『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回でクロスアンジュ編は事実上最終回となります。


その24

 

 

 

「…………は?」

 

 アンジュの口からそんな間の抜けた声が聞こえてきたのは視界から光が晴れて凡そ十数秒経過した後だった。

 

先程まで自分達は故郷であるミスルギ皇国で最後の戦いを行っていた筈、なのに今自分達がいるのは見渡す限りの大海原の真上にいる。

 

一体自分達に何が起こったのか、アンジュ達は混乱しながら必死に思い出そうとした時、頭上から聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

『……ここは私達の世界、真なる地球のようです』

 

声の主であるアウラの言葉に再びアンジュ達は混乱の底に叩き込まれてしまう。何せつい先程まで自分達は向こうの地球で戦っていたのだ、驚くのも無理はないと言える。

 

しかし、アウラの言葉も嘘ではなかった。各機体とアウローラのレーダーとソコに映し出されている座標が都のすぐ近くだと示している。

 

直後、アウローラに通信が入る。艦長席にいたアレクトラが繋げるよう指示すると、目の前の電子モニターにアウラの子孫である大巫女が映し出されている。どうやら本当に自分達はドラゴン達の地球へ戻ってきた様だ。

 

「けど、一体何がどうなって……」

 

『私も混乱している為、確かな事は言えませんが……恐らく我々がここにいるのはエンブリヲが倒された事に関係があるのだと思います』

 

「エンブリヲが、倒された!?」

 

アウラの口から聞かされる衝撃的な言葉にアンジュの隣で愛機のパラメイルに跨がっていたタスクがこの上ない驚愕の表情を浮かべており、アウローラの艦長席に座していたアレクトラもそんなバカなと言いたげな表情で席から立ち上がった。

 

これまで長い間怨敵と定めてきたエンブリヲがあっさりと倒されたと聞かされればタスク達の反応も無理もないもの、しかしアウラからは嘘を吐いている様子はなく、信じられないといった様子のタスクに向き直り、淡々とその理由を述べた。

 

『先程まで世界を覆わんとしていた時空嵐、アレは私とエンブリヲが生み出した複数のラグナメイルを起動キーに発動させたモノ、一度発動させてしまえばエンブリヲとその機体を諸共破壊しなければ止める事は不可能とされています』

 

「エンブリヲとその機体って、あの変にゴツゴツしたパラメイルの事?」

 

アンジュの何気ない質問にアウラは頷き、言葉を続けた。

 

『エンブリヲは時空の狭間と呼ばれる空間から無限に等しい力を有する異質な存在、此方から干渉することは事実上不可能とされてきました』

 

「けれど何らかの理由でその無敵性は崩れ、何者かの手によってエンブリヲは倒され、時空融合は阻止され僕達は生き残った。そういう解釈でいいのかな?」

 

『というより、そうとしか説明が出来ない。と言った方が正しいかもしれません。皆さんに心当たりがあるのではないのですか? 単騎でありながらエンブリヲと戦えるだけの力を有した者がいることを』

 

アウラから言われてアンジュ達は思い出す。散々此方を振り回しておきながら一番大事な時に姿を消していた奴の事を。

 

まさか彼がやったのか。一人で全てに決着を付けてしまった彼に対してそれぞれが複雑な心境で顔を俯かせた時。

 

「さ~て、ここでクイズです。今アタシ達がここにいるのはどこでしょう?」

 

「はぁ? なに言ってんだよヴィヴィアン、そんなの地球に決まってんじゃん」

 

「では続いてもう1問、アレはな~んだ?」

 

 ヴィヴィアンの指さした方角へ全員が視線を向けた時、アウラを含め誰もが驚きの表情を浮かべていた。そんな彼らの視線の先にあるのは……地球。偽地球と呼ばれるもう一つの地球がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────荒廃した大地。建物や文化、人の営みの何もかもが破壊し尽くされた世界、瓦礫の山となったミスルギ皇国があった場所で一人の少女が複数の男から逃げまどっていた。

 

少女の手にあるのは僅かな食料、世界が時空嵐によって破壊され、マナが世界から消えたその日から人々は劇的に変わってしまっていた。

 

それが悪かどうかは分からない。世界が壊されて立ち上がった者もいれば嘆くだけの者がいる。強者が弱者を虐げる弱肉強食の世界に最早正義の在り方を示す者など存在してはいなかった。

 

「あうっ」

 

瓦礫に躓いた少女が地面へと転がる。手にした食料は倒れた拍子に手放してしまい、それらは運悪く男達の下へと転がってしまう。

 

ゲラゲラと下卑た笑みを浮かべながら少女の食料を拾う男達、その顔には少女に食料を返す様子など微塵もなかった。

 

「か、返して下さい。その食べ物は妹達の分だから……」

 

「うるせぇよ」

 

お腹を空かせている妹達が待っている。姉として守っていかなくてはと少女は悪漢達に挑むが、マナという絶対的力が世界から失われた今、少女が腕力で勝る悪漢に勝てる筈もなく、少女は振り抜かれた悪漢の拳によって殴られ、乱暴に地面に倒されてしまう。

 

頬を殴られた痛みによって少女には涙が浮かぶ。一体何故こんな事にと悔しさと悲しみで涙を流す少女、そんな彼女に悪漢達は何が面白いのか、再びその表情を歪ませ悦の孕んだ笑みを浮かべる。

