『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回で修学旅行編は最後となります。


その45

 

 

 

 

 京都の街をセシリア=オルコットは走る。テロリストの襲撃という異常事態に於いて代表候補生である彼女はその責務を果たす為に京都中を走り回っていた。

 

先程まで上空で行われていたIS同士の戦闘も沈静化したのか、現在は静寂を保っている。同じ代表候補生であるシャルロットや鈴音の方も逃げ遅れた人がいないかISを使用し空から見ている筈、近い内に上空で戦っていた他のIS操縦者と合流する頃だから、此方も急いだ方がいいだろう。

 

「あぁもう! 修司さんはこんな時にどこへ行ってしまったのですわ!」

 

 自身の目的である人物が見つからない事にセシリアは苛立ちの声を上げる。白河修司なる人物は今や世界中から注目される存在だ。テロリストの目的は定かではないが、恐らくは彼も連中の標的の一つなのだろう。多くの組織が狙っている彼の技術力を独占すれば、それは世界を牛耳るに近しい意味合いを持っている。

 

そんな彼の身柄をいち早く確保する為にセシリアはシャルロット達と分かれて単独で京都の街を走り回っていたが、やはり自分一人では無理がある。駅周辺にいる筈の他の専用機持ち、或いは織斑先生に援軍の申請をしようかと考えた───次の瞬間。

 

「────なん、ですの? これは……?」

 

目の前を突如として覆った影。まだ日は落ちきっていない筈なのに妙だなと思い顔を上げた瞬間、セシリア=オルコットは絶句した。

 

────“蒼” 深く、奈落の様に深い蒼を模した巨大なソレは何の前兆も予兆も見せず唐突に、そして突然に自分の前に現れた。蒼く巨大な機械人形、SFアニメに出てきそうなソレは自分の存在に気付かない様子でフワリと宙に浮く。

 

見上げる程に巨大な物体。その質量は計り知れず、挙動一つで周囲の建物に大きく影響を与えてしまう筈。なのにその巨大な蒼が飛び立った所は質量で押しつぶされるどころか目立った傷跡もない。精々大きな足跡位しかないその事実にセシリアの思考はこの上なく混乱に染まっていた。

 

一体あの巨人は何なのか、そんな事を考えながらもセシリア=オルコットは遂に思考を振り切ってしまい、目を回しながら倒れ伏すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───数カ月前、篠ノ之束が拠点にしている“我が輩は猫である(名前はまだない)”である事象の変動を観測した。

 

世間では小さな地震として処理された事例、普通なら気に掛ける必要など皆無なその事象、だが、この日暇つぶしに地球を観賞してた彼女の目と頭脳はそれがどれだけ異常な事なのか瞬時に理解した。

 

空間、時空がねじ曲がって引き起こされた現象。普通ならば有り得ない事象に流石の天災も目を見開いた。穴の様に広がる空間、そしてそこから現れる巨大なナニカ、当時大気圏外からその様子を見ているだけだった束はそのナニカに接触する為に久々に下界に降りたった。

 

 測された座標地点は海の中、それも海底の深くだと知った束はすぐに海底調査船を作り上げ、その場所へと向かった。

 

しかし、その地点には何も無く、観測された重力変動の異常数値も既に正常値へと戻ってしまっている。自分の測定器が故障したのか、当時の束は酷い肩透かしをくらった気持ちになり当時は酷くやる気を失っていた。

 

自分の知らない存在に会える。まだこの世界には自分の知らない未知で溢れている。そう嬉しく思い、また興奮した。

 

 ───だが、この時の彼女の気持ちは唐突に現れる第三者の存在にて水を差されてしまった。

 

白河修司。突然現れた天才技術者、史上初個人で総合IS管理資格保有者になった事から自分すら把握し切れていないISの事を解明した存在。束の後継者とも言われているこの男の存在は束にとって見過ごすことの出来ない目障りな存在になっていった。

 

奴の正体を探るべく、あらゆる手段で調べ尽くした彼女はやがてある事実に気付く。それは奴、白河修司は本来ならこの世界に存在しない筈の人間という事実だ。

 

数カ月前に起きた地震。開いた空間から現れた巨大なナニカの正体、戸籍を偽造した上にIS学園に用務員として赴任した事、これら全て関わりがあると察した束は白河修司を自分から居場所を奪いに来た侵略者の様に思えた。

