『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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多分ネタ回。

そして気付く、日記成分少なっ!?


後日談 その3

 

 

 

 

 

 

ダリル=ケイシー、IS学園の三年生に在席している彼女はアメリカの代表候補生として選ばれており、専用のISを所持している事からその実力は高く、相方であるフォルテ=サファイアとの連携は国家代表レベルに通用されているとされており、今後の活躍に多くの期待を集める人間の1人である。

 

スタイルも抜群で、露出度の高い改造制服を愛用している彼女は良くも悪くも自由の国の人、多少の不真面目さは有るものの、日頃の素行は悪くなく、誰とでも話せて、年下相手にも対等に話せるその人柄は他の学生にとって親しみある人物だった。

 

そんな彼女は現在職員室前の廊下で窮地に立たされていた。それも絶体絶命の大ピンチ、嘗て無い脅威を前に全身総毛立ち、汗が滝の如く噴き出してくる。ダリル=ケイシーにとって絶望とも言える恐怖の象徴…………それは。

 

「やぁ、お久し振りですね。ケイシーさん、元気そうで何よりです」

 

「お、お久し振り…………です。か、帰って来てたんですね」

 

慣れない敬語で、吃りながら挨拶を交わすダリル。普段の彼女からは想像できない緊張したその姿に目の前にいる白衣を着た男、白河修司は笑みを溢す。

 

「ククク、相変わらず堅い娘だ。年上だからと言ってそんなに緊張しなくてもいいんですよ? たかが年齢が上ってだけで威張り散らせる程、大した人間では無い事は君も良く知っているでしょうに、以前のようにシーちゃんと呼んでも構いませんよ?」

 

「あ、アハハハ…………」

 

出来るわけねぇだろ。ダリルは目の前の人物の言葉に内心悪態付き、数ヵ月前の自分を殴り飛ばしたくなった。あの頃の修司はまだISの事に目立った知識もなく、用務員として雇われて日が浅かった為、当時は自分の様な年上相手でも軽い態度を取る人間に良く絡まれていた。

 

男性、それも年若く自分達と近い男の用務員の就任、それは自分達の興味を大きく刺激するモノだった。最初は仕事一辺倒のつまらない男だと思っていたが、中々ユーモアで時折地として出てくる素の言葉遣いの修司は普段の敬語の時とは違う男らしさがあった。

 

顔も悪くなく、人付き合いも良く、更には仕事にも誠実で男らしいとあれば良い印象はあっても不愉快に思うことはない。

 

しかし、修司がISの資格を取った途端に彼と関わろうとする人間は激的に減っていく。当然だ。通常なら国の支援と大手の企業が一丸となって漸く受ける事が出来る資格を夏休みの宿題感覚で、しかも個人で取得した怪物相手に並の人間がこれまでと同じように接する事なんて出来る訳がない。

 

その後1ヶ月程姿を消したかと思えば新型のISを引っ提げて宇宙から帰還してきたと言う。トドメにその新型の力で当時学園を襲ったゴーレム等を瞬殺した光景は今も瞼の裏にこびりついて離れない。

 

当時襲ってきたゴーレムに対抗する為にダリルは相方であるフォルテと共に専用機で相手をしてきた。故に理解できる。アレほどの力をもったゴーレムを相手に単機で粉砕していく修司はまさに化物、ダリルにとって織斑千冬以上の人外であり、先の文化祭の騒動と修学旅行の件で関わってはいけない接触禁止級の化物、恐怖の象徴にクラスアップした。

 

そして京都での一件以来“組織”との連絡は完全に途絶えてしまっている。以前から組織からの招集に応じない事もあったし、恐らく既に自分は裏切り者扱いになっているだろう。五月蝿いほど寄越してきた組織からの連絡が一週間程まえから一切無くなった事がその証拠である。

 

嗚呼、何故こんな怪物と関わってしまったのか、数ヵ月前の軽い自分を殴ってでも止めてやりたいが…………悲しいことに未だこの世界の人類は時間旅行が出来るだけの力を有してはいない。

 

「おぉ、久し振りじゃのう修司君。元気そうで何よりじゃ」

 

