『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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漸く日記が書けた。



後日談 その4

 

 

────走る。織斑一夏と箒、そして彼の者の娘達はIS学園の敷地内で剣道場とは正反対の位置にある競技用アリーナに向けて全速力で走り抜けていく。

 

着のみ着のまま、胴着姿でアリーナへ辿り着いた一夏達はそのまま会場に向けて更にその足を加速させる。やがて会場に続く関係者専用の通路に差し掛かると、一夏達が気掛かりに思う事はこの先にいるであろう二人の規格外の戦いの行方、まだ続いているのか、それとももう終わってしまっているのか。果てし無い不安な気持ちに苛まれながら駆け抜ける彼等がアリーナへ突入した時。

 

交差する蒼と白の閃光、その際に生じた衝撃が波となってアリーナ全体に響き渡る。砂塵を巻き上げ、押し寄せてくる爆風はアリーナにやって来た一夏達にまで襲い掛かった。その時咄嗟にISを展開した一夏が盾となる事で衝撃は緩和され、箒達に被害が及ぶ事はなかった。

 

軈て晴れていく砂塵、開かれた視界に彼等が次に目にしたのはアリーナの中心地で互いに背中合わせで得物を振り抜いた姿勢で制止する二人の姿があった。

 

「───流石、ですね」

 

「ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ…………」

 

白と蒼、嘗ての白騎士を思わせる甲冑を纏う女性、その手には身の丈に迫るほどの大剣が握り締められている。一方の蒼、背中と脚部に巨大なブースターが備わっている事以外対して特徴は無さそうな蒼の戦士の手には何も握られてはいなかった。

 

 

すると、ヒュンヒュンと風切り音が何処からか聞こえてきて交差する二人の間の地面に突き刺さる。それは鍔のない無機質な一本の刀、野太刀と呼ばれる日本が生み出した独特の刃がアリーナの中心地点に突き刺さり、同時にそれが二人が行った戦いの終わりを告げていた。

 

「いやはや、少しはISについて理解出来たと思っていたのですが…………まだまだという訳ですか」

 

蒼の鎧を解かれると同時に地に刺さった刀も粒子となって消えていく。バッチとなったISを片手に振り返るのはIS学園の用務員にして技術者、白河修司だった。自身の敗北を認めていながら何処か晴れ晴れとした顔の修司に対し、白の鎧を解いた織斑千冬は息も絶え絶えで呼吸を整えるのに精一杯だった。

 

今の闘いは間違いなく千冬の勝利の筈、だというのに二人の状態の差はまるで正反対、一体どちらが勝者と言えるのだろうか。

 

「織斑先生、今回は私の機体のデータ取りに付き合って下さり、ありがとうございます。そのお礼、という訳ではありませんが、そちらの機体は貴方に差し上げます。名前はまだ付けておりませんのでどうか付けてあげてください」

 

それだけ言って修司は千冬に頭を下げ、アリーナを後にする。一夏達とは正反対に位置するもう一つの出入口から去っていく彼を見送ると一夏達は千冬の下へ駆け寄っていく。

 

(私の…………勝ち、だと?)

 

遠くから自分の名前を呼ぶ一夏の声を耳にしながら織斑千冬は思い知る。自分と彼の間にある明確な“差”というものを。

 

あぁ、確かに自分は勝った。奴のシールドエネルギーをゼロにして奴の唯一の武装である刀を弾き飛ばした。状況的に、そしてISを用い公式戦のルールを則って見れば万人が千冬の勝利だと口にするだろう。

 

だが、千冬自身はそうは思わない。何故なら奴は終始公式戦として…………スポーツとして戦っていたに過ぎないからだ。戦い方も戦法もルールに殉じて行われたもの、実戦を想定したモノではなかった。

 

まるで自分を小馬鹿にするような戦い方だった。最初はただ受け身で自分の動きを観察するしかしなかった修司に千冬は自身の纏うISの性能の高さからつい現役時代の時のように気持ちが昂り、彼に挑発してしまったのだ。

