも一夏と彼のISによる飛翔速度は音速を越えており、空気による圧力がシールドバリア越しに彼女の機体が抑え込まれてしまっていた。

 

為す術なく遙か上空へ押し上げられてしまう黒騎士、空気の圧力から解放された時は雲の海の上へと出た時だった。

 

 遙か彼方まで見通せる絶景。沈み往く太陽と雲の海が合わさって幻想的とも言える空間だが、マドカにはそれを堪能する余裕などなかった。

 

胸の内にあるのは織斑一夏に対する憎悪だけ、この男だけは殺さなければならないと、それだけを頭に入れてマドカは一夏へと切りかかる。

 

『織斑、一夏ぁぁぁっ!!』

 

憎しみに凝り固まった叫び。端から見ればおぞましく、見るに耐えない光景だと言うのに、何故か一夏はそれが助けを求めている様に見え、憎悪でしかない彼女の声が慟哭の様に聞こえた。

 

理由は分からない。自分を一方的に敵視し、更には殺そうとしてくる相手を前に内心で自分に疑問を抱く。何故自分は目の前の少女に対しそんな事を思えるのか、根拠もないその理由に……。

 

『────今、助けてやるからな』

 

一夏は根拠もなく、彼女を助ける事を決めた。あれ以上あの機体に彼女を乗せる訳にはいかない。己の直感に従いそう決めた彼はこの時初めて戦闘態勢に移行し、彼女に向けてバーニアを噴かせる。

 

『あぁぁぁぁっ!!』

 

振り抜かれる黒の槍。直撃した相手に死をもたらす黒槍を一夏と一式は寸での所で回避し、そのまま黒騎士の間合いへと飛び込んで槍に手刀を突き刺す。

 

対IS用の近接武装、それがただの手刀によって破壊された事に驚愕しながらマドカは槍から手を離す。爆発し、散っていく自分の武装に舌打ちを打ちながら距離を開け、もう一振りの槍を手に取る。

 

この距離なら外しはしない。黒槍の……ランサービットから放たれる閃光が未だ爆煙の中にいる一式に向けて発射される。

 

煙を吹き飛ばし、周囲の雲を蒸発させる高出力の一撃、並のISなら一撃でシールドバリアをゼロにしてしまう威力を誇るその一撃を、一式は翠色の力場……バリアーらしき障壁で防いでいた。

 

『またか! 一体、その光はなんなんだ!』

 

シールドバリアとも絶対防御でも違う。全く別のエネルギーが一式を守っているとしか思えない現象にマドカは目の前の存在に理不尽すら感じた。

 

『……さて、俺もいつまでこの形態を維持できるか分からないからな、そろそろ終わらせてもらうぜ』

 

『っ! バカにして!』

 

余裕とも言える一夏の言葉にマドカは更に怒りを募らせる。その余裕さを消してやると言わんばかりに黒騎士は腕に取り付けられたマシンガンを放つが、圧倒的速度と加速を誇る様になり、視覚は疎かハイパーセンサーでも一式を捉える事は適わず、マドカは焦りと怒りで思考が混乱していった。

 

一体このISは何なのか、第二次移行に至ったとは言え、ああも性能が跳ね上がるモノなのか? 混乱するマドカだが彼女はこれまで多くの実戦を経験してきた猛者だ。自身が不利となる状況を幾つも体験してきた彼女は呼吸を整えて思考を安定させる。

 

当たらないのなら、せめて此方に一直線に来るよう誘導するのみ、マドカは最後の一振りとなった黒槍を手放し、スタビライザー部分に手を伸ばす。

 

単なる姿勢制御装置かと思われてたスタビライザーは巨大な大剣となり黒騎士の手に握られる。あれこそが彼女のISの主武装なのだと一夏は理解しながら、マドカへ一直線へと突き進む。

 

振りかぶる大剣、そこから発せられる圧力にこれまで以上の力を感じ取った一夏は手を鋭くさせ手刀の形に変える。すると、彼が纏うISから再び翠色の光が放ち始め、やがて一夏の手刀に集まり始める。

 

収束されていく光は刃という形となる。翡翠色の剣を手に一夏もまた黒騎士に向けて加速する。

 

『織斑、一夏ぁぁぁぁぁっ!!』

 

『はぁぁぁぁっ!!』

 

ぶつかり合う白と黒、拮抗したのは僅か一瞬の合間、やがて翡翠の剣が黒き剣に亀裂を入れ……一夏の放った一撃は大剣ごと黒騎士を切り裂いた。

 