「十蔵さん、お久し振りです。すみません、手続きの方は終わったのですが、少し話し込んでしまいました」

 

「別に大して待ってないから、気にする事はないのじゃが…………相変わらず真面目じゃのう」

 

ナイスタイミング、廊下の向こうから現れる初老の男性の登場にダリルは内心で安堵する。これで話の流れは変わった。ダリルはこのまま合わせて隙を見てこの場から立ち去ろうとする。

 

「そ、それじゃあ私はこれで…………」

 

「あぁ、そうそう。ダリルさん、後で話があるので少し時間を戴いても宜しいですか?」

 

「え? い、いやでも…………」

 

「なに、そんなに時間は取らせません。貴方さえ協力してくれれば此方の用件はすぐに終わります。お願いしますね。───レイン=ミューゼルさん」

 

「っ!?」

 

踵を返し、急いでその場から立ち去ろうとする彼女の耳に小声で聞かされる名前、それが組織内での自分のコードネームだと聞かされたダリルは驚愕に目を見開かせて修司を見やる。

 

そして理解する。既に自分に帰る場所はなく、同時にあの怪物から逃げられない事に…………ダリル=ケイシーは十蔵と共に去っていく修司の背中を見つめながらぼんやりとその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤァーーッ!!」

 

パシンッ。IS学園の剣道場に竹刀同士がぶつかる甲高い音が鳴る。裂帛の気合いを込めて放つのは白河チルドレンの一人、長女のタンポポだった。互いに防具服を脱いでの実践形式を模した一騎討ち、そんな彼女の一撃を対峙している織斑一夏は軽く呼吸を整え、難なくそれを受けきって見せる。

 

「よっと、今のは中々早かったぞ。少し焦った」

 

「そうです……かっ!」

 

再び繰り出される攻撃、しかしその悉くが一夏には届かず、外し、捌かれ、打ち払われてしまう。浮き彫り出てくる自分と目の前の少年の実力の差、されどタンポポの目には疲弊の色は見えていない。

 

(ここっ!)

 

打ち下ろされる一撃、それを読んでいたとばかりに防御の姿勢を取る一夏、それはこれまで幾度も繰り出された事でタンポポの攻撃を全て見切っていた証だった。

 

しかし、敢えてそうなる事を狙ったタンポポは防がれる瞬間、手首を返して竹刀の刀身の軌道を変え、狙いを一夏の胴回りに狙いを定める。

 

一夏の目は見開き、周囲のギャラリーはざわつき出す。ここへ来て動きを変えての一撃はまさに奇襲と言えた。漸くこれで一本取れる。タンポポは自身の勝利を確信した時。

 

「太刀筋が寝惚けているぞ」

 

「っ!」

 

それまで無防備だった脇腹付近に竹刀の刀身が割って入ってくる。防がれた! 渾身の奇襲が防がれた事に動揺してしまったタンポポ、当然一夏はそんな隙を見逃す筈もなく、彼女の頭部に試合終了の一撃を見舞った。当然、手加減して。

 

パコンッ。と乾いた音が道場に響く。先程までとは違う気の抜けた竹刀の音、しかしそれは試合を終わらすには十分な威力を持っており、受けてしまったタンポポは涙目になりながら頭部を押さえた。

 

「はぅー、また負けてしまいましたー」

 

「ダメじゃないかタンポポ、急に動きを変えたりしたら。手首、大丈夫か?」

 

「あ、はい。少しジンジンしますけど大丈夫です」

 

「後でテーピングと氷嚢貸してやるからちゃんと冷やしておけよ」

 

「あ、はい。ありがとうございます一夏さん!」

 

ペコリと頭を下げて一旦下がる一夏、壁際に下がる彼女を見送った後、次の相手であるメイに向き直る。

 

「さて、次の相手はメイだったか?」

 

「おうさ、覚悟しろよ一夏。俺はタンポポの様に甘くはないぞ!」

 

ヌフフフと不敵に笑うメイに一夏はあははと乾いた笑みを浮かべ、二人の打ち合いは始まった。

 

