『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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現在の時間軸はアンジュがまだ皇族だった頃辺りです。


その3

 

 

 

 

 

 

 

 

○月β日

 

 サラマンディーネちゃんに都へと連れられて早三日、あの廃墟の所にいた時とは嘘のように不自由のない生活を送っている。

 

飲み水も清潔だし、食べ物も豊富、与えられた部屋は武家屋敷の一室みたいに広々とした所だし、至れり尽くせりな日々である。

 

客人として招き入れてくれたサラマンディーネちゃんを始めとしたここの人達には本当に感謝している。自分の事情を話した事で大巫女様というこの都で一番地位の高い人からも滞在する許しを得られたみたいだし、ホント万々歳だ。

 

だけどいつまでも世話になりっぱなしというのは流石にどうかと思う。美味しい食事や水、安心して眠れる寝床まで用意してくれたのだ。ここで暮らしている以上、自分も彼女達に協力していくべきだろう。

 

どうやら男手が足りていないみたいだし、見聞を広める意味を込めて街の方に降りては人々の手伝いをしている。手伝いと言っても水汲みやら力仕事関係ばかりなんだけどね。

 

 しかし、この都に来てからは女性にばかり出会っているが、男の人はいないのだろうか? 自分以外の男性なんて見かけないから不思議に思っているのだけれど、サラマンディーネちゃんもその内教えるとばかりで詳しく話そうとしない。

 

………まぁ正直な話、その件は自分の中で大体の見当は付いている。何故自分以外男性の姿がいないのか、何故この都ではドラゴン達は大人しくしているのか、その理由も事情も自分の中にある推論が答えとなる事だろう。

 

別にソレ自体は間違いではない。寧ろ自分としては人類が自らの手で滅びから免れていた事を嬉しく思っている位だ。サラマンディーネちゃん達の先祖達は賢明で勇敢な判断をしたのだと言ってもいいだろう。

 

サラマンディーネちゃんも明日には詳しい事情も話をすると約束してくれたし、自分も気持ちの整理だけはしておこうと思う。

 

……というか、今更ながらよくここの人達は自分の話を信じてくれたな。多元世界という全く別世界からの異世界人だなんて、普通は正気を疑う話だぞ。

 

それともここでは“そういった話は珍しくない”のだろうか? まぁ、その辺りもサラマンディーネちゃんが詳しく話してくれるだろうからその点も留意しておく事にしよう。

 

 

 

○月※日

 

 今日、サラちゃんからこの世界の人類の歴史について学ぶことが出来た。

 

大規模な世界大戦によって滅びの一途を辿った人類、ただ死を待つだけだった人類は大きく二つの種族に分かれ、それぞれのやり方で生き長らえたのだという。

 

一つはサラちゃん達“真地球”の民達による生態系の変質。汚染された地球で生き抜く為に自ら遺伝子操作を行い、ドラゴンとして生まれ変わった種族。男は大型のドラゴンに、女は人間体としても生きられる小型のドラゴンへと変質し、汚染された地球を少しずつ浄化しながら独自の文明と文化を築きながら今まで生きてきたのだという。

 

そしてもう一つの種族である“偽地球”に移り住んだ人達なのだが……どうやらこの種族の人間達は並行するもう一つの宇宙にある別の地球へと移住し、生きているのだという。なんとも壮大な話だが、多元世界で似たような話を何度も聞いてきた自分としては今更な事なのでさして驚く事もなく受け入れる事が出来た。大巫女様やサラちゃん達もこう言った事情を経験していたから自分の話も受け入れてくれたのだろう。

 

二つに別れ、それぞれのやり方で生きてきた人類。ここで話を途切れば壮大ながらもまとまりのある話で終わりそうなものだが、そうは問屋が卸さなかった。

 

 何でも偽地球とされるもう一つの地球から、突如全てのドラゴンの始祖たる“アウラ”を強奪した略奪者が現れたのだという。

 

“エンブリヲ”忌々しそうにその名を口にするサラちゃんは深い怒りと憎しみの顔をしていた。そのエンブリヲなる人物は超常の力で向こう側と此方側との世界を繋げる門を開き、一方的にアウラを奪っていったのだという。

 

男のドラゴン達は地上の汚染された部分を喰らい、体内で“ドラグニウム”なるエネルギーの結晶体を精製しているらしく、エンブリヲは膨大なドラグニウムを有するアウラを自分達のいる地球でのエネルギー源として利用しているらしいのだ。

 

酷い話だと思われるがサラちゃんの話はこれで終わりではなかった。アウラを奪還すべくドラゴン達は定期的に開くことになった門、特異点を通して向こうの地球へと侵攻し、アウラ奪還の足掛かりを作ろうとしているらしく、多くの同胞が向こう側の地球へと向かったのだという。

 

