『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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anniversaryでアルジュナゲット!
これでセイバーが来てくれれば三騎士が揃う!

…………沖田復刻、来ないかなぁ。


その9

 

 

 

 

それは、突然の出来事だった。ノイズの大規模発生、史上稀に見る特異災害の大群に街の人々は混乱の底に叩き落とされた。我先にとシェルターに逃げ込む者、親とはぐれ泣きじゃくる子供、怪我をして動けない者、その様子は正しく阿鼻叫喚の地獄絵図、この世の地獄の再現だった。

 

だけど、私をはじめとした奏さんやクリスちゃん、退院した翼ちゃんと共に何とかノイズの軍団は全て撃退出来た。特に空を飛ぶ大型のノイズにクリスちゃんの攻撃は効果覿面で瞬く間に倒していく光景は見てて爽快だった。

 

度重なる戦いを経て漸く分かり会えた私達とクリスちゃん。奏さんは翼さんの事もあってまだ蟠りは残っているみたいだけど、それもきっと無くなると思う。

 

そんなクリスちゃんはノイズを全部倒した事を確認した瞬間、その場を後にして何処かに行っちゃった。何でも決着を付けなければならない相手がいるそうで、その時のクリスちゃんからは並々ならぬ強い意思、みたいなものを感じた。

 

本当は私も手伝いたかったけど、未来からの突然の連絡、それも二課の皆さんから頂いた特殊通信端末からの緊急連絡に私は嫌な予感を感じた。

 

私立リディアン音楽院(私達の学校)にノイズが現れた。その通信を最後に未来の声が途切れ、私の頭の中はグチャグチャになった。

 

皆が危ない。そこまで考える頃には既に私の身体は動いていた。奏さんも翼さんも、自分が過ごしてきた学舎の危機にいち早く駆け付けようとそれぞれが先んじ、結果として私達は三人揃って学院に戻ってきた。

 

そこで待っていたのは…………凄惨な光景だった。嘗ての学舎はその姿を失い、周囲にはノイズが暴れた痕跡である炭の海が落ちていた。恐らくは対応に駆け付けた自衛隊の人達だったのだろう。嘗て私が経験した二年前の悲劇と同じ現場に私は沸き上がる吐き気を堪えるのに精一杯だった。

 

奏さんも翼さんもそれぞれ学院を破壊した犯人に対し怒りに打ち震えていた。誰がやった。絶対に許さない。見ている此方が怖くなる程の怒りを見せる二人、そんな私達の前に…………犯人は現れた。

 

櫻井了子さん。髪の色や身に纏う鎧から最初は分からなかったけど、アレは間違いなく了子さんだった。何度も何故と問う奏さん達に了子さんは淡々と答えた。嘗て櫻井了子と呼ばれた人間の魂は消滅し、今まで櫻井了子として親しんできた者は古の巫女フィーネであると。

 

最初、了子さんが何を言っているのか分からなかった。何故私達を騙したのか、何故学院を、皆を巻き込んだのか、幾ら訊ねても了子さんは笑うばかり。まるで悪い夢を見ている気分だ。頭の中がグルグル回り始め、混乱する私、しかし了子さんのある一言が奏さんの逆鱗に触れた。

 

嘗て奏さんの両親が亡くなった事件、アレは突発的に発生したノイズが原因とされてきているが、その裏では了子さんが関わっていて意図的にあの事件を起こしたのだという。

 

その話を耳にした奏さんは痛々しい程に恐ろしかった。信じてきた者が、力を与えてくれた人間が自分の両親を殺した仇であった事、この時の奏さんの胸中は私には到底理解できないものだった。

 

飛び出した奏さんを皮切りに否応なく始まる了子さんとの戦い。研究一筋だった了子さんでは数多の戦場を、修羅場を、死線を潜り抜けてきた奏さんの相手には成り得ない。そんな私の考えは恐ろしく甘いものだったのだと次の瞬間思い知る事になる。

 

ネフシュタンの鎧という完全聖遺物は私達が纏うシンフォギアとは完全に次元が違っていた。瞬く間に奏さん、翼さんは倒され、私もまた呆気なく倒された。この時の私は二人がやられた事による怒りと動揺に我を忘れ、心と体も真っ黒になった。所謂暴走、未熟な私が無闇に暴れた所為で学院だった場所はより破壊されてしまった。