『そんな……バカな』

 

砕け散るバイザーフェイス、そこから見える彼女の表情にはただ驚愕という色で染まりきっていた。一体何故自分は敗北したのか、理解出来ない現実と黒騎士が破壊されたショックによって織斑マドカは意識を暗転させてしまう。

 

意識を無くし、ISの機能も奪われた彼女は地上へ向かって落下していく。そんな彼女を受け止めたのは一式の形態を解き、白式状態へ戻った一夏だった。

 

意識を失い、自分の腕の中で眠る彼女に対し、一夏は呟く。

 

『……目が覚めたら、改めて話をしような。その時は千冬姉ぇも一緒に』

 

彼の呟きが届いたのか、眠っている筈の彼女がピクリと反応した様な気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────バカな』

 

 織斑一夏と織斑マドカ、二人の戦いの様子をハイパーセンサーで視ていたスコールは目を大きく見開かせて驚嘆していた。

 

織斑マドカ……Mに不備はなかった。篠ノ之束という強力無比な協力者のお陰で彼女の機体は第四世代に匹敵、或いは凌駕する性能を持つようになり、M自身の実力も合わさって織斑一夏は勿論、理論上は国家代表クラスすら凌げる実力者となった筈だった。

 

なのに結果は真逆、織斑一夏が復活して不思議な光を放つようになってから全てが狂うようになってしまった。このままでは拙い。Mが敗れ、回収が不可能な状況となった今、スコールはすぐさま撤退までの行程を模索する。

 

その為にはオータムの協力も不可欠、なのに一行に繋がらない通信に苛立った時、彼女の前に蒼鴉を纏ったタンポポが降りたった。

 

『……これでお終いです。さぁ、抵抗せず降伏して下さい』

 

拳を突きつけて降伏する様促してくるタンポポにスコールは表情を歪める。Mという此方の最有力戦力を失った今、自分達の目的を達成する事は不可能となった。

 

逃げるしかない。目の前の蒼鴉は性能こそ脅威ではあるが乗り手は未だ未熟、ならば逃げ切ることも可能だと判断するスコールはフルフェイスのマスクの奥で笑みを浮かべる。

 

『───ごめんなさいねぇ、私はまだこんな所で捕まる訳に行かないの』

 

『逃がさない!』

 

 逃亡を図ろうとするスコール、そんな彼女の動きを察知してタンポポはソレを阻止しようとするが……彼女のISから放たれる無数のミサイル群によって阻まれしまう。

 

蒼鴉の装甲はガンダニュウム合金、多少の無茶は無視する事が可能な硬さを持っている。この程度なら突っ切ってテロリストを捕獲する事が出来るとタンポポは判断するが、次の瞬間それは間違いだと思い知らされる。

 

向かってくる筈のミサイル群は全て下を向き、地上に向けて放たれていく。スコールの狙いを理解したタンポポはその姑息なやり方に嫌悪しつつも、地上にいる人々を守る為にミサイルを追って降下する。

 

 GNフィールドを展開し、自ら突っ込む事でミサイルを全て破壊する事に成功したが、その為にスコールは既に空の彼方、追い付こうとしても手段を選ばない奴の事だ。恐らくはまたミサイルや武装を地上に向けて放ち、関係のない人々を巻き込もうとする事だろう。そうなれば自分一人では対処仕切れず、いずれは余計な被害を出してしまう。

 

どうすればいい。せめてバスターライフルでも使えればとタンポポは考えるが、父親である修司から固く禁じられている以上、使用することは出来ない。

 

残された手段はTRANS-AMシステムだけだが、アレもツインドライヴシステムとISコアの制御を行いながらでないと上手く作動出来ない代物だ。造り上げた白河修司なら可能だろうが、自分にはそこまで高度な処理能力は備わっていない。

 

 自分一人では何も出来ない。そこまで自虐的になった時、タンポポの脳裏にある言葉が浮かんできた。それは昨日修司から蒼鴉を受け取る際に交わした会話だった。

 

『───いいかいタンポポ、この蒼鴉はツインドライヴとISコア、二つの動力源を両立させる事で初めてその性能を十二分に引き出す事が出来るんだ。決して自分一人で動かしてると思い上がってはいけないよ』

 