しかし帰って来れたモノは一人もいないという。恐らくは向こうの地球の防衛機構に全滅させられたとサラちゃんは語る。現在はリザーディアと呼ばれる女性が諜報員として活動し、時折此方に向こう側の情報を流しているとの事。

 

アウラ奪還を目的として活動する彼女達に非はない。寧ろ彼女達を怒らせたエンブリヲこそが戦いを引き起こした元凶とも言えるだろう。

 

 サラちゃん達の行動は理解出来る。自分も出来る事なら彼女達の力になりたいと思っているが……俺は、協力して欲しいという彼女の願いを断った。

 

別に利用される事に嫌悪した訳ではない。衣食住を提供してくれたサラちゃん達には感謝してもしきれないし、その恩義に報いたいとも思っている。

 

ただ、彼女の話だけでは判断がつかないと言うべきか、誤解のないよう言っておくが、彼女の言葉に嘘があるなどとは思っていない。サラちゃんは良い子だ。それはこの都に来て彼女の人柄を理解すれば分かる。ならば何故かと訊ねてくるサラちゃんに自分はまだ向こう側の事情を知らないから判断が出来ないとだけ答えた。

 

エンブリヲが戦いを引き起こしてる元凶なのは分かった。ならば何故そのエンブリヲという人物はアウラを奪いエネルギー源にしようとしているのか、サラちゃん達に協力するのであれば自分はその事についても知らなければならない。

 

故に直接的な協力は出来ませんと事情を説明する自分にサラちゃんは少しばかり不機嫌になるも自分の話を受け入れてくれた。

 

けれど、このままただ都で世話になるのは忍びないので自分は彼女に対してある案を出してみた。それはズバリ彼女達ドラゴンの始祖であるアウラの居場所についてである。

 

先程もリザーディアなる女性が向こうの人間達に紛れて諜報活動を行っていると聞いたが、一人では何かと不便だろう。故に自分が彼女の手伝いをする事で少しでも負担を軽くさせようというのが自分の提案だったりする。

 

向こうの側の地球の事情も知れてアウラの情報も得やすくなる。お互いにとっても悪くはないと思うこの提案をサラちゃんは暫し思案した後、大巫女様に進言してみると答えてくれた。

 

まぁ、幾ら言葉で訴えても自分の言葉は所詮余所者のモノ、この提案も向こうが自分の事を信頼してなければ成り立たない案だ。

 

無論、自分はサラちゃん達を裏切るつもりはない。向こう側の地球にどんな事情があってもアウラの居場所を突き止める事だけはやり遂げるつもりだ。

 

そこから先は知らない。という無責任な事も言わない。必要であるならばその時は自分もグランゾンでサラちゃん達に加勢するつもりだし、アウラ奪還に協力する事も考えている。

 

もし彼女達が自分の言葉を信じてくれるならば向こう側に行く際にグランゾンを見せるようにしよう。自分の手の内を晒す事で上辺だけでも信用してくれるならば、この位安いものだ。

 

 自分の事を理解して欲しいならばまずは此方の方から真摯な態度を取る。これも多元世界の時に習った対話に関する重要なファクターである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────最初の頃、都にいる皆は彼の存在に酷く戸惑っていた。当然だろう。ドラゴン達の中でも一際凶暴で知られるバハムート族がたった一人の成人男性によって制圧されたと聞けばそんな態度を取るのも仕方がない。

 

大巫女様も酷く不安に思われていた事だろう。しかし、そんな我々の気持ちに反し、彼は真摯な態度で我々に接してきた。食事の際や人と接する時、様々な面において彼は礼儀を絶やさなかった。

 

その後も彼は特に怪しい素振りは見せず、都に繰り出しては民達の手伝いをしたりするなど好印象に思える行動を取り続けた。疑り深いナーガは彼の策略だと言っていたが、当然私もその事を視野に入れていた。

 

しかし、彼の事情を聞いた時、それは違うのではないかと思うようになった。神殿に連れて行き、大巫女様を始めとした幹部の方々の前で話した彼の瞳には一点の曇りもなかった事から私達は彼の言葉を信じるに値すると判断した。

 

“多元世界”様々な世界が入り交じった不安定なその世界では絶えず争いが巻き起こり、人類は常に不安と恐怖に苛まされていたという。

 

宇宙から現れる破壊魔、別世界からの侵略者、そして人類同士の争い。怒りと憎しみにより包まれたその世界で人類は何度も滅びの危機に直面したのだという。

 

けれど諦めなかった一部の人間が立ち上がった事を切っ掛けに再び人類は一丸となり、外界からの侵略者達を退け、平穏を勝ち取ったと彼は言った。

 

何とも壮大な話だ。作り話というには矛盾が無く、また我々も次元の壁を介してもう一つの地球と面している事から彼の言葉に疑問を持つ者は少なかった。

 

