『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回、主人公ちょっぴりやらかします。


その5

 

 

α月G日

 

 一夏君がクラス委員となって数日、相変わらずドタバタで忙しい日々を過ごしているようだが、それでも毎日頑張ろうと一生懸命な為、ここ最近は比較的落ち着いて学園生活を送れているようだ。

 

セシリアちゃんが辞退した事で決まってしまったクラス委員、一方的に決めてしまった事に対して一夏君一人に全てを任すのは流石に忍びないと思い、クラスの子達も積極的に協力しているようでクラスの空気はとても良い感じになっている。

 

時折元気が有り余って一夏君を取り合う事も少なくはないが、そこは織斑先生が上手く仲裁をしているようだ。────殺気を飛ばすのが仲裁と言えるのかは兎も角として。

 

 放課後の特訓もセシリアちゃんが加わった事で一夏君の操縦技術は着実に上がっている。専門的知識を叩き込んでもそれを行動に移せなければ意味がないので、暫くは感覚的にISの動きを体に染み込ませる作業に集中した方がいい。

 

一夏君の武装である雪片弐型はISのシールドエネルギーを使用しての一撃必殺の武器だ。当たれば必勝は確実だが、逆に言えば当たらなければ意味のない武装だ。

 

出しているだけでもエネルギー消費の激しいこの武器を一夏君はどうするべきか悩んでいたが……正直、これはそこまで悩む必要はない問題だ。

 

出しているだけで負けてしまうのなら、いっそ出さなければいい。要するに、触れただけで相手に致命傷を与えられる攻撃なら、当たる瞬間だけ雪片弐型を使えばいいだけの話である。

 

故に、一夏君の選べる戦闘スタイルは大きく二つ“殺られる前に殺る”か“相手の懐へ潜り込んで叩き込む”である。

 

前者は瞬時加速(イグニッションブースト)を使用して相手に成す術を与えず斬り伏せる戦闘法、後者が相手の動きを見切って隙を突いて懐に潜り込み斬る方法。どちらも難易度の高い戦い方だが、幸い近接と遠距離、両方の協力者がいるので戦い方の学習には事欠かない事だろう。

 

セシリアちゃんも自分の渡したデータを参考に色々試している様だし、この調子で互いに錬磨して欲しいものである。

 

……どうでもいいけど、一夏君の白式ってクワトロ大尉の百式と呼び方が似てるんだよね。

 

 

 

α月γ日

 

 新入生がIS学園に入学してもうすぐ二ヶ月近く経とうとしていた。自分もISについてはそれなりに知識を付けたし、これからは一夏君にももう少し突っ込んだ助言も出来ると思う。

 

近い内に一年生達の現在の実力を計るトーナメント戦が開催される予定だし、こういった催しが生徒達の実力を高めさせるんだろうなぁ。

 

教員達だけではなく、イベントでは用務員である自分や十蔵さんも駆り出されるみたいだし、また忙しい日々が待っていそうである。それ自体は望む所なのだけれど……。

 

 最近、一人の生徒がISの整備室に引きこもっているみたいなのが個人的に気になった。学園の見回りをしている所、一人の生徒が夜遅くまで整備室に籠もりっきりで、専用機らしい機体を弄くっているのを見かけたのだ。

 

彼女の名は更識簪(さらしきかんざし)ちゃん。その時は早く寮に戻るよう注意をするだけだったけど……どうやら何か悩みを抱えているみたいで終始暗い顔をしていた。

 

なんだか訳ありっぽいし、暇を見つけたら様子を見に行ってもいいのかもしれない。一夏君も暫くは大丈夫そうだし、彼の事は箒ちゃんとセシリアちゃんに任せてみようと思う。

 

 

 

α月Σ日

 

 簪ちゃんの事で織斑先生から話を聞いた所によると、どうやら簪ちゃんは日本の代表候補生でこのIS学園の生徒会長さんの妹さんらしいのだ。

 

本来なら彼女も専用機を持ち、近日開かれるトーナメントに参加する予定だったのだが、倉持研というISの開発機関が簪ちゃんの専用機の開発を中止し、そのまま放置されてしまったという。

 

原因となったのは……一夏君だ。日本政府からの依頼で男性操縦者である一夏君の専用機を優先して作るよう要請し、完成させるよう指示を出した。

 

けれど、一夏君の専用機である白式が完成した今も倉持研は白式の戦闘データを取るのに忙しく、簪ちゃんの専用機には手を出していないのだという。

 

……なんともまぁ、色々と複雑な話だと思った。唯一の男性適性者である一夏君の事を調べたいという気持ちは分かるが、それでも日本代表候補生の機体開発を蔑ろにするとか、ちょっと無神経に過ぎると思った。元々は簪ちゃんの方が先だというのに、どうして彼女の機体に手つかずなのか。

