『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回は短め


その12

 

 

 

 

 

γ月*日

 

一人の恋する女性が起こしたノイズの騒動から早1ヶ月、騒動は一応収まり表向きは平和な日々となっている今日この頃、クリスちゃんという看板娘によって店の景気は上昇傾向のままで、それに伴い商店街にもまちまちだが人が集まりつつあった。

 

クリスちゃんは男勝りな気質だが、根は優しく何事にも気が利く女の子で普段は自分の店でバイトとして働き他にも業務時間外、つまりプライベートな時は外に出て困っている人を見掛けたら積極的に関わり、手助けをしている。

 

本人は気が向いただけと誤魔化しているが、お年寄りを助けたり、困っている人の手助けをしている時のクリスちゃんの顔はとても良い表情をしていた。

 

そんなクリスちゃんだが、最近周りが慌ただしくなってきた。けれどそれは悪い意味ではなく、寧ろ良い方向に進む変化の表れだった。

 

以前から懸念されてきたクリスちゃんの住まいが遂に決まった。場所は住宅街にある大きなマンションで設備や安全機構が施された───所謂一等地の所である。

 

特に安全面に関してはクリスちゃんがシンフォギア装者という事もあり二課のある一定の監視環境が設けられており、不審者や得体の知れない輩がこのマンションに近付いた瞬間、速攻で二課の人達に報せる仕組みになっている。

 

監視とはいうがそれはマンションの玄関口や通路、エレベーターやベランダに監視カメラ(赤外線を始めとした多機能付き)という程度で私生活やプライベートは映さないよう心配りがされている。

 

日本政府としては貴重なシンフォギア装者であるクリスちゃんには雁字搦めで監視、いや監禁すらさせたいだろうに…………それをここまで人道的な配慮に留めることに成功させた二課のトップ、弦十郎さんの手腕は流石の一言に尽きた。

 

いや、もしかしたら“風鳴”さんの方から手を回したのかもしれない。直接会った事はないがあの人も中々の切れ者と聞く、年頃の娘の一人暮らしと聞いて何か思う所があり、気紛れ的な配慮なのかもしれない。

 

 

本音を言うなら自分にもクリスちゃんの居住関係に口を挟みたかったが、あまり関わりすぎるのもウザがられる要因になる為自重する事にした。

 

とまぁ、そんな訳で今週中にはそのマンション先に引っ越す事となったクリスちゃんは現在荷物を整理中。元々荷物の少なかったクリスちゃん、これからの生活では沢山荷物が増えることを祈っている。彼女のご両親がそうあって欲しいと願った様に…………。

 

 

 

γ月Ω日

 

本日も喫茶白河は絶賛営業中、クリスちゃんという看板娘の効果と自分の作る料理、そして口伝てによる宣伝効果によって少しは知られる様になった自分の店は毎日行列が出来る程───ではないけれど、何回か満席に成る程の人気を持つようになった。

 

そんな今日、制服姿のクリスちゃんが店へとやって来た。何でも今日から響ちゃんや翼ちゃんと同じ学校に転入する事になり、晴れて学生として青春を謳歌する事になったらしいのだ。

 

一緒にやって来た響ちゃんが嬉しそうに自分に教えてくれて自分も響ちゃんと同様に学生に、普通の女子高生になれた事に素直におめでとうと口にした。

 

けれど、肝心のクリスちゃんはなんだか心ここにあらずといった感じ、気になったので後で話を聞きたいとクリスちゃんに伝え、転入祝いを兼ねて二人にご馳走を振る舞った。

 

で、客足も途絶え始め、迎えに来た未来ちゃんが響ちゃんを連れて先に帰った所を見計らってクリスちゃんに話を聞いてみることにした。

 

聞いた話の内容は…………まぁ、ありふれたと言えばありふれたモノで、だけど本人にしてみたらどうしても拭いきれないモノ、過去に諸々の理由と経歴から両親を殺され、フィーネに拾われたクリスちゃんはシンフォギア装者としての高い素養に見込まれ、戦う術というモノを叩き込まれてきた。

 