最初は父の言っている意味が分からなかった。けれど、ここへ来て漸くその意味を理解したタンポポは蒼鴉の中に居るもう一人の味方に声を掛けた。

 

『……アリカさん、今まで無視してごめんなさい。今更ではありますけれど、どうか私に力を貸しては頂けませんか?』

 

『───もっちろん! 幾らでも貸しちゃいますよー!』

 

自分の声に答える様に返事を返すアリカにタンポポはありがとうと呟いた。ISコアに眠っていた電子生命体、アリカという共に戦ってくれる相棒を得られた事で蒼鴉に変化が起きる。

 

 “多目的移行(マルチ・シフト)”専用機に備えられた操縦者に適した形状、システムとなるISの適合システム。これまでとは違い人それぞれに合った適合を施す為にと修司の独自理論に基づいて改修し、組み込まれた新たなシステムはタンポポという新たな操縦者をアリカが理解し、学習する事で発動する事に成功した。

 

見た目こそは変わっていないものの、その中身はまるで違う。自分の体や挙動にフィッティングを施されたこのISはある意味でタンポポ専用の機体となった。

 

機体出力、加速、どれも今までとは違う事にタンポポは驚きながらもこれを受け入れた。自分は一人で戦っている訳ではない。IS操縦者としての本当の意味で理解した彼女は蒼鴉を稼動させ、逃げ往くスコールの後を追う。

 

 テロリストとの距離は依然として開いたままだ。奴のISのステルス機能を身を以て知っているタンポポは遂に彼女を呼び寄せる事を決める。

 

『アミカちゃん!』

 

『はいなー!』

 

名を呼ぶと同時に現れる一羽の燕、自分の出番だと喜びを露わにする彼女は遂に蒼鴉の真価を発揮する時だと待機状態から姿を変える。

 

“オーライザー”ツインドライヴシステムとISコア、その二つの動力源を完全に同調させる為に作られた蒼鴉の支援機。

 

蒼鴉の背中へドッキングを果たし、更なる機体性能を向上させる。“レイヴライザー”蒼鴉(ブルー・レイヴン)とオーライザーが合体した事で付けられた名称。額に表示される二つのR、RavenとRAISERの文字が浮かび上がる。

 

オーライザーとドッキングした事で飛行速度は加速度的に増していくが、それでもまだ足りない。まだまだこの機体の限界はこんなモノではないとタンポポは更に機体性能を引き上げる。

 

『いきます。トランザム!』

 

その音声を認識すると共に蒼鴉に紅蓮の炎が纏う。爆発的に加速する一羽のレイヴンは瞬く間にスコールへ迫り。

 

『な、何だこの速さは!? こんなの、聞いてないわよ!』

 

『もう逃がしません! ワイヤーアンカー射出!』

 

『っ!?』

 

『モーションパターン“K” 必殺! クルルギスピニングキィィィック!!』

 

放たれるワイヤーアンカーにより四肢を封じ、頭部へ加速を付けての回し蹴りを叩き込む。その威力は従来の武装であるサドンインパクトやツインバスターよりは低いものの、シールドバリアは勿論絶対防御にまで影響が及び、何より伝わってくる衝撃によってスコールの意識は強制的に途切れる事になる。

 

割れるフルフェイスのマスク、そこから見える白目を剥いて気絶したスコールを見て己の勝利を確信したタンポポは小さくガッツポーズを取った。

 

『お父さん、みんな、私やったよ』

 

勝利の余韻を浸りたい所だが、相手は手段を選ばないテロリスト。気絶している間に身柄を拘束しようと落ち行く蠍を回収したその時、タンポポの視界に危険を知らせるモニターが浮かび上がる。

 

何だと思いその画面を開いた時、タンポポの目は驚愕に見開いた。

 

『そんな……嘘、でしょう?』

 

 京都……いや、日本に向けて発射されたとされる無数の機影、それが全てミサイルだと知ったタンポポは急いで父に報せようと蒼鴉を加速させる。

 

このままでは日本が危ない。急いでこの事を伝えなければと急いだその時。

 

『その心配はいりませんよ』

 

 まるで、全てを見越した様に京都に蒼き魔神が姿を現した。

 

それを見て一言───。

 

『………あ』

 

全てを察したタンポポは乾いた笑みを浮かべながらゆっくりと帰路に着くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回で一夏&タンポポ視点編終了
次回はモモ達の視点+αの話になります。

……あー、早くG(ギャグ)書きてー。

それでは次回もまた見てボッチノシ


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