 

この程度か? と。もっと全力でやれ、こんなものではないだろうと、千冬が煽った瞬間…………それは起こった。良いのか? そんな風に目線で語りかけてくる蒼の戦士に千冬は心底怖気を感じた。

 

針の筵、全身に突き刺さってくる殺意。嘗て感じたことのない濃厚な殺気に圧され、千冬は後ろに飛び、そして驚愕した。

 

“ゼロシフト” 停止状態から最高速度の合間を極限にまでゼロに近付けたISの技術の中でも最高難度の代物、それをまるで当たり前のスキルだとばかりに修司は千冬が開けた距離を一瞬でゼロにした。

 

そこから先は一方的だった。個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)を始めとした難易度の高い技をポンポンと繰り出し、更にはそれらを組み合わせて独自の技に昇華させ、千冬を着実に追い詰めていた。

 

千冬の纏うISは作った本人が白騎士に近付けたと珍しく豪語するだけあってその性能は本物だった。反応速度も悪くなく、久し振りのIS戦であっても十二分にその実力を発揮出来る程度には織斑千冬は絶好調だった。ただ、そんな千冬よりも白河修司という人間の方が何段も先に行っていた。

 

そんな彼に対抗出来たのは偏に彼の持つ武装に他ならない。彼も自分と同じ刃の一振りだけを使用し、接近戦に持ち込んできているからだ。これまで培ったISの戦闘技術をもってすれば修司の動きをある程度の予測する事も可能だし、それに併せてカウンターを狙うことも出来たし、事実その戦法のお陰で千冬は修司に勝利する事ができた。

 

けれど、それでも千冬は自分の勝利だとは思えない。何故なら、奴は自分と自身の機体性能を測る事に専念していたからだ。自分がどれだけ篠ノ之束に追い付けたのか、それだけを気にして戦っていたから。

 

だから修司は自分の勝敗に拘らない。何故ならそこに彼の求める答えはないから。もしこれが実戦で互いに命を賭けたモノだとするならば…………恐らく、彼は本当の牙を己に突き立ててくるだろう。

 

つまり、白河修司は結局の所、全力であっても本気ではなかったという事、奴の深淵を覗くことは出来てもそれを引き出すのは自分であっても不可能だという事。

 

これが、自分と白河修司の間にある“差”、それを認識した千冬は悔しそうに、悲しそうに、そして……同情するように去っていく修司の背中を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?月?日

 

漸く帰ってこれたIS学園、数ヵ月もの間休んでいただけに少々不安に思っていたけれど、学園の皆さんは以前と変わらず温かく自分を迎え入れてくれた。

 

山田先生を始め、数名の教職員の方達は仕事中であるにも関わらず自分を労ったり、暫くの間休みなさいと気を遣って貰ったりした。その心遣いはとても嬉しいし、素直に受け取りたいとも思ったけど、生憎今の自分にはあまり時間が残されておらず、IS委員会から言い渡された期限というモノを守らなければならない身、故に山田先生達の心遣いを丁重に断りを入れながら自分は織斑先生に折り入って頼み事をした。

 

いくらデータ取りの為とは言え流石に不躾に過ぎるかと思われたけれど、意外にも織斑先生は自分の願いを聞き入れてくれて自分との模擬戦の申し出を受け入れてくれた。

 

アリーナで行われた自分と織斑先生の模擬戦は織斑先生の勝利で幕を下ろした。それなりに本気でやっただけに負けて悔しいと思いもするけれど、それ以上に得たモノが多かったので自分的には満足した結果である。

 

自分が新たに製作したIS、これは以前学園に襲ってきたゴーレムのコアを独自のルートでドイツにある自分の研究所に持ってきて貰い、それを使用して作ったモノ、アリカちゃん達の様な電脳生命体の存在しないコアであるから当然各システムとの連動率は落ちるがそこは自分の操作の腕でカバー。蒼鴉の操縦で培ったIS操縦技術により、どうにかマトモに使える様になった。

