『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回は主人公視点のみとなっております。


その5

 

○月Ω日

 

 “ノーマ”マナという万能のエネルギーが社会基盤となっているこの世界において、ノーマと呼ばれる存在は最大の禁忌とされている。

 

万能である筈のマナの光を打ち消し、破壊する。性質を持つこのノーマは現在の社会における絶対悪とされ人々に恐れられ、また差別してきた。

 

故にノーマの存在の有無を調べるのはこの世界において必要不可欠な習わしであり、ノーマの人間社会からの追放はもまたこの社会において必要な処置である。

 

 ……と、いうのがこの世界の大雑把な事情なのだが、正直自分は反応に困って何て言っていいのか分からなかった。だって、自分が生きてきた環境とはあまりにも差が有りすぎるんだもの。

 

一番近いモノで言うならばこの世界は嘗てブリタニアに支配された旧日本の時みたいなモノだろうか。ただし、此方の世界は名誉ブリタニア人という救済制度などは一切なく、ノーマは全て例外なく役人達の手により何処かへ連れて行かれてしまっている様なのだ。

 

それも殆どが生まれて間もない赤子、もし彼女達が今も生きているのなら彼女達は親の顔すら知らないまま生きているという事になる。

 

……ノーマというだけで何故ここまで迫害されなくてはならないのか、彼等の日々の生活を見て、自分は何故かその様子が酷く歪んだモノに見えてしまった。

 

成る程、確かにこの世界は一見すれば楽園そのものに見えるだろう。病めることもなく、悩みもなく、誰もが幸福であるこの社会はまさしく人間社会の理想郷なのだろう。

 

完璧なる社会。マナの光という万物のエネルギーを得られた現在の社会はまさに有史以来成し得なかった世界なのだと、自分を見張っていた憲兵は言った。

 

それを耳にした自分は、ただただ笑ってしまった。完璧な社会? 理想郷? だったら何故ノーマという存在が生まれるのか? いや、問題はそこじゃない。

 

ノーマという存在が生まれていながら、何故社会はそれに対応しようとはしなかったのか。完璧である社会ならばノーマという社会問題にも難なく対応出来るのではないだろうか。

 

ただどこかへ追放するだけで変えようとしない。ノーマを人間として扱わないとかそんなものは対処ではない。単なる逃避だ。

 

 と、そこまでいった所で俺は憲兵達に暴力的に黙らされ、暫くの合間リンチを受けてしまうのだが……まぁこれはアロウズに捕まった経験がある自分としては今更な事なので自分はスルーして思案を続けた。

 

先程ノーマに関する問題に付いて触れた時もそうだが、この世界の連中はことノーマの問題に関しては極力触れない様にしている素振りがあるのが個人的に気になった。確かに連中からしてみればノーマは許されない存在だろうが、だからといって誰も不思議に思わないのは何でだ?

 

嘗てアロウズも情報統制という形で人々を欺いて来たが、この世界の人々はそれとは比較にならないほどノーマが悪という認識が強い。まるで刷り込みの様ではないかと思うが、ここまで思考して俺は気付いた。

 

そう、この世界の平和はまるで“与えられた”モノに見えるのだ。与えられた平穏、与えられた幸福、まるで整理整頓された部屋の様にこの世界は不気味な程に整っているのだ。

 

 ……そこまで考えてしまった俺は唐突に吐き気を覚えた。まるで舞台装置のように動く人々、楽譜の様に生きている人間。本当の意味で“機械の様な世界”に俺は吐き気だけでなく眩暈すら覚えた。

 

歪んでいる……というより狂っている。こんな世界にしたモノは自分を神様かナニかと勘違いしているのか? 洗脳よりも質の悪い事をこの世界の全人類に仕込む奴、もし自分のこの説が正しければソイツは嘗て自分が戦った連中の中でも極めて厄介な奴に違いない。

 

……そろそろ皇女アンジュリーゼの洗礼の儀の時間だ。今後の事を冷静に考える為にもまずはここから脱出する事から始めるとしよう。

 

 

 

◇月π日

 

 現在、自分はミスルギ皇国から抜け出し、グランゾンと共に海底深くで身を隠している。これからの行動方針を定める前にまずは今日起きた出来事をまとめていこうと思う。

 

ミスルギ皇国の姫君、アンジュリーゼ=斑鳩=ミスルギを殴り飛ばしてしまった自分はこの上ない不敬罪にて皇居の地下牢獄に幽閉されていた。

 

公開処刑から免れる為にアンジュリーゼ皇女の16歳の誕生日に行われる洗礼の儀とやらの行事に合わせて脱走を試みたのだが、ここへきて予想外の出来事に見舞われてしまう。

 

