『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回はちょっぴり良い話……かも?


その16

 

 

 

@月*日

 

先のノイズ騒動で校舎が崩れ当時の生徒達はその出来事に酷く落胆していたが、以前使っていた旧校舎の存在が明らかになった事により廃校の危機は免れ、現在クリスちゃん達はその旧校舎にて青春を謳歌している。

 

旧校舎といっても外観や内装が少し老朽化している程度のモノで校舎自体はそう悪いものではない。近代的な前の校舎とは違い趣がある建物と言える。

 

そんなクリスちゃん達が通う私立リディアン音楽院、もうすぐ文化祭という事で現在多くの学生達が準備に勤しんでおり、放課後生徒達の賑わいの声が聞こえてくる。

 

学院の出す催し物は様々で屋台からお化け屋敷といったスタンダードなものからメイド喫茶といった色物店までとその内容は幅広く、当日が楽しみなラインナップになってくる。

 

何故そんな彼女達の文化祭について知ってるか。それは何を隠そう、旧校舎の老朽化の整備や文化祭の出し物に自分も一枚噛んでいるからである。

 

旧校舎の方は政府が建て直しに手を回していて人手を集めて修復していたが、その際に地域交流という名目で有志に人を集めて簡単な作業を手伝うという内容の告知が回覧板を通して自分の所に来たのだ。所謂ボランティアである。

 

調度建築物に関する知識はある程度持ち合わせていたのでその手伝いに駆り出される事になった。久し振りの建築作業、リモネシアでの復興以来となる建物修復作業に結構張り切って参加したら、思いの外高評価を受け、政府が集めた専門職の人達からも太鼓判を押された程度には高評価だった。

 

文化祭の出し物に付いてもそんなボランティアから来るもので旧校舎修繕の時に何人か学院の先生と顔見知りになり、その伝で手伝ってみませんかと誘いが来たのだ。

 

これも地域交流の一つ、これを機にうちの店の宣伝にもなると思い参加した自分は屋台といった出店組に飲食店に関する知識と段取りをある程度教えることにした。

 

何人かは自分の店に来ている生徒もいて、彼女達の計らいのお陰で話し合いは順調に進み、段取りや手順の確認もつつがなく消化していった。…………本当なら自分の秘伝の麻婆もメニューに加えようと思ったのだが、多くの生徒達に反対され却下されてしまった。

 

しかも未来ちゃんや響ちゃんといった常連客達にである。剰りにも必死に止めてくれと言うんだもの、少し泣けてくる。特に未来ちゃんは笑顔で止めろと言うのだからもう号泣ものである。あんまりだ。

 

ま、そんな訳で自分も少し手伝った事もあり文化祭当日は結構完成度の高いモノになるだろう。尤も、そんなに完成度が高くなったのは偏に生徒達のやる気の高さにあるんだけどね。やはりノイズに学び舎が壊されたことに少なからずショックを受けた子もいるらしく、学院から去った生徒も少なくはない。

 

でも、そんな時だからこそ楽しく文化祭をやり遂げようという生徒達の熱意は本物だった。そんな彼女達だから楽しみと思える文化祭が出来るという事に自分は少なからず感銘を受けた。

 

今度の文化祭は一般公開もされるというのでその時は是非とも自分も参加したいものである。こう言う行事はただ見ているだけでも充分楽しいものだから。

 

 

 

@月Ω日

 

クリスちゃんが文化祭の日に皆の前で歌う。先日響ちゃんから耳にしたその話をクリスちゃんに直接話してみると、顔を真っ赤にさせてこれを否定した。

 

何を恥ずかしがっているのか、どうやらクリスちゃんは人前で歌うのを苦手としているらしく、文化祭にある催し物の歌唱大会に出ないと言い張るのだ。

 

シンフォギアで戦う時はノリノリで歌ってたのに何故今更恥ずかしがるのか、そもそもお店でバイトをする時時折鼻唄を歌っているのを気付いていないのだろうか。鼻唄しながら仕事をこなすクリスちゃん、そんな彼女を目的に来るお客もいるというのに…………全く、困った娘だ。まぁ、それも彼女の魅力の一つなのだけどね。