 

織斑先生のも同様で自分と同じ電脳生命体のいないただの動力源でしかないコアだ。けれどこれには白騎士という予め用意していた情報を基に造り上げたので自分のA.トールギスほど難しくは無かった。

 

真似るだけでは芸がないので自分なりのアレンジを加えて完成させた白騎士Ver2(仮)、装甲は例の如くガンダニュウム合金を使用、ハイパーセンサーの感度も通常の数倍引き上げ、その人の動体視力に併せ最大限の性能を発揮出来るシステムを着けている。

 

それに対して自分の研究所にトールギスのコンセプトは単純明快、ただ速く動くこと。それだけに特化した機体で装甲も皆と同じガンダニュウム合金であること以外さして特徴の無い機体である。

 

唯一拘りがあるとすれば唯一の武装である日本刀を模した剣の一振りのみ、グランゾンを使い高重力を用いて造り上げたその一振りは我ながら中々の出来栄え、何回も何回も失敗してその果てに漸く完成した一振りなだけに出来上がったばかりの時は感動で思わず泣き掛けた。因みに織斑先生に差し上げた白騎士Ver2(仮)の剣もこれと同じ製法である。

 

ISでは素手を用いての戦闘は基本的に無いから一応作っては見たのだが…………如何せん使い方がイマイチ分からない。

 

刀剣の扱いを得意とする友人なんてトレーズさんしか知らないからなぁ。多元世界の時に使っていたグランゾンの剣だって斬るというより叩き潰すといった感じだから剣術とはいえない。

 

そこで剣術の達人でもある織斑先生に模擬戦を頼んだのだけれど、いやぁ流石元世界最強、前線は退いてもその腕前は変わらず、終始自分は決定打を浴びせる事は敵わなかった。機体性能を使って挑んでは見たけれど、どれも一歩及ばず全て叩き落とされてしまった。

 

剣術というものはこういうモノか。織斑先生のお陰でまた一つ自分は学ぶ事が出来た。あとは本番に向けて自分を磨くだけである。用務員の仕事との二足の草鞋状態だが…………まぁ、十蔵さんに訳を話せば許してもらえるだろう。あの人、ここの学園長らしいし。

 

もしかして、自分をこの学園に招き入れたのは本職である学園長という役職に専念したかったから? だから後釜である自分を必要だと? それはそれで別に構わないが…………なんというか、水臭い話である。

 

自分は十蔵さんに拾ってもらった身だ。その恩に報いるまでは大抵のいう事には従うし、協力もする。まぁ、十蔵さんの立場は色々複雑そうだし、言うに言えなかったという部分もある様だから追及はしないけどね。

 

そんな訳で遂に完成した自分の専用機、出力も問題ないし、織斑先生直々に稽古も着けて貰ったから自信もついた。後は来るべきその時に備えるだけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと、こんなものかな」

 

用意された用務員用の一室、以前と変わらず用意してもらったその部屋で本日の日記を書き終えた修司は軽く体を伸ばす。

 

その時ドアの向こうから聞こえてくるノックの音と次に聞こえてくる娘達の声により漸く彼女達に声をかけ忘れていた事に気付いた修司は慌てて扉に駆け寄っていく。

 

その際に机の上に置かれていた情報端末からある大会参加受諾の報せが届く。それは痺れを切らした女性権利団体がその権力を用いて無理矢理IS委員会に了承させたモノ。

 

“IS世界大会の参加を承認”そう一文だけ記された文字が修司の情報端末に表れていた。

 

 




女性権利「あの忌々しい男をどうにかして葬りたい」
女性権利「じゃあ世界戦に出場させて社会的に抹殺しようぜ!」
女性権利「口実は碌に成果を出してないって事で」
女性権利「おけwwwwはあくwwwww」
ボッチ「全ての人類に報告させて頂きます」

一同「( ; ゜Д゜)」


今回で一応後日談は終わり。次回からは別の話に力を入れたいと思います。

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