『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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天獄篇クリア!
個人的には結構楽しめました。




その23

 

 

 

 

 アウラ奪還とノーマの自由の為に偽りの星と呼ばれるもう一つの地球へ侵攻していったドラゴンとノーマの混合軍団、特異点と呼ばれるゲートを潜り抜けた先で待ち受けていたのはミスルギ皇国の大地と空、そして予め待ちかまえていたこの星の軍隊だった。

 

各国の軍を集結させた大規模の軍勢、それはミスルギ皇国の大地を埋め尽くす程の数にまで迫ったが、予めこの程度の障害は想定済みだった両陣営は構うことなく前進、ドラゴンとノーマによる同盟軍は真っ正面から人間達と交戦した。

 

物量では人間達の方が圧倒的に有している為、最初は圧され気味だったノーマとドラゴン達だが、アンジュがヴィルキスに秘められた力を引き出した途端に戦線は覆され、ドラゴン達の力も合わさってあっと言う間に戦況はアンジュ達の優勢となった。

 

シュウジが手を加えた事によりヴィルキスやパラメイルも強化され、旗艦とされるアウローラにもバリア耐久値に手を加えられていた事もあり被害は最小限に食い止められた。

 

 その後もアウローラに搭載された主砲によってミスルギ皇国の象徴であるアケノミハシラは破壊され、アウラがいるとされる地下への道が開かれる。

 

当初の予定通りサラマンディーネがアウラ奪還の為に地下へと突入し、その一方でナーガとカナメがこの地球に送り込んだリザーディアの捜索に乗り出した頃、それは起こった。

 

「な、何だよアレ!」

 

「竜巻? うぅん、もっとヤバそう……」

 

ロザリーが指さした方に現れる巨大な暴風雨、雷を纏わせながら此方に近付いてくる嵐に誰もが驚き、戸惑った。

 

あの嵐が普通のモノではないと知ったのは近くにいたドラゴンを呑み込んだ直後だった。二百メートルに及ぶ大型のドラゴンを成す術なく呑み込んでいく嵐にその場にいる多くのノーマ達が恐怖に呑み込まれ掛けた。

 

一体アレは何なのか、徐々に近付いてくる嵐に恐怖が伝播しようとした時、アケノミハシラ跡地の空洞から光が溢れ出した。

 

空を覆うほどの輝きを放つ光の正体は……アウラ。ドラゴン達の始祖と呼ばれる始まりのドラゴンの出現にノーマ達は危機的状況に晒されながらもその光に一瞬見取れてしまっていた。

 

『我が子らよ、そしてノーマの民達よ、私をエンブリヲの永きに渡る呪縛から解放して下さり誠に感謝します』

 

「喋った!?」

 

神々しい姿に相応しい丁寧な言葉で礼を口にするアウラ、まさかのドラゴンが言葉を話せるという事にノーマ達が戸惑う中、永い間宿願だった目的が果たせた事にサラマンディーネを始めとしたドラゴン達は感激に打ち震えていた。

 

だが、状況はそれを許さない。母なるドラゴンとの感動の再会を後回しにしたサラマンディーネはアウラに今この地球がどうなっているのか訊ねた。

 

「教えて下さいアウラよ。今、この地球では一体何が起こっているのですか?」

 

『……エンブリヲは私と複数のラグナメイルを使用し、時空融合を開始しました。間もなく二つの地球は時空融合によって統一され、全ての命は破壊し尽くされてしまうでしょう』

 

アウラの口から聞かされる終わりの言葉、次元の壁で隔たれていた二つの地球が時空融合で一つにする事で新しい世界となる。全ての命が犠牲となる事で生まれるという歪んだ世界が、もうすぐそこまで来ている。

 

そう報せるアウラの言葉にノーマもドラゴン達もただ呆然とした面持ちで聞いていた。

 

「ざっけんじゃないわよ。じゃあ私達は死ぬ為にここに来たって言うの? そんなの冗談じゃないわよ!」

 

