『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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宴の準備は整った。これより我が身は地獄へ逝く。
譬えこの身が朽ちようと、後から続く猛者達の糧とならん。

往くぞ諸君───ガチャの用意は充分か!(FGO夏イベに向けて


その11

 

 

 

 

日本で起きた超大型ノイズの発生から約1ヶ月、慌ただしく且つ騒がしかった世界は現在鎮静化し、現場となった街の人々は比較的平和な日々を一日一日噛み締める様に謳歌していた。

 

あの日、街を覆うほどに巨大な赤いノイズが発生した時、当時シェルターに逃げ遅れていた市民の一人は軽く絶望し、生きる望みを捨てかけていた。

 

その直後に現れた蒼い巨人、巨人とノイズの戦いに鉢合わせをした市民はまるで怪獣映画のワンシーンの様だったと語る。

 

激闘の果てに消滅した赤いノイズ、その際にその一部を人工衛星の映像を通してその様子を見ていた各国の代表は蒼い巨人のその戦闘能力の高さに戦慄し、恐怖した。

 

あの規格外とも呼べる赤いノイズを一撃の下に粉砕し、消滅させたのだ。それも一部の専門家達が総出で調べた結果、あの蒼い巨人が最後に放った一撃がマイクロブラックホールだと知った時は国家代表の椅子から転げ落ちる程の衝撃を受けた。

 

直後、怪物達の戦いを眺めていた人工衛星の損傷を期に各国は日本に向けて事情説明を強く求めた。あの蒼い巨人は何なのか、何処で、どの様にして造られたモノなのか、日本ではアレを用いて何を企んでいるのか、各国の────特に、大国の代表格とも言えるアメリカは自国の人工衛星が破壊された事を理由に日本に対し強行的とも言える姿勢で日本の代表に説明と蒼い巨人に関する詳しいデータの情報開示を求めた。

 

これに対し、日本の防衛大臣である広木威椎氏は以下の事を述べた。

 

『先に現れた超大型ノイズを消滅させた蒼い巨人の詳細の有無は現在総力を上げて現在調査中、詳しいことが分かり次第開示する』

 

当然、アメリカはこれに反発した。日本だけに任せては置けない。アレだけ強力な力を目の当たりにしている以上、放っては置けないと尤もな理由を着けてアメリカ政府は日本に対し調査の介入を要求した。

 

もしこれを断れば貴国に対し相応な態度を取らねばならないと、大国らしい台詞も添えて…………。

 

しかし、そんなアメリカの態度を待っていたと言わんばかりに広木威椎氏は次の情報を開示した。それは以前広木氏にアメリカの諜報部隊が強襲した際に撮られていた映像で、当時の顛末の様子が映し出されていたモノだった。

 

しかもご丁寧に酷く画質向上された映像で粗さもなく、繊細な所まで事細かく記録されており、当時広木氏を襲った者達の名前や住所、経歴や家族構成、更には彼等に命じた当時の人間の名前とその背後にいる自分達の事までその全てが記されていた。

 

吃りながらアメリカ側は出鱈目だと弁明するが、日本の幾らでも解析して構わないという強気な姿勢に黙るしかなかった。何せ日本は解析を依頼する場合は公平に第三者、しかも複数の国に回すと言っているのだ。この事が世界中に知られればこの世界でのアメリカの立場は一瞬にして瓦解してしまう。それは複数の国で成り立っていた合衆国の崩壊を意味している。

 

『幸いこの事を知っているのは(日本)貴方達(アメリカ)だけです。この事は他言無用と致しますのでどうかこれからも良き隣人でありますよう、宜しくお願いします』

 

そう言って頭を下げながら通信を切る広木氏にアメリカの代表は口惜しさに歯軋りをした。その様を一瞬だけ目にした広木防衛大臣は久し振りに胸がスッとしたと語るが、あまりそう呑気にもしていられなかった。

 

何せ、今回アメリカを黙らせる情報を渡してきたのは蒼のカリスマと名乗る男、先の超大型ノイズを消滅させた蒼い巨人のパイロットだという。

 

『この情報を渡す代わり、私の素性を探すフリを可能な限り続けてください』

 

当時、ノイズ関連の書類整理に突然送られてきた電子文。国家最高レベルの電子守護領域(ファイヤーウォール)を突破して一方的に送り付けてきた彼の者の実力に広木氏は背筋に悪寒を感じた。

 

蒼のカリスマ、それはアメリカの諜報部隊に襲われた際に助けてくれた仮面の男、素性こそ明らかにしていないから充分怪しいと思っていたが、まさか本人から告げられるとは思っても見なかった。

 

だが、今回の事でハッキリとした事がある。蒼のカリスマなる人物は此方から手を出さない限りその牙を向けない温厚な人間であると同時に、不義理をすれば全てを破壊する凶悪且つ凄まじく恐ろしい人物であるという事。

 

恐らく、彼の者はあの街に…………複数のシンフォギア装者がいる街にいるのだろう。少なくとも日本国内にいるのは間違いない。でなければ態々探すフリ等と勿体ぶった言い回しはしない。