「お疲れタンポポ、ほら、スポーツドリンクだ」

 

「あ、ありがとうございます箒さん。すみませんワザワザ」

 

「なに、私の方も一通り走り込みは終ったからな。休憩がてら様子を見に来ただけだ」

 

打ち合っている一夏とメイ、邪魔にならないよう壁際にまで退いて座り込んだタンポポに箒が歩み寄る。手に待ったスポーツドリンクを手渡し、礼を言いながら一口貰うタンポポ、ゴクリと喉を鳴らして美味しそうにドリンクを飲むその様子はどこからどう見ても人間そのものの動きである。

 

良くできた…………とは思わない。箒にとって最早タンポポ達は同じ学園に席を置く仲間であり、共に激戦を潜り抜けた戦友でもある。今更ガイノイド等と言う小さな事で特別視するつもりはなかった。

 

ただ、どんなに食べても太らないというのは個人的に気になったりはするが…………。

 

「いやぁ、一夏さんって強いですね。まさか一度も当てられないなんて…………ちょっと悔しいですよ」

 

「まぁ、アイツもここに来てから努力を重ねてきたからな。実戦とも呼べる危険な状況を何度も潜り抜けてきたし、あれくらいは出来て当然だろう」

 

口では厳しい評価ではあったが、内心では箒は嬉しく思っていた。嘗ては同門で自分とは同等以上の実力者だった一夏は当時の箒にとって目標であり、良きライバルでもあった。再会してからは腕が鈍り、一時は自分と一夏の間にある実力差に落胆したりもしたが、今ではその差は覆り、勝ち星の数ではすっかり負け越してしまっている。

 

当然悔しくもあったが、それ以上に箒は嬉しくもあった。剣道に直向きに打ち込んでいる彼の姿はまるであの頃に戻ったみたいだったから。尤も、他人の気持ち、特に恋心に気付かないのは今も昔も変わってはいないが……。

 

「しかし、まさかお前が体験とはいえ剣道を始めるなんてな。お前のISは近接戦闘向きじゃないんだろ? ましてや剣術なんて…………」

 

タンポポの使うIS“蒼鴉”は厳密に言えば戦闘用のISではなく、宇宙開発を目的としたISでそれ故に公式戦に出ることは許されず、その出力の高さと全性能を解放させた時の力の未知数から“ISを越えたIS”と評され、世界中から色んな意味で注目されている機体である。

 

そんな世界最高峰の機体である蒼鴉には刀剣を用いた戦闘行動は想定されておらず、また今後搭載される予定はない。なら何故その蒼鴉の乗り手であるタンポポは剣術に拘るのか、素直に疑問に思った箒が訊ねると。

 

「お父さんが…………父が言ったんです。学びなさいと」

 

「修司さんが?」

 

「はい。───お前達は生まれてまだ間もない。確かに常識や知識は人並み程度に修めてはいるが、一番大事な体験する事を不足している。それでは己の視野を狭め、可能性を自ら縮めるだけだ…………と」

 

それは修司がIS学園を去る直前に娘達に残した課題という名の指針、自らの可能性を広める為のアドバイス。

 

学ぶ事を尊べ、体験する過程を楽しめ、生まれた結果に恐れず、受け入れ、糧とし、次の学びに活かしなさい。お前達にとってこの世界こそが学ぶべき題材だと、修司は娘達に語り、そして聴かせた。

 

相変わらず凄いことを言うものだと、箒は本心から称賛する。普段からナチュラルにやらかす彼の姿を知る者としては複雑な思いだが。

 

けど、確かに彼女達はここ最近活発になってきている。タンポポとメイは剣道を始めとした運動部に頻繁に顔を出す様になり、サキやハナは家庭科の子達と料理を学び、ミンミンとモモは学年問わず様々な人達と交流を楽しんでいる。

 

体験し学ぶ事、それが娘達に示した教育方針であり、彼女達の可能性を広げるアドバイスなのだと箒は感心しながら理解する。やっぱり凄い人だと痛感する箒、そんな時、酷く慌てた様子の本音達のクラスメイトが道場に雪崩れ込んできた。