認められない。そう声高に叫ぶアンジュは憤怒の形相でアウラを睨みつけた。まだ生きる事を諦めてない彼女はこの状況をどうにかする為の解決方法を考えた。

 

しかし、どうする事も出来ない。システムを作動させる為の歯車の一つでしかなかったアウラは申し訳ないと頭を垂れ、ただ済まないという言葉しか出せなかった。

 

作動したシステムを止めるには全ての元凶であるエンブリヲとその機体を同時に破壊するしかない。しかしそのエンブリヲ本人は既に時空の狭間と呼ばれる異空間へと避難している為、手出し出来ない所にいる。

 

既に世界の八割が時空の嵐に呑まれている。このままでは自分達も嵐に呑み込まれ、跡形もなく消されてしまう。徐々に押し寄せてくる死に恐怖する一行だが、ふとここでヒルダはある事に気付く。

 

「……そういえば、シュウジの奴はどこ行った?」

 

ここまで激戦続きだった為に一番戦力として期待していたシュウジとグランゾンがいない事に気付けなかったヒルダは辺りを見渡した。

 

ヒルダの言葉にそう言えばと他の面々も今更彼がいない事に気付き、こんな時にどこへと周囲を見る。と、その時だった。

 

すぐそこまで押し寄せてきた時空の嵐は突然吹き飛ぶように掻き消え、次の瞬間空間に亀裂が入り、眩い程の光が彼女達を呑み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────嘘だ。目の前に広がる光景にエンブリヲはただ否定の言葉を口する。嘘だと、有り得ないと、こんな事は何かの間違いだと、世界の調律者と自称する男はワナワナと震えながら自身の愛機であるヒステリカに寄りかかる。

 

眼前に広がるモノ、旧世界を滅ぼした機体が無惨に粉砕される光景にエンブリヲは絶句し、言葉を失った。

 

此方の戦力は無限、時空の挾間という不確定から成り立つその量は無限、文字通り底のない軍勢だというのに、エンブリヲの愛機ヒステリカの分身ともいるラグナメイル達はたった一機の魔神によって蹂躙されていた。

 

『ネオグランビーム、発射』

 

 奴の額が光り閃光が迸る瞬間、射線上にいたラグナメイル達が跡形もなく蒸発し、光の中へと消えていく。

 

『グランワームソード』

 

虚空から現れる剣を楯に分身達の攻撃を防ぐ魔神はお返しとばかりに剣を横に薙払う。まるで紙細工の様に両断されるラグナメイルは周囲の機体群を巻き込みながら爆発し、四散していく。

 

このままでは埒が空かない。奴の動きを止める為、今度こそ屠る為だとエンブリヲは再び歌を紡ぎ出す。既に破壊されたラグナメイル達は補充され、新しい別のモノに置き換えられている。

 

そうだ。この空間中で自分の力は絶対、ここでは何者も自分には及ばず、何者であれ刃向かう事は許されない。自分こそが世界の調律者であり、絶対の存在なのだと、自らを奮い立たせてエンブリヲは歌を紡ぎ出す。

 

再びヒステリカの肩部分の武装が展開され、時空を揺るがすエネルギーが集約されていく。それに合わせて魔神を囲むラグナメイル達も肩部分の装甲が展開し、魔神に向けて攻撃の合図を待っている。

 

この距離なら外しはしない。エンブリヲが勝利を確信した笑みを浮かべ、一斉発射を命じようとした時。

 

『───グラビトロンカノン、発射』

 

高重力の雨がラグナメイル達に降り注がれ、魔神を囲んでいた調律者の遣い達は成す術なく圧壊し、爆破していく。

 

その光景に再びエンブリヲは絶句する。勝利を確信した笑みを浮かべたまま硬直する彼は、次の瞬間憤怒の形相で目の前の魔神……ネオグランゾンを見上げた。

 

 時空の狭間、まだら模様の空間に佇む蒼き魔神。その背に輝く日輪を負う蒼く神々しい魔神は下で睨む調律者を見下ろしている。

 