 

しかもメールの内容にはこうも書かれていた。“日本政府内部にのみこの情報を開示することも構わない”と。

 

恐らく、蒼のカリスマは自分という人間を通して日本政府の内部事情を把握…………いや、掌握するつもりなのだろう。防衛大臣を初めとした各部省の大臣らは大きな権力を持つ代わりにそれ相応の情報を把握し、管理する責任もある。それを一方的に知られるという事はそれは蒼のカリスマに日本が手綱を取られる事に等しい。

 

文面では構わないと言っているが、それはこの事を 他の大臣達に報せなくてもどうとでもなるという事、つまり、自分は試されているのだ。蒼のカリスマという一人の怪物に協力するか否かを。

 

広木防衛大臣は考える。この悪魔の契約にも等しいメールの内容をどうやり込むべきか、正体不明の魔人の策略の攻略に広木防衛大臣の葛藤は胃痛で倒れるまで続いた。

 

尚、メール送った本人は『アメリカの悪い情報も与えたし、これ位我が儘言っても良いよね?』という空ぶった思考の下に送ったことを彼は病院に担ぎ込まれた現在も未だ知られていない。

 

 

その後、原因不明の人工衛星修復という報告に再び世界が混乱の淵に立たされる事になり、その原因に心当たりのある広木防衛大臣は勘弁してくれと病院のベッドの中で一人泣き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二年ぶりにグランゾンでの戦いを経てから数日、現在自分は自ら開いた店の経営に毎日汗水流して盛り立てている所である。

 

あの日、フィーネとやらが出したノイズの集合体との戦いの余波で街が少しばかり壊されてしまい、暫くの合間営業停止を余儀なくされたが、復興作業は順調に進みここ最近漸く自分達の商店街の地域が立ち入り禁止区域から解除され、少しずつお客も戻ってきてくれている。

 

まぁ、お客が増えたのはもうひとつ理由があるんだけどね。

 

「な、なぁ、本当にこの格好で接待すんのかよ。絶対似合わねぇって」

 

「既にお客様を相手にしているのにまだ言うか。いいじゃない、どこも可笑しくないし、似合ってるって」

 

あの日、グランゾンで一応の幕引きに成功した自分は各国の人工衛星の修復を施した後店に戻り、これからの事について考えていた。あれだけの大きな騒ぎだ。ノイズが大量に発生したとされるこの地に人が寄り付くことは暫くないだろうから、小遣い稼ぎも込めてまたバイトの旅に出ようかなと、そう考えていた時、彼女が───雪音=クリスちゃんがここでバイトをしたいと申し出てきてくれたのだ。

 

シンフォギア装者や二課、ノイズに僅かながらでも関係のある自分は彼女達の協力者という立場にいる。彼女の住居が手配される暫くの合間、彼女の後見人として身柄を預かってほしいという弦十郎さんの頼みの下、彼女を預かることにしたのだ。

 

そんなクリスちゃんは現在ウチの店の看板娘として働いてもらっている。着ている服は勿論メイド服、彼女の体型にあったオーダーメイドの特注品であるこの品物は二課の皆さんからの差し入れでもある。

 

膝の所まで伸びたスカート、フリフリなドレスエプロン、おしとやかさの内に秘められたカジュアルな造り、このメイド服には匠の魂が感じられた。元の素材からして最上級なクリスちゃん、そこにメイド服という人類が生み出した聖遺物を着させてみろ…………無敵である。

 

彼女という最強決戦兵器を手にした自分の店は徐々に繁盛し、その波を受けて商店街にも活気が戻りつつあった。クリスちゃんはこの商店街にとっての救世主…………いや、女神である。

 

まぁ、そんなクリスちゃんの可愛さに吊られて柄の悪い虫が時折湧き出すが、そこは害虫駆除と同じ、徹底的に痛め付けてお店の外にポイである。

 

勿論、それだけでは商店街のイメージも損なうのでアフターサービスも万全、身も心もズタボロになった彼等には最後に特製の麻婆豆腐を食べてもらう事になっている。その甲斐あってクリスちゃん目当ての悪い虫、その全てが改心して二度と彼女に近付く事はなかった。

 

「ほら、今日は響ちゃん達が来てくれるんだろ? だったら、ちゃんと相手してあげないとダメじゃないか」

 

「それが嫌だってんのに…………これだから大人は嫌いなんだ」

 

いつも通りの悪態、いつも通りの照れ隠し、頬を僅かに紅く上気させ、恥ずかしがっている彼女に癒されつつ、店に入ってくるお客様に笑顔で迎え入れる。

 

『ようこそ、喫茶白河へ』

 

喫茶白河、本日も絶賛営業中。

 

 

 





Q.各国の人工衛星なんていつ直したの?
A.ボッチ「店の休憩時間の合間にチョチョイって……あぁ、大丈夫ちゃんと手を抜かずに直したから、不具合とかは無い筈だよ。…………尤も、他にも手をつけた所はあるけどね」

次回もまた見てボッチノシ

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