 

あぁ、私ってやっぱりバカだったんだな。奏さんと同じ力を得られて、自分にも出来る事があるんだと自惚れて、その結果皆の足を引っ張ってしまった。

 

暴走は奏さん、翼さんの二人の手でどうにか収まった。お前の力はこんな事に使うものではないんだろ? 暴れまわる私をそう言って抱き締めてくれた奏さんの身体はとても暖かくて、心地よかった。

 

だけど、私を止める為に力を使い果たした奏さんは倒れてしまう。翼さんも一人で了子さんの相手をしていた為に力を使い果たし倒れてしまった。

 

力が抜けていく。戦う気力を無くした私はシンフォギアを纏う力すら失い、その場に力なく座り込んでしまう。そんな私を見て了子さんは笑いながら私に近付いてきた。

 

きっと、私を殺すつもりなのだろう。さっきから私の事を用済みみたいな事を言ってたし、利用価値がなくなったから始末するのだろう。

 

まるで師匠がよく見る映画のワンシーンみたいだ。どこか他人ごとの様に思いながら静かに目を伏した時。

 

「やれやれ、君はもう少しガッツのある娘だと思っていたのですが…………意外とナイーブなのですね。君くらいの歳の娘は失敗するのは当たり前なのだから、イチイチ振り返る必要なんてないのに」

 

「いや、振り返るのは大事だろ。寧ろお前が振り返れよ立ち止まれよ。なんでアンタはいつも意味不明な位にカットんでるんだよ」

 

「ふむ、確かに振り返るのは大事ですね。過去を振り返るのは即ち自己の根源に立ち返るのも同意義、迷ったり不安に思った時に過去の誓いを思い返せば自信に繋がるというのはよくある事、どうやら私は少々自惚れていたようだ。感謝しますよ雪音=クリス嬢」

 

「そうじゃなくて…………いや、もういい。もう疲れた。これ以上アンタの相手をするのはもう止める」

 

「む、あの屋敷からここまで来る程度で疲れたとは、やはりどこか無理をしていたのですか? それはいけない。過度の疲労は人体にも悪影響がでます。唯でさえ貴女はシンフォギア装者として日々ノイズと戦う危険性を伴っています。そんな生活の中で自己管理というのは大事ですよ。そういう訳で…………麻婆、食べません?」

 

「食べねぇよどっから出したその劇物! アンタ喋り方とか雰囲気は変わったのに根っこの部分はまるっきり変わってねぇじゃねぇか!」

 

…………酷く場違いな声が聞こえてくる。沈み行く私の気持ちとは裏腹にどこまでも明るい声、まるでこの悪夢みたいな状況を吹き飛ばすようなその声に振り返ると、先程まで別行動していたクリスちゃんと、見たことのない赤いナニかを手にした仮面の人が肩を並べて此方に向かって歩いてきた。

 

一体誰なのだろう。不思議に思う私を他所に仮面の人は了子さんと対峙した。

 

「しかし、まさかこんな事をしでかすなんてね。どうやらここで全てに決着を付けたいようですね。フィーネ」

 

「…………そういう貴様こそ、随分と早かったな。まぁ、仕留めたとも思っていなかったが」

 

「生憎、私には心強い相棒がいましてね。おまけに対ノイズのスペシャリストも駆け付けて下さいましたし、ノイズ駆除はさして問題なく片付きましたよ」

 

対ノイズのスペシャリスト、その言葉を耳にした了子さんは手を貸したであろうクリスちゃんを見る。その瞳には何の感情もなく、まるで使えなくなったモノを見るような冷たい眼だった。

 

「よもや飼い犬に手を噛まれるとはな。しかも恩を仇で返すとは、私の見る眼もたかが知れたという事か」

 

「フィーネ、アンタには確かに借りがある。力をくれたこと、世界を本当に変えるには何が必要なのか、私はその全てに納得し、一度は受け入れた。けどな!」

 

