『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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あと二、三話で終わらせたい所。


その22

 

 ドラゴン陣営本拠地、竜の都。アウラの奪還という最大にして最後の目的の為に今日まで堪えてきた彼女達はこの日、全てに決着を付ける為に最後の戦いへと挑もうとしていた。

 

都へ集められた大型小型を合わせた総勢数万に至るドラゴンの軍勢、飛行形態へと移行したアウローラとそれに載せられた精鋭達、全てはアウラ奪還とノーマの人間からの解放、目的は異なってもそこに至るまでの過程が同じである事を理解した両陣営は手を組むことで全ての元凶たるエンブリヲに最後の戦いを仕掛けようとしていた。

 

もうじき全てを決する戦いが始まる。決戦を前に緊張を高ぶらせる両陣営だが、ある一人の男がこの場にいない為、出撃命令が下されずにいた

 

一体あの男はこんな大事な時に何をしているのか。不安と苛立ちが募り始めた頃、都の神殿から医師を引き連れたシュウジ=白河が謝罪の言葉と共に姿を現した。

 

「遅れてしまい申し訳ありません。皆さん、準備はできていますか?」

 

「えぇ、アナタで最後ですわ」

 

「そうですか。それはよかった」

 

迎えにきていたサラマンディーネの皮肉も目の前の男には通じず、シュウジは後ろで控える様に佇んでいた女医師に向き直る。

 

「ではDr.ゲッコー、戦いが終わりアウラを取り戻したら例のモノをドラゴンの皆さんに投与してあげて下さい」

 

「は、はぁ……しかし、本当に大丈夫なのでしょうか?」

 

「成功確率は八割といった所でしょうか。副作用はないので仮に失敗しても害はありません。もし不安があるのでしたら一緒に渡しておいた抗薬剤も投与する事をお勧めしますよ」

 

「は、はぁ……」

 

「いったい何の話です?」

 

「此方の話ですよ。さ、そろそろ行くとしましょう。これ以上待たせるのは流石に拙いですからね」

 

サラマンディーネの質問に何も語らず誤魔化すシュウジ、不思議に思った彼女が医師のゲッコーに視線を向けてもゲッコーは顔にひきつった笑みを浮かべるだけだった。

 

一体なんの話をしていたのか、気にはなるが今はアウラ奪還に集中しようとサラマンディーネは愛機である焔龍號に乗り込んだ。

 

シュウジも重力の底からグランゾンを呼び出し、アウラ奪還作戦の戦線へと参加する。アウローラを旗艦とした軍団は目の前に開かれるだろう特異点の出現を待つ。

 

既に出来る限りの手は尽くした。エンブリヲのマナを介しての人間の操作を防ぐためにエマとモモカにマナの遮断装置を渡し、アンジュのヴィルキスを始めとした残存する全てのパラメイルの改修作業も終わった。特にヴィルキスに至っては乗り手……即ちアンジュの意志次第で本来の力を引き出せるよう細工をしておいた。

 

アウローラのブリッジには昨夜の説得の甲斐あってジル司令官も艦長席に座っている。準備は万全といっていいだろう。

 

 目的を達成させる決意もある。生き残る覚悟も既に完了しているしエンブリヲがどのような手段を取ってこようが一歩も引かない強い意志を持っている。

 

後は来るべき時を待つだけ、それぞれが持ち場に着いて特異点が開かれるのを待っていると、遂にその時がやってきた。

 

前方に開かれる特異点、円状に広がる空間の裂け目を目の当たりにした瞬間、ドラゴン達の長である大巫女が出撃の号令を掛けた。

 

瞬間、ドラゴン達は雄叫びを上げて特異点へ向かっていく。アウローラやサラマンディーネ達の龍神機もそれらに続き、全てに決着を付けるべく特異点の向こう側にある偽の地球へ攻め込んでいく。

 

空を埋め尽くす程のドラゴン達の軍勢、その壮観たる光景に誰もが希望を抱く。きっとアウラを助け出すと、自分達の光を取り戻してくれると信じて疑わないドラゴンの民達はその事を信じて特異点の向こう側へと消えていくドラゴン達を見送った。

 

しかし、グランゾンのコックピットに座るシュウジだけは眉間に皺を寄せて疑問に思っていた。エンブリヲという男は用意周到な男、果たしてのこのこ敵本陣にやってくる自分達をそのまま迎え入れるだろうか。

 

リザーディアによって得られたアウラの居場所、確かにそれは正しい情報の様だが、その事を奴が知らないとは到底思えない。奴の時空を操る能力の事も考慮するなら最悪、向こう側に辿り着いた先が見知らぬ土地に転移される事も想定しておかなければならないだろう。

 

勿論この事は大巫女を始めとした神官達、サラマンディーネやアンジュ達にも伝えている。その対策に物資は多く積んでいるし、いざとなればグランゾンのワームホールで一気にミスルギ皇国中心地に転移する方法もある。

 

 まだ色々と不安材料があるが、実戦は常に不確定要素が付きまとうもの、ここから先は自分達次第だと悟ったシュウジはやる気を漲らせて特異点を通過しようとする。

 

いよいよ決戦だ。アウラ奪還と向こうで待っているだろうリザーディアの回収に急ごうとした……その時。

 

『残念だが、君の出番はここまでだよ。魔人』

 

特異点の向こう側にある地球に出ようとした瞬間、どこからともなく聞こえてきた奴の声を耳にした瞬間……シュウジとグランゾンは二つの地球から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 多元世界にいた頃を振り返ると俺って大事な戦いの時に限って邪魔される事が多いよね。陰月が落とされる時もアサキムやアンチスパイラルに邪魔されたし、火星での時だってやたらデカい次元獣に宇宙まで叩き出されたし……もしかして俺、そんな呪いでも掛けられているのか? 烙印(スティグマ)的なモノでも知らない内に刻まれてるんじゃなかろうか?

