『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回は日常篇。ゆっくりしていってね。


その6

β月*日

 

 先の謎のIS……ゴーレムと呼ばれる機体が対抗試合に乱入してきて数日。漸く落ち着きを取り戻したIS学園は今日も平和な時を過ごしていた。

 

学園に襲撃してきたゴーレム。織斑先生の判断により機密扱いとなった今回の一件は全校生徒に箝口令を命じ、この件に関する一切の情報を公開することを固く禁じる事にした。

 

一見横暴にも聞こえる今回の話だが、広い視野で語れば決して軽くはなく、織斑先生の判断は妥当とも言えた。

 

何せ通常なら考えられないISのコア、それが新しく発見され、尚且つ無人機としてIS学園に襲撃してきたと知られれば、世界は軽く大混乱に陥るからだ。

 

ISの中心部分となるコア、それを製造出来るのは現段階において開発者である篠ノ之束博士以外に存在せず、故にISはコアを含めた467機が絶対数となっており、それ以上増える事はないとされている。

 

何故467機なのか、コアを生成する事が出来る束博士の気紛れなのか、それとも何かしらの意図が絡んでいるのか、そこら辺も含めて謎の多い人物なのだが……まぁ、凡人である自分には天才の思考など読める筈もない為、その辺りは捨て置く事にする。

 

その467が絶対数となるIS、そのコアが新たに一つ増えたとなれば世界各国の企業や軍事組織はこぞってコアの獲得を狙う事だろう。

 

そうなればIS学園の条約も大国のごり押し政策で撤廃される事もあり得る。そうなってしまえば……IS学園は存亡の危機にまで及ぶ危険性がある。

 

だから織斑先生は学園の全生徒、教員に今回の件に関する全ての情報の公開を禁じた。無論、自分達用務員もその対象だ。

 

まぁ別にそれは構わない。例のゴーレムは一夏君がコアごと両断したし、今更それを気に掛ける必要もない。

 

解せないのは束博士だ。何故博士はワザワザ学園にゴーレムなんて無粋なモノを送り込んで来たんだ? 目的は……やはり一夏君なのか?

 

それとも、博士以外の人間がコアの謎を解き明かしたのか、疑問や疑惑は尽きないが、今はそれは置いておこう。ぶっちゃけ興味ないし。

 

 それよりも、現在気になるのは一夏君のその後と簪ちゃんのこれからだ。簪ちゃんの武装は簪ちゃんにあったモノでないといけないため彼女の意見も聞き入れなければならない。

 

通常の用務員からは逸脱した行いだが……まぁ、別にいいだろう。織斑先生も黙認してくれてるし、何より簪ちゃんがやる気になっている。今は彼女の打鉄弐式の調整を手伝っている程度だが、そろそろ本格的に手を加えてもいいかもしれない。

 

一応元となるデータには幾つか候補がある為そこは問題ない、後は簪ちゃんがどれに興味を示すかだ。

 

 ───最近、やたら視線を感じる。明らかに敵意を持っているけど……別にいいか。

 

だって、視線の犯人は大体見当ついているから。確かに妹に自分みたいな無骨な男が近付けば気になるだろうけど、言いたい事があれば直接言いにくれば良いのに。

 

最初の時の織斑先生といい、この学園の実力者の間では分かり易く気配を消す事が流行っているのだろうか?