「痛みを解せぬ輩に語る言葉はない。お前もそこの男共々、早急に消えるがいい」

 

了子さんがそう言うと地面が突然隆起し、次の瞬間、大きな塔が地下から這い出てきた。見上げるほどに巨大な塔、了子さんはその塔をカ・ディンギルと呼んだ。

 

「成る程、それが貴方の切り札。バラルの呪詛とやらを打ち破る兵器ですか。それもデュランダルというエネルギー源を使って……」

 

「何もかもお見通しという訳か。そう、このカ・ディンギルこそバラルの呪詛を打ち砕く(シンボル)にして月を穿つ砲台! この力を用いて私は統一言語を取り戻す!」

 

月を壊す。その言葉に私もクリスちゃんも驚愕を露にするけど、仮面の人はまるで納得したという風に頷いている。

 

「成る程、貴方の企みは大体分かりました。しかし解せませんね。そんな貴方の企みは弦十郎氏辺りが阻止するものだと思っていましたがね。貴女程度の輩に遅れを取るとも思えません」

 

どうやらこの仮面の人、師匠の事も知っている様だ。本当に何者なのだろう? 不思議に思う私とは別に了子さんから鼻を鳴らす音が聞こえる。

 

「フン、所詮は奴も男だという事。それを軽く利用しただけで容易く御せたよ」

 

「そうか。なら、これ以上貴女に訊ねる事は何もないな。櫻井了子女史…………いや、終わりを司る巫女、フィーネ。───消えなさい。過去の亡霊がいつまでも現代に干渉するな」

 

「ハッ、漸く本性を現したか。しかし無駄。人である以上、貴様には私を阻む事は敵わない」

 

不敵に笑う了子さんが取り出したのは一本の杖、ソロモンの杖と呼ばれるノイズを操る聖遺物。それを空に向けると無数の光が空に放たれて了子さんの頭上に物凄い数のノイズが降り注いできた。

 

溢れんばかりに落ちてくるノイズ、押し寄せてくる特異災害の波に呑まれそうになる直前、仮面の人が私を抱き抱え、近くのビルまで跳躍した。

 

見渡せば既に奏さん達を回収したクリスちゃんがいる。良かったと私が安堵したのも束の間、私達が先程までいた場所は学院ごとノイズに呑み込まれていった。

 

やがてノイズはカ・ディンギルをも取り込み、一体の赤いナニかに変貌する。まるで怪獣映画に出てくる某怪獣王みたいだ。

 

『これが、この力こそが私の望み、ここから発せられる痛みが人を一つに纏めるの! 過去の因縁を断つ為に…………神よ! 今こそ私は貴方をその御座から引きずり下ろそう!』

 

赤いナニかから発せられる声、了子さんの叫びはその全てが歓喜に染まり、狂喜に満たされていた。色々頭の足りない私でも分かる。今の了子さんは自分の言う事全てを叶えられるだけの力を持っている。

 

ノイズという肉に、カ・ディンギルの骨を、そしてデュランダルという心臓を手にした了子さんはまさしく人ならざるモノに変貌を遂げていた。

 

状況を見れば絶体絶命の危機、しかしそれでも出来る事がある筈、諦めきれない思いが私を動かそうとしたとき。

 

「じゃあ、クリスちゃん。約束通り彼女達と二課の人達を宜しくね」

 

「…………分かったよ。けど、これだけは守ってくれよ。ソロモンの杖は──」

 

「出来る限り回収する。分かっているとも。しかし、もしアレが思った以上に暴れた時は───」

 

「あぁ、その時は…………フィーネもろとも消してくれ」

 

「了解した」

 

それだけの言葉を交わした後、クリスちゃんは私の言う事を無視して私達三人とも抱えてその場から離脱する。どんどん離れていく仮面の人、一体何をする気なのだと視線を彼に向けた瞬間。

 

『───来い、グランゾン』

 

空間を引き裂いて蒼い巨人が姿を現した。

 

 

 

 




Q.街の人達はどうしたの?
A.ボッチ「ワームホールを使い、事前に安全圏に避難させました」

Q.街は…………どうなるの?
A.勿論、残ります(建物とは言っていない)

次回もまた見てボッチノシ

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