 

そんな事を考えながら周りを見渡すと、アンジュちゃんのヴィルキスみたいな機体が無数に存在している。その外見と奴等から検出されるエネルギー値の高さから見て、どうやらこれら全てがラグナメイルである可能性が高い。

 

恐らくは今自分達がいるこの空間に関係しているのだろう。明らかに普通じゃないし、辺り一面広がる虹色のマダラ模様からみてここが地球ではない事は明白だ。

 

『久しいな蒼き魔神とその主よ。その様子だとここがどこなのか漠然的にだか理解している様だね』

 

そんな事を考えていると聞き慣れたムカつく声が聞こえてくる。顔を上げてみれば予想通り、例の黒いラグナメイルの肩に奴……エンブリヲの奴が佇んでいた。

 

『……一応聞いておく、ここはどこだ? 何故俺をこんな所に引き込んだ?』

 

『ここは時空の狭間、何者も干渉出来ず、時が止まった永遠の空間。君をここに連れてきたのは彼女達の中で一番強力なのは君だけだったという話さ』

 

『………』

 

『君とその機体は確かに強力だ。次元の壁すら破壊してしまうその力は過剰と言ってもいい。しかし、所詮は有限の力、無限の力を操れる私の前では意味を成さないよ』

 

見下しと勝利の確信の笑みを浮かべるエンブリヲに対し、俺は無言で見上げた。確かに奴の言うとおり、奴の能力は厄介だ。この空間に連れて来たのも自分が勝てる事を確信した上での行動だろうし、事実数だけみれば圧倒的不利なのは明らかだ。

 

だが、ここに連れてこられた事で分かった事がある。奴が持つ特異的な能力、それはこの空間とそれを引き出す奴の機体が答えなのだろう。奴やアンジュちゃんの駆るラグナメイルは時空間に干渉する機体だ。恐らく奴は自身と己の機体を何らかの手段を用いる事で同調し、この空間……つまりは不確定世界の力を引き出している事であの無敵性を有しているモノだとした。

 

だが、それは誰にも知られない事が前提となる技術だ。量子論の一つにもあるがそこに在るという確定した情報があれば不確定は不確定でなくなり第三者に届くまで堕ちる事になる。それを覚悟した上で自分を引き込むのは少しばかりリスクが高すぎるのではないだろうか?

 

……まぁ、状況から見るに自分をこの戦力でどうにか出来ると思っての行動なのだろうが。

 

『本来なら君をここにおいて永遠の時の流れに封じる事も考えたのだが、それでは余りに味がない。絶望を味わわせる為に君にはあるモノを見せたいと思う』

 

そういって奴の隣に映し出された空間に俺は息を呑んだ。特異点を越えてミスルギ皇国に向かったとされるドラゴン達とアンジュちゃん達が奇妙な嵐に飲み込まれようとしていたのだ。

 

『もうじき二つの地球は一つとなり新たな世界に生まれ変わる。君が守りたかったノーマやドラゴン達ももうじき消えて無くなるのだ。どうだい、絶景だろう?』

 

下卑た笑みを浮かべてくるエンブリヲに操縦桿を握る力が強くなる。二つの地球を一つにする事で新しい世界を創る。聞くだけでは何とも壮大な話だが、実際にみれば大量虐殺だ。何せ世界を融合させてしまうのだ。その余波に巻き込まれてしまう人間や生命は為す術なく命を落としてしまうだろう。何せ規模はサラちゃん達の地球で起きたモノと比べものにならないのだ。あれだけの規模の時空災害が起きてしまえば二つの地球に住む命は全て滅んでしまう。

 

……あぁ、漸く理解した。目の前にいる男は人間や他の生命体を命として見ていない。必要としているのは自分が使えると判断した駒だけだ。

 

『心配することはない。君もすぐに彼女達の後を追わせてあげよう。────』

 

 歌が聞こえる。奴が奏でる滅びの歌が時空の狭間に響き渡る度に奴の機体からエネルギー値が上昇していく。

 

他のラグナメイルも奴の機体に共鳴し、肩部分の武装を展開、光を収束し、時空収斂砲の発射態勢に入り……そして。

 

『それでは、さようならだ。異世界からの旅人よ』

 

奴が紡ぐ別れの言葉を口にすると同時に全方位から光の嵐が放たれ────。

 

 

 

 

 

 

“オン・マケイシヴァラヤ・ソワカ”

 

 

 

 

 

 

 

 

時空の狭間に光があふれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……バカな』

 

 その光景にエンブリヲは唖然となる。確かに自分が放った一撃は余すことなく魔神に直撃した筈だ。言葉によって油断を誘い、この空間の力を引き出す事により生み出したラグナメイルの軍勢によって魔神は討伐された筈だ。光に呑み込まれ、奴は跡形もなく消し飛んだ筈だ。

 

なのに何故、攻撃をした筈のラグナメイル達が無惨な残骸となって宙を漂っているのか。理解が及ばない光景に唖然となるエンブリヲの視界に……ふと、光が差し込んできた。

 

一体何だ? かぶりを振って見上げた彼の視線の先にいたのは────。

 

日輪を背負う蒼き魔神の姿だった。

 

 

 




現在天獄篇をプレイ中、何周かクリアしてシナリオを全制覇した頃に本編を書いていこうと思います。


以下天獄篇ネタバレ(嘘)注意


ヒビキ「スズネ先生」(イチャイチャ)
スズネ「ヒビキくぅん」(ラブラブ)

他の面々も絶賛イチャラブ中


AG「………イラァ」
ボッチ「縮退ブッパしてぇ……」

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