『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回は若干シリアス。


その7

 

 

◇月×日

 

 今日も元皇女殿下様はじゃじゃ馬っぷりを遺憾なく発揮していた。朝はモーニングコール代わりの奇襲、昼はご飯を食べていた時に奇襲、夜は自分が寝静まった所を見計らって奇襲。

 

奇襲ばかりで意外性はないが、自分が何度も彼女に稽古をしていた為か少なくとも一撃でやられる事はなくなった。

 

この間も書いたが彼女は生粋の負けず嫌いで自分に勝つ為にあれこれ策略を立ててくる。時には自分をタスク君ごと崖から突き落としたりするので個人的には彼女の独創的な発想に驚かされたりしている。

 

まぁ、こちらとしては咄嗟の判断力が身に付くので彼女の突拍子な行動は自分としてもありがたい。そういう時はすぐさま彼女の下に馳せ参じ、お礼としてガモンさんから学んだ体術を教えている。

 

……なんか、こういうのって良いよな。ガモンさんが言っていた“弟子は師から学び師は弟子から学ぶ”と聞かされていたが、それはこういう事なんだなって思う。

 

まぁ、自分はあくまで護身術程度しか修めていないのでアンジュちゃんとは師弟関係とは呼べないけど、せめてアドバイス位はしてやろうと思う。今は全然アレだけど、呑み込みの早さからいって彼女の実力は将来相当のモノになると思う。

 

実力者といえば向こう側の地球にいるサラちゃん。彼女もまた発展途上みたいだし、磨けばもっと光り輝く事だろう。彼女も負けん気が強い方だし、アンジュちゃんとはいいライバル関係になれるかもしれない。

 

そうなる為にも自分も今後はよく考えて行動する事にしよう。

 

 この無人島に来てから数日、アンジュちゃんというじゃじゃ馬娘が来たことで退屈する事はなくなったが……一つばかり面倒な事がある。

 

タスク君とアンジュちゃん、どうやら歳が近い事もあり、よく二人っきりでいる事から互いに意識し始めているご様子なのだ。時折目を離せば良い雰囲気になっているこの二人、その時は自分も気を利かせてその場から離れたりしている。

 

シュウジ=白河は空気の読める男、これくらいの気配りなど造作もないのだよ(キリッ

 

まぁ、別にそれはいい。年頃の男女はこういう事になっても不思議ではないだろう。しかし、所構わず求め合おうとするのは正直どうかと思う。

 

タスク君とアンジュちゃん、この二人が一緒にいるとかなりの高確率でアレな事になってしまう。具体的に言えばタスク君がアンジュちゃんの股間にダイブしているのだ。

 

一体この二人は何がしたいのだろうか。アレか? バーストリンクでもしようというのか? アンジュちゃんの股間の先には電脳な仮想世界でも広がっているのだろうか? それとも因果とかアカシックレコードにでもそうなるように仕組まれているのか?

 

兎も角二人は上記の様にTo LOVEるな体勢になる事が頻繁に起こり、その度にアンジュちゃんは激昂し、自分はそれに巻き込まれたりしている。

 

はた迷惑な話だが……まぁ、さっきも述べたが退屈とはほど遠い日々を過ごしているから別に良いんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っあーもう! 腹立つわね! なんなのよあの男は!」

 

「ど、どうしたのアンジュ、いきなり大声だして」

 

 夜が更ける頃、川沿いで飲み水を汲んでいたアンジュとタスク、唐突に叫び声を上げるアンジュに驚きながらも、タスクは彼女に何があったのか問いた。

 

「大声も出したくなるわよ、何なのよアイツ! シュウジ=白河って男は! 私の攻撃をいつもいつも余裕そうに避けちゃって! 腹立つったらないわ!」

 

水汲みようのバケツを手にワナワナと震えるアンジュを見て、タスクはやっぱりかと苦笑いを浮かべる。

 

「余裕そうというか、実際余裕だったよね。彼、アンジュの攻撃なんて掠りもしなかったし」

 