 

通常なら有り得ない思考転換。言い掛かりも甚だしい言い分だが、篠ノ之束はそうは思わなかった。あの日、世界に穴が開いた時から奴は虎視眈々と自分を世界から追い出そうと画策していたのだと、そう信じて疑わなかった。

 

異世界からの侵略者、それならば自分以上の知識を持っていてもさして不思議はない。天才である故にそう判断した束は彼をこの上ない敵として認識する様になった。

 

 そして今、その時が来たのだと束は歓喜する。自身の手で作り上げたこの最高傑作で奴を一瞬で消し炭にしてやる。そう息巻きながら彼女が赤い稲妻を手にした刃に迸らせながら切りかかろうとした───

 

 

 

 

 

 

 

 

『ワームスマッシャー』

 

 

 

 

 

 

 

目の前の蒼い巨人から聞こえるそんな呟きと共に天災が築き上げた最高傑作が地に落ちる。何が起きたか理解出来ないという風に地面に倒れる彼女は目を大きく見開きながら機体の損傷をチェックする。

 

眼前に現れるのはシールドエネルギー残量0という文字とスラスター各部位が全て破壊されたという報告、あの一瞬で何が起きたのか理解出来ないでいた天災は悔しさに目尻に涙を浮かべながら目の前の魔神に言葉をぶつける。

 

『……んだよ。何なんだよ、お前はぁぁぁぁっ!!』

 

慟哭にも似た天災の雄叫び。世界が自分を中心にある様にし向けた希代の才能はその実力を示す暇もなく敗れた。その事実を認めたくないと、束は叫び続けるが魔神はそれに答える事はなかった。

 

その態度が余計天災の神経を逆撫でる。このままでは済まさないと癇癪を起こした子供のように感情を振り切り、彼女は電子モニターを弄くり回し、最後の手段に打って出る。

 

電子モニターをタッチパネルを加速度的に叩く束、その様子を見て魔神の方も察知したのか、今更ながら彼女の方へ視線を落としていた。

 

……恐ろしい顔だ。確かにこれほどまで凶悪な風貌をしているなら、クロエがあそこまで心が折れるのも頷ける。

 

───しかし、と。邪悪な兎は自分の最後の手段が起動した事に薄ら笑いを浮かべながら魔神へと目線を向ける。

 

『……今、全世界のミサイル基地に設置されていた弾道ミサイルを発射させた。数は5000発、この膨大な物量での同時攻撃を君は一体どう捌く? えぇ? 蒼き魔神さん』

 

『…………』

 

『この国の防衛機構を全て駆使しても阻む事は出来やしない。ましてやお前は一人、そんなデカブツじゃあ音速を越える弾道ミサイルには対処できないだろう』

 

無言で見下ろす魔神を束は笑みを浮かべて見据えていた。ざまぁ見ろと、そんな意味合いを込めた笑みを浮かべる彼女に対し、魔神はただ一言だけ口にした。

 

『そろそろ、夢から覚める頃ですよ。不思議の国のアリスさん』

 

『……なに?』

 

理解出来ない言葉を吐かれると同時に魔神の頭上に穴が開く。同時に紅錦から表示される重力の異常変動数を見て、彼女の目は大きく見開き、同時に確信する。

 

やはり奴はあの地震の際に現れた侵略者なのだと、束は開いた空間の中へと消えていく魔神を憎悪すべき対象として睨み付けながら見つめ続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、皆と楽しみながら学ぶ筈だった修学旅行がトンだハプニング尽くしになっちゃったなぁ」

 

 久々に座るグランゾンのコックピット内、そこから見える日本上空の雲海。臨海学校での事件以来乗ることの無かったこの場所で自分こと白河修司は散々な結果になってしまった修学旅行に残念な気持ちを吐き出していた。

 

愚痴とも言える言葉の数々、けれど修学旅行を楽しみにしていた生徒達の事を思うと、こんな気持ちになるのも仕方がないと心の内で言い訳しておく。

 

一夏君達も大変な思いをしたみたいだし、織斑先生を始めとした先生方や自衛隊、消防隊、救急隊の人達も多大な労力を支払う事になっただろう。けどその甲斐あって幸い京都の街や重要文化財には一部を除いて被害は受けておらず、人的被害も皆無の事だから流石はIS学園の先生達だと思う。

