『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回は決戦前夜な話

次回以降も日記要素は皆無です。


その21

 

 

  ────決戦前夜。アウラ奪還の為にノーマとドラゴン、二つの陣営は明日に備えて今日まで出来る限りの事を尽くしてきた。向こう側の地球に送り込んだ事にリザーディアからアウラの居場所を突き止めたドラゴン達は明日、いよいよアウラをエンブリヲの手から取り戻すために行動を開始する。

 

シュウジ=白河という人間が提案した準備段階を経て、遂に進軍する目途の立ったサラマンディーネ達を始めとした幹部達は既に都周辺に多数のドラゴン達を呼び集めている。

 

その数はこれまで敵対していたアルゼナルの者達が驚愕するほどまでに増え、今も空を埋め尽くす程のドラゴンの軍勢が都に向かって集結している。全てはアウラを取り戻す為、その一点に目的を集中しているサラマンディーネを始めとしたドラゴン陣営の面々はその瞳に既に準備は万全となっていた。

 

それに対しノーマ達は出撃するメンバーに付いて多少だが揉めてしまっていた。これまで世界を守る為、人間達を守る為だと思い込んできた自分達がていの良い捨て駒扱いされていたという事実を前に多くのノーマ達が戦意を喪失していたのだ。

 

無理もない。幼い頃から……それこそ、まだ自我なんてモノが存在していない赤子の頃よりそのような在り方を刷り込まされてきた彼女達にとって存在意義を失ったも当然なのだから……。

 

けれど、騙された事に対し怒りを覚えて闘志を燃やすノーマも確かに存在した。よくも好き勝手やってくれたと、人間に対する怒りと憎しみをたぎらせて立ち上がった彼女達は皆ドラゴン陣営と協力する事を良しとした。

 

ノーマ達の代理代表であるジャスミンもまたドラゴン陣営に協力する事に賛成している。今度こそノーマ達を解放し、自由を得るのだとやる気を持つノーマ達をまとめ部隊編成に乗り出した。

 

 ノーマ達を解放する為、アルゼナルからアウラ奪還の協力する事になったジャスミンは任意でこの作戦に協力する者達を集った。

 

戦力は多い方に越した事はない。しかし戦う気力の無い者達にまで戦いを強要させてもそれは足を引っ張る要因にしかならない。幼年部の子供達は仕方がないにしてもジャスミンはやる気のない者達を無理矢理連れて行く事はしなかった。

 

「エルシャ、本当にいいの?」

 

「えぇ、あの子達に必要なのは守る事じゃない。自由という未来に続く為の道よ、そしてそれはあの子達の側にいるだけでは成し遂げられないから……それに、子供達は都にいるヴィヴィちゃんのお母さんやここに残るドラゴンさん達に面倒を見て貰える事になったから、安心して任せられるわ」

 

アウローラの格納庫内でアウラ奪還作戦に参加する事になったエルシャ、自分にとって宝当然である子供達を守る為に悩んだ末に出した結論にヴィヴィアンは嬉しそうに笑った。

 

「けど、そういうヴィヴィちゃんの方こそいいの? 折角お母さんに会えたんだからもっと甘えてきてもいいのよ?」

 

「うん、それは帰ってきてからするー! 帰ったらまた皆でバーベキューしようねー!」

 

エルシャの返しの質問に対し、ヴィヴィアンも笑顔で言い返した。明日行われる作戦はこれまで行われたどの戦いよりも規模の大きい戦闘になる筈、しかしヴィヴィアンには皆で帰ってくるという決意を固めている。いや、既に勝った気でいると言った方がいいかもしれない。

 

相変わらずな彼女に対し、エルシャは一瞬呆気に取られるが、変わりない少女にエルシャもまたクスリと微笑んだ。

 

「いよいよ明日か~、アタシ、生き残れるかなぁ?」

 

「何だよロザリー、今頃ブルってんのか?」

 

 一方、最後の決戦を前に緊張で身を固めるロザリーにヒルダが茶々をいれていた。ロザリーからしてみれば明日行われるのは今まで自分達を支配してきた人間達との戦争、緊張するなと言う方が無理な話である。

 

「大丈夫だよロザリー、ロザリーの事は私が守ってみせるから」

 

「く、クリス?」

 

そんな彼女に意外や意外、これまで物静かな女として知られてきたクリスが大胆な言葉遣いでロザリーに迫ってきた。これまでとは違いキリッとした表情をするようになったクリスにロザリーは思わずドキッと胸を高鳴らせてしまう。

 

「必ず皆で生き残るんだ。ヒルダや私第一中隊の皆……うぅん、明日戦う皆で戦って人間達に思い知らせるんだ。私達を舐めるなって」

 

やだこのクリス格好いい。これまでの印象とは違いやたらと逞しくなった彼女にロザリーはまたもやキュンと胸が鳴り、隣にいるヒルダも思わず見とれてしまった。

 

しかし……。

 

「そしてその後は世界中に教えてやるんだ。シュウジ×タスクの素晴らしさを×××(ズキューン)×××(バキューン)×××(シャバドゥビタッチヘンシーン)な素晴らしき世界を皆に教えて上げるんだ。ウフフフ」

 

不気味な笑みと共にそんな事を口にするクリス、そんな彼女に二人は心の中で距離を取った。何を言っているのか全く理解出来ずにいるヒルダとロザリー、しかし明日生き残るつもりでいるクリスに幾分か元気を分けて貰えた事にロザリーは苦笑いを浮かべる。

 

その手からは既に緊張の震えは止まっていた。

 

「アンジュはさ、明日の戦いが終わったらどうするのさ?」

 

「何よタスク、藪から棒に」

 

