『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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ここでクイズです。今回の話で主人公は誰にブチ切れるでしょうか?


その4

 

 

 

 

 遙か世界の果て、周りが海で囲まれた一見すれば孤島の島にも見えるその場所に彼女達はいた。

 

“アルゼナル”兵器工廠と呼ばれる対ドラゴンの軍事基地として機能されている島、その島のブリッジ……所謂司令室と呼ばれる場所で複数の女性達が表情をしかめて通信から聞こえてくる声に耳を傾けていた。

 

「……本当に、ドラゴンの姿はないんだな?」

 

『だから何度も言ってるじゃないですか司令、警戒態勢の発令から一時間、ドラゴンどころかトカゲの一匹も見つかってませんよ』

 

『司令、ゾーラ隊長の言うことに間違いはありません。あれから私達もずっと索敵を行ってきましたが、ドラゴンの姿は確認出来ていません』

 

「…………」

 

部下であり第一中隊の隊長と副隊長それぞれの報告を耳にして司令と呼ばれる右腕が義手の女性は思案する。

 

ドラゴンというのはゲートが開くと同時に間違いなく此方の世界に侵攻してくるものだ。そこに例外はなく、常に自分達はそのドラゴン達と“戦わされてきた”のだから間違いない筈。

 

可能性としてはゲートの開閉を観測する連中が誤って報告したのか、それとも姿を消すという新種のドラゴンが現れたのか。

 

後者の可能性を憂慮して今まで彼女達に警戒することを呼び掛けてはいるが、それももう限界。一度補給する為に基地に戻らせる事を決定した隻腕の女性は通信器の向こう側にいる部下達に連絡を入れる。

 

「各員、補給の為に一度基地に戻れ、その後は第二中隊と交代しながら周囲の警戒を続けろ。エマ監察官殿は観測班に連絡を入れ、誤報でないか確認をお願いします」

 

『了解。さぁ、野郎ども行くよ!』

 

『あらほらさっさー!』

 

「全く、こんな夜更けに手間の掛かる事を……」

 

通信越しから伝わってくる部下達の了承の声、隣に座っていた監察官と呼ばれる女性もブツブツと文句を言いながらも確認の為に司令室を後にする。

 

残されたのはレーダーで敵影がないか確認しているオペレーターの娘と司令官である自分のみ、女性は本当に誤報だったのかどうかを見極める為に頭の中で推理を重ねていた。

 

だが、どんなに考えても辿り着ける答えは限られている。その内二つが先程述べた誤報であった事、姿を消しているドラゴンという説で残された可能性はただ一つ。

 

(……ゲートから出て来たのはドラゴンじゃない? これまでとは得体の知れない何かが我々の追跡を振り切ったとでも言うのか)

 

浮かび上がるその可能性に女性はそんなバカなと吐き捨てる。ゲートから出て来たのはいずれもドラゴンだけ、種類が違ったり固有する能力が異なったりと多種多様のドラゴンをこれまで見てきたがドラゴン以外の存在が現れたという前例は存在していない。

 

仮にドラゴンで無かったとしたら、現れたのは一体何だったのか、女性はほんの僅かだけその事に思考を割くが、次の瞬間には詮無きことだと切り捨てる。

 

(出て来たのがドラゴンだろうとそうでなかろうと既に人間達の世界に赴いたとするならば、それは私の知る所ではない)

 

自分達の役割は人類の天敵とされるドラゴン達を世界の果てとされるこの場所から出さないで殲滅するという事、裏を返せば既にこの海域から姿を消したのであればそれはもう自分達の役割ではない。

 

あとは“人間達”でどうにかすればいい。不敵に笑みを零す女性は書類仕事に着手する為、ブリッジを後にするのだった。

 

人間達に対する復讐劇(リベルタス)を完遂する為に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月Σ日

 

 サラちゃん達の地球から出発して翌日、現在自分はもう一つの地球のミスルギ皇国と呼ばれる国へとやってきている。

 