 

彼らの思考にあるのは欲望に忠実に生きる事のみ、マナという力が失った今、最早頼れるのは己の力のみ、多党と組んで生き延びようとする彼らの姿勢は弱肉強食を全てとする今の世の中としてはある意味正しい姿なのかもしれない。

 

しかし……。

 

「一人の女の子に対し複数の男が囲む。やれやれ、まさかこんな漫画みたいな展開に遭遇するとは、人生というモノは分からないモノですね」

 

蒼き仮面を被った魔人はその様子を良しとはしなかった。建物だったものの壁に寄りかかり、これまで誰にも気付かれなかった仮面の男……蒼のカリスマはゆっくりと悪漢達に向かって歩いていく。

 

声を掛けられるまで全く気付けなかった悪漢達は懐から拳銃を取り出して蒼のカリスマに狙いを定める。しかし彼等が引き金を引くよりも速く動いて見せた蒼のカリスマは擦れ違い様に悪漢達の首に手刀を浴びせ、彼等の意識を断って見せた。

 

「荒廃した街に欲望のまま蠢く悪漢達……一体どこの世紀末だっての、全く」

 

バタバタと倒れていく悪漢達に少女の目は丸くなる。目の前の出来事に理解仕切れない少女、そんな彼女の前に仮面の男から手が伸ばされる。

 

その手には悪漢達に奪われた妹達の食料が置かれていた。状況から見て自分に食料を取り戻してくれたのだと悟った少女は戸惑いながらも蒼のカリスマに礼を言い、食料を受け取った。

 

「これから先、この星は混迷の時代を迎える事になる。君達にとって辛い日々になるだろう。もし妹達を守りたいと願うのであれば私達の所に来る気はないか? 無論、それ相応の労働はやって貰う事になるが……」

 

「え?」

 

 仮面の男からの唐突な問い掛けに少女の目はまたもや丸くなる。先の時空の嵐によって両親と離ればなれになってしまった少女にはもう頼れる人間などいなかった。

 

手を取ってしまいたい。目の前の仮面の男の手を取ることで妹達の安全を得られるのであれば少女は迷うことなく一緒に行くことを望むだろう。

 

「……でも、私達大した力もありません。マナが使えなくなった今、子供である私にアナタの役に立てる事なんて───」

 

少女は幼いながらも既に今の世界についてある程度の察しが付いていた。現在世界を支配しているのは力、弱き者は強き者に淘汰される弱肉強食の力によって成り立っている。そんな世界で自分達が役に立てるとは到底思えない。重い物も運べないし、料理も満足に作れない自分ではとても目の前の男の役に立つことは出来ないだろう。

 

故に断るしかない。そう思いながら口を開いた少女に……。

 

「勘違いしてはいけない」

 

仮面の男……いや、シュウジ=白河は仮面を外しながら少女の言葉を遮った。

 

「俺が君を誘ったのは俺個人の為に働いて欲しいからじゃない。俺達の為にその力を貸して欲しいからだ」

 

「で、でも私達じゃ……」

 

「人というのは時に一人で立ち上がらなくてはならない時がある。けれど、人は一人じゃ生きていけない。他者と寄り添い、助け合い、支え合う事で漸く生きていける脆くて弱い生き物だ。それは俺だって例外じゃない」

 

だから、と、そう言葉を紡ぐシュウジは再び少女に手を伸ばし。

 

「君の力、少しばかり俺達に貸してくれないだろうか?」

 

そう言ってもう一度自分の力を貸して欲しいと差し伸べてくる男の手を……。

 

「────はい」

 

少女は強い決心の下、男の手を握り締めた。

 

どこまでも澄み渡る青空、太陽ともう一つの地球が浮かぶ空をみながら、少女は大地から立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁた女の子口説いてる。いい加減その悪癖止めた方がいいんじゃないですか?」

 

「シルヴィアちゃん、いきなり出てきて人をロリコン扱いすんの止めてくんないかな!?」

 

 

 

 

 

 




タスク「ハッ! 今更だけど気付いた事がある。この地球って事実上僕しかいないからもしかしたら今後僕ってモテ期に入っちゃうかもしれない。どうしようアンジュ!」
アンジュ「干からびて死ね、この万年発情期」
タスク「酷い!」
Dr.ゲッコー「あ、その心配はいりませんよ」
二人「ふぇ?」
Dr.ゲッコー「Mr.シュウジが事前にドラゴンの体内にあるドラグニウムの中和剤なるモノを開発していましたから、理論上この地球にある雄のドラゴン達も人間に戻る可能性が大いにあります。本人曰くモモカ嬢とエマ女史のマナ阻害装置を作る際に出来た副産物と言ってました」
タスク「あ、だから決戦の時遅れてきたのか」
アンジュ「最早何でもありね、アイツ」






と、言うわけで主人公が縮退ブッパした結果時空の狭間は崩壊し、その余波により二つの地球を隔てていた次元の壁も壊れ、二つの地球が並んで終わるという結果になりました。
現在主人公は偽地球で人々の生活を安定させる為にアレコレ頑張る事になりますが、近い内にヒルダ達の所へ戻ってくるかもしれません。
その時皆どんな反応するのか、皆さんの脳内で補完して下さるとうれしいです。



それでは次回も宜しくボッチノシ



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