『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回、ネタ成分多数。




その8

 

 

 

 

砕かれた床、破片と砂塵が舞い上がる廃墟の屋敷内、黄金の鎧を纏う女性はその眼光を鋭くさせて砂塵の奥を視線で射抜く。

 

“ネフシュタンの鎧” 彼女が身に纏うのは二年前のライヴで起きた惨劇の際、秘密裏に回収した完全聖遺物。欠片から生み出されたシンフォギア装者の聖遺物とは異なり、古の時代から寸分変わらず存在する世界的に見ても稀少な物。

 

完成された聖遺物、そこからもたらされる力は底知れず、シンフォギアとは桁違いとされている。更には適合係数、即ち完全聖遺物を纏う際に必要とされる適合率は不要とされており、理論上人間であるなら誰でも使う事が可能とされ性質、出力、そしてその潜在能力も文字通りシンフォギアの上位互換の聖遺物、それが彼女の纏うネフシュタンの鎧である。

 

鎧の力を手にした女性の力はまさに人ならざる者の具現、ノイズを相手にして余りある力は正真正銘生きる災厄そのもの。それこそ理論上シンフォギア装者が束になっても敵わない程の力であり、それを自在に操る事が可能である。

 

───なのに、そんな力を手にしてあまつさえ容赦なく奮ったというのに、何故目の前の男は傷一つなく立っていられるのだろうか。

 

晴れていく視界の中から浮かび上がる無傷で佇む男を前に女性の頬を一滴の水滴が流れた。

 

いや、理由なら分かっている。恐らく此方が攻撃を見舞う瞬間、半歩下がり半身逸らしたのだろう。女性と男の間にある間合いの距離は開かれている。恐らくはその合間に此方の攻撃を見切ったのだろう。

 

だが、それがただの人間がそんな芸当が出来るのか? 喩え距離があってもそれを補って余りある初動の速さだった筈。狙撃銃の弾丸よりも速く動く鞭の動きを事前に察知したとでもいうのか。

 

「貴様、何者だ」

 

「言った筈ですよ。私は貴女をブチのめす者だと」

 

「ほざくな!」

 

此方の質問に答える気など無いように仮面の男はおどけて見せ、その瞬間女性の纏う鎧からもう一振りの鞭が出現する。

 

乱雑に舞う二振りの鞭、その軌道は複雑にして強大で、触れた瓦礫を粉微塵に変えていく。その様は標的となった仮面の男の末路でもあった。力の暴風、人の力で具現化されたそれは一種の天災。

 

しかし、その暴風の中を仮面の男は自ら飛び込んだ。自ら挽き肉になるとしか思えない自殺行動、女はつまらん幕引きだと思いながらも次の瞬間目を剥いた。

 

力の暴風の中を突き進む仮面の男、その様子は嵐の中に佇む柳の如く女の振るう鞭を避けている。

 

「なっ───っ!?」

 

驚愕の声が女の口から漏れる。しかし、その驚きは次の段階に移っていた。暴風の中を避けながら近付いてきた仮面の男は女の間合いにまで後少しに迫った瞬間、急激に加速し瞬く間に二人の距離を縮めた。

 

「今度は、此方の番だな」

 

「っ!?」

 

呟きと共に放たれた正拳は女の腹部にめり込み、女は血反吐を吐きながら吹き飛んでいく。壁に激突した衝撃で無理矢理空気を吐き出された女は力なく地面を這い、苦しそうにえずきながら男を───蒼のカリスマを睨み付けた。

 

「完全聖遺物を圧倒するだと…………一体、どういう了見だ」

 

「何も特別な事はしていません。普段から規則正しい食生活を心懸け、早寝早起きをすればこの程度は造作もありません。継続は力なり。貴女も研究ばかりではなく、少しは健康というものに目を向けてはどうです?」

 

「ふざけるなァッ! なんだその超理論は、バカにするのも程度があるぞ!」

 

女の慟哭にも似た非難の叫びに蒼のカリスマは面食らった様に戸惑った。本人からは至って真面目な話だというのに頭から否定されるとは思っても見なかったのだ。仮面越しに目をパチクリさせて「嘘じゃないんだけどなぁ」そう呟きながら頭を掻く蒼のカリスマは暫し思案して…………。

 

「そうですね。敢えて言わせて貰うなら…………飯を食って風呂に入り、特撮見て寝る。男の鍛練はそれだけで充分なのですよ」

 

「黙れぇっ!!」

 

本人にとって本当の事を言ったつもりだが、どうやら相手には逆鱗に触れただけで終わった様だ。鬼の形相で鞭を振るい、天井床下お構いなしに振り回す女に蒼のカリスマはヤレヤレと嘆息しながら飛び退いた。

 

先程以上に暴れまわる力の奔流は屋敷を砕く勢いで更に威力を増していく。形振り構わず、ただ目の前の人間を破壊し尽く、その為だけに奮われる極大の力を…………。

 

「いけませんね、闇雲に力を奮った所で当たるとは限りませんよ。曰く、当たらなければどうという事はない。確かに今の貴女の力は脅威ですが、それが戦いの場において決定的差になることはありません」

 

増した力の渦をしかし蒼のカリスマは避け続ける。女の攻撃を全て見切ったという風に、常人には視覚に捕らえられない鞭の軌道を蒼のカリスマは読み切っていた。

 