他にもローゼンブルム王国やエンデラント連合といった様々な国があったりして機会があればそちらの方にも行ってみたいと思う。

 

で、何故複数の国がある中でミスルギ皇国という国を選んだのか、訳はというと、サラちゃん達向こう側の地球から来たとされるリザーディアさんなる女性工作員がここミスルギ皇国で活動を行っているという理由だ。

 

何でも皇室の偉い人の側近らしき立場にいるらしく、此方から接触するのは難しいと言われている。確かにアウラというドラゴンを探り当てるにはこの国のトップに接近する必要があるだろう。

 

リザーディアさんに関しては既にサラちゃんの方から事情を伝えているみたいだし、後は自分がいつ彼女に近付くかだ。国のトップの近くにいるというなら迂闊に近付く事も出来ないが、夜になれば少しは隙が出来るだろう。

 

既に皇宮の場所と内部構造は把握した。幾つも抜け道があって中々面白い所のようだが、自分が侵入する際はこれらを活用しようと思う。

 

まんま不法侵入だが、相手はドラゴンを強奪した連中だ。正攻法のやり方が通じないのであればこういう手段も致し方ないだろう。無論、これ以下の手段は極力取らないよう十分に気を付けるつもりだけどね。

 

 ……しかし、この国の経済事情は一体どうなっているのだろうか? 飲み物は勿論食べ物、衣服、その他諸々の一切が全部無料とか、正直正気の沙汰とは思えない所業だ。

 

いやね、ちょっと小腹が空いたから近くのファーストフード店に立ち寄った時に気付いたんだけどね、自分お金持ってないんだよね。ここまで殆どサバイバルだったし、ついついファーストフード店の雰囲気に誘われて入ったんたけど……料理を注文した所で自分が無一文だという事に気付いたんだ。

 

お金は一応あるにはあるけれど、それは多元世界にいた頃の貨幣だ。世界も変われば通貨も変わる。このままでは無銭飲食で捕まると思った俺は店の人に正直に話してここで一日働かせて貰う事で事なきを得ようとした。

 

しかし、返ってきたのは“何言ってるのおまえ?”みたいな反応だった。無一文な自分を呆れたり怒ったりするのは分かるが、まるで自分の言っている事が分からないと言った風な反応の店の人に俺はどうしたらいいか分からなくなった。

 

他のお客さんを見ていると誰も支払いなどはせずに皆笑顔のまま店を後にする。訳が分からなかった俺はひとまず苦笑いを浮かべて誤魔化し、他のお客同様料金を支払わず店を後にした。……店員さんからの訝しげな視線が痛かった。

 

その後街を一通り回ってみたけれど、なんともまぁ凄いこと凄いこと、洋服店や雑貨店、他にも色々なお店が建ち並んでいるのに料金を支払っている所をみたのは一度もない。

 

どうやらこの国では貨幣システムが存在しておらず、皆好きなモノを好きなだけ貰ったり渡したりしているらしいのだ。……ホント、どうなっているんだこの国は?

 

それだけじゃない。ファーストフード店でも見かけたが、ここの人間は皆“マナ”という万能エネルギーを使用し、物を浮かしたり運んだりしている。さながら魔法のようだとこの時自分は我が目を疑った。

 

どうやらマナの光と呼ばれるエネルギーはこの国だけじゃなく、世界中に広がっておりその量は無限に近く枯渇するものではないらしい。このマナという万能のエネルギーのお陰で世界から争いはなくなり、貧富の差もなくなったのだという。

 

……理想郷。と、そう呼ぶには自分にはどうしても胡散臭く思えた。確かに端から見ればこの国は楽園みたいなものだが、エンブリオなる男がアウラをエネルギー源として攫ったと聞くとどうしても勘ぐってしまう。もしかしたら、このマナの光というエネルギーはアウラと深い関わり合いがあるのかもしれない。