 

 

 

β月※日

 

 今日、簪ちゃんのお姉さんに遭遇した。更識楯無(さらしきたてなし)ちゃん。ロシア代表のIS操縦者でこの学園の生徒会長であり、通称IS学園最強の人。

 

何でも妹の簪ちゃんに悪い虫が付かないよう自分を監視していたらしく、ここ最近自分の後を付け回していたのだとか。

 

尤も、まさか自分に後ろを取られるとは思わなかったのか、出会った時は酷く狼狽していた。

 

多元世界ではガモンさんや不動さん以外に見つかる事の無かった数少ない自分の特技、通称“かくれんぼモード”。この世界でも通用するかもと試しに更識家の当主に使用した結果……効果は抜群のようだった。

 

その後は尊大な態度で自分に警告をする彼女だが、最初に彼女の驚いた顔を見てしまった自分としては笑いを堪えるのに必死だった。

 

ともあれ、一介の用務員が生徒の長である彼女に反抗的な態度をするのは流石にまずいので、適当に相槌を打った後、簪ちゃんの待つ整備室へと向かった。

 

後ろを振り返ればグヌヌと表情を歪める楯無ちゃん。ちょっぴり悪ふざけが過ぎたなと後悔しつつ、簪ちゃんの下へと向かった。

 

 因みに簪ちゃんの武装はこの時決まった。試しに幾つか提示した戦闘データが彼女の興味を大いに惹きつけたらしく、こんな風にしてみたいという彼女の強い要望の下、作業は進むこととなった。

 

 

 

β月V日

 

 今日、一夏君のクラスに転校生がやってきた。フランスの代表候補生にしてデュノア社の令嬢で、男として学園にやってきた才女、シャルル=デュノアちゃん。

 

最初シャルルの名を聞いて自分は焦った。かのブリタニア皇帝みたいな子だったらどうしようと、あのロール頭を揺らしながらISを操縦したりするのだろうかと戦々恐々の思いだった自分は、一夏君の紹介で会ってみると……普通に可愛い子で凄く安堵した。

 

本人はあくまで男性として振る舞っていたが…ぶっちゃけバレバレである。声帯や顔付きもそうだが、何より体つきがこの歳の男性とは余りにも違っていた。女性特有の体付きをしているデュノアちゃんに自分は最初は危惧したが、織斑先生が黙認している所をみると、どうやらこれは色々思惑が絡んだ厄介な事例のようだ。

 

確かデュノア社はISの開発で一役買った大手の会社のようだが、近年は次世代の機体の開発に伸び悩んでいると聞く。

 

三世代のIS開発に幾ばくか遅れを取っているデュノア社は近い内にIS開発の権利を剥奪されるという噂もある事だし、シャルルちゃんを送り込んできたのも大体はそんな所なのだろう。

 

大方男性操縦者の一夏君のデータを取り、情報を独り占めしようと画策しているのだろうけど、見通しが甘すぎる。懸命に男として振る舞っているシャルルちゃんだが、端から見れば違和感ありまくり、あれではバレるのも時間の問題だろう。

 

それを知り、自分から告白する事を願って織斑先生も敢えて黙認しているのだろう。一夏君や山田先生も気付いていないフリをしているし、自分も暫くはそっと遠巻きから様子をみようと思う。

 

因みに、自分の最初どうして今まで男の操縦者の存在を隠していたのかという質問に対し、本人は社会的混乱を防ぐ為と尤もらしい事を言ってるが……果たしてそんなバレバレな偽装がいつまで保つのやら。

 

 

 

β月O日

 

 ────今日、またもや転校生が現れた。今度の転入生は煌びやかなブロンドヘアーなシャルルちゃんとは正反対の艶やかな銀髪の少女、ラウラ=ボーデヴィッヒちゃん。ドイツの代表候補生で現役バリバリの軍人さんで、なんと、あの織斑先生の教え子なのだという。

 

織斑先生の教え子という事もあり、厳格そうな雰囲気を纏うこの娘、どうやら転校初日にいきなりやらかしてしまったようなのだ。

 

HRの最中、自己紹介が終わった直後、有無を言わさずに突然の平手打ちを一夏君にかましたのだという。突然の事態に誰もが呆然し、殴られた一夏君自身も何が何だか分からなかったという。

 

その時はクラスが騒ぎ出す前に織斑先生が鎮め、暴力を働いたラウラちゃんにも戒めの言葉を送り、その場はひとまずそれで収まった。

 