化け物め――内心で理解の外側にいる仮面の男に毒づきながら女は熱くなる思考を急速に冷却させていく。目の前の男は確かに脅威だ。此方が完全聖遺物を纏い、更にはそれを全力で奮った所で男の命を刈り取る処か勝てるイメージが湧かない。

 

認めよう、この男は強い。強さという点においては二課の司令官と同等かもしれないが…………それだけだ。此方の内情を知っていた風だったが、これから自分が起こす計画の全貌についてまでは知らない様子。

 

もし奴が本当に自身の計画を全て知っているのなら、ここではなく学院の方に出向き全てを破壊していた筈。それをしないという事は此方の計画の全てをまだ把握仕切れていないという事に他ならない。だからこそこの男はこれ以上の企みを阻止するべくここへ攻めて来たのだ。

 

成る程、確かにこの男は優秀だ。此方の情報を秘密裏に集め、分析し、解析し、答えを導く能力の高さは普通の人間の限界値を越えている。そしてその高い判断力と行動力も舌を巻く一級品だ。恐らくはさぞ名のある工作員なのだろう。この男を育てた輩にはよくもこんな化け物を生み出してくれたなと皮肉混じりに称賛したい所だ。

 

しかし、それだけでこのフィーネを止めることは敵わない。どれだけ優れていようと、どれだけ強かろうと人の身であるなら限界がある。出来ない事がある。

 

「そう! 最早どんなに足掻こうとこのフィーネを止める事は敵わない。カ・ディンギルは既に完成しているのだから!」

 

「っ!」

 

突然叫ぶフィーネに蒼のカリスマは面食らう。やはりカ・ディンギルの事に関してはなにも知らないらしい。いきなり投げ渡された情報に戸惑うその隙をフィーネは見逃さず、側にある壁に手を伸ばし、その一部をカチリと押し込んだ。

 

瞬間、屋敷内に閃光が迸り、次いで大規模な爆発が屋敷を屋根ごと吹き飛ばした。爆風に紛れながら離脱を図ったフィーネは隠し持っていた杖を手に地面に着地する。

 

瓦礫と化して崩れる屋敷、最早この拠点にいる意味は無いと踵を返した時。

 

「何処へ行くんだ?」

 

「っ!?」

 

「猛羅───総拳突き」

 

砂塵の中から無傷の姿を現す蒼のカリスマに再びフィーネは驚愕に目を見開いた瞬間、眼前を覆い尽くす拳の弾幕が飛び込んできた。

 

全身を貫く無数の衝撃、それらの悉くが己の肉体を鎧ごと破壊していく。なんてデタラメな、想像の上を行く魔人の頑強さに驚き、吹き飛びながらもフィーネは内心で感謝していた。

 

「ふ、ふふ、フハハハハ! 掛かったな小僧!」

 

「?」

 

「貴様はしてやったりと思っているだろうがそれは違う。これこそが私の逃走経路、貴様はこのフィーネとの知恵比べに負けたのだ!」

 

「っ!」

 

吹き飛ぶフィーネの言うことに一瞬理解が及ばなかったが、直ぐ様その事を察した蒼のカリスマはしまったと内心で舌を打つ。自分の放った攻撃は確かにフィーネに直撃した。手応えも感じ、吹き飛んでいくその様子にこれで終わったと確信した。

 

しかし、蒼のカリスマは───シュウジはフィーネの纏うネフシュタンの鎧の性能を理解しておらず、解した瞬間には既に手遅れだった。決定的に思われたフィーネのダメージはネフシュタンの鎧の力によって再生され、砕けた鎧諸とも修復されていく。

 

あれではまた直ぐに動けてしまう。逃げられる前に追撃しようと脚力に力を込めるが、眼前に現れる特異災害の出現に否応なく足止めされてしまう。

 

何故このタイミングでノイズ、見ればフィーネの手にしている杖からノイズが溢れるように次から次へと現れていくではないか。

 

(アレがノイズを操っていた小道具かよ、くそ、下手打った)

 

本当なら奴がノイズを操る前に片を着けたかった。奴が何かしら行動に移す前に手を打ち、全てにケリを着けたかった。

 

だが、元凶たるフィーネは既に姿を消し眼前にはノイズの大規模の群れが此方に迫ってきている。逃げ切るのは簡単だ。しかし、逃げたら標的を見失ったこのノイズは次の獲物(人間)を求め、そして襲い掛かるだろう。

 

このノイズを出させたのは自分の失態だ。ならばその責任を取らねばならない。

 

「自分の不手際なのに泣き付くみたいで情けないが、ここを放って逃げる方がもっと情けないな。こんな俺で申し訳ないけど───グランゾン、力を貸してくれ!」

 

魔人の呼び掛けに応え、重力の魔神が空間を切り裂いて姿を現す。速いところノイズを片付けてフィーネの後を追おうとシュウジはグランゾンに乗り込んだ。

 

その一方で。

 

「な、何だよあのデカブツは!?」

 

嘗てフィーネと共に世界を変えようと奮闘していた銀色の乙女は突然現れた蒼い巨人に度肝を抜かれていた。

 

 

 




Q.どうやって屋敷の爆発から抜け出したの?

A.ボッチ「この世の事象には全てにおいて流れが生じるモノ、ならば回して受け流す位造作もありません」
意訳:爆発の衝撃は回し受けで掻き消しました。







次回、赤き竜と蒼い巨人

次回もまた見てボッチノシ



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