様々な世界が融合された多元世界。そこでは私達が経験した以上の大戦が勃発した事だろう。であるならばそんな世界で生きてきたシュウジ・シラカワも歴戦の戦士として生き抜き、バハムート族のドラゴンを一蹴に沈めた事にも理解出来る。

 

 故に私は思った。様々な死線を潜り抜けた彼ならば私達の事情も理解してくれて共に戦ってくれるのではないか、と。

 

翌日、嘗てアウラがいたとされる場所で私は彼に話した。この世界の実情と怨敵であるエンブリヲの事、それら全てを話し終えた後、私は彼に頼んだ。

 

協力して欲しいと。彼の人格に付け入る様で卑怯だとは思うが、アウラをエンブリヲの手から奪還する為には彼の力も必要になると判断した私は、彼に頭を下げながら助けて欲しいと頼み込んだ。

 

 ……返ってきたのは断りの言葉だった。自分の話だけでは判断出来ないと語る彼は否定ではなく保留という言葉で私の願いを一時的に断ったのだ。

 

煮え切らない男、とナーガは批判するが私はそうは思わない。彼は直接的な協力は出来ないと言ったが、裏を返せば間接的には協力すると言っているのだ。

 

彼からしてみれば私達の世界についてまだ知らない事だらけ、一つの視点や考えに捕らわれないように立ち回ろうとする姿は個人的に好ましく思える。

 

思慮が深く、義理堅い人間。それが今日まで彼の姿を見てきた私の見解だ。彼はきっと私達を裏切るような真似はしない事だろう。

 

これから、特異点が開く。それに合わせて彼はここから向こう側の世界にまで飛び立つ事だろう。本当なら私も彼を門まで送り届けてあげたい所だが、私には龍神器を完成させるという使命がある。

 

不満に思う所はあるが、これも自身に課された役目を全うする為、神殿から彼の事を見守ることにしましょう。

 

けれど、少し不思議に思う点がある。向こう側に行く時は基本的に海面が広がる大海原だ。彼はドラゴン達の力も必要とせずにいるみたいだし、一体どうするつもりなのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここまでで結構です。ナーガさん、カナメさん、今までお世話になりました」

 

 朱雀の門と呼ばれる場所から開かれる事になった特異点。円上の枠が空間を裂くように開かれ、その向こうには青く広がる大海原が広がっていた。

 

こうやって世界を行き来しているのか、目の前に広がる超常現象に僅かにテンションが高くなる。これではイカンと首を振った俺はここまで送ってくれた二人の女性に礼を述べた。

 

「ふん。此方としても厄介者の貴様がいなくてセイセイする」

 

「もうナーガってば……ごめんねシュウジ、ナーガは頭が固いからいつも君に強く当たっちゃったから大変だったでしょ?」

 

「いいえ、そんな事はありません。里にとって私は異物の様なモノ、彼女の態度は決して間違ってはいません」

 

「そう? そう言ってくれると私も嬉しいわ。……はい、通信機。ここと向こうを繋げる数少ない装置だから大切に扱ってね」

 

「しかし、ここからどうやって行く気だ? 向こう側には何もない大海原だぞ? まさか、泳いで渡っていく気か?」

 

「その点ならご心配には及びません。私にも相棒と呼べるものがいますから……ククク」

 

特異点の先に広がる大海原、一体ここからどうやって渡っていくのかと二人が不思議に思った時、シュウジの背後から巨大な黒い穴が広がっていく。

 

そこから現れる蒼い巨人。深い奈落を思わせるその色と禍々しい風貌の魔神が現れた時、ナーガとカナメの二人は口と目を大きく見開かせ、アングリと言った様子で驚愕した。

 

「サラマンディーネさんと大巫女様に伝えて下さい。必ずアウラの手掛かりを見つけてみせると」

 

それだけ言い残すとシュウジは魔神へと乗り込み、特異点の向こう側へと飛び立っていった。

 

 残されたナーガとカナメ、そして見送りに神殿から事の一部始終を眺めていたサラマンディーネと大巫女は後に大きな不安に駆られる事になる。

 

“彼を一人で行かせてしまって大丈夫だろうか?”

 

色々な意味で不安に思う彼女達の予感はここから数ヶ月後、悪い意味で的中する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




クロスアンジュ風予告

アンジュ「どうしてサラ子は最初から出て来て私は後なの? 私への扱いおかしくない?」
タスク「どうしたのアンジュ、いきなり変な事言い出して」
アンジュ「べっつにぃ? まぁいいわ。どうせ次回からは私のターン、華麗なるエアリアターンで盛り上げてみせるわよ!」
タスク「あ、それなんだけど……どうやら君の出番は殆どないみたいだよ?」
アンジュ「……え?」


次回もまた見てボッチノシ

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