 

 それともう一つ気になる事がある。このマナという万能エネルギーは使う人間を選んでしまう性質があるのだろうか? この国……いや、この世界に来てから一度もそんなモノを発動した事はないけれど、もしかしたらマナってエネルギーは国民証明書みたいな役割を果たしているのかもしれない。

 

まぁその辺りもおいおい探っていこう。アウラ奪還の為にはまずはリザーディアさんと合流しなければならない。明日の夜にでも皇宮に侵入するつもりで準備をしておこうと思う。

 

 

 

○月▼日

 

 ……今日、胸糞悪くなる出来事に遭遇した。夜に皇宮に忍び込もうと脱出ルートを確保する為にアチコチ歩き回っていると大通りに人垣が出来ており、興味本意で覗いてみると、信じられない光景を目の当たりにしたのだ。

 

母親から子供……いや、赤子を取り上げようとしていたのだ。それも強盗とかの類ではない。政府公認の役人が、だ。

 

我が目を疑った。身柄を抑え込まれた母親と泣きじゃくる赤子、どうみても異常な光景なのに周囲の人間は止める処か汚物を見るような目で赤子を見下ろしているのだ。

 

俺は彼等の所に割って入った。何をしているんだと、この人達が何をしたんだという自分の問いに、彼等はただ一言、“ノーマだから”と返してきた。

 

ノーマ。この時まだ理由を知らなかった。……いや、理由を知った今でも彼等の行動が理解出来ないでいる俺は母親から子供を奪おうとした役人達に止めるよう声を張り上げた。

 

するとその時目の前の人垣が割け、道路の向こうから一人の女性が歩み寄ってきた。高貴な振る舞いと佇まいからかなり身分の高い人だと思われたその人の名はアンジュリーゼ=斑鳩=ミスルギ、このミスルギ皇国の第一皇女殿下だった。

 

美人で麗しく、民達からも多くの指示を得ていた彼女は十戒の様に割れた人混みの向こうから出て来て自分に、そして母親に向けてこう言い放った。

 

『ノーマはマナの光を破壊する反社会的で野蛮な化け物。今すぐ隔離すべきです』

 

………何を言っているのか分からなかった。目の前の皇女様の言っている事が理解出来なかった俺は怒りよりも先に頭が混乱した。

 

赤子だぞ? 赤ちゃんだぞ? 言葉を発する処か両足で立つ事も出来ない未成熟な子にコイツは何を言ってるんだ?

 

人格なんてその後の親の教育次第じゃないか。俺と母親が皇女様の言葉に愕然としていた時、彼女は更なる爆弾を投下していきやがった。

 

『今産んだ子の事は忘れ、新たな赤ちゃんを産んで下さい。その時はノーマではなく、正しい人類の子を……』

 

………この時、殺意が沸かなかった自分が今でも不思議で仕方がなかった。いや、恐らくは殺意どころかこの時の俺は思考が停止したのだろう。

 

何せ、気が付いたら皇女様を殴り飛ばしていたのだ。近付いてくる役人達も全員ブチのめしてしまい我に返った頃は軍隊に囲まれていた……。

 

やりすぎたと反省もしている。軽率な行動を取ったとも自覚している。丸腰の女の子に拳を振るうなど言語道断だけど、あの時の自分の行動に後悔はしていない。あの時動いていなければきっと俺は心の底から後悔していたと思うから。

 

 現在自分がいるのは皇宮の地下深くの牢屋だ。あれだけ皇宮の周りを調べて侵入する気満々でいたのに……何とも、皮肉な話である。

 

どうやら明後日に俺は死刑にされるそうだ。それも公開処刑、まぁ皇女様を殴り飛ばしたとあっては当然の処遇だ。寧ろあの場で撃ち殺されなかったのが嘘のようである。

 