 

自衛隊の人達との連携も見事なモノだった。織斑先生を始めとした学園の先生達はある程度軍事教練も受けているみたいだし、自衛隊の方々と上手く連携出来たのもここら辺が大きいのだろう。しかし、どうやら事の問題は自分が思っていた以上に大きくなっている様だ。

 

先程の篠ノ之束博士の名を騙る女といい、世界中のミサイル基地にハッキングを施した事といい、どうやら亡国機業という秘密結社は自分が想像していたよりも遙かに厄介な組織の様である。

 

やはり篠ノ之博士から技術提供を受けているだけあって連中の技術力はかなり高い。この分だと今後も面倒事に巻き込まれそうであるが……。

 

「後手に回るのは、今回で最後だ」

 

自分の愛機であるグランゾンを出した以上、自分に敗北は許されない。篠ノ之博士の憂いを断つ為にも今後は自分も亡国機業打倒の為に積極的に動く必要があるだろう。

 

連中を許しておけない。だが、今はそれ以上にやるべき事がある。

 

「さて、そろそろミサイル群が日本の領空域に入りそうだし、いい加減迎撃するとしますか」

 

 音速を越えて飛来してくるミサイルの群、既に日本の防衛機構がミサイル群を撃ち落とす為にそれぞれの地域で稼動しているが……正直、全てのミサイルを撃ち落とす事は不可能だろう。

 

音速を越える総数5000のミサイル。シチュエーション的には嘗ての白騎士事件を思わせる展開だが、ミサイルの数と規模は10年前の二倍以上、現存する全てのISが協力体勢を敷いても結果は同じだろう。

 

嘗てない危機に晒される日本───しかし。

 

「ワームスマッシャー」

 

グランゾンから放たれる無数の光の槍、それがワームホールを通して全てのミサイルの撃墜を確認すると、俺は再びグランゾンを走らせ、日本上空より離脱した。

 

確かに5000という数字は大きい。それが全て他国の重要拠点、或いは施設に向けての弾道ミサイルだと知れば、誰だって不安に思う事だろう。あの兎耳の魔女だってそう判断したからあれだけの数のミサイルを日本に向けて発射させた訳だし。

 

所が残念、スペック的には65000を越える同時攻撃が行えるグランゾンにとってはそれほど驚愕する数字じゃないんだよね。グランゾンの性能を引き出せばこのくらいの事はさほど難しくない。

 

……なんて、グランゾンの性能に頼り切っている自分に言えた事ではないか。そろそろ皆も駅に集まる事だし、帰りに備えて自分も戻るとするかな。

 

「っと、その前にセシリアちゃんを拾って行かないとな。驚かせて気絶させてしまったみたいだし、責任持って回収しないと」

 

今後の事も考えなくちゃな。と、そんな言葉を吐きながら俺はグランゾンと共に夜の空を飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────突然引き起こった今回のミサイル事件、白騎士事件を遙かに凌駕するこの大事件を政府上層部は公開するまで丸三日悩み続ける事になった。

 

5000もの数のミサイルを一瞬に、且つ同時に破壊する規格外の性能をもった謎の巨大ロボ。衛星から映し出されたその映像に当時の関係者達は驚愕し、大きく困惑した。

 

後に魔神事件と称される今回の事件。一体この巨大ロボは何なのか、各国は裏で巨大ロボを調査しているが、確証を得られる様なモノは何一つとして存在しない為、やがて各国の政府上層部はこの事件の全容を明らかにせず、闇へと葬られる事になるのだった。

 

ただ一つ気掛かりがあるとすれば、当時例の魔神出現の折、白河修司の姿が一時的に確認されていなかった事である。

 

魔神と白河修司、一時は彼が魔神と深く関わりがあるのではないかという説も出てきたが、これも結局確証は持てずとなり、事件共々闇へと消える事になる。

 

果たしてあの魔神は何なのか、そして今後ISはどうなるのか。その先行きを知るものは一人を除いて知る者はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回でIS編最後の話になる予定。



Q次の話は何処が舞台なの?
A色々候補があり悩んでいる最中であります。

ウサギ「これでお前は終わりだ! アハハハ!」

主人公「俺とやり合いたかったら、破界の王でも連れてこい!」

大体こんな話でした。

それでは次回もまた見てボッチノシ

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