 ……なんというか、ラウラちゃんも随分ぶっ飛んだ子だよなぁ。個性的というか何というか、軍人が一般人を殴りつけて大丈夫なのかとか、色々心配事は尽きないけれど、当事者ではない自分が割り込んでも話がややこしくなるだけなのでこの事はあまり干渉しない方がいいだろう。

 

何やら混み合った話のようだし、織斑先生も自分が原因の様だからそれとなく話をしておくと言っていたし、今はそっとしておこうと思う。

 

 ───と、最初はそう考えていたのだが、この日の特訓で事態は少しばかり変わってしまった。ここ暫く簪ちゃんにばかり構っていたので今日は一夏君の様子を見る事になった自分は、簪ちゃんに今日は休むように言った後、アリーナに訪れた。

 

箒ちゃん、セシリアちゃん、そこに中国の代表候補生である凰鈴音(ファン・リンイン)ちゃんとシャルルちゃんを交えた四人による特訓は一夏君に色々と刺激を与える事だろう。

 

ただ、シャルルちゃんを除いた三人は指導にやや不向きのようで一夏君は苦労していたが……まぁ、直接手を合わせただけでも経験にはなるのでそれは別にいいだろう。

 

その後、シャルルちゃんを交えて一夏君に助言する事になったのだが、その途中彼女が乱入してきた。

 

ラウラちゃん。彼女の専用機である“シュヴァルツェア・レーゲン”を纏い、ピットに佇んでいた彼女は一夏君を認識すると同時にいきなりレールガンをぶっ放してきたのだ。

 

突然の事に反応が遅れてしまった一夏君達、箒ちゃん達三人はISを纏っていなかった事もあって非常に危ない所で、自分は咄嗟に三人娘の前に立ち、グランゾンを出す準備をした。

 

 放たれた弾丸は一夏君達に当たる事なく地面を穿ったのだが、それでも砕けた礫が飛んでくるのでそのまま回し受けや蹴り、正拳突きなどして防いでいたのだが……一つ、壊し損ねた礫が自分の額に直撃した。

 

避ける事も出来たのだが、それだと後ろの女の子達に当たってしまうと思い敢えて受ける事にしたのだが……これが少しばかり効いてしまい、情けなくも怪我を負う事になってしまった。

 

怪我自体は大した事がなく、血も少ししか流れず、止血もすぐに出来たのでそんなに騒ぐ事はなかったが、一夏君にとっては許されない事らしく、珍しく彼は激しく怒っていた。

 

その時は自分が一夏君を止め、駆けつけてくれた教員がラウラちゃんを諫めた為大事にならずに済んだのだが……ラウラちゃんは態度を改める事はなく、寧ろ怒った一夏君を挑発するように笑みを浮かべていた。

 

……ホント、今日は色々マズったなぁ。自分が余計な事をした所為で一夏君達を焚きつけてしまったし、簪ちゃんにも心配を掛けさせてしまった。仕事も途中で休む事になってしまい十蔵さんに負担を掛けさせてしまったし、織斑先生に至っては頭を下げさせてしまった。

 

平和な世界にきて色々安心していた自分だが、どうやら少しばかり弛んでいたらしい。明日からは簪ちゃんの手助け以外にも自分を鍛え直した方がいいのかもしれない。

 

グランゾンも全然動かしていないし、偶には自分の機体の整備をしてもいいのかもしれない。

 

 

 

 




QラウラちゃんにはOHANASHIしないの?

A作者は好きな食べ物は後に取っておくタイプです。

Q主人公は隠れていた楯無の事にいつから気付いていたの?

A気付くという事は気付かなかった時があったから言える台詞であるため、
つまりは……そういう事です。


主人公視点
主「妹さん想いなんだね。でももう少しやり方を変えて欲しいかな?」

楯無視点
主「生半可な技量は命を落とすぞ? 小娘」
楯無「なん……だと?」


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