 

そんなクリスちゃんの説得は同じクラスの娘達に任せよう。彼女達もクリスちゃんの歌声にゾッコンみたいだし、きっとクリスちゃんを説き伏せる事だろう。それにクリスちゃんも歌う事は大好きな娘だ。今は戸惑っても近いうちにクラスの娘達と仲良く出来る事だろう。

 

さて、そうなったら文化祭に向けてビデオカメラの準備をせねば。折角のクリスちゃんの晴れ舞台である。最高画質に取り留めておかねば!

 

 

 

@月F日

 

今日も今日とて平和な一日だった。“フィーネ”という団体から宣戦布告されて早くも一月近い時間が経っているが、あれから連中に怪しい動きはなく、表向きは目立った動きは確認していない。

 

まぁ、実際は裏で色々やっていそうなんだけどね。先日もとある廃病院で派手にやりあったみたいだし、僅かとはいえノイズの反応も検知した。恐らくは先のソロモンの珠の護送の際に行方不明となったウェル某の仕業なのだろう。

 

シンフォギア同士の激しいぶつかり合いもあったみたいだし、まだこの騒動は続きそうだ。自分も手を出すべきなのなだろうが…………生憎時間がない。

 

最近お客さんの入りが良くなってきているし、少しでも顧客を獲得するために無闇に休むわけにもいかない。クリスちゃん達には申し訳ないが、自分の参加はもう少し待っていて貰おう。

 

さて、そんな物騒ながら普段と変わらぬ日々を送っていた自分だが、今日は奇妙な客人と出会った。クリスちゃんがバイトに入ってくる前の時間、自らを調と切歌と名乗る二人の少女がお腹を空かせて店の前に立っていたのだ。グーグーとお腹を鳴らせる彼女達を見兼ねて店の中へ入れてみたのだが、いやね、もう凄かった。

 

警戒心が半端じゃないんだもの。特に調というツインテの娘は店から出ていく際も敵意バリバリで自分を睨み付けていたんだもの。そりゃあいきなり「食べてくかい?」なんて誘う俺も悪かったと思うよ? お代もいいとかそんな話を聞けば俺の方が怪しいやつだもん。それは認めるよ?

 

けどさ、店の前で腹の虫を鳴らしながら棒立ちをしている彼女達を袖にするのも気が引けるし……クリスちゃんという前例があったから自分はそんなに気にしていない。が、彼女達はそうでもなく終始自分には隙を見せない佇まいだった。

 

こんなところまでクリスちゃんそっくりだ。なんて内心にやけていると、切歌ちゃんがオズオズと自分に声を掛けてきてテイクアウトは出来ないかと訊ねてきた。

 

勿論OKを出した自分は二人がカレーライスを食べている間に準備を進め、二人が食べ終えるのを見計らってそれを手渡した。

 

何でも自分達が母親同然の様に想っている人が最近体調を崩しているのだとか。そんな話を聞かされれば放っておける筈もなく、自分は腕を降るって調理をした。尚、会心の出来映えである。

 

特別と書かれたタッパーにそれを詰めて切歌ちゃんに渡す。調ちゃんの方には他にもいるらしい同居人の人達の分を渡しておいた。特別仕様のタッパー以外は大したモノではないが、それでも栄養面に気を使った一品ばかりである。

 

そんな自分の手土産を戸惑いながら受け取った調ちゃんと切歌ちゃん、ぎこちないながらもきちんと礼を言えるのは育てた親の教育の良さが知れた気がする。

 

そんな訳で相変わらず一文にもならない話だけれど、自分は後悔していない。勿論クリスちゃんには話してないし、話してもまたかと呆れられるだけだ。

 

さて、そろそろ寝るとしよう。明日も早い。営業というのは日々の行いが信用に関わるのだから、気を引き締めて頑張るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………いやぁ、まさか冗談半分でいったテイクアウトが本当に通じるなんて、あのお兄さんも中々のお人好しデスね」

