『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回でIS編は終了となります。


その46

 

 

 

 ────京都で起こったテロリスト介入とミサイル強襲事件から数ヶ月。世間はいつもと変わらぬ日常に戻り、人々もまた平穏な日々を過ごしていた。

 

何者かの手引きにより引き起こされた5000発のミサイル。表では日本政府が対応した事で全て撃墜したという事にされている。

 

音速を越えて飛行する5000発ものミサイル群、本当に日本だけで対処出来たのかと疑問に思う所だが、誰もがその事に追求する事はなかった。

 

一部のメディアは事実究明の為に日本政府に説明を求めているが、事件の真相が明るみに出ることはほぼあり得ないだろう。

 

なにせ、当時の張本人たるその人物が、今回の事件に関してさほど重要視していないのだから……。

 

 既に事件は過去の出来事として処理されている日々、人々がそれぞれ思い思いの毎日を過ごしている。そんな中、五反田家の長男である五反田弾も事件も事件後と変わらない日々を送っていた。

 

「おにぃ、何か小包みが届いたよー」

 

「はぁ? 俺、通販とか頼んだ覚えねぇーんだけど?」

 

「知らないわよ。なんか宛先とか書かれてないし……なんか危ないモノを買ったんじゃないでしょうね?」

 

「するわけないだろ!」

 

部屋にノックもせずに入ってきて、散々な事を口にする妹が去っていく様子を見ながら、弾は投げ渡された小包みに視線を落とす。

 

一体この中身は何が入っているのか、不安に思いながら包みを開けた彼が目にしたモノは……。

 

「……鳥?」

 

掌サイズの小さな鳥。模型の様な手触りのソレに暫し呆然となって見つめていると……再び、妹の五反田蘭が部屋へと入ってきた。

 

「お、おおおおおにぃ! た、大変! 大変だよー!」

 

「今度はなんだ?」

 

酷く慌てた様子の妹に困惑する弾。先ほどとは全く違う異なった様子の妹に戸惑っていると、蘭は乱れた息を整えながら兄にテレビを付ける事を促した。

 

一体何なのか、そう不思議に思いながらリモコンでテレビに電源を入れた次の瞬間。

 

『────全ての人類に報告させていただきます』

 

画面一杯に映し出されているその人物に弾はその目を大きく見開かせる事になる。何故なら、その人物は数ヶ月前に女性権利団体から助けて貰った事のある恩人とも言える人物だったからだ。

 

そんな人が全世界に向けて声明を出している。その事実に釘付けとなっている彼は、自身の手の内で眠る小鳥がピクリと動いた事に気付かなかった。

 

また、小包みに小鳥と一緒に同封されていた手紙にも同様に気付かないままで、その手紙の内容に後日知る事になった弾は今後自分の人生に大きく左右される事になると知り、かの男に対して複雑な心境を抱く事になる。

 

その手紙の内容はと────。

 

“五反田弾様へ──。

 急な事で申し訳ありませんが前々から約束していた貴方へのお詫びをお送りします。護身用のISですが、普段は大人しい穏和な人格なので彼女から説明を受けつつ使いこなしてみてください。尚、名前の方もお手数ですかそちらで付けて下さると嬉しいです。今後、もし興味がありましたら私の方へ連絡を入れて下さい。

                白河修司より”

 

 

 ご丁寧に連絡先まで記入されているその手紙、後に弾は連絡先を暗記した直後、この手紙を焼却する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ、平和だな」

 

「なに退役後の老兵みたいな事言ってんのよ」

 

 IS学園にある食堂、生徒達の憩いの場として知られるこの場所で織斑一夏といつもの女子メンバーが集まっていた。

 

午前の授業は終わり、午後のISの実施訓練に備える為に英気を養っている彼らはそれぞれ思い思いに過ごしていた。

 

「まぁ、気持ちは分かるけどね。京都でのテロリスト事件では僕達散々な目にあったし」

 

「でもそれって数ヶ月前の話でしょ。連中もあれ以来ちょっかい出してこないし、案外もう潰れてるんじゃない?」

 

鈴音の語る連中、それは十中八九亡国機業(ファントム・タスク)を指す言葉だが、その言葉に対し過剰に反応する者はいない。彼女の言うように亡国機業はあれ以来学園に手出しをしてくる事はなかったが、それ以上に既に壊滅している可能性も十分に考えられるからだった。

 

何せ京都の時に仕掛けてきたテロリスト達“二人”が既に捕まっているのだ。しかも片方は人格すら破壊された酷い状態。そこまで悲惨な状態に追い込んだ彼女とその生みの親である彼の事を考えれば十分に有り得る事の為、一夏達は鈴音の言葉に反応する事無く、乾いた笑みで誤魔化すしかなかった。

 

そんな固まった空気を解きほぐす為、篠ノ之箒は露骨だが話題を変える事にした。咳払いをした彼女は隣に座る一夏へと訊ねる。

 

「そ、それで一夏、マドカの方はどうなのだ? もうすぐ退院だって聞いたが……」

 

「あ、あぁそれなら本当だ。機密事項って事であんまり詳しくは話せないけど、退院後は監視って事も含めてIS学園に転入させるらしい」

 

織斑マドカ。本来なら彼女も他のテロリスト二人と同様刑務所へ収監される筈だったが、ある人物の手助けによりテロリストに加担していたのではなく、テロリストに利用されていたという立場まで漕ぎ着ける事に成功していた。

 