なんと、皇女であるアンジュリーゼがノーマとして全世界に向かって暴露されていたのだ。誰もが予想だに出来ておらず、本人すらも戸惑っている中、長兄であるジュリオ=斑鳩=ミスルギがアンジュリーゼを捕まえる指示を飛ばし、あれよあれよの内に皇女だったアンジュリーゼはノーマの烙印を押されミスルギ皇国から追放されてしまった。

 

この大騒ぎに乗じて思っていた以上に簡単に牢獄から脱出できた自分はここである人物と出会うことに成功した。

 

リザーディアさん。ここではリィザと呼ぶよう注意を促された俺は彼女とコレまでの話を端的に聞いてひとまずこの国から出て行く事を勧められた。

 

大騒ぎとはいえ皇居は憲兵の連中が多く警備されている所。限られた時間の中で彼女との遣り取りを果たした俺はそのまま皇居を後にし、ミスルギ皇国から出て行った。

 

 そして現在、グランゾンのコックピットでサラちゃんから渡された通信機を使用し、リィザさんから話を聞いた俺は今後の事について思案していた。

 

やはりあの後皇女アンジュリーゼはノーマと断定されており、今は世界の果てにあるとある施設に輸送されているというのだ。その後は自分の事について少しばかり話し合われたようだが、ノーマは人間ではないという事で自分の罪は免除されるかもと思いきや、皇居から抜け出した事実は変わりないので自分は世界中に指名手配される事になったのだという。

 

で、その時この決定を下したのが例の皇族の長男様、ジュリオ=斑鳩=ミスルギで犯罪者だった自分を取り逃したとあっては皇室の権威が下がるとかで自分の処遇は見つけ次第捕まえる様各国に呼び掛けているとの事。

 

しかも生死を問わず(Dead or Alive)に、だ。まさか多元世界の時と同じ扱いを受ける事になろうとは思わなかった自分はこの時に思わず笑みをこぼしてしまった。

 

とはいえ、これで方針は決まった。自分の素の顔で居場所がばれるというのなら、素ではない顔で動けばいいと察した自分はこの時から蒼のカリスマとして動いていく事を決意した。

 

 そして諸々の動きを知る為、自分はこれより世界の最果てにあると言われる“アルゼナル”と呼ばれるノーマの収容所に向かおうと思う。

 

リィザさんが言うにはその場所でノーマ達が収容されているみたいだし、そこでサラちゃんの所のドラゴン達が日々戦っていると事。

 

普通の女の子としての幸せを奪っておきながら戦いの道具に仕立てるとか、思う所はあるけれど、今はアウラ奪還の為に堪える事にしよう。それに自分のしでかした失態は大きいし、リィザさんの負担を軽くする為にも自分の出来る事をしていこうと思う。

 

 ……しかし、今更だけどアンジュリーゼ皇女ってよくよく考えれば可哀想な人だよな。まさか皇女である自分がノーマとか、この間の彼女の言動を思い出すと気分がスッキリするどころかより憂鬱になってしまった。

 

どうやら彼女は自分がノーマだと国民に知られた途端掌返しの態度をされていたみたいだし、今頃は彼女もこれまでのノーマ達と同様理不尽な扱いを受けているんだろうなぁ。

 

しかし、よく見れば見るほど滑稽だ。ノーマと呼ばれる子達も同じ人間でしかないのに……そもそも、彼等は気付いているのだろうか?ノーマである彼女達を迫害する時、自分達の表情が酷く歪んだ顔となっている事に。まぁ、気付いているのなら今頃ノーマとか差別なんて無くなっているだろうけどね。

 

“そう言う風に”この世界は作られている。そう思うとこの世界の人達は皆哀れに思えてしまう。大変な環境ではあったけれどこれではサラちゃん達の地球の方が余程住みやすい世界ではないだろうか?

 

まぁ、これは自分の勝手な想像なので基本的にこういった考えは自分の胸の内にしまっておこうと思う。

 

 ────まもなく夜が耽る。暗闇になる頃を見計らってリィザさんから受け取った座標を目的にグランゾンを発進させようと思う。

 

 

……しっかし。あのジュリオなる皇族の人、良くもまぁ自分の妹にあんな仕打ちをしたものだなぁ。何でもアンジュリーゼ元皇女がノーマだった事も予め知っていたっぽいし、もしかして良からぬ事を企んでいるのかな?

 

野心を企てるのは良いけれど、あんまりそういうのは止めた方がいいと思う。そういう事を企む奴に限って悲惨な運命を辿るものだからなぁ。グレイスしかりリボンズしかり。

 




クロスアンジュ風予告(?)

円鰤男「厄介な奴だよ君は!」
タスク○二「分かり合う気はないのか!?」
ボッチ「絶好調である!!」

アンジュ「なんなのコイツ等……」
サラ子「誰か、何とかして……」

次回もまた見てボッチ

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