『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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さぁみんな集まって、恐怖劇(グランギニョル)が始まるよー(まる子感


その10

 

 

 

 アケノミハシラ。各国の象徴とも呼べる塔の前、爆破された処刑台の前、突然起きた出来事に誰もが愕然としていた。

 

ミスルギ皇国の人々も、処刑を命じたジュリオ皇帝も、その妹であるシルヴィアや潜入工作をしていたリザーディア、助けられたアンジュ本人もその侍女モモカもアンジュを助けようとしたタスクも、誰も彼もが舞台の上に佇む仮面の男を凝視していた。

 

その男の名は……蒼のカリスマ、自らそう名乗り、仮面の奥で笑う彼は間違いなくこの場の支配者だ。ジュリオ皇帝やアンジュではなく、正体不明の仮面の男がこの舞台の主役となっていた。

 

白いコートで身を包み、空や海よりも深い蒼の仮面。異様な佇まいと風貌は明らかに異常者のそれ、しかし、悠然と佇む彼の姿勢から何故か目を逸らす事が出来なかった。

 

 本来主役になる筈だったジュリオはその事実に気付く。他者よりも人一倍自己顕示欲の強いジュリオ皇帝は感情のままに近衛兵に命令を下した。

 

「な、何をしているか! 早くあの不届き者を捕らえよ!」

 

「は、ハッ!」

 

ジュリオの命令に従い、複数人で一斉に取り押さえようとする近衛兵達。包囲されながら突っ込んでくる彼等に蒼のカリスマは再び仮面の奥で含み笑いを浮かべ……その場で跳躍し、近衛兵達の包囲から脱出する。

 

「な、なぁ!?」

 

その光景にジュリオは愕然とした声を漏らす。当然だろう。何せその場に立っていた筈の人間が垂直に五メートルも跳んだのだ。彼が驚くのも無理はないだろう。事実、非常識な身体能力を持つ蒼のカリスマに国民達は呆然としていた。

 

跳んだ時と同様に難なく地面へと着地する蒼のカリスマ。この時漸く我に返ったアンジュはいつまでも離そうとしない仮面の男にいい加減離せと訴えた。

 

「ちょ、いつまで抱えているつもりよ! さっさと離しなさい!」

 

「ん? あぁ、これは失礼した」

 

腕の中で暴れるアンジュ、力一杯暴れているにも関わらず、まるでビクともしない男の腕力に驚いていた瞬間、蒼のカリスマは簡単な謝罪と共に彼女を解放した。

 

突然離された事により自由落下するアンジュはそのまま地面に尻を付き、衝撃と痛みで短い悲鳴を上げる。

 

 アンジュが無事。一連の出来事の末に慕っていた彼女の身を案じていたモモカは仮面の男にギャーギャーと噛みつくアンジュを見て安堵する。

 

だが、依然として状況は不利のまま、大多数の近衛兵に囲まれていた状態では危機を脱したとは言えない。それに加え、ここでジュリオは目の前の仮面の男とアンジュの両方を捕まえる策を閃く。

 

確かにあの蒼のカリスマなる男の身体能力は凄まじい。アンジュもあの世界の果てで生き抜いていた事から相当腕に自信がある事だろう。

 

しかし、まだジュリオの手には切り札が残されている。近衛兵に挟まれたモモカを一瞥したジュリオは二人に届くように声を張り上げる。

 

「そこまでだ! それ以上動けば、この小娘の命はないぞ!」

 

「っ!」

 

「なっ!?」

 

予想通り。二人とも動きを止めた事にジュリオはしてやったりと笑みを浮かべる。勝利を確信したジュリオは再び主役へと返り咲き、ノーマと反乱分子を始末し、国民の支持を得ようと瞬時に画策するが……。

 

「この、モモカをはな───」

 

アンジュがモモカの身柄を解放しろと言い切る前に、彼女の横を何かが飛んでいく。同時にモモカの両側にいた近衛兵の銃を持つ手に何かが突き刺さり、近衛兵達は悶絶し一瞬だけモモカから離れてしまう。

 

一体何が起きたのかとジュリオは混乱する。悶絶している近衛兵二人をみると、彼等のそれぞれの手の甲に五寸釘相当の木材の破片が突き刺さっていた。

 

その様子を見て近衛長のリィザは気付く。あれは爆破された際、砕けた処刑台から手にしたもので奴はそれを使いモモカを人質に取ろうとした近衛兵二人だけに向けて投擲したのだと。あれだけの一瞬の出来事にここまで対応出来る仮面の男に戦慄を覚えるリィザだが、この時既に状況は彼女の考えていた一歩先へと進んでいた。

 

 手の甲に突き刺さる木材に悶絶する近衛兵、当然そんな隙を見逃す筈もない蒼のカリスマは己が脚力を最大限に活かし、踏み込んだ瞬間、モモカのいる所へ移動してみせた。

 

「────せ」

 