「あぁん?」

 

思い付いたように事実を述べるタスクだが、その事実にアンジュは凄みを効かせてタスクを睨みつける。その迫力にタスクは短く悲鳴を上げるが、アンジュは手を出すことはせず、溜息をこぼして俯いた。

 

「……まぁ、実際その通りよね。アイツ、私の攻撃や奇襲、全部先読みしていたみたいに避けちゃうんだもの。この間の崖に突き落とした時だって振り返った時は既に満面の笑顔で佇んでいたんだもの、殆どホラーよ、アイツ」

 

「あ、あはは……」

 

その崖落としに自分も巻き込まれたんだけどね。と、タスクは笑顔の裏で嘆く。シュウジの気を逸らす為に生贄として選ばれた彼はアンジュの蹴りを受け、シュウジ諸共崖の上から真っ逆様へ落ちてしまった。軽く死を覚悟したタスク、しかしこの時シュウジの驚異的な身体能力を発揮された事により九死に一生を得たタスクは今後崖淵には近付かないことを誓った。

 

しかもこの時助けて貰ったシュウジから此方の身を案じるというイケメンっぷりも見せつけられたタスクは彼のその容姿も相まって一瞬だけときめいてしまった。散々な目に遭いながらアンジュに対して不満を言わない(言えない)タスクはある意味で紳士の鏡と言えた。

 

「……でも、彼って面倒見が良いよね。そんなアンジュに対しても甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるんだから」

 

「……そう、ね」

 

 タスクの話題変えのつもりで口にした言葉はアンジュの表情を曇らせるには十分な威力を持っていた。目に見えて落ち込んでしまったアンジュにタスクは訳の分からないまま謝罪すると、アンジュは違うとタスクの謝罪を否定して淡々と自分の事について語り始めた。

 

「……アイツってさ、本当になんなのかしら。初めて出会った時は人の事を殺す気かって位の勢いで殴ってきた癖にさ」

 

「…………」

 

アンジュの語る話にタスクも真剣な顔で聞き入る。皇族だった頃、自分の言動に激しい怒りを露わにしたシュウジは感情のままにアンジュを殴り飛ばした。

 

それこそ殺す勢いで。記憶が飛ぶ程激しく殴り飛ばされたアンジュは今も心の何処かで怯えていた。当然だろう。生まれてはじめて体感した人の殺意というモノを受けてしまったアンジュにはこの時のシュウジの怒りは剰りにも刺激が強すぎた。彼女がシュウジを執拗に攻撃するのも心の中にある彼に対する怯えがあるからこその防衛本能が働いているに過ぎなかった。

 

過剰なまでの暴行、しかしシュウジは彼女の感情を受け流すのではなく、真っ正面から向き合って受け止めてみせた。奇襲も暗殺染みた行いも彼は笑って受け入れてくれた。

 

だからこそ分からない。あれほど自分に怒りを感じていた彼が、どうしてノーマである自分を対等に扱ってくれるのか。

 

ノーマは反社会的な化け物。なのに彼はタスクの様に自分と普通に接してくれている。その事がよく理解できていないアンジュはシュウジとの距離を見定められずにいた。

 

「……これは、僕の勝手な想像だけど、もしかしたらあの人にとってそんな事はどうでもいいんじゃないかな」

 

「そんな事?」

 

「ノーマとか、人間とか、マナの光とか、丸々ひっくるめて……かな」

 

 自信なさそうに微笑むタスクを見てアンジュは何だか胸の内に何かがストンと収まった気がした。マナの光という万能のエネルギーに満たされ、何一つ不自由のないこの世界をどうでもいいと――そんな風に言ってのけるシュウジを幻視してしまうアンジュだが不思議と違和感は感じなかった。

 

だったら自分に対する態度も納得できるかもしれない。もしあの時の彼の態度が現在の社会情勢を無視したものだとするならば彼があの時自分に怒った理由も……何となく理解できる気がする。

 