 

散々先送りにされ、遂には開発中止にまでなった事で簪ちゃんは激怒し、倉持研から開発途中の打鉄弐式を引き取って以後は自分で開発に打ち込むようになったとか。

 

それの所為で簪ちゃんは整備室に籠もる様になり、誰とも関わりを持とうとしないらしい。それのおかげで簪ちゃんは入学以降殆ど人と接しないで生活しているのだという。

 

織斑先生も時々声を掛けてはいるが、自分の弟が原因という事もあって、あまり彼女には関われないでいるのだとか。

 

任せて……というのはおかしな話だが、自分の方から話をしてみる事を織斑先生に話すと、先生はニヒルな笑みを浮かべて「お人好しめ」と言われた。

 

学生時代というのは後の人生に於いて大切な思い出に残る時期だ。折角の青春なのだから、彼女もこの一時を堪能して欲しいのだ。

 

……書いてみると、確かにお節介に思えるかもしれない。けれど決めたのだ。簪ちゃんの為に自分も一肌脱ごうと。

 

や、実際は脱がないよ? 俺の体傷だらけだし、見たら普通に引くと思うから。

 

あ、聞いてない? ……スミマセンでした。

 

 

 

α月Ω日

 

 簪ちゃんの所へ通うようになって数日、仕事の合間や終わりに顔を出し続けていたら、どうにか彼女の心を少しばかり開かせる事に成功した。

 

最初の内は此方の話を聞こうとせず、整備室も入れさせてもらえない門前払いの扱いだったが、一日二日と根気よく接し続けてみた所、しつこいなと呆れられつつもどうにか整備室の中へと入れる様になった。

 

整備室の中央に置かれたIS“打鉄弐式”未完成品らしく所々にパイプが繋がれ、モニターが数多く設置され、様々な数値がずらりと並んでいる光景を目にし、ここがIS開発の光景かとちょっぴり感動した。

 

 その後、簪ちゃんの許しの下で打鉄弐式を調べさせてもらった所、出力系や電圧系、各システムの伝達具合が少し遅れている程度で、時間さえあればどうにでもなる問題だった。

 

ここまで来るのに相当大変だったろうに……凄い子だ。頑張ったんだねと素直な感想を口にする自分に対し、簪ちゃんの反応は暗かった。

 

話を聞いてみた所、簪ちゃんのお姉さんである生徒会長は所謂何でも超人みたいな人で、学園最強の座に就いているだけじゃなく、自身の愛用する専用機を自分一人の手で完成させたのだという。

 

そんな姉に自分は守られている。見下されると思い込んでしまった簪ちゃんはお姉さんを少しでも見返す為、一人で整備室に籠もり作業に没頭していたのだという。

 

優秀過ぎるお姉さんを持つと大変なんだな。自分は一人っ子だったから、姉や弟のない自分には今一つ理解出来ない心境だ。

 

ただ、お姉さんを見返してやりたいという簪ちゃんの想いは真剣だったので自分も簪ちゃんの力になりたいと思った。最初は自分の申し出に困惑していた簪ちゃんだったが、自分がどうしてもと何度も懇願している内に向こうも根負けし、遂に自分も簪ちゃんのISの開発に協力させて貰う事になった。

 

協力といっても横で助言をする程度で基本的には何も手出しは出来ていない。ただ、どうしても行き詰まり作業が捗らない場合は自分も直接手を加えたりしている。

 

そうする事で作業を続けて三日後、遂に打鉄弐式が完成した。と言っても、完成したのは弐式そのもので武装面はまだまだ手つかず。残念ながら次のトーナメントには間に合いそうになかった。

 

役立たずで申し訳ないと謝罪すると、簪ちゃんは笑顔で許してくれた。この分なら次のタッグトーナメントには間に合いそうだからと語る簪ちゃん。

 

ここまで来たからには次の対抗試合には間に合わなくてもタッグトーナメントには万全な……いや、それ以上の状態で望んで欲しい。お姉さんに追い付くためにも自分も全力を尽くそうと思う。

 

そうと決まれば武装だ。幸いグランゾンにはZEXISの戦闘データがまだまだ沢山記録されている。以前はセシリアちゃんにフリーダムのデータを渡したから、今度はもっと別のモノを渡そうと思う。

 

いや、いっそのこと簪ちゃんにデータを見て貰い好きなモノを選ばせるのもアリかもしれない。自分の戦闘に合ったモーションパターンでなければ打鉄弐式も本領を発揮出来ないから。

 