蒼のカリスマの一連の行動、速すぎてまともに目視できなかったアンジュは呆然となりながら最後の台詞を呟いた。その頃にはモモカを拘束していた近衛兵二人は地に倒され、彼女の身柄を確保していたのだった。

 

「ひ、ひぃぃぃっ!」

 

倒れた近衛兵を見て、車椅子の少女シルヴィアは絶叫を挙げて気絶する。唐突に起こった事態、まるで演劇を見ているような景色に国民達は暫く呆然としていたが、血を流して倒れる近衛兵と悲鳴を挙げて気絶するシルヴィアを目の当たりにして彼等の感情は一斉に吹き出してしまう。

 

「う、うわぁぁぁっ!」

 

「ば、化け物!」

 

「逃げろ! 殺されるぞぉぉぉっ!!」

 

蒼のカリスマという謎の人物の乱入、それにより生まれた悲劇。これらによって思考をかき乱されたミスルギ皇国の国民達は我先へとばかりにその場から逃げていく。

 

 パニックを起こした嘗ての自国民に若干引き気味のアンジュだが、ほんの少し……1ミクロン程同情してしまう自分がいた。

 

「全く、化け物とは随分ご挨拶ですね」

 

「あ、あの……アナタは?」

 

「貴女も、そんな事を気にしている場合ではないでしょう? さぁ、早く彼女の下へ……」

 

「は、はい! ありがとうございます! カリスマさん!」

 

 助けられた事を理解し、助けてくれた蒼に頭を下げて礼を言い、モモカはアンジュの所へ走り寄る。アンジュの手によってマナの光による拘束具から解放されたモモカは泣きじゃくりながらアンジュに何度も謝り倒した。

 

恐らくは自身の知らない間にアンジュをここへおびき寄せる餌になっていた事を悔いているのだろう。何度も謝るモモカの頭をアンジュは撫でながら気にするなと囁いている。

 

麗しい友情だ。寄り添っている二人を見て少しばかり感慨深くなるが、今はそんな事を許される状況ではない。さてと、と周囲を囲んでいる近衛兵達を一瞥しながら、蒼のカリスマはここにいない誰かに言葉を投げかける。

 

「さて、もうそろそろ良いでしょう。出てきても良いですよ」

 

一体誰に向けての言葉なのか、アンジュ達が一瞬頭に疑問符を浮かべたその時、処刑場に閃光弾が投げ込まれた。

 

炸裂する光と音、蒼のカリスマを除いた全員が音と光にやられた時、処刑場から少し離れた所から一機のパラメイルが姿を現した。

 

蒼のカリスマの言葉に合わせて現れたパラメイルのパイロットは機体の出力を調節してジュリオ皇帝に肉薄し、彼の手にしていたアンジュの指輪を奪い返した。

 

突然の衝撃と痛みにジュリオは堪らず指輪を手放す。肘にまで伝わってくる痛みに悶えながらうずくまると、漸く視力を取り戻したのか視界に絵が映し出されていく。

 

 一体何が起こったのか、アンジュは取り戻しつつある視力で目を開くと……。

 

「た、タスク!? どうしてアナタがここに!?」

 

「ごめんアンジュ、出てくるタイミング逃しちゃって……」

 

パラメイルに乗っているのはいつぞやの無人島で出会った少年、タスクだった。突然過ぎる再会に戸惑うアンジュだが、今はそんな場合ではない。そろそろ視力を取り戻した近衛兵が再び自分達に襲いかかってくる頃だ。

 

「それよりも今は早く乗って! この国から脱出するよ!」

 

「わ、分かった。モモカ、行くわよ!」

 

「は、はい!」

 

アンジュとモモカ、二人が乗り込んだ事によりタスクのパラメイルは満員となる。早い所逃げなければならない状況だが、彼等にはまだ気掛かりが残されている。

 

近衛兵の包囲網の中、悠然と佇む蒼のカリスマ。命の恩人である彼をこのまま置いていいのかとアンジュは葛藤するが……。

 

「私の事はいいから、早くいきなさい。───アンジュちゃん」

 

「っ! アナタ、まさか……」

 

彼の口からこぼれる口調にアンジュは蒼のカリスマが何者なのか理解する。此方の神経を逆撫でする様な丁寧語、まるで自分を子供扱いする様な態度、そんな風に自分に接してくる奴はアンジュの知る限り一人しかいない。

 

「こんの……バカにして! 今度会ったら覚悟しなさい! 絶対にブン殴ってやるんだからぁぁっ!!」

 

「ヒルダちゃんに宜しくねー」

 

 憤慨したままミスルギ皇国を去っていくアンジュ達を見て、蒼のカリスマは呑気に手を振って見送った。……今この場に残っている者はミスルギ国民を除いて己一人、既に四方八方に近衛兵達に囲まれており、銃器で狙われている。

 

しかし、蒼のカリスマはそんな事など意に介さぬ様子で皇帝であるジュリオに声を掛けた。

 

「さて、これで私の役割の八割は終了しました。後は残った二割の対処をするだけですが……ジュリオ皇帝陛下、一応訊ねますが……このまま私達を見逃してくれるという選択は、ありませんかね?」