もしかしたら、あの時彼が見ていたモノはノーマを産んだ母親に危害がないよう隔離している光景ではなく、お腹を痛めて産んだ我が子を取り上げる悪行に見えたのかもしれない。

 

「……気に入らないわ」

 

「アンジュ?」

 

「あの男は気に入らない。私を殴ったし、私の仕返しを悉く返り討ちにしてくるし、本当に心の底から腹の立つ奴だけど………憎いとか、そういう気持ちはない、かな」

 

ボソリと呟くアンジュにタスクも笑顔が零れる。少しだけ素直になったアンジュに声を掛けようとした……その時。

 

「アンジュ、伏せて!」

 

「ちょ、何すんのよいきなり!?」

 

唐突に押し倒してくるタスクにアンジュの顔色が赤面へと変わる。何の脈絡もないタスクの行動に混乱するアンジュだが、次の瞬間目に映った光景に彼女は言葉を失った。

 

「……なに、あれ」

 

呆然としたまま呟くアンジュ、彼女達の上空には複数の輸送機が氷付けにされたドラゴンを運んでいく光景があった。

 

まるで周辺を警戒するかのようにライトを辺りに照らしていく輸送機。光に捕まらないよう身を伏せる事で周囲に擬態するようにしているタスクの行動の理由は分かったが、アンジュは氷付けにされたドラゴンを見てそれどころではなかった。

 

あのドラゴンはパラメイルに搭載された凍結バレットで氷付けにされたドラゴンだ。ここまでで既に何度も見たことのある光景に驚く彼女だが、問題はそこではなかった。

 

一体あのドラゴンをどこへ連れて行くのか。アンジュの頭の中にはその事に対する疑問に溢れていた。一体連中は何をするつもりなのか、ダメもとでタスクに訊ねようとした時、輸送機の一機が爆発した。

 

「「っ!?」」

 

突然爆発する輸送機、その一機に続き次々と撃墜されていく輸送機を見てアンジュ達は更なる混乱に叩き落とされる事になる。

 

一体何が起こっているんだ? 島の向こう側へ墜落し、爆発する輸送機らの末路を目の当たりにしたアンジュは原因を突き止めようと一歩前に出ようとした時。

 

「アンジュ、待て!」

 

何かの接近にいち早く気付いたタスクがアンジュの腕を引っ張り、前に出かけた体を無理矢理に引き戻す。唐突に襲い来る慣性の力によろめくアンジュだが、アルゼナルで鍛えた身体能力を活かしてなんとか踏みとどまった。

 

何をする! 突然の行動に文句を言いそうになったアンジュだが、目の前に立つ存在にそれ処ではなくなり、またタスクが自分を引き寄せた理由に納得がいく瞬間を迎えていた。

 

ドラゴン。先ほどの大型のドラゴンとは違う傷だらけで小型のドラゴンが目の前にいた。パラメイルで幾度となく撃ち落としてきた雑魚とも呼べる存在だが、それはパラメイルというノーマの鎧があって始めて成り立つ図式である。

 

当然その膂力はその体躯に合わせて凄まじく、人間個人が立ち向かえる相手ではない。幾ら目の前のドラゴンが満身創痍でもその構図は変わらず、平和に過ごしていたアンジュ達は唐突に危機を迎えてしまっていた。

 

トドメを刺すとばかりに銃を乱射するアンジュ、しかしドラゴンの図太い肉質には通らず、小さな穴が空き、少しばかりの血を流すばかりである。

 

また、ドラゴンはその生態上生命力は高い。故に弾切れになってもドラゴンを仕留めるには至らないと察したタスクはアンジュの腕を引いて逃げようとする。

 

「そんなものじゃあドラゴンは倒せないぞ!」

 

「だったら、黙って喰い殺されろって言うの!」

 

このままではいずれにしても二人とも喰い殺されてしまう。どうにかしなければとタスクは思考を巡らせた時────彼は現れた。

 

「パラメイルの所へ向かいなさい」

 

「っ、アナタは!」

 

「シュウジ! 一体どこから出てきてんのよ!」

 