 

「本音、それに鷹月に相川まで……どうしたのだそんなに慌てて」

 

「どうした? 何かあったのか?」

 

呼吸を乱し、肩で息をする三人に箒だけでなく一夏まで歩んでくる。道場の中央を見れば頭を押さえたメイが「また負けたー!」と悔しそうに叫び、タンポポに慰められている。

 

「か、かかか…………」

 

「蚊? なんだ刺されたのか?」

 

「いや、たぶん違うと思うぞ」

 

「帰ってきたんだよ、あの人が、修司さんが!」

 

息を絶え絶えにしながら、それでも叫ぶ本音の一言に剣道場にいる全員が固まり。

 

「それで、修司さんが織斑先生に…………け、けけけ」

 

「決闘を申し込んだみたいなの!」

 

その言葉に再び剣道場の空気は凍り付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園、アリーナ。ISの実技や催し物で使われる競技場。通常の競技場とは規格が異なり、全てが最新の設備と敷地の広さを誇るこのアリーナで二人の人間が対峙していた。

 

「織斑先生、戻ってきて早々今回の私の我が儘に付き合ってくださり、ありがとうございます」

 

「なに、頼んでくる相手がお前であるなら私としても望むところだ。それにお前には普段から恩があるからな。弟の事や例の黒騎士の娘の事も…………それが少しでも返せるのであれば私に異論はない」

 

自分の我が儘で迷惑をかけたと思い、頭を下げてくる修司に相変わらず生真面目な奴だと千冬は苦笑う。確かに修司から頼みを聞くのはこれで初めてだが、千冬はそれを不思議とは思わない。確かに目の前の男はやり過ぎる所が多々あるが、どこぞの兎と違い筋というものを曲げたりはしないし、それが好ましいと思えるから千冬も素直に修司の頼みを聞き入れようと思った。

 

…………いや、本音を言えばそれだけではない。千冬が彼の願いを聞き入れたのはもう一つ個人的な理由がある。

 

「しかし、驚いたぞ。まさかお前が自ら私に試合を臨んでくるとはな」

 

「………………」

 

試しに殺気を飛ばし、圧力を掛けてみる。初代ブリュンヒルデと呼ばれ、世界の頂点に君臨した者の威圧が修司の身に突き刺さる。

 

しかし、修司はそんな千冬の威圧を平然と受け止め、なんて事無さそうに佇んでいる。やはり、只者ではないと千冬は認識し、修司が自分に出した依頼を思い出す。

 

一対一での模擬戦。それが帰ってきた修司が千冬に頼み込んだ依頼の内容だ。当然、修司の口からその事を頼まれた時は驚いた。実力面での話ではない。白河修司という人間の人格を考慮すればそんな頼み事をするのは無いと今まで思っていたからだ。

 

けれど、同時にこれは白河修司という男の本当の実力を計れる良い機会だ。戸惑う他の教職員の言葉を聞き流しながら千冬は修司と共にアリーナ中央へ降り立った。

 

既に学長である轡木十蔵の許可をもらっているという。やはり彼の素性を知っていたのか、そして相変わらず用意周到の修司に千冬は流石だと舌を巻く。

 

「それで、得物はどうするんだ? 生憎今の私は丸腰だし、お前も何かを装備している様子もない。流石に素手で殴り合うのは…………」

 

そう言って肩を竦めると修司から何かを投げ渡される。何かと思い掴み取るとその手には刀の鍔らしきモノがあった。

 

「…………これは?」

 

「それは過去の世界大会で貴方と共に活躍した愛機、暮桜に極限にまで近付けた模造品です」

 

「っ!?」

 

「織斑先生…………いや、白騎士さん。不躾で誠に勝手ながら貴方に挑ませて貰います。私の専用機が果たして貴方と篠ノ之束博士にどれだけ近付けたのかを」

 

修司の懐から取り出すのは剣の紋様(エンブレム)が施されたバッチ。それを空に掲げると。

 

「起きろ───A.(アメイジング)トールギス!」

 

光がアリーナを包み込んだ。

 

 

 

 




次回こそは日記を。

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