 唐突に訊ねられるタスクからの質問にアンジュは訝しげに眉を寄せる。これまでアンジュは必死に生きてきたアンジュにとって未来という言葉はあまり意味を成さなかった。殺し殺されるが当たり前の日々、今日を生きる事に全力だった彼女は先というモノに目を向ける余裕などなかったから……。

 

しかし、明日行われる作戦が上手くいけば全てが変わる。迫害され続けてきたノーマも人間から解放され、自由を手にする事が出来る。既に多くのノーマ達がこの地球での生活に慣れ始めている。ドラゴン達との蟠りも無くなりつつあるからここで生活を続けていけば自ずと平穏は得られる様になる。

 

ならその後はどうするか、アンジュは腕を組んで少しばかり悩んで見せるが、すぐに何か思い付いたのか、表情を明るくさせてタスクに言う。

 

「あいつを、シュウジ=白河をブン殴る。今は取り敢えず、これを目標にしてみるわ」

 

 未だ初対面の時のことを根に持っているアンジュ、彼女の悪戯の混じった笑みにタスクもまた笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで? 一体私に何をさせようっていうんだ?」

 

 アルゼナル反省房。部隊で規律を乱した者や命令を違反した者が放り込まれる反省房という名の牢獄、柵に囲まれた牢屋の中で元アルゼナル司令官であるジルは柵の向こう側に佇む男───シュウジ=白河を敵意剥き出しで質問する。

 

「ジル司令官、アナタは優秀な指揮官だ。明日の戦いでは戦力だけでなく優秀な指揮官も必要となります。戦局は混乱を極める事でしょう。一人でも多くの仲間を生還させる為、今一度司令官の立場に戻ってきてはくれませんか?」

 

シュウジの口から告げられる言葉、司令官に戻れという言葉にジルは一瞬目を見開くが、次には興味はなさそうに視線を逸らし、独房から見える空を眺める。

 

「既にジャスミン女史とマギー医務官から許可を戴いています。アナタが戻ってくれるのなら、サリアさんを始めとした部隊の皆さんの士気も上がる事でしょう。ですから……」

 

戻ってきてください。そう口に仕掛けた時、遮れる様にジルが口を開く。

 

「既に私達のリベルタスは崩壊した。貴様の所為でな……最早私に出来る事はない。ジャスミンを指揮官にとっとと片付けてしまえばいい。お前の機体、グランゾンだったか? アレを使えばアウラとやらもさっさと取り戻せるのだろう?」

 

だからもう私に構うな。そう言外に語るジルはそれ以降口を開こうとせず、シュウジに目を向ける事はなかった。彼女のあからさまに拗ねた態度、まるで自分の思惑通りにいかない状況に拗ねるジルにシュウジは一度だけため息を吐き……。

 

「どうやら、私の言い方に問題があった様ですね。ならば改めて言います。このまま負け犬になりたくなければ、今すぐにそこから出て来なさい。アレクトラ=マリア=フォン=レーベンヘルツ」

 

「っ!?」

 

自分の本当の名前を呼ばれた事にジルの目は大きく見開かれる。何故自分の素性をこの男が知っているのか、驚きと苛立ちを露わにする彼女は無意識に舌打ちし、殺意の混じった視線を目の前の男に叩きつけた。

 

しかしそんな彼女の殺気をモノともせず、シュウジは冷ややかな目線で彼女を見下ろしていた。

 

「自分の名が知られた事がそんなに驚きですか? ガリア帝国元第一皇女殿下」

 

「貴様、どこでその名を」

 

「なに、大した話ではありません。アウラの所在を探るためにあちら側の世界で調べ物をしていた際、偶然見かけたから覚えていただけです。……アレクトラさん、いえ、ジル司令官。アナタがあちら側の世界でエンブリヲに何をされ、何をしていたのか敢えて問いません。ですが、もしその時の雪辱を願うのであればアナタは最後まで見届ける義務があるのではないのですか?」

 

「私に……何をさせるつもりだ」

 

「言ったはずですよ。見届けさせると、アナタはこれまでリベルタスの総指揮官として活動してきた。ならば最後の時まで付き合うのが筋というものでしょう」

 

「だが……私のリベルタスは終わった。お前によって終わらされてしまった」

 

「だが、まだ私達のリベルタスは終わってはいません。違いますか?」

 

私達のリベルタス。そう言われて俯いたままだったジルの顔が上がる。牢の前で佇む男の表情にはエンブリヲとは別のベクトルの恐ろしい程に綺麗な笑みを浮かべていた。

 

「アナタ達はアウラを奪還してエンブリヲの目的を防ぎ、私がエンブリヲを討つ。この二つの復讐をやり遂げて初めて私達のリベルタスは完遂される。……アレクトラ=M=F=レーベンヘルツ、今一度問います。ここから出て私達のリベルタスに幕を下ろしませんか?」

 

柵の間から伸ばされる手、それはジルから見て悪魔との契約の瞬間に思えた。嘗てエンブリヲに籠絡された時も似たように手を指し伸ばされたが今回のは違う。此方の意志を試すかの様な挑発的な手、そして不敵に笑みを浮かべるシュウジの笑み、まるで此方の考えることはお見通しだと言わんばかりに微笑むその顔に……。

 

「……いいだろう。シュウジ=白河、貴様達のリベルタス(復讐劇)に付き合ってやる」

 

いつかこの拳を叩き込む。そう決意したジルは義手である鋼の手でシュウジの手を掴むのだった。

 

 

 

 

 

 




雪泉ちゃんが可愛すぎて作者の股間がクロスマッシャー(挨拶



以下ネタバレ注意



Q今回ネオは出るの?
A時空の狭間って、なんか素敵やん?

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