汚い仕事も幾つも経験してきたし、血を見ない日は無かったと言えるほど殺伐とした世界を渡り歩いてきた。そんな危険な自分が果たしてあの輪の中にいてもいいのだろうかと、幸せになってもいいのだろうかと、泣きそうな声でクリスちゃんは言った。

 

確かにクリスちゃんの過去は万人が悲惨と答える程に熾烈なモノだったのだろう。両親を殺され、殺した奴等に身を委ねた時は恐怖と怒り、悔しさで一杯だっただろう。その思いから生まれたクリスちゃんの世界に争いを無くすという願いはきっと間違いじゃないし、正しいことなのだろう。

 

けど、クリスちゃんのやり方は、争いを無くす為に争う奴等を徹底的に潰すという極論で、簡単そうに見えて実は結構難しい。争いを争いで無くすという矛盾、それによってクリスちゃんが行った行為は火種を消すどころか更に燃え広がせる結果に繋がった。

 

人間というのは良くも悪くも争うことに秀でた種族だ。他者より強くなりたいから他者より優れていたいから、そういった強い欲求から人は争うことになり、大勢の人間を巻き込んでいく。

 

自国の為、利益の為、他者の為、自分の為、様々な理由で争う人間がいるなら何の理由もなしに戦えてしまうのも人間だ。そんな人間から争いを無くすには人類そのものを抹消するしかない。

 

だから、クリスちゃんのやり方は間違っていた。争いを嫌っていながら人を憎みきれずにいたクリスちゃんでは世界から争いを無くす事は出来ない。本人もその事を理解していた。だからこそ彼女はフィーネに縋るしかなかった。

 

雪音=クリスは間違っていた。本人もその事は強く理解している。そんな彼女に自分が言えることは責める事でも諭す事でもない。

 

“学ぶ”という事を教えるだけだ。人間は過ちを繰り返すことで前に進む生き物だ。学習能力もマチマチで人によっては何度も間違って漸く物事を覚える者もいる。

 

けれど、それは決して悪いことではない。間違えた事で何かを学び、覚える事はそれだけで意味がある事なのだから。過去の自分に悔いるのも良い、そんな自分を許せなくても良い。

 

けれど、何もかも諦める前に学んで欲しい。学んで、考え、自分がどうしたいか、何がしたいのか、その果てに自分がやりたい事を見付けたとき、きっとそれはこれまでクリスちゃんが培ってきた全てが形になったモノだと思うから。

 

と、それっぽい事を色々言うとクリスちゃんはもう少し今の生活を続けると言ってくれた。…………まぁ、自分の言っている事は結局の所“好きに生きろ”と言っている様なモノ、無責任もいいところな物言いである。

 

けど、そんな無責任な言葉でも誰かの負担を軽くする事が出来るのだと、今日、俺は学んだ。何せ店を出て行く際に見せたクリスちゃんの笑顔は思わず見惚れてしまう程に綺麗で可愛かったのだから。

 

けれど、立ち去る際に言った彼女の一言で俺は凍り付く事になる。「そろそろ二課の連中にソロモンの杖渡したいから返してね」って。

 

やっべぇ、すっかり忘れてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………なぁ、修司さん。アタシ、ソロモンの杖を出しといてって言ったよね?」

 

「…………うん」

 

「それじゃあ、今アタシの目の前に置かれているこれ、なに?」

 

「………………ソロモンの、杖」

 

「杖? 珠じゃなくて?」

 

「………………うん」

 

テーブルの上に置かれた紫色の珠、それがソロモンの杖の成れの果てと知らされた時、店内に雪音=クリスの怒声と一人の男の情けない涙声が響き渡った。

 

 

 

 




FGO夏ガチャ、アンメア以外ゲット!
そして何故かナイチンゲールさんが我がカルデアに(笑)

アレか、無人島でも衛生面は怠らない様にという天使様の警告か(笑)

次回からGに突入? 果たしてマリアは優しいマリアでいられるのか、キリちゃんの置き手紙の行方は? 調ちゃんのツインテールにボッチは嘗ての幼馴染みを見るのか!?

次回もまた見てボッチノシ

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