音もなく、気配も読まさずに二人の背後から現れるシュウジ。どこからともなく現れる彼に二人は驚くが、すぐさまそれどころではないと我に返る。

 

「パラメイルって、ヴィルキスの所? でもあれってまだ修理中じゃあ……」

 

アンジュの指摘通り、ヴィルキスは現在修理中だ。同じ部隊の仲間から嫌がらせとして機体の出力部分に下着類を入れられて故障してしまっているヴィルキスは現在元の様に戦闘をこなせる状態ではない。

 

一体そこへいって何をさせようというのか。訳が分からない二人だがシュウジの一言によって更に混乱する事になる。

 

「あぁ、それなら問題ありません。ここへ来る前に既に修理は終わらせましたよ」

 

「「……へぇ?」」

 

「タスク君が予め手を入れていたのが幸いでした。おかげであのヴィルキスなる機体の大部分を理解する事ができましたから。通信等の機器もじきに動くと思いますよ。──いやぁ、それにしてもあの機体は凄いですね。あれだけのサイズにまさかあのような仕掛けが施されていようとは、あの機体を造り上げた人物は紛れもない天才ですね」

 

「い、いやあのシュウジさん? そういう問題ではないと思うのですが……」

 

「? ……あぁ、これは失礼しました。勝手に工具を使用してしまい申し訳ありませんタスク君 何分機械弄りには自分も心得があるものでして、つい興味本位で触れてしまいました」

 

そう言って深々と頭を下げてくるシュウジに対し、タスクは頭が痛くなってきた。色々と突っ込み所がある言動だが、今はそれどころじゃない。ヴィルキスが動いてくれるのならあのドラゴンの一匹位どうって事ないと高を括ったアンジュは急いでヴィルキスの元へ向かおうとするが。

 

「あぁ、それと。このドラゴンの対処は私に任せて貰います。手出しは無用ですよ」

 

「はぁ!? 相手はドラゴンよ! 喰い殺されたいの!?」

 

手出しは必要ないと言い張るシュウジに今度はアンジュが噛みついてくる。相手は人類より遙かに膂力に優れたドラゴンだ。基本的な力は勿論向こうは飛んだりしてくる。幾らシュウジが強いと言ってもドラゴン相手では分が悪すぎる。

 

と、そんな風に思っているアンジュの思考を読んだのか、シュウジは不敵な笑みを浮かべてアンジュの頭に手を乗せた。

 

「私の心配は無用です。既にアレくらいの相手とはやり合っていますからね。ある程度の対処方は心得ていますよ」

 

「~~~~っ!!」

 

まるで駄々を捏ねる子供をあやす様に優しく諭すシュウジ、彼の掌から伝わってくる熱に一瞬だけ目を細めてしまったアンジュは、次の瞬間目を大きく開かせて震えながらシュウジの手を払いのけた。

 

「いいわ、そこまで言うなら精々頑張りなさい。もし喰われたりするなら笑ってやるんだから!」

 

「ククク、相変わらず勇ましいですね。……さぁ、早くおいきなさい」

 

 猛り狂うアンジュを適度に相手にしつつ、シュウジはドラゴンと向き直る。人とドラゴン、そのサイズ差から既に勝敗は見えている筈なのに何故か殺される未来が見えない。そんなシュウジを後に置き、タスクとアンジュはヴィルキスの下へ急ぐのだった。

 

───その後、ヴィルキスと共に戻ってきたアンジュとタスクはドラゴンとシュウジがいる筈の場所へと戻って来るのだが、そこには既に彼らの姿はなく、静かに川の水が流れているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 




今回の話のラスト。

主人公視点
ボッチ「この子治さんといかんし、若い二人ははよ行った」

アンジュ&タスク視点
ボッチ「時間を稼ぐのもいいが、別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」

ドラゴン視点
ボッチ「これで邪魔者はいなくなった。さぁ、始めようかぁ!!」(クウラ感)

次回もまた見てボッチノシ

……クロスアンジュは色々ヤヴァイと改めて知った。

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