その証拠に彼女の体からは監視を目的としたナノマシンが注入されており、更には非人道的な改造手術が彼女の体に施されていた事が判明され、その後も詳しく調べた結果、織斑マドカには並々ならぬ事情があるとされ、上記の様な立場に収まる事が出来た。

 

テロリストに加担ではなく利用されていたという立場は法的にも有利に働き、裁かれる存在ではなく、保護されるべき存在へ昇華されていった。監視という言葉が出てくるのも便宜上での建前という奴である。

 

その為、彼女の身柄はISへの高い適性も相まってIS学園に預かる事となり、後見人として織斑千冬が面倒をみる事になったという。現在は彼女は体に負担の掛かる毒素を摘出する為にある治療を受けている最中である。

 

織斑マドカは姉である千冬となにかしらの接点がある。細かい所までは分からないが京都での一件以来そういった事柄を察することが出来るようになった一夏は家族になるかもしれない少女の帰りを心待ちにしていた。

 

「しっかし、白河さんも相変わらず凄いよね。幾らテロリストに利用されていたからって普通そこまで立場を逆転する事なんて不可能に近いわよ」

 

「あの人曰く、法とは理屈と屁理屈が融合したものと仰っていましたからね」

 

「しかも、新たな治療法として何とか粒子ってのを体に浴びせるやり方を新たに編み出したみたいだしねぇ、ホント化け物だわ」

 

「失礼だぞリン。それになんとか粒子じゃなくGN粒子な」

 

「確か、タンポポさんの扱う蒼鴉にも同じ粒子を生み出す動力が付いてましたわよね?」

 

「ISの動力を医学用に転化させるとか、ホント凄いよねあの人、もう何でも超人って感じ。今はまだ殆どの人が知らないけど、マドカか退院したら一気に広まりそうじゃない?」

 

「あぁ、本当に凄い人だよ。けど、だからこそなんでだって気持ちになるな」

 

「一夏……」

 

「白河さん、どうして学園を辞めてしまわれたのでしょう」

 

沈んだ面持ちとなる一夏、セシリアは彼の落ち込んだ原因となった修司の学園辞職の話を口にする。

 

数ヶ月前、京都から無事帰ってきた翌日、彼は娘であるタンポポ達を置いてIS学園から姿を消した。詳しいことは何も説明されず、推測でしか語られなかった修司は生徒達の間では辞職したという説が高くなっている。

 

彼がいなくなってから学園は少し静かになった気がする。山田真耶を始めとした教職員の人達は何故か彼がいなくなった日を境に徐々に元気になっていくのが気になったが、総じてIS学園は少しばかり静かな日々を過ごしている。

 

もうじき新学期が始まり自分達は二年生になるというのに、一夏や修司の事を気に入っていた生徒達は少し憂鬱な気分となっていた、

 

一体彼は今どこで何をしているのか。タンポポ達ですら分からない彼の行方にやきもきした時。

 

「み、みなさん、大変ですー!」

 

「タンポポ、それにモモ達も……一体どうしたのよ?」

 

廊下の向こうから酷く慌てた様子で駆け寄ってくるタンポポ達に一夏達は揃って面食らう。何事かと鈴音が訊ねると、タンポポ達は息を整えながらテレビを見るよう言葉を吐きだした。

 

一体何なんだと思いながらも一夏が食堂にいる生徒達に了承を得て備え付けのテレビに電源を入れると、次の瞬間────その目を大きく見開かせる事となる。

 

 

 

 

 

『───全ての人類に報告させて頂きます。私達は“ZEXIS”宇宙進出と開発を目的とした私設運営組織です。先日のドイツの協力の下、遂に宇宙航空艦“インフィニット・アヴァロン”が完成した事を機に、ここに乗組員の募集を行う事を宣言致します』

 

 

 

 

 

その言葉に誰もが耳を疑った。画面一杯に映し出されるその人物に誰もが言葉を失った。ある者は絶句し、ある者は理解出来ないと言うように何度も瞬きを繰り返し、またある者はとうとうやっちまったかと呆れの溜息をこぼしていた。

 

静まり返る食堂、誰もが言葉を発することを躊躇った時。

 

「……というか、隣に立っているのってラウラじゃない?」

 

「あ、ホントだ。本国に召集されたとか言っていたから心配してたけど、案外元気そうだね」

 

ヤツレた表情で(修司)の隣に立つラウラを見て、一同はそんな言葉しか出てこなかった。

 

 学園のどこかで山田真耶が倒れた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────数ヶ月前。

 

「えーっと、まずは宇宙航空艦におけるISコアの実用理論の構築でしょ? んでもって弾君へのISのプレゼント、ロジャーさんには既に幾つか土地を借りる事が出来たからそこを拠点に活動するとして……あとはマドカちゃんの体調を整える為に太陽炉の開発と学園への休職届けを出す位かな。やること一杯あるけれど、頑張るとしますか!」

 

 

 

 

 

この日を境に世界は知る事となる。行き過ぎた善意は下手すれば明確な悪意よりも質が悪いことに……。

 

知らないのはいつだって当事者だけである。

 

 

 




色々突っ込み所はありますが、取り敢えずIS編は今回で終了。
この世界では主人公は多元世界に戻らずISの世界で頑張っていくという話となります。
因みに主人公は今回の全世界に向けての放送はCMもしくは宣伝として扱っております。
CMのモデルは勿論あの人。インパクトを作る為に真似しております(笑)
果たして世界はどうなるのか!? 束博士は出てくるのか? 山田真耶は生き延びる事ができるのか!?
結末は皆さんの脳内に任せようと思います(オイ

それでは次回もまた見てボッチノシ

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