……まぁ、流石にそれは冗談として、簪ちゃんにあった戦闘データを選ぶのは意外と重要かもしれないので覚えておくのはいいかもしれない。

 

明日はいよいよ対抗試合だ。一夏君もやる気満々になってるし、簪ちゃんも気分転換で見てみようともいっているし、色々楽しみな日になりそうだ。

 

 

 

α月S日

 

 ───なんというか、今の自分は少しばかり気分が悪い。折角この日の為に皆頑張ってきたのに、邪魔が入って台無しにされたからだ。

 

事の発端は本日の対抗試合。宿直室にある映像端末に映し出された一夏君が中国の代表候補生と戦っていた光景、一進一退の攻防、会場も大きな盛り上がりを見せた時に……それは起きた。

 

謎のISの襲来。突如として襲いかかってきた謎のISによりアリーナは騒然。観客の生徒達も閉じ込められるなどの異常事態が発生し、IS学園に非常事態宣言が発生させられた。

 

 一夏君の戦いは中々だった。箒ちゃんとセシリアちゃんの手助けもあって最初の頃と比べて動きは段違いとなり、中国の代表候補生相手に予想以上の奮闘振りを見せつけてくれた。

 

衝撃波を飛ばす龍砲の見えない攻撃を段々見切り、相手の猛攻を捌き、防ぐ。あのまま打ち合えばいずれ一太刀浴びせられたかもしれない。

 

そんな良い所で現れる謎のIS。正直自分としては現れた怪物の様な機体に恐れるよりも空気を読まない奴に怒りを覚えた。

 

今すぐ乗り込んで叩き潰してやりたかったが用務員の責務を果たすべく、自分は閉じこめられた生徒達を救出すべくアリーナへと向かった。

 

上級生徒の子達は十蔵さんに任せ、自分はアリーナへと急行。途中で箒ちゃんと合流し、扉をこじ開け、生徒達を無事全員救出する事に成功した。

 

謎のISの方も一夏君達が無事撃破し、その時の騒ぎはそれで終了した。謎の機体を一刀で両断した一夏君、そこまで至る際の中国の代表候補生と破れたシールドから狙撃による援護を決めたセシリアちゃんも見事だったし、観客の生徒達も全員怪我もなかった。

 

簪ちゃん達も無事だったし、結果的には万々歳なのだが……それでも、今後行われる筈の試合はなくなり、対抗試合は中止となった。

 

この日の為に頑張ってきた生徒達、今日はそんな頑張ってきた成果を大いに発揮する日でもあった。

 

やるせない。……いや、許せないという気持ちが今は大きい。どこの誰が、何の目的であんな事をしたのかは定かではないが……。

 

少しばかり、話をする必要がありそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 篠ノ之箒はアリーナの司令室から出て、アリーナを駆け巡っていた。今外で戦っている一夏の負担を少しでも軽くする為、何か出来ないか模索していた。

 

だが、謎のISが襲撃してきたと同時にアリーナは何者かによってハッキングされ、どこに行っても扉は固く閉ざされており、自分の力ではどうしようもなかった。何も出来ない自分に憤りを感じる箒、こうしている合間にも幼なじみは危険な目に遭っているのに……。

 

「私は、私には……どうすることも、出来ないのか!」

 

どれだけ己の非力を嘆いても現実が変わることはない。折れそうになる心に渇をいれ、もう一度アリーナを走り回ろうとしたとき……彼が現れた。

 

「そこに立たれると危ないぞ」

 

白河修司。用務員である筈の彼が、閉ざされた扉の前に立って両手を翳すと……次の瞬間、扉の隙間部分に両手を突き入れたのだ。

 

そこからギギギと音を立てて開く扉。レベル4に設定された扉は遮断フィールドと呼ばれる防護幕に覆われており、ISの攻撃にも耐えうる強度を誇っている。

 

それが、ただの用務員によって破られた。その事実を知るものはこの場にいる篠ノ之箒ただ一人のみ。開いた扉で待っていた生徒も自分が解放された事でそれどころではなく、目の前の男が開けた事に気付けていない。

 

一体彼は何者だろう。修司と共に生徒達を避難誘導していた箒は取り敢えず──。

 

(千冬さんと同様、あの人は迂闊に怒らせない方がいいかもしれん)

 

取り敢えず、そう心に決めた。

 

 

 

 

 

 

 




Qかんちゃん魔改造されちゃうん?

A人は、色んなモノから卒業しながら生きていくのです。



主人公視点
「箒ちゃん、そこ退いてくれる?」

箒視点
「小娘。そこを退けい」



次回はかんちゃんの為に主人公が頑張る回になると……いいなぁ。

また見てボッチノシ

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