何故明後日なのかというと、明日は例の皇女様が誕生日に伴って神聖な儀式を執り行うらしくそれどころではないらしい。儀式が執り行われる合間は向こうに人員が割かれる様である。

 

だからといってここの警備が薄れる事はないだろうけどね。何十人って警備の人が辺りをうろついているし、皇居は自分がやらかした出来事で更に強固となっている事だろう。

 

リザーディアさんに申し訳ない事をした。自分が軽率な行動を取った事により彼女に負担を掛けさせてしまった。チラッとしか見ていなかったけど皇族が乗る車にリザーディアさんらしき人を見かけたから間違いはない筈だ。

 

リザーディアさん、今頃参っているだろうなぁ。酷く驚いていたみたいだし、ホント悪いことをしてしまった。

 

 ……リザーディアさんの事もそうだが、あの親子はアレから無事逃げ切れただろうか。自分が起こした騒動のどさくさに紛れて姿を消していたし、どうか上手く逃げていて欲しい所だ。

 

それにしても、この国は……いや世界か。おかしい所が多いよな。なんつーか、上辺だけの……劇みたいなモノを見ている気がしてすげぇイライラする。

 

あの親子の一件でより強くそう思ってしまった。これは久し振りに蒼のカリスマとして色々動いてみた方がいいのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミスルギ皇国の皇居、国が一望できる皇居のバルコニーで頬に湿布を張った少女が佇んでいた。

 

少女の名はアンジュリーゼ=斑鳩=ミスルギ。神聖なる洗礼の儀を明日に控え、緊張の面持ちで国を見据えていた彼女の後ろにアンジュリーゼの母親たる女性が姿を現した。

 

「アンジュリーゼ、眠れないのですか?」

 

「お母様。……いえ、洗礼の儀に関しては思う所などありません。私が憂いているのはノーマについてです」

 

アンジュリーゼは語る。何故ノーマというおぞましく恐ろしい存在がこの世に存在するのか。有史以来かつて無い程の繁栄と安寧を得られたこの人類社会に必要のない存在が生まれてしまうのか。

 

「ノーマは反社会的で暴力的、恐ろしい存在だというのに未だその存在が途絶える事はありません。それどころか、あのようにノーマを庇いたてする輩が現れる始末」

 

その事を心底信じられないという様子のアンジュリーゼはバルコニーの柵の上に置いた手に力を込める。彼女の語る輩というのは現在地下深くに幽閉した男の事だろう。

 

自分は正しい事を言っているだけ、なのにあの男は皇女である自分に対し人目もはばからずに殴りかかってきたのだ。

 

今は腫れの引いた頬に触れ、アンジュリーゼはその赤い瞳に怒りを滲ませる。一刻も早くノーマのいない世界を作らなければ。為政者としてこれからは政治に携わる身としてアンジュリーゼは心からそう誓った。

 

その様子を見て悲しげに微笑む母のことなど気付かないまま……。

 

 

 

 

 

 

 




答えはアンジュリーゼ様でした。
今回の一件でモモカさんと主人公の合間に埋まらない溝が出来たっぽいかも。

Q主人公に殴られてアンジュリーゼは無事だったの?
A無事ではありません。殴られた直後、彼女は所謂“見せられないよ!”な状態でした。
マナの光って便利(笑)

……たしかマナの光ってある程度はノーマにも通じますよね?
モモカとか弾き飛ばしていたし……(震え声
作者の見解はある程度はノーマにも通じるとしています。
ある程度ですけどね。
今回は凹んだ顔にモモカが必死にマナの光を治療に当てた結果、回復したという事にして下さい。


以下予告

アンジュ「やっと私が出たと思ったら何よこの扱いは!?」
タスク「良かったじゃないか、予想していたより全然出番あったじゃないか」
アンジュ「よかないわよ。リフジンとリムジン、一文字違いだけど大違い。折角の美少女なんだから私の事はもっと大事にして♪」

ボッチ「………(イラァ)」


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