 

「…………」

 

蒼のカリスマから放たれるその言葉にジュリオ皇帝からプチンと何かが切れる音が聞こえた。これはアカン。皇室に侵入してから見た事のないジュリオの表情に側に控えていたリィザはこれから起こる出来事に巻き込まれないよう距離を取った。

 

 ───自らの野望を打ち砕き、妹を逃がし、あまつさえ見逃せというテロリストに遂に神聖ミスルギ皇国の初代ジュリオ皇帝は遂に堪忍袋の緒が切れた。

 

「────ぶっ殺せぇぇぇぇっ!!」

 

最早品性の欠片も感じられない雄叫び、しかしこの時のジュリオに逆らう意志のない近衛兵達は命令のまま、目の前の仮面の男の抹殺を行う。

 

飛び交う強襲ヘリ、地ならしをしながら迫り来る装甲車、ミスルギ皇国の全兵力があつまりつつある中……。

 

「ふむ、やはりこうなってしまいましたか。此方としてはもう少し穏便に済ませておきたかったのですがね」

 

迫り来る装甲車が蒼のカリスマに迫っていく。

 

「正直、荒事は苦手ですが……アンジュちゃん達が逃げ切るまでの時間稼ぎは必要ですし───仕方ありませんね」

 

このまま押し潰してやる。装甲車に乗る近衛兵が丸腰の相手に愉悦に浸った瞬間……。

 

「───前蹴り」

 

蒼のカリスマを押し潰す筈だった装甲車は地盤ごとめくり上げられ、亀の様にひっくり返される。

 

目の前で起きたこの出来事に再び周囲の空気は凍り付く。誰もが目を剥かせる程目を見開く中で。

 

「では、少しだけ相手させて頂きましょうか」

 

仮面のテロリスト、蒼のカリスマはその仮面の奥で不敵に笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇月π日

 

 アンジュちゃん達を何とかミスルギ皇国から逃がした翌日、現在自分はアルゼナル近くの海域に潜伏しています。

 

あの後どうにかミスルギ皇国から抜け出した自分だけど、いやーしつこかったねジュリオ君。あのしつこさは多元世界で見かけたカン=ユーと似ている所があるよね。一度しか見かけてないけど。

 

しかしあの装甲車、思っていたより軽かったよな。もしかして機動性を高める為に軽量化もしているのかな? だとしたらあんな簡単にひっくり返るのも頷けるけど……ねぇ。

 

幾ら重心をずらしただけとはいえ、あんな風になるなんて普通は有り得ないぞ? 個人的なイメージだが装甲車や戦車というモノは堅くて重いという印象があるからな。確かに軽ければ機動力もあるけれど、その為にちょっとした衝撃でひっくり返るとか、笑い話にもならない。

 

まぁ、そのおかげで自分もミスルギ皇国から逃げ切れたのだから別に良いんだけどね。

 

 しかし、今後ジュリオ君の国はどうなるのだろう。流石にここまで失態を犯せばこの世界での発言力とかに影響出てきそうだし、あの様子では暫く落ち着いた政務も出来そうにないからなぁ。

 

つーか、ぶっちゃけジュリオ君てば皇帝の器じゃなくね? 個人の能力とかそういうの抜きで。

 

いやね、自分が抱く皇帝ってイメージはどうもジュリオ君とは合わないんだよね。これも自分の勝手なイメージだけど皇帝というのはもっと凄い奴だと思っているからさ。

 

かのシャルル皇帝とか。あの人も直接会ったのは一度しかないから何とも言えないけど、威厳は滅茶苦茶あったよね。後はトレーズさんとかかな? あの人もカリスマ性は半端ないし。

 

ああ、ナナリーちゃんもかな? 可愛いは正義とか良く言ったものである。この理屈なら五飛君も納得するのではないだろうか?

 

 ……話がだいぶ逸れたので戻す。結局自分はミスルギ皇国のアケノミハシラには潜入する事は叶わず、アウラとエンブリヲの捜索は次回に持ち越す事になった。

 

取り敢えずそれまでにサラちゃん達と連絡を取ってコレまでの調査報告をしたい所なのだが……一体特異点はいつ開かれるのだろうか? 出来れば早めにして欲しいものである。

 

後はアルゼナルの司令官、ジルさんにもこの事を伝えた方がいいのかもしれない。彼女の企てるリベルタスなる計画にもアウラ奪還は必要になってきそうだからな。

 

とすると、今度自分がすべき事はサラちゃん達とアンジュちゃん達、二つの世界の反抗勢力を一つにするよう架け橋にする事かな?

 

難題だけど出来ないことはない。気持ちを強く持って積極的に行こうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




サリア「プリティサリア、参上!」
蒼スマ「ククク……蒼のカリスマ、推参」

蒼サリ(……何だろう、この親近感)

サリア、コスプレ仲間が出来るかも?

次回もまた見てボッチノシ


追伸。
話が長くなってきたので短編から連載に変更しました。

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