そこにいるな、私を見下すな。己の自尊心を深く傷つけられたエンブリヲは唇を噛みしめて怒りという感情を押し留める。忘れてはいけない、幾ら奴の力が増そうがここでは自分こそが絶対、敗北などは間違っても有り得ないのだ。

 

『く、ククク、それで勝ったつもりかね。幾らラグナメイルを破壊しようがここでは何の意味もない。それに見るがいい、もうじき向こうの世界は私の統一理論によって一つとなる。────私の勝ちだ』

 

見せつけるようにして魔神の前に映像を映し出すエンブリヲの顔には先程とは別の狂気に染まった笑みが浮かび上がっていた。

 

もうじき二つの地球は一つになり、新しい世界が生まれる。ここで仮に自分は魔神に殺されても奴はもうあちら側に干渉出来ない。目の前で自分が大切にしていた者達が死に逝く様を見せつけてやるとエンブリヲは高笑いと共に魔神を仰ぎ見る。

 

『絶望したか? 後悔に打ち震えたか? だがもう遅い。私が貴様をここに引き込んだ時点で既に私の目的は完遂している。幾ら貴様の力が強化されようが、既に手遅れだ。簡潔に言おう蒼き魔人よ、貴様は何も守れやしない』

 

魔神の奥で此方を見ているだろうシュウジ=白河を前にエンブリヲは今度こそ自身の勝ちを確信する。しかし、そんな自分の言葉に魔人は何も反応を示さず、ただ上空へ垂直に浮かび上がった。

 

『………一つ勘違いしているから言っておくぞエンブリヲ、俺は別に誰かを守ろうと思い上がった事を考えちゃいない。俺はただあの世界で自分が出来る事を自分で考え、実行してきただけだ』

 

『なに?』

 

『アンジュちゃん達は強い子だ。仮に俺がこの世界に来なかったとしても、自分達で窮地を乗り越え、お前を倒した筈さ。俺はただその埋め合わせをしたに過ぎないんだよ』

 

『この世界だと? ……まさか、貴様は!?』

 

『さぁ、これで終幕だ』

 

 シュウジの言葉に何か気付く事があったのか、世界の調律者と自称する男は驚愕の表情を浮かべ機体と共に後ずさる。後悔と絶望、二つの感情によって染まるエンブリヲはそんなバカなと目の前の現実を逃避する。

 

『相転移出力、最大限』

 

『縮退圧、増大……』

 

魔神の背負う日輪が輝きを放ち、周囲の空間が重力によってねじ曲がる。全ての事象、因果が歪曲し、圧縮されていく中、エンブリヲは信じられないといった表情で目を見開いた。

 

アレを撃たせてはならない。即座にそう判断したエンブリヲは時空の狭間を埋め尽くす程のラグナメイル達を顕現させる。無から有を生み出す彼の力は確かに神と呼ばれるに相応しい力を持っているのかもしれない。

 

しかし、彼は魔人。神聖なるモノを滅する深淵の遣いである。

 

『重力崩壊臨界点、突破……』

 

 光が、圧縮される。空間が歪み、周囲の天体を引き寄せつつある魔神の中心に集約されていくのは全てを破壊し尽くす滅びの球体が美しく輝いており。

 

『お前の存在を、この空間ごと抹消してやろう。───眠るがいい』

 

『や、止めろ。止めてくれ……』

 

『縮退砲……発射!』

 

『やめろぉぉぉっ!!』

 

エンブリヲの下へ投げ入れた次の瞬間、時空の狭間は天地開闢の一撃に呑み込まれ……。

 

エンブリヲは絶叫と共に光の渦へと呑み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回でクロスアンジュ篇は一応完結。
バトルが多かったので次に書くときはなるたけ平和な話を書いていこうと思います。







以下天獄篇ネタバレ(ガチ)





Z-BLUE「そ、そんな……銀河が、消えた?」
Z-BLUE「あそこには多くの命が芽生えていたのに……!」
Z-BLUE「鬼! 悪魔! 人でなし!」

ボッチ「……(目逸らし)」



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