 

「…………そうだね」

 

「あー、調? さっきのお兄さんの言った事、まだ気にしているデスか?」

 

「…………」

 

拠点に向かい早足に向かう二人の少女、その手に握られたテイクアウトのお弁当を見て調と呼ばれた少女は悔しそうに口を結ぶ。

 

思い返すのは先程喫茶白河なるお店でのやり取り、店の店長からの善意を真っ向から否定する調が次に耳にするあの言葉、それが彼女をどうしようもなく苛ただせる。

 

『別に善意でやっている訳じゃないよ。君達の話を聞いて俺がそうしたいからそうするだけ、だからこれは偽善ですらない。調ちゃんが気にする事なんて無いんだよ』

 

幼子を諭す様な言い回し、男の善意を必死に否定する自分を彼は笑みを浮かべてそれを受け入れた。まるで分かっているような言い回し、何もかもを見通しているようなその笑みが調を不快にさせていく。

 

何も知らないくせに。自分勝手な人間が多いこの世界で少女が受けた傷は決して小さくはない。これ以上自分と同じ境遇の子を出さないために自分は今日まで戦い続けてきたというのに、あの男は自分を子供扱いにした。

 

そんな呪詛の様な呟きを口にしながら辿り着いた拠点、ここで待つ自分達の大切な人が待っている事に調は取り合えずあの男に関する考察はやめにした。

 

「マム、ただいまデス!」

 

「ただいま」

 

「おやおや、二人とも遅かったですね。何か楽しい事でもありましたか」

 

そう言って自分達を笑顔で迎えてくれるのは調べと切歌にとって母親と呼べる人物だった。専用の車椅子に乗りながら近付いてくるマムと呼ばれる初老の女性に切歌と調は笑顔でソレを差し出した。

 

「これ、お土産デス!」

 

「これは、随分手の込んだ料理…………二人とも、これを何処で?」

 

「景気のいいお兄さんから貰ったデス!」

 

嘘はついていない。怪しむように見てくるマムに自分達は無実だと主張する切歌、実際盗んだモノでもなく、切歌のいう通り戴いた物なので二人は自信満々に頷いた。

 

尤も、心優しい二人がそんな事などする筈がない。そう結論付けた女性は説教も程ほどに彼女達の本日の成果を快く受け取った。

 

「ほらほらマム、早く食べてみてください」

 

「あの人が言うにはこれが最もスペシャルな料理」

 

「しかし、まだマリアが戻ってきてませんよ。ウェル博士だって折角の御馳走を食べたいでしょうに」

 

急かすなと遠巻きに口にしても純粋な笑みを浮かべる二人の少女達を諌めるにはイマイチ迫力が足りない。早く食べてとせがんでくる彼女達に仕方ないなと女性は今はここにいないもう一人の娘に内心で謝罪しながら特別と書かれたタッパーの蓋を開けた。

 

目の前に広がるのは色鮮やかな朱。その下には白米らしきものが敷き詰められている。恐らくは麻婆をベースにした料理なのだろう。白米とセットにしているのは分かっている。日本料理、中でも白米を好物にしているマムは久し振りのちゃんとした料理に作ってくれた人、そしてそれを届けてくれた娘二人に感謝した。

 

「それじゃあ、一足お先に戴きますね」

 

「召し上がれ! デス!」

 

「召し上がれ、マム」

 

あぁ、自分は幸福者だ。そう実感しながらマムは備え付けられたレンゲを手に紅い物体を掬い…………そして、口にいれた瞬間。

 

 

 

 

 

 

「辛ッッッッらァァァァァァァァっ!?!?!?」

 

「「ま、マムゥゥゥッ!?」」

 

マムは口から盛大に火を吐き、白目を剥いて気絶した。

 

 

 

 

「いやぁ、やっぱ良いことした後の麻婆は上手い」

 

「…………ホント、どんな舌してんだこの人」

 

 

 




無自覚な善意は時として無自覚な悪意より質が悪い

そんなお話しでした。(笑)